第十話 「死力を尽くして」
まだ昼前だったのでダンジョンから出てすぐ、俺は街のありそうな方向へと飛んだ。
街の近くならば、人間がいるからだ。
10人狩ったら次の街へ行こう。警戒されてしまうだろうからな。
それにしても、恨みつらみなしに考えると、人間はとても素晴らしい生き物に思える。
たくさんいるので、その文たくさん狩ることができる。
しかも美味しい。特に女子供は格別だ。
それに加えて経験値も入り、戦闘のセンスも磨かれる。
めっちゃ強そうなやつにだけ警戒しておけば、かなりおいしい生き物だ。
と考えていると、街が見えてきた。
かなり大きい街のようで、人の出入りが激しい。
騒がれると困るので、狙うは夜だろう。
街から少しばかり離れたところには森があるので、そこで魔物や動物を狩りつつ潜伏することに決める。
森へ降りると、ビックリしたのか数匹のうさぎが逃げていった。
ちょうど腹が減っていたので食べようかとも思ったが、既に見失っていたので諦める。
あたりを見渡し、食べられそうなものが無いことを確認して適当な方向へと歩き出す。
こちらが見つける前に獲物に逃げられると困るので気配を殺しながら進む。
一時間ほど探し回ったのだが、何も見つからないので諦めようとしたとき、50~70mくらい先に二足歩行の豚の魔物、オークがいた。
3匹いるのだが、1匹はかなり傷だらけで意識も朦朧としている。
残りの傷の少ない二匹がそのオークに肩を貸してどこかへ運んでいるようだ。
おそらくはさっき戦闘があったのだろうが、慈悲はかけない。
自分たちの運が悪かったことを恨んでほしい。
転移で近づき、一番元気そうなオークに狙いを定めて噛み付く。
油断していたこともあってか、すぐに死んだ。
それを見た死にかけのオークがもう一匹に何かを言い、棍棒をこちらに向けてきた。
まだ元気なオークが何かを言おうとするが、死にかけがその前にもう一度叫び、それを聞いてどこかへ走り去って行った。
死にかけが元気なやつを逃したのだ。命を賭して。
『称号(無慈悲)を獲得しました。』
『スキル(短距離転移1段)がスキル(短距離転移2段)にランクアップしました。』
勝ったのは俺だが、死にかけは案外強かった。
その満身創痍の身体でどこからそんな力が出るんだと何度も思った。
実際、俺も牙を数本折られた。
何度も棍棒を当ててきた。俺のことは見えていないはずなのに、だ。
前に獣人と戦ったときもそうだった。
気配感知に優れたやつには分かってしまうのだろうか。
だとしたら、なんとかして気配を隠せるようにならなければいけない。
いくら二足歩行で言葉を喋ることができても、スキル(殺人)と称号(食人者)はオークには働かないようだ。
体が強化された感覚も、食べることで体が急速に回復することも無かった。
と、ここで新しい称号を獲得していたことを思い出した。
ステータス。
『スキル(鑑定)がスキル(超鑑定1段)に昇華しました。』
種族名 リトルインビジブルドラゴン(進化1、派生1) レベル26/30
名前 無し
所持スキル(6/7)
・短距離転移2段 ・魔力回復速度上昇 ・超鑑定1段 ・殺人 ・カーチル言語 ・透明化
所持称号
・竜族 ・食人者 ・蛮勇 ・悪魔 ・殺人鬼 ・裏切られし者 ・逃走者 ・一児の親 ・無慈悲
スキル(短距離転移2段)
0mから100mまでを一定の魔力量で転移することができる。しかし、そこから1mm多くなるごとに必要魔力量は2乗されていく。
クールタイムはないが、2段では、体が安定していなければ転移をすることができない。
スキル(超鑑定1段)
スキル(鑑定)と違い、自身だけでなく自身の所持している物や親しい生物の詳細を見ることができる。
称号(無慈悲)
無慈悲な行いをしたものに与えられる称号。これの上位称号も存在しているが、その称号をとったものは例に漏れず性格が破綻している。
この称号を所持していると、素早く動きづらくなる。
自身がそれを感知することはできないが、しっかりと減速されている。
短距離転移2段は、飛んでいる間でも安定していれば転移ができるようになったということだな。
これはかなり使える。
超鑑定は、前の鑑定では困ったことが多々あったからな。
例えば、ギルが食べてしまったあの石とか。
なんなのか知りたかったが、あれはもうなくなったので仕方がない。
称号(無慈悲)は、初のマイナスの称号だ。
パラメータがプラスされる称号があるのだから、マイナスされる称号もあるとは思っていたが、ついに来てしまった。
しかも、自身では感知することはできないと来た。
これでは戦闘力がどれだけ下がったかわからないから恐ろしい。