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ブラッド・ZERO  作者:
第3章 カルバナ帝国編
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第96話  エルドナ

 エルドナ軍は霧による襲撃で痛い深手を負った。

 エルドナでは軍全体を動かすほどの事件となり城は慌ただしい。

 生き残った者達はそれぞれが詳しい聞き取り調査をされ軍は今後の対策を練っていた。

 そんな生き残りの一人であるマヤカも今まさに聞き取り調査に向かうところである。


 呼ばれた会議室の前まで来ると扉の向こうでは何やら大勢の話し声が聞こえる。

 マヤカは大きく深呼吸をすると緊張した面持ちで扉をノックする。


「マヤカ・ルンベルであります」

 

 マヤカの声が響く扉越しに聞こえていた声は一瞬で消えた。

 そして小さくきしむ音と共に扉が開かれる。


 扉の先には机一つを挟みテオバルト・アルフォードを筆頭にエルドナ軍の中枢を担う面々が揃っていた。

 マヤカが部屋に入ると、一斉に視線が向けられているのが分かる。

 マヤカは前を向いたまま誰とも視線を合わさずに正面に立った。


 何かを言われた訳ではないが、歓迎されてない事は間違いなさそうだからだ。

 それはこの場の空気がそれを物語っている。そして珍しい動物を観察するかのような視線が――


 机の一番端に座っていたリーガン・アヒム将軍が口を開く。


「報告は既に受けているのだが、一応全員に聞き取りをしなければならないのだ」

「はい」


 口調は穏やかだが、何か変な圧力を感じる。

 マヤカにはそれが何なのかは分からない。


 盗賊団に大きな損害を与えられたことが原因なのか?

 それともカルバナ帝国との同盟が失敗したことが原因なのだろうか?


「マヤカ君、君達の隊はカルバナ帝国の国境を過ぎた場所で盗賊団に襲われた。その事について話してくれるか」


 帰って来てからと言うもの何回も同じ様な質問を受けている。

 その度同じ答えを返しているわけであり、いい加減「又か……」と思う気持ちもあった。

 しかし、エルドナの受けた損害を考えれば仕方がない事だろう。


「盗賊団は先生と呼ばれていたオーガをリーダーとした7人組で、他はハーフの少年達でした。しかし極めて戦闘能力は高くこちらの隊はなすすべもなく一瞬で壊滅的被害を受けました。敵の言動からするとこちらの物資を奪う事が目的だった様です」


 マヤカの話を聞くなり周りがざわつき出す。

 話している内容は「盗賊程度にやられるとは隊の訓練不足によるよもなのではないか?」や「使者に選ばれた者として何たる失態だ」など、とても良い内容ではなかった。

 マヤカは表情さえ出さないが怒りに満ち溢れる。


 一体何人死んだと思っているのか?


 上層部にとって軍とはただの駒の一つに過ぎないのだろう。

 それぞれが皆エルドナのために必死で戦い死んでいったというのに。

 自分が来る前に扉越しに聞こえた話し合いもそんな事ばかり言っていたのかと思うと怒りを通り越して悲しくなる。


 リーガンは周りの声が大きくなると手を三回叩き皆を抑止する。


「その事は今後の重要な課題となるだろうが、今はその話は控えろ」


 将軍自らの声により辺りは静まり返る。

 リーガンは周りを一度見渡すと、


「話を戻そう。続けたまえ」


 リーガンはマヤカに「どうぞ」と言わんばかりに手を指す。

 マヤカは小さく頷く。


「残った我が隊も一瞬で3人が殺された時に、魔王軍と名乗る者達が現れ盗賊団と戦闘になりました。そして魔王軍は盗賊団の2名を倒した所で、正体不明の人間が現れそちらと戦闘になったのです」


