第九十二話 「肩代わり」
前話に登場人物『Y』を追加しました。
周囲に衝撃が走る。
それと同時に俺にもほぼ同等の衝撃が襲いかかり、気付いたときにはクソ野郎から離れたところで地面に転がっていた。
どうやら俺まで吹き飛ばされてしまったらしい。
やっぱりデイルとは格が違うか…!
「オオオオオォォオ!!」
立ち上がり、攻撃に出る。
空中からの全体重をかけた踏み潰しを仕掛ける。
「無駄だ!」
踏み潰しは頭上に掲げた剣を踏んだだけに留まったが、本命はこっちだ。
尾を曲げて叩き込み、地面に叩きつける。
剣という足場がなくなったために身体が地面に落ち、意図した訳ではなかったが追撃に成功する。
ぐぅっ…とうめき声が聞こえた。
羽ばたいて空中に飛び上がり、魔力に物を言わせて(雷咆)を目一杯叩き込む。
土煙が立ち込め、クソ野郎が見えなくなる。
土煙から飛び出した者は無かったので恐らく全て当たっていただろう。
なのになぜ………なぜ、俺の背にいるクソ勇者ァ!!!
「死ね!」
俺の首筋に向けて剣が振り下ろされる。
異物感と同時に鋭い痛みが走り、反射的に痛みの原因を取り除こうと骨頭が動いた。
「ちっ」
クソ野郎が飛び降りて行く。
あー、畜生。血がどんどん失われて行きやがる。
大きい動脈でもやられたか。
傷口を骨頭で圧迫して止血し、下から撃ち込まれた魔法を(雷咆)で相殺する。
どうなってんだ?あんなに攻撃したのに腕の一本どころか指一本痛めてすらいない。
…なんか裏があるな。
その後攻撃直前・直後に注意して奴の動きを見ていると、奴が攻撃を受ける直前に一瞬だけ、ほんの一瞬だけ淡く光っていることに気付く。
光ると同時に僅かだが魔力も消費されているので、なんらかの魔法か魔導具を使って攻撃を無効化かなにかしているのは間違いない。
だがタネが分かったところで…だな。
考えつつ、尾で足払いする。
どうやって暴──
「…!ちっ」
舌打ちと共に大きく跳んで足払いを避ける。
な、なんだ?
足払いを過剰に避けた?
怪しく思い、再び足元へ向けて(雷咆)を放ってみる。
「クソが。気付きやがったか?」
やはり足に何か魔導具があるな。
足に着けているものは……ベルトにズボン、剣の鞘、膝当て、脛当て、靴。これくらいか。
恐らく鞘と防具類はないな。となるとベルトか靴か。
腰と足先に(雷咆)を放つ。
──キ、キンッ
どちらも防がれたが、より確実に防ごうとしていたのはベルトだ。
ブラフという可能性もあるが、とりあえず腰のベルトを重点的に狙ってみるとするか。
手始めに(雷咆)5連発だな。
………って、足元がガラ空きじゃないか。一旦靴を狙うのもアリだな。
「んなっ!?…どこまでも俺の邪魔を………!!!…ぐあっ!?」
隙を突いた骨頭の一撃で靴が破壊され、魔力を感じられなくなる。
それと同時にクソ野郎が全身に重症を負った。骨も一本は折れているだろう。
……なんだ?靴が壊れた瞬間にこんな傷を…?
と、いうことはさっきのはブラフで、靴が魔導具で、受けた攻撃は無効化ではなく肩代わりしていたということか?
恐らく、よくある攻撃を籠められた魔力の分だけ肩代わりしてくれる守護のお守りの上位版みたいなものか。
そして、壊れたら肩代わりした分のダメージが帰ってくると。
慢心して本気で攻撃を避けようとしなかったのが仇になったな。
「ショウタ様。」
……!この声は!
奴の方をみると、毎回殺せる直前で連れ去りやがるメイドがいた。
またか。またお前なのか。
「ショウタ様。もう目的は達成したのです。帰りましょう。守護神の靴なら替えがあります。さぁ、手を取って下さい。」
「……ちっ。性能は同じなんだろうな!?」
「えぇ。」
差し出された手を取る。
「待てよ。」
骨頭が伸び、彼方へと飛び去りかけたメイドの肩に噛み付く。
「!?」
血が舞い、二人が地に落ちた。
……逃走手段は早めに潰しておかなければならないよな?
再び骨頭がメイドに噛み付く。何度も、何度も。
最初は抵抗していたメイドも次第に動かなくなり、立ち上がったクソ勇者と目が合う。
「やってくれたな。……殺す。」