32、夢・・・そして、
半年後、海生が大学を卒業した。プロのライフセーバーになった。夢を叶えたってわけだ。そして一年後、海生と碧海が結婚した。碧海もまた、夢を叶えたってわけだ。
久しぶりにアキラがスナックに来た。
「俺さ、夢が出来たんだよ」
「へぇー、アキラが?」
「どんな夢だ?」
「俺・・・、公務員試験受けるよ」
「・・・えーーーーー!!!何故に?」
「警官になりてーんだよ。白バイ隊員」
「あ、なるほど!」
「バイク乗りの気持ちは、バイク乗りしか分からねー」
「そっかー」
「清美が教えてくれたんだよ、あの、ジェットスキーの運転でさ」
「うん、俺、応援するよ!」
「私も!」
「お前も料理人の夢、諦めんな!」
「分かってる!」
バイト先。
「宮さん、話が・・・」
「・・・分かった。師匠には、自分で話せ・・・」
「はい」
陳氏の店。
「俺・・・、夢が出来たんす」
「夢は、人にとって、とても、大切な、ものだ」
「はい。俺・・・、台湾に行ってみたいっす。夏休みの間だけ。北京語、勉強してます」
「そうか。うん。そうか。信頼出来るヤツがいる。そいつの店で学ぶといい。いいかい?修人。料理ってのは、ただ、旨けりゃ良いってもんじゃない。ただ、旨いだけなら、化学調味料でいくらでも味は作れるんだ。でも、そうじゃない。店にやって来る人々が求めてるのは、味の奥にある想いなんだ。食は文化だ。文化とは人の営みだ。台湾で人の営みを見て来なさい。一度外に出るとよく見えるモノだ。自分というモノが。そして自分の足元を見つめ直すんだ」
「はい」
アキラが聞いた。
「美香、お前の夢は?」
「・・・私は・・・、」
夏休みが終わり、真っ黒に日焼けした修人が帰って来た。よほど台湾が気に入ったらしい。来年も再来年も行くという。学生の特権だ。
修人は美香をデートに誘う。いつかの海岸だ。
「どしたの?珍しい、」
「あぁ。ちょっと、」
「ウフ。何よ」
「水晶の女覚えてるか?」
「まーた、その話?なんなの一体?」
「違う、違う、碧海が溺れた時さ、お父さんは別の救助に向かっただろ?その時救助した女、それが、水晶の女だったんだよ」
「え?」
「水晶の女が助かったことで、碧海が溺れ、水晶の女が消えたことで、碧海は海生と結婚出来た」
「・・・」
「人の想いって、なんだろな?」
「そんなん、知らんがなー、私は私の想いで、いっぱいなの!分かる?」
「美香の、夢を、教えて、くれよ」
「・・・お母さんに、なる事」
「え?」
「好きな人の子ども産んで、お母さんになるの・・・。それが、私の夢、」
「二年、待ってくれないかなぁ?」
「え?」
「後二年。卒業したら、産んで欲しい」
「え?」
「俺の、俺たちの、子を、」
「待てないよ」
「え?」
「今すぐ、産みたいーーーーー!!!」
笑
結局、想いと想いを繋ぐモノって、何だったんだろう?人には人それぞれの想いがあり、それぞれの繋ぐモノがあり、人が営み、生きている。
私はこう考えている。
「死ぬのはいつでも出来る。とりあえず死なない事。とりあえず生きてみよう」
と。
生きてりゃいつか、分かるかも、しれないし・・・。
想いと想いを繋ぐモノ、
・・・・・。
おしまい




