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ブラッド・ZERO  作者:
第3章 カルバナ帝国編
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第98話  涙

 カルバナ帝国の空は今日も雲一つなく快晴である。

 こんな日はバーにでも行って冷たいビールでワイワイしたいものである。

 しかし、そんな天気とは裏腹にスコール達の足取りは重かった。

 スコールは小さなため息を吐く。


 なんでこんな事に……


 今日はディークとユーコリアスの大切な話し合いが行われる為、ルータスは休暇となっていた。

 本来であればその休みを利用して久しぶりにアイと3人でバーに飲みに行く予定だったのだ。

 しかし今日は、何時ものアイの他にもう1人――


 それはティアだった。

 スコールと並んで歩くアイの後ろを静かに歩いている。

 ティアは何時もと変わらないメイド服だが背中にカバンを背負っている。


 中には料理の道具が入っているらしく所々にお玉などが飛び出していた。

 魔王城ではティアとは結構話していたし仲間よかった。

 しかし魔王城を出発してからティアは一言も話していない。

 人狼であるティアを見ると何時もは美しいピンク色でフワフワしている尻尾が今日に至ってはピンと伸びている。


 やはり違う国へ来て緊張しているのだろうか?


 ――――


 違うだろうな……


 スコールは横にいるアイを肘で二回つつくとアイと視線が合う。

 スコールは「お前のせいだろ!?どうするんだよ!」と目で合図すると、アイは不自然に視線を逸らした。

 スコールは苛立ち睨みつけるがアイは知らんぷりだ。


 カルバナ城が少しずつ近づいて来る。

 カルバナ城に向かって歩いているのだからあたりまえだ。

 しかしこういう時だけは何時も面倒なこの道や城門での手続きが直ぐに終わってしまうものである。


 あっと言う間にスコール達は入城の手続きを終え目的の部屋へと近づこうとしていた。

 この廊下の突き当たりのT字路を左に曲がれば目的の部屋だ。

 しかし突き当たりが近づくにつれて何やら左側から声が聞こえる。

 スコールは歩くスピードを下げる。


 もう見なくてもルータスとユーコリアスであると分かったからだ。

 何時もと同じ調子でユーコリアスがルータスに何かを言っているのが聞こえるが内容までは分からない。

 スコールは恐る恐る廊下を曲がった。


 するとルータスの姿は見えないが何故か部屋の扉が開いている。

 ルータス達の声は部屋の中から聞こえている。

 声は段々と大きくなりこちらに歩いて来ているのが分かった。


 スコールはそっと壁から廊下を除く。

 部屋から出来てきたルータスは何故かユーコリアス女王をおぶっている。

 ユーコリアスは満足げな様子でルータスの首に手を回すと、


「やっぱり、ルータスの背中は最高だの!」

「ちょっとくらい自分で歩いて下さいよ」


 ルータスは困った顔をしてはいるが満更でもない様子だ。

 ユーコリアスは足をバタバタとさせながら、


「今日はいいの! 今から魔王ディークと大切な会議があるのだぞ。まぁ本当は私のルータスも連れて行きたかったけど……」


 ユーコリアスはルータスを連れていけない事が凄く不満げな様子である。

 しかし当たり前だ。

 ルータスは魔王軍所属でありカルバナ帝国の兵士ではない。

 国同士の話し合いにカルバナ帝国側で参加させる事など出来るわけはない。


 それにしても……「私のルータス」か……


 女王は中々ルータスを解放してくれそうにはなさそうだ。

 ユーコリアスはルータスの背中を二回軽く叩くとルータスはユーコリアスを下ろす。

 どうやらそれが下す合図のようだ。

 ユーコリアスはルータスの正面に回ると上目遣いで口を開く。


「では、今日の私との約束を言ってみて」


 ルータスは固まり真正面だけを見ながら右手を上げる。


「夕暮れまでに城に帰り姫様の部屋の前で待っていることです!」

「うむ! よろしい」


 ユーコリアスは手を広げクルリと華麗に一回転すると手を広げ可愛らしいポーズをとった。

