第九十話 「収束」
『早く食いモン持って来いよォ!このガキブチ殺すぞ!?』
キーンと嫌な音がする。
よほど追い詰められた状況なのだろう。人間はそれだけいうと放送を切り、ブツブツと何かを呟き始める。
すー………はー………
深呼吸をした。
興奮に駆られて狭まっていた思考がクリアになり、視界がはっきりとした。
ここで飛び込めば、奇襲にはほぼ確実に成功します。
でも、まだ戦闘もしたことのない私に倒しきれるかわかりません。
魔法は使えます。でも、接近戦はできませんし……。
ボゥッ……
思考を遮り、すぐ横から温風が吹いた。
見ると、緑色だったピュレアが赤色になっていた。
感じる魔力濃度も高くなっています。臨戦態勢と言うやつでしょうか?
「ピュレ、ア…、タタ、カ…ウ。」
喋ったのに驚きもしたが、すぐに思考を切り替える。
本当にピュレアも戦ってくれるらしく、自身の周囲に風の小玉を10個程作った。
魔力濃度から察するに見た目より威力が有りそうだった。
「いくよ、ピュレア!」
小声で伝え、ドアノブに手をかける。
大きく息を吸って───
「なんだテメェら!……うぉっ!?」
「シアを離して!…『ガスト』!」
風の魔法を放ち、人間を牽制する。
別にこの人を倒そうなんて思ってません、怯んでくれるだけでいいの!
再び魔法を放つ。
「てめえぇぇぇ!!っざけんな!」
立てかけてあった曲刀を引っ掴み、シエラに振り下ろす。
「きゃっ!」
すんでのところで回避に成功し、追撃を躱すために近くにおいてあった書類の束を投げつける。
紙が舞い、人間の視界が一時的に遮られる。
「クソがっ!クソクソクソ!!」
苛立ちに曲刀を振り回している内に縛り上げられて気絶しているシアに駆け寄り、ナイフを取り出す。
が、興奮と恐怖に手が震えてナイフが定まらず、うまく縄が切れない。
「な、なんで…?早く、早く切れてよ!!………切れた!」
シアを背負い、ドアに駆け寄る。
「待てよガキィ…。」
が、ドアの前に立ちはだかる者が一人。
詰みだ。
「こんなに俺をイライラさせてくれたんだ………。それ相応に『罰』を受けてもらわないとなぁ!?」
人間が曲刀を振りかぶり………振り下ろす。
が、ピュレアがシエラと曲刀の間に割り込み、曲刀を受け止める。
「ハヤ、ク…イッテ!」
「こ、この魔物風情がああああああああああ!!!!」
苛立ちに大ぶりになった攻撃をピュレアがいなしている内にシエラは放送室から脱出し、シアを階段の影に寝かせる。
そして、シアのポケットからナイフを拝借。
「これ、借りますね。ちょっと待っててください。」
当然聞こえてはいないが、それだけいうときた道を引き返して放送室に向かう。
そこではまだ、人間とピュレアの戦闘が続いていた。
借りたナイフ胸の前で固く握りしめ、この男を殺す覚悟を決める。
「うっ、うああああああああああ!!」
──ズブッ…
「ぐっ!?この…クソガキ………」
男が倒れた。
『称号(殺人者)を獲得しました。』
『スキル(殺人)を獲得しました。』
事件は終わった。
第六章はこれで終わりです。
次からはミア視点に戻ります。