第十二話 「触手」
翌日の朝。
新しい体に慣れるために手頃な魔物を狩ることにした。
今日もまたしばらく探さなければならないのかと思っていたのだが、魔物は案外すぐに見つかった。
ゴブリンだった。木の下で何やら会話をしている。
数は4匹で、全員同じくらいの背格好で同じくらいの強さに見えた。
武器は全員棍棒だが、1匹だけ木の板を盾として持っているやつがいた。
またいつも通りに透明化で近づいて一網打尽にしようかとも思ったが、触手の扱いに慣れておきたいので触手で倒すことにした。
転移でゴブリンから5mのところまで近づく。
転移したときに落ちていた木の枝を踏み、音を立ててしまったのだがゴブリンは話に夢中になっているせいか気付かれなかった。
そして、ゆっくりと触手を伸ばす。
が、3mほど伸ばしたところで触手が透明でないことに気が付いた。
慌てて触手を戻し、スキル(透明化)が発動しているか確認をする。
……発動している。
もう一度触手を少しだけ伸ばす。
すると、触手にだけ透明化が有効でないことに気が付いた。
体が透明でも触手は透明でないのだ。
早めに気付けてよかった。もし気付かないまま強敵との戦闘になっていたら本当に危なかった。
気を取り直し、また触手を伸ばす。
体をもう少しだけゴブリン達に寄せ、4本の触手を頭上から忍ばせる。
ギリギリまで近づいたところで一気に伸ばし、その身体に巻きつけて持ち上げる。
ギョギャッといかにもな叫びをあげ、持っていた棍棒で触手を叩き始める。
痛いのだが、耐えられないほどではない。
無視して触手に力を込めてキリキリとゴブリンを締め付けていく。
…が、力が足りないのかゴブリンを絶命させるまでに至らない。
ゴブリンはより一層激しく抵抗を始める。
俺は他人をいたぶる趣味もいたぶられる趣味も無いのでもう4本
の触手で締め付け、首の骨を折って殺す。
首の骨を折られたゴブリンは、ピクリピクリとしか動かなくなり、次第にそれも無くなっていった。
死んだのを見届け、それを口に入れる。
が。
「おぇ、まっず!」
あまりのエグみ苦味にすぐに吐き出してしまった。
申し訳ないのだが、これは他の魔物や微生物の餌になってもらおう。
と、ここで進化してからステータスを見ていなかったことに気付く。
ステータス。
種族名 オプティカルドラゴン(進化2、派生1) レベル8/100
名前 無し
所持スキル(6/8)
・短距離転移2段 ・魔力回復速度上昇 ・超鑑定1段 ・殺人 ・カーチル言語 ・透明化
所持称号
・竜族 ・食人者 ・蛮勇 ・悪魔 ・殺人鬼 ・裏切られし者 ・逃走者 ・一児の親 ・無慈悲 ・踊り食い
称号(踊り食い)
他の生物を踊り食いしたものに与えられる称号。
他の生物を踊り食いするときのみ、獲得経験値に+補正がかかる。
ずいぶんとレベルの最大値が上がったな。
次の進化は遠そうだ。
そして、新しい称号の踊り食いは限定的な効果だな。
踊り食いなんかすることも少ないだろうに…。
それに、やはりレベルシステムがあるのなら経験値というものもあったのだな。
それを知った瞬間にレベル上げがしたくなったが、その考えは早死にのもとだと思い、すぐに振り切る。
よし、次の獲物を探そう。
次の獲物もまたすぐに見つかった。
ただし、またさっきと同じ数で同じくらいの背格好、気配のゴブリンだが。
多分昨日は運が悪かっただけだろう。
まだ腹は減っていないし、ゴブリンには申し訳ないが微生物の餌となってもらおう。
考えつつ、転移で近づき触手を伸ばそうとするが、ふと思いとどまる。
さっきので触手の使い方はだいたいわかった。
だから今度は普通に戦いながらの触手の使い方を考えるべきなんじゃないのか?
そう思った。
思ったことを実践してみるために透明化を解き、ゴブリンの前に姿を現す。
ビックリしたのかゲギョ!と声を上げるが、魔物なだけあるのかすぐに戦闘の準備を整える。
俺は触手を伸ばして体をより大きく見せ、威嚇する。
それを見てゴブリンは少し萎縮した素振りを見せるが、覚悟を決めたのかすぐにもとに戻った。
俺は突っ込んでいき、触手をムチのように使う。
あたったゴブリンは吹っ飛んでいき、木に叩きつけられて絶命した。
たまたま避けたゴブリンがそれを見て固まっている。
俺は触手の先を鋭くし、ゴブリンを貫いた。
できるかどうか分からなかったが、これで戦略の幅が広がった。
これはオプティカルドラゴンで正解だったかも知れんな。
このあとも、何匹かゴブリンとオークを殺し、ゴブリンは微生物の腹に、オークは俺の腹に収まった。
まだ昼過ぎだが、今日は夕方まで適当に時間つぶして、夕方になったらまた人間を飯にしよう。
今日はもうこれくらいでいいかな。