 するとルータスは、親指を立てながら、


「今日もバッチリ美しいですね!」


 ルータスの言葉でユーコリアスの機嫌はピークになると、ルータスの頬をゆっくり撫でる。


「じゃあね。また夜に沢山お話し聞かせてね」


 ユーコリアスはルータスの唇を軽く指でなぞると廊下を小走りで歩いて行った。

 ルータスはたるみきった表情でユーコリアスの背中に手を降っている。

 スコールは静かにルータスの後ろに立つ。


「やっぱ、姫様は可愛いな……ウヘヘ」


 背中からでも間抜けな表情が容易に想像できるセリフを吐くルータスに向かって、


「朝から楽しそうで何よりだ」


 スコールの言葉にルータスはビクりと飛びある。


「うわぁ何だ! いたのかよ!」


 ルータスはとっさに飛びのく。

 その姿を見たスコールは頭に手を当て深いため息をついた。

 自分のライバルの情け無い姿に変な頭痛が走る。


 こんなに簡単に後ろを取られるとは――

 いくら城の中とはいえ、もしこれが敵なら既に死んでいる。


「何だじゃねえよ! お前こそ何だ」

「あれも仕事だ!」


 そんなスコールとルータスのやりとりが続く中で、スコールの背後から凍りつくような声が響いた。


「ルー君、あの人は誰?」


 小さい声だが嫌にハッキリと聞こえる。

 そしてスコールの後ろから現れたティアにルータスは驚きの顔を見せ、


「テ、ティア! 何でここに……」


 ティアは無表情のままルータスの前に立つ。

 耳はピンと伸びて一本の棒の様に真っ直ぐに立っている。


「あ、あの人はこの国の女王様で――」


 恐らくティアが聞いている言葉の意味は違うだろう。

 見当違いな答えを述べるルータスを遮りティアは、


「あの人はルー君の何なの?」


 ここでルータスも質問の意味を理解する。

 ルータスは慌てて両手を振りながら、


「そ、そんなの何でもないに決まってるだろ? 女王様だぜ?」


 ルータスの答えにティアは何も返さない。

 その時間は僅かだがスコールにはかなり長く感じる。

 しばしの沈黙が続いた後、やっとティアは口を開く。


「私が一番だって言ったのに……」


 ティアの声は震え、次第に体も小さく震えだした。

 ティアの耳はぺたりと垂れ下がり尻尾にも力が無い。

 ルータスはティアの言葉に何も返させない。ただうろたえるだけであった。


「私、ルー君が無事に帰ってこられるように毎日お星様にお祈りしたのに……」


 そんなティアにルータスは何も答えられないでいる。

 ここでティアの声の震えはピークをむかえついに声が裏返る。


「わ、私、うぐっ、ルー君を信じてずっと待ってたのに――何でこんなことに……」


 ティアの目からは大粒の涙が溢れでる。

 ティアは両手で涙を拭いているが涙は次から次へと出ている。

 廊下には小さなティアの鳴き声だけが響く――


 まずい……これはマジ泣きだ……


 スコールにこの状況を打破する案が思いつく訳もはない。

 流石のアイでさえも何もできず呆然と立っているだけだ。


 しかしこんな時に何とか出来るのはアイしかいない。

 アイを肘でつつくと、「この状況どうするんだよ」とアイコンタクトを送る。

 アイは、「知らーない」と言わんばかりに両手を広げ首を振った。


 これに至ってはスコールも同意見だった。

 一々こんな事に構っていられない。

 何よりこの場の空気が重すぎて早く立ち去りたかった。


 ルータスが間抜けな事は間違いないが、これは一応任務である。

 ティアは泣いているがルータスだって裏切った訳じゃない。話し合えば何とかいい方向に向かっていくだろう。

 これはルータスでしか解決出来ない問題と言える。


 だからスコール達がここにいる必要は全くないという事だ。

 スコールはアイの肩に手を置いた後、ルータスに視線を送る。

 そして「じゃあな!」とだけ目で合図をするとアイの肩を持ちクルリと反対方向に向きを変えると2人はそのままその場を後にした。

 逃げるように城から出た2人は外の空気が凄く美味しかった。

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