第八十九話 「事件」
書き遅れましたが、この章は短くなると思います。
戦闘技術養成学校に人間が忍び込んだ。
そうユルムさんから聞いたとき、私は急いでその現場となった学校に向かった。
もしかしたら、シアにも危険があるかもしれないから。
だけど、弱い私が行ったところで何かができるわけでも無く、何も変わらないだろう。
そんなことは重畳承知しているが、何もせずにはいられなかった。
学校を取り囲んでいる兵士さん達に自分の子供は無事なのかと学生の保護者らしき人たちが問い詰めている。
そんなことをしても無駄なのだが、ここに来てしまった私と同じで何もせずにはいられなかったのだろう。
ただ、私はまだ人間が忍び込んだということしか知らないので近くの人に聞いてみると、その人間は女学生の一人を人質にとって自身の保護を要求しているらしい。
保護と言ってもどこかで生活させてもらうとかではなく食料と服、そして近くの洞窟で暮らすそいつ自身の安全だ。
しかも、悪い事は重なるらしくその人質とはシアらしい。
まず事件の元凶の人間はいつから居たのか。
少なくとも大結界が張られる前からなのは確定だろう。なぜなら、余程の強者でもない限り大結界に穴を開けることはできないから。
例の人間がその強者なら、もっと早くに事を起こしているだろうしこんな回りくどいこともしない。
次になぜこんなことをしたか。
それはさっき得た情報の中にその人間は洞窟で暮らしているとあった。
恐らくスパイ目的か何かで忍び込んだ人間が大結界のせいで出られなくなり、持っていた食料も尽きてこうするしかなかったのだと推測できる。
そしてどうすれば解決するのか。
要求に従ったところで人質となった女学生は連れ去られ、定期的に食料を渡さねばならなくなるだろう。
そうなれば救出は困難だし、大結界が解けると同時に女学生は殺されてしまう。
そのため、現在進行形で隠密行動と暗殺に長けた人物を捜索しているところだ。
だから、今焦って突っ込んで犯人を刺激するより捜索が完了するのを待ったほうが堅実で現実的だ。
だが………
「あっ!ちょ、待て!待ちなさい!危険だ!」
兵士の隙を突いて学校内に侵入する、変な生き物を連れた少女が一人。
シエラだ。
お友達が、私の大切なお友達が人質になっているのに、ここでただ指を咥えて待っている訳にはいかないじゃないですか!
きっと救出が失敗しても成功しても、私は大馬鹿者って言われるでしょうけど、放っておける訳、ないじゃないですか!
犯人がいるのは放送室だ。校外放送を利用して犯人側の意思をこちらに一方的に伝えてきていた。
放送室のある二階に来てからは緊張で張り裂けそうになる心臓の音を堪えて忍び歩きで向かう。
息を殺し、中の様子を聞き取る。
「ちっ、クソが!少しは大人しくしやがれ!」
ゴッ!
殴る音が聞こえてくる。
「〜〜〜!!!」
「はぁっ、はぁ…。早く持って来いよ魔物ども…!」
やはり、シアは酷い扱いをされているらしい。
すぐに飛び込もうとしたところで、唐突に放送が始まって反射的に飛び込むのをやめた。