 今思い出しても震えが来る。

 本当の戦場、血と鉄が混ざり合った様な臭いと初めての死に触れた感覚――

 恐怖のあまり何も出来なかった。


「ふむ……その辺は他の者達からも報告が上がっている通りだな。他に何か気づいたことは?」

「正体不明の人間と魔王軍は何か因縁があるような感じでした」

「人間か……フランクア王国の者と考えるべきだろう」


 辺りは又ざわつき出し各々が意見を言い合いだす。

 今度は魔王軍に反応を示し各々が何かを言っている。

 声が混じり合い断片的にしか聞き取れないが良い事だけは言っていないのは分かる。

 

 魔王軍はいざ知れず、末端とはいえ部下の兵にまで同じような態度をとることが信じられなかった。

 その証拠に今まで誰1人追悼の意を述べる者はいなかった。


 マヤカは悔しさの余りに拳を握り締める。

 それに魔王軍に対しての国民は否定的な意見が多い。

 あの戦争からエルドナは敵として認識しているのは知っていた。


 しかし軍の中には魔王軍に対して友好的な考えを持つ者もいない事はない。

 マヤカ自身も友好的とまでは行かないが敵とは思えなかった。そもそもあの戦争はエルドナが魔王軍に応援を要請したのだから。

 

 マヤカはいくつかの問答を繰り返し時間は過ぎていく。

 マヤカは嘘さえ付いてはいないがルータス達の事は魔王軍が現れたとしか言えなかった。


 魔王軍に知り合いがいた。


 この事実を隠していることが発覚すれば間違いなく厳しい罰を受けるだろう。

 だがマヤカにはあの3人の名前を出せば間違いなく軍に良いように使われることが分かっていた。

 下手をすれば同じ班だった後輩達と戦う事も十分に有り得る。

 それだけは絶対に嫌だったのだ。

 


 そんな中、今まで沈黙を守っていたテオバルト・アルフォードが口を開いた。


「同じ現場にいた者に同じ質問をしても返ってくる答えは分かっておろうて」


 言葉に皆が反応しテオバルトに視線を向ける。

 リーガンは頷き立ち上がると、


「そうですね。ではこれで聞き取りは終わりだ。解散とする」


 リーガンの言葉に皆は一斉に動き出し帰っていく中でテオバルト・アルフォードがマヤカ前に立った。


「マヤカ君、少し良いかね?」

「は、はい!」


 予想外の人物に驚きを隠せなかった。

 回りの者達の視線が集まる。

 しかしテオバルト・アルフォードに来いと言われて断れるはずもなければ異論を唱えられる者もここにはいない。


「では行くとしよう」


 そう言うとテオバルトは歩き出しマヤカも後に続く。

 テオバルトは特に迷った様子はなく一直線にとある部屋の前に立つと扉を開ける。


 そしてマヤカに中へ入る様に促すと2人は中へ入った。

 中には一つの机と二つの椅子が向かい合うように並べられている。

 部屋の様子からテオバルト・アルフォードは最初からこの部屋にマヤカを連れて来る予定だった事が伺えた。

 テオバルトはゆっくり椅子に座るとマヤカにも座る様に手を指す。


「失礼します」


 マヤカかは一言添えて椅子に座ると太ももの上に軽く握った両手を置く。

 学園在籍時は特に何も思わなかったが、こうして城で対面すると随分違って見える。

 しかし先の将軍達よりも随分気は楽ではあった。


 テオバルトは指をパチンと鳴らすと部屋全体に結界が張られる。

 マヤカに緊張が走る。

 部屋に結界まで張るほど重要な話しとは――

 そしてテオバルトは低い声で口を開いた。


「ここからの話は他言無用じゃぞ。それに――嘘は無しじゃ」


 その言葉からは脅迫に近い何かを感じる。

 マヤカはその迫力にゴクリと唾を飲み込み大きく二回頷いた。


「絶対誰にも言いません」


 やっとの思いで言葉が出る。

 目の前にいるのはマヤカの知っている優しい学園長のテオバルト・アルフォードではなかった。

 これが元魔法騎士団長のテオバルト・アルフォードであり軍人としての姿なのだ。

 そしてテオバルトはマヤカの瞳をじっと見つめゆっくりと話した。


「マヤカ君が遭遇した魔王軍は誰じゃ?」

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