第十四話 「魔法らしき」
短いです。すみません。
俺は今、シエラを抱えて飛んでいる。
シエラは触手のかごの中で寝ている。
シエラを育て始めて一週間ほど経ったのだが、そろそろ人間に俺の存在がバレた。
討伐隊を組まれても面白くないので、とりあえず逃げることにした。
行くあてもないので方向は適当だ。
三日間休憩をはさみつつ移動し続け、やっと次の街が見えてきた。
この間に変わったことと言えば果実だけでは栄養が足りないはずなので、たまに牛のような動物(魔物?)の乳を見つけ次第飲ませるようになったことくらいだ。
シエラは果実よりもこっちが好きらしく、食いつきがいい。
そして、もう一つ変わった事がある。
将来、シエラと意思疎通ができないのは困るので日に何度か喋りかけることだ。
今はまだ反応してくれないが、そのうち変化はあるだろう。
そうこうしているうちに、街が近づいてきた。
前の街と比べてかなり大きい。
人間の数も相当な数いそうだ。
ちょうど腹も減ってきたので食料を調達するとしよう。
下を見下ろすと、冒険者、商人、旅人、騎士といろいろな人がいるが、なんとなく騎士や冒険者が多い。
それに、なんだかピリピリしているような感じだ。
何かあったのだろうか。
そんなことを思うが、俺には全く関係がないことに気付き、そんな考えをすぐに頭の外に追いやった。
街から少し離れ、少数人で歩いている人間を探す。
獲物はすぐに見つかった。
二人組の男で、街とは反対の方向に向かっている。
真上まで飛び、一気に触手を伸ばす。
が、二人の男は素早く剣を抜き、伸ばした触手をバラバラに切り裂いた。
鋭い痛みが走り、反射的に触手を引っ込める。
「ちっ、卑怯な!赤子を人質にするとは…」
「魔物も知恵をつけたもんだな」
二人がこちらを見て言った。
あ?なんで居場所がわかる?
それに、シエラを抱えていることもバレている。
………そうか、シエラと触手は透明化されねぇのか。
考えているうちに、二人のうちの片方が向かってくる。
透明化は意味が無いらしいので解き、残りの二本の触手で相手をする。
触手に力を込め、固くして簡単には切られないようにしている。
数回ほど打ち合い、もう片方に意識を向けると、もうそこにはいなかった。
そしてすぐに背中に鋭い痛みと異物感。
刺された。もう片方が上から狙っていたのだ。
「グルァァァアァァ!」
脅しの意味も込めて叫ぶが、意味はないようだ。
シエラを盾にしようかとも考えたが、万が一があるのでやめる。
それに、現にシエラを気にせずに向かってきている。
今、目の前の男に触手を二本とも使っていて、背中の男にはされるがままになっている。
そのせいで、今俺の背中はめった刺しにされてぐちゃぐちゃだ。
このままでは負けてしまうので果実を入れていた二本の触手を果実を捨てて解き、鋭くして背中の男に向かわせる。
不意をつけたのか、一本は外れたがもう一本は男の太腿に刺さった。
そのまま触手を体中に巻き付け、締め上げて肉団子にしてやった。
肉団子を喰らって回復しつつ、すぐに二本の触手を戦闘にに回す。
「ジン!」
目の前の男が叫ぶ。
そして、攻撃が重く激しく、そして荒くなった。
しかし、今は飛び回りながら四本の触手で相手をしている。
じきに決着がつくだろう。
そう思っていたのだが、突然男の体が淡い緑に光り、動きが速くなった。
そして厄介なことに触手に傷が付き始めた。
十分に硬化しているはずなのに切られるということは力も上がっているようだ。
埒が明かないので、シエラを垂直に投げ上げる。
それと同時に、触手を引っ込めてスキル(透明化)を発動。
落ちてくるまでは20秒といったところだろう。
それまでに決着をつける。
しばらく使っていなかった転移で背後へと回り、八本全ての触手で男をがんじがらめにする。
こいつもまた、肉団子にして食べた。
そしてすぐにシエラの受け取り準備に入る。
触手を使ってふわりと受け取り、怪我がないかを確かめる。
が、怪我どころか投げ上げられたのが楽しかったのか笑っていた。
強い子だ。将来は大物になる気がする。
そんなことを思った。
街の大きさを変更しました。