第九話 「早すぎる別れ」
2話連続で短いです。
すみません。
目の前に、60cm四方くらいの宝箱がある。
昨日、洞窟の小部屋で寝たときにはこんな物はなかった。
どういうことだ?誰かが置いていったのか?
だとしたらなぜ俺たちを攻撃しなかったのか?
次々と疑問が湧いてくるが、とりあえず宝箱からギルを遠ざけてから開けてみることにする。
まだ寝ていたギルを起こすことになってしまったのだが、ギルはまたすぐに寝てしまった。
ギルの二度寝を見届けてから、もういちど宝箱と向き合う。
簡素な造りだが、それでいて装飾はしっかりとされている。
蓋の隙間に爪を押し込み、罠に警戒しながらこじ開ける。
すると、中にはとても香ばしい匂いのする石が入っていた。
その石を爪で傷つけないようにそっと持ち、色々な角度から見ているとギルが起きてきた。
おそらく、この匂いを嗅いだのだろう。
一応ギルにも嗅がせてみようと思い、鼻先まで持っていくと、その石を齧りだした。
飴玉のように舐めている。
そんなに美味しいのだろうか。俺も舐めてみればよかった。
そんなふうに思ったが、この石はギルにあげることにした。
石を舐めているギルを可愛く思いながらしばらく眺めていると、不意にその石を飲み込んだ。
子供に石なんか舐めさせるべきではなかっただろうと過去の自分を叱咤しながら、石を吐き出させようとギルに近づく。
すると、突然ギルが光りだした。
この光は知っている。進化の光だ。
石を食べたからだろうか。あの石はそんな効果があるのか?
と思いながら、進化の間は無防備になるはずなのであたりを警戒する。
5分くらいたっただろうか。だんだんと光が弱まり、赤黒い硬そうな鱗に包まれた1匹のドラゴンが現れた。
翼は2対のままだが、飛ぶために大きく変化している。
鋭い目でこちらを一瞥すると、ありがとうとでも言うかのように頭を下げ、飛び立っていってしまった。
まだほんの少しの間しか一緒にいなかったのに、旅立ってしまった。
竜の親離れはこんなにも早いのだろうか。
俺も2度目の進化で成体となったが、成体になるまでにかかった時間はそんなに無かった。
やっぱり、そんなものなのか。
喪失感がすごい。
しかし、いつかまたどこかで会えるだろうと心を抑えつけ、次にやるべきことを模索する。
1、俺もギルを苦しめた人間共に報復するために強くなる。
2、もっと遠くへ行き、もう一度だけ人間を信じてみる。
3、安定して暮らせる場所を探す。
こんなところだろうか。
とりあえず、今のところ2はない。
もう人間を信じることなど出来ない。何度も信じてこちらから歩み寄ったのに、毎回裏切られる。
次だってどうせそうだ。変わらない。
安全を第一に考えるなら3だろう。
だが、俺は今、安定は求めていない。生きるなら、もっと激しく生きたほうが良いってものだろう。
きっと、もっと色々なことに挑戦すればよかったと死ぬときに後悔するだろう。そんなのは嫌だ。
こうなると、残ったのは1だ。
そしてやはり、人間を狩るためには強くなるしかない。
ギリギリで勝ったり逃げたりしてきたが、今のままではいずれ殺されてしまう。
せめて、もう一度進化する必要がある。
考えがまとまったところで、それを実行するために外へ出る。
小部屋から出たところで左右の安全を確認し、出口へと向かう。
洞窟の出口から光が差し込んでいる。
そしてその光の中にいざ体を入れようとしたとき、後ろに気配を感じた。
振り返ると、緑の人間がいた。いや、これは、ゴブリンだ。
瞬時に敵だと判断し、壁に向かって吹っ飛ばした。すぐに死んだ。
どういうことだ?小部屋から出たときまでは何もいなかった。
しっかりと奥や天井まで見たつもりだ。
今朝の宝箱といい、今のゴブリンといい。この洞窟はおかしい。
少しの間考えていると、1つの言葉が浮かんでくる。
…ダンジョン。
ゲームやラノベでもよく出てるくるアレだ。
そう考え、昨日から今まで無事だったことをありがたく思うと同時に焦燥感が芽生え、急いでダンジョンから出た。
きっと、ダンジョンは強くなるためのレベリングに適しているのだろう。
しかし、それと同じくらい。下手したらそれ以上の危険があるだろう。
今はまだ死ねない。まだ全然生き足りないし、人間に報復もしていない。
何より、ギルともっと過ごしたい。
その思いが、俺をダンジョンから遠ざけた。
第二章はまだ続きます。