第十三話 「大切な」
遅れてすみません。
もしかしたら、また一週間ほど投稿できないかもしれません。
ですが、土日になれば絶対に投稿するので安心してください。
人間を森の中で待ち伏せていると、遠くから足音が聞こえてきた。
俺から見て少し右に逸れたところに向かっているらしいので、俺も音を立てないように移動する。
また少し経ち、人間がだいぶ近づいてきた。
そいつは少し煤けた、黒く長いコートをきて、フードを深く被っていた。
そして、かごを抱えていた。
その中には、赤ん坊が入っていた。
『ラッキー!』そう思い、舌なめずりをした。
触手で人間を捕まえ、手繰り寄せる。
「きゃあぁぁぁあぁぁっ!」
甲高い声が聞こえ、キラリと光るたくさんのピアス、ネックレス、指輪が見える。
人間は女だったようで、これまたラッキーだと思った。
なぜなら、女と子供は肉が柔らかく、それでいて脂肪もまぁまぁあるからだ。
女を食べようと口を開けると、女は手に持っていたかごを突き出して言った。
「こ、子供をあげますから、…ど、どうか、どうか食べないでください……!」
は?
俺の中の人間がそう言った。
魔物の俺でさえ短くても子育てはちゃんとした。
なのに、人間のお前はまだ生まれて一月と経っていないであろう子供を生贄にするのか?
絶対に、子供を育てる余裕がないわけではないことは、この世界の事情に疎い俺でもわかる。
この女は、数々の装飾品を身に着けているからだ。
それらを売れば何人もの子供を養えるだけの余裕があるだろう。
育児放棄。ネグレクト。
その言葉が脳裏をよぎる。
生き物の親であれば絶対にやってはいけない行為だろう。
沸々と怒りがこみ上げ、その女を口に入れ、グチャグチャに噛み殺した。
美味くない。それどころか、とてつもなく不味い。
女がミンチになったところでふと冷静になり、下を見るとかごから赤ん坊が落ちていた。
その子は、さっきの女は人間だったはずだが、耳としっぽの生えた獣人だった。
一緒に食べていたと思ったのだが、喰うときに落ちてしまったのだろう。
触手で掴み上げ、口に入れた。
否。入れようとした。
「きゃっきゃっ、きゃははっ」
俺を見て、笑った。下手したら数秒後には死んでいたというのに。
捕食者が大口を開けて自分を掴んでいるのに。
一気に食べる気が失せてしまった。
赤ちゃんを掴んで見つめ合ったまま、少しの時が過ぎた。
俺はその間、いなくなってしまったギルのことを思い返していた。
そして、ギルとこの赤ちゃんを重ね合わせてしまった。
ついさっきまで人間というだけで憎かったのだが、そんな気持ちはなくなり、
「この子は、獣人だから。」
などと言い訳をし始めている。
この子を育てようと思った。
親を殺した俺がそんな事をするのはおかしいのだが、そうすることに決めた。
俺を受け入れてくれた、最初の人間だから。
締めていた触手を緩め、首の下に4本の触手でかごを作り、その中に入れる。
スペースはあるのできつくはなさそうだ。
女の子だったので名前はシエラとした。
お腹が空いているかもしれないので、水分を多く含んでいそうな果実を探す。
森の中ということもあってかすぐに見つかった。
黄色で、丸い果実にブツブツがあった。
毒があるといけないので俺が試しに舌に果汁を数滴垂らす。
味は、かすかな酸味だけだった。
数分すると、なんだか舌がピリピリしてきた。
果実を投げ捨て、ペッとツバを吐いた。
俺はこんな程度で済んだが、シエラが飲んだら死んでしまうかもしれない。
俺でも飲めるものを探そう。
そんなことを言い出したら、ドラゴンは大丈夫でも人間には駄目というものもあるかもしれないし、その逆もありえる。
しかし、そんな考えは捨てた。
なぜなら、それを確かめる方法が無いからだ。
さっきと同じものばかりで、次の果実を見つけるのにはだいぶ時間が掛かってしまった。
その果実は濃い赤に青の斑点という、奇抜な風貌だった。
なんとなく食欲が失せる色なのだが、気にせずに食べる。
が、口に入れた途端に激痛とともに口内が溶けた。
驚かせるといけないので悲鳴を押し殺し、すぐに吐き出す。
口の中が爛れているのが舌の感触でわかる。
当たり前だが、これもだめだ。
すぐに歩きだそうとしたが、隣の木にまた別の実がなっていた。
緑と青の縞模様だ。
一瞬躊躇い、口に果汁を垂らす。
仄かな甘みがあり、なんだか大丈夫そうな雰囲気だ。
少し待っても異常は見られない。
少なくとも、俺にとってはただの美味しい果実だ。
シエラに飲ませる前に、念の為腕に果汁を少し塗ってみる。
心配だったが、異常はなかった。
いよいよ飲ませてみる。
もし異常があったら、人間の街に届けるつもりだ。
俺が持ってきたということで嫌われるかもしれないが、保護されるかもしれない。
このまま死なせるよりはマシだろう。
慎重に口の中に入れていき、口に溜まったら飲み込むまで待つ。そしてまた入れる。
その繰り返しだ。
何回も飲ませていくと、もういらないのか飲まなくなった。
残った果実を俺が食べた。
そして、それと同じものをストックするためにシエラの入っているかごの下に二本の触手で小さいかごを作って果実を詰め込んだ。
これで当分の間は食料の心配はない。
そう安心したところに声が響いた。
『称号(一児の親)を失いました。』
『称号(二児の親)を獲得しました。』
異種族でもでも親子関係と見られるのか。
そう思いつつステータスを確認すると、しっかりと追加されていた。
称号(二児の親)
子供が二人いるものに与えられる称号。
どちらか片方でもその子供を守るときのみ、全ステータスが4倍になる。
また、その子供が自立するまでは敵意に敏感になる。
倍率が三倍から四倍になったこと以外にほとんど変わりはない。
そう確認したところで、シエラがぐずりだした。
触手を使ってあやしつつ、ギルとは違って手間が掛かりそうだと思った。
赤ちゃんと赤ん坊の表記の違いは主人公の心の動きですので、気にしないでください。