第九十三話 「多重発動」
こちらへ剣を大振りしながら突進してくる。
一歩引いて避け、空いている方の骨頭と合わせて二本の(雷咆)でお迎えする。
「ずいぶんと怒ってるじゃないか?」
「俺の所持品を二つもダメにしやがっただろうが。靴は替えがあるにしても…あれは替えが聞かねぇんだ……よ!」
おっと、危ない。
悠長に会話している暇はなかったか。
怒りからか攻撃が雑になっている。
だが、その分威力がバカにならない程高くなっているので油断は出来ないな。
…威力が高すぎて地面がボコボコじゃないか。
「ッ小賢しいわ!」
三連、横に薙いだ剣の軌道から衝撃波が発せられ、俺の腹を斬りつける。
お返しにこちらもブレスを吐いてやった。
「ちっ、使うしか無いな…。」
呟くと、ビンに入った液体を俺の攻撃を避けつつ飲み干す。
恐らく魔力回復ポーションだな。存在感が増してる。
「(氷鎧)、(纏炎)、(韋駄天)、(狂気纏舞)、(頑強)、(耐雷)、(耐氷)、(解除)、(多斬)」
な、なんだ!?
スキルの多重発動か!いくらなんでも多すぎるだろ!
奴の身体が燃えて紫電の走る薄緑の薄氷を纏い、目が赤黒く染まり、筋肉が一回り膨張し、皮膚が硬化し、剣が三重にブレて見えるようになった。
やっ……べぇぞ。
次の瞬間、奴がブレて見えたかと思えば、すぐ目の前で剣を振っていた。
「う、おっ!?」
身体を反らせて回避を試みたが避けきれず、一振りで三太刀分の傷を貰う。
カウンター気味に前足でふきとばすが、(氷鎧)、(頑強)の影響でまともにダメージがはいらない。
それどころかスキル(纏炎)の影響で前足を火傷した。
かといって(雷咆)もスキル(耐雷)であまり効果は無いだろうし、ブレスもスキル(耐雷)、(耐氷)で同じだろう。
………え?詰み?
いやいや、突破口はある。きっとあるはずだ。
よく観察しろ!
とりあえず速く動けるように竜化を解く。
刹那、背後から迫る剣戟を力を入れて固めた腕でガードし、火傷は再生効果に物を言わせて無視してカウンターを入れる。
…あれ、ガードした腕が皮一枚繋がってプラプラしてる。
再生しやすいように傷口をくっつけておこう。
そしてまたもや背後から大上段からの振り下ろしがくる。
頭を捻って肩で受け、鳩尾に肘を叩き込む。
肩は胸へとかけて15センチ程裂けてしまった。
──パリンッ…
小気味いい音がし、薄氷が割れる。
よし、再生する前に出来るだけダメージを叩き込んでおこう。
心許なくなってきた魔力を捻出し、広範囲にブレスを吐く。
やはりスキルで耐性を上げていてもブレスは食らえないのだろう、何かの魔法で相殺し、相殺しきれなかった分は剣でガードしている。
そしてガードしきると同時に大きく踏み出し、間合いを詰めて剣を振るう。
俺は腕でガードし、話しかける。
「ずいぶん焦っているじゃないか。察するに、魔力が切れればそれでバフも終わりなんだろ?」
それには蹴りで返され、一歩後ずさる。
まだ魔力回復ポーションがあるかも知れないが、そうポンポン使える代物でもないはずだ。
今も使用しているスキルだって肉体に大きく負担をかけるものも含まれている。
特にスキル(狂気纏舞)なんてその代表例だろう。
つまり、俺は耐え続ければ勝手に自滅してくれるという訳だ。
奴の猛攻を耐えつつ思考する。
だが、言葉では簡単に言えるが実際そう簡単でもない。
膨大な効果のスキルで底上げされた身体能力をフルに活かした全方向からのランダム攻撃はこうやって思考するのも辞めた方がいいくらいに厄介だ。
常に神経を尖らせ無ければならないので、俺の精神にかかる負担はバカにならない。
「(グラウンドエッジ)」
足元が隆起し、いくつもの槍となって俺に襲いかかる。
くそ、こういうときにスキル(氷鎧)があったら便利なのに。
「(落雷)」
槍を後ろに跳んで避けた俺に雷が降り注ぐ。
空中にいるから避けられねぇ…!!
轟音が鳴り響き、全身を大電流が流れる。
身体が硬直し、僅かだが隙が出来てしまった。
──フッ…
空気を切り裂く音が耳元でした。
首周りが熱くなる。
『スキル(高速再生一段)を獲得しました。』
っナイスだ!
半ば程まで切れた首は再生効果によって徐々に塞がっていく。
欲を言うならもっと早くこのスキルが欲しかったが、言っていても仕方がないな。
首の骨まで剣が到達しなかったのが幸いだな。
もし首の骨まで切れていたら一時的にでも身体が動かなくなって殺られていた。
奴は今ので殺すことが出来ずに悪態をついている。