第九十四話 「決着」
足元を払った攻撃を避け、さらにその追撃を受け流す。
奴の剣や身体が近くを通るたび、触れるたびに身体のどこかを火傷するが、再生に任せて無視して防御に徹する。
奴は表情こそ冷静だが動きからは焦りが垣間見える。
「(ポイズンガーデン)」
俺の周囲半径10mくらいに紫の花が咲き乱れ、花粉を飛ばす。
「ぅ…あ?」
避けるべきと思ったが既に遅く、大量の花粉を吸入してしまっていた。
途端に手足が痺れ、呂律が回らなく…………なると思ったが、称号(心折れぬ者)の効果で痛みや痺れは感じるものの動きが制限されることは無かった。
正直この称号の存在を忘れていたが、本当にありがてぇ。
…もっとも、無効じゃないからダメージは受けるんだけどな。
俺が痺れていると思って近づいてきた奴の顎に掌底を叩き込んで怯ませ、乱打する。
が
「残像だ。」
現実でそれ言う奴初めて見たよ。
…思わず突っ込んでしまったが、背後から割に合わないカウンターを貰い一旦飛び退く。
やっぱりスキル(韋駄天)の効果は名前負けしてないな。
考えつつ攻防していると、一旦距離を取った奴は片手剣を両手で持った。
「形状変化(両手剣)」
剣が肉厚になり若干長く幅も1mほどに伸びた。
…一気に決めるってか。いよいよ魔力残量がヤバくなってきたか。
いいぜ、ちょうど俺も魔力気力体力が三拍子揃って底を尽きてきたところだ。
受けて立つ。
「「おおおッ…!」」
──ドガッ…
互いの拳が互いの頬を打つ。
あれから既に三時間は経過しただろう。
…短期決戦のはずが、だいぶ長引いちまった。
だが、もうそろそろケリがつきそうだ。
奴の剣は既に折れ、放棄されている。鎧もその殆どを俺に打ち砕かれ、全身火傷や痣だらけ。骨を打ち砕いた感触も何度かあったので骨折も数多いだろう。魔力だってとっくに尽きている。
…けど俺も人のことは言えない。
鎧はもとより着けていないが篭手を破壊された。
魔法で左腕まるごと一本と左足半分を炭にされ、再生する余力も無いのか肉を盛り上げて止血するだけに留まったため左腕がない。
魔力は(雷咆)一つ撃てない。
「おぁああああああッ!」
ミドルキックが飛んでくる。
それは子供でも避けられそうな稚拙で遅いものだが、俺にはそれを避けることはできない。
「ぐ…!」
倒れそうになるのを必死でこらえ、カウンターにパンチ。
いや、カウンターと呼ぶのもおこがましいかもな。
だがそれは当たる。
当たるのだが…
「へっ…掴んだぜ?」
まずい!?
「(ショック)」
ビリッと全身に電流が走り、身体が硬直して地面に倒れる。
野郎、このために魔力を残してやがったな!?
「これで…終わりだぁああああ!!」
いつの間にか近くに落ちていた折れた剣の先を握りしめ、震える腕で大きく振り上げる。
あぁ……終わった…
──ガンッ…
「諦めんじゃねぇええええ!!!!」
目をみはった。
どこからか剣が飛んでき、俺を殺そうとしていたクソ勇者に当たったのだ。
そのおかげで奴は倒れ込んでいる。
その剣が飛んできた方向を見ると、フォーに支えられながら立つディモがいた。
「っぐ…クソが…!」
剣が当たった衝撃で取り落とした剣の先が倒れている俺のすぐそばにある。
俺は夢中でそれを取り握った。
「や、やめろ…やめろぉおおおお!」
誰が、やめるかよ。
喉へ。
戦いが、終わった。