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ブラッド・ZERO  作者:
第3章 カルバナ帝国編
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第95話  波乱の予感

「うーん……何が悪かったのか……」


 ディークは難しい顔をしながら唸った。

 時刻は夜、魔王城の大広間でディークはシェリーに約束をすっぽかされた事に萎えていた。

 美人系の女性との飲み会は結構楽しみだったのだ。


 もしかすればそんな所を見透かされていたのかも知らない。 

 だが、何故かそれからというものミシェルの機嫌が良くいつも以上にベッタリだ。


 何か良いことがあったのだろうか……


 ディークは椅子に深く座り直すと天井を見上げた。

 何時もと変わらない天井だが我が家というものはホッとする。

 椅子の前後に体重をかけフラフラさせながら頭に意識を向けた。 


 今の所は計画通りに進んでいる。

 カルバナ帝国と魔王軍の同盟は世界各国に知れ渡った。

 祝賀会での顔見せも成功したと言えるだろう。


 後の問題と言えばカルバナ帝国の癌を見つけ出さなければならない。

 仮に革命軍がカルバナを支配してしまったら折角築いた同盟も無くなってしまうだろう。

 そうなれば敵対する事だって十分に考えられる。


 そんな事を考えていると、扉が開かれスコールとアイが帰ってきた。

 スコール達を、見るなりディークは椅子を指しながら、


「ご苦労、まぁ座れ」


 ディークの言葉にスコール達はそれぞれ席に着くとアイが口を開く。


「祝賀会、楽しかったね!」

「ああ、アレだけの大きなパーティは滅多に行われるものでは無いからな」

「毎日したい!」

「アイのドレス姿も中々可愛かったぞ」

「えへへ」


 アイは照れ臭そうにしている。


「ルータスはいつ頃こちらに帰ってくるのですか?」


 スコールの、問いにディークは眉を寄せる。


「姫の気分次第か……」


 最初は人質の為にルータスを貸せと言っていると確信していたが……

 あの調子だといつになるのか……


「とりあえず事は上手く行っている。その事は又後で考えよう」

「アイの感は正しかったでしょ?」


 今になってやっとアイの言葉が理解できた。

 女の感とは恐ろしい。

 しかしあまり長くルータスを取られるとこちらも困るというもの。

 魔王軍は少数精鋭なのだ! と言いたいが人手が足りない。


「仲間を増やしていかないとな――」


 とは言うものの、誰でもほいほい仲間に入れるのは得策では無い。

 自分達の技術が外に出漏れる事はあってはならないからだ。


「お兄ちゃん達、あんなにラブラブしてるんだから、もういっそ姫様と結婚しちゃえば全て解決だね」


 確かにカルバナと血縁関係になれば人手不足は簡単に解決するだろう。

 カルバナの問題も同時に引き受けることになるがそんなものは大した問題ではない。

 裏から支配することだって可能だろう。


 だが、それではダメなのだ。

 何故なら、既に出来上がった歴史ある国を変えることは不可能に近い。

 上層部だけが変わっても国民が付いてこないからだ。


 大きなものを変えるより最初から作るほうが簡単である。

 現にアビスでは規模はまだ小さいが国として機能し始めているのだから。

 だからこそあくまで身内ではなく、1歩引いた同盟関係でないといけない。

 

 アイの軽い冗談と共にディークの後ろから何かの割れる音が響いた。

 スコールとアイは表情が見る見る青ざめていく。

 ディークは背後に凄まじい気配を感じ恐る恐る振り返ると――


 そこには包丁を持ったティアが立っていた。

 ティアは表情こそ笑っているが、全身の毛が逆立ちかなりヤバそうだ。

 ディーク達が静まり返っている中でティアがゆっくりと口を開く。


「ルー君は、どこで誰と何をしてるの?」


 ティア声は震え悲しんでいるのか怒っているのかすら分からない。


「ええと……なぁ?」


 何と言っていいのか分からないディークは、とりあえずスコール達に話を振る。

 スコールもどうして良いか分からない様子でアイに目配せをした。

 その視線で「お前が余計な事言ったから何とかしろ」と合図する。


「ちょっとした冗談だよ……ねぇ?」


 アイもどうしていいかわからずスコールにバトンタッチしようとする。

 事実は満更でも無いだけに絶対大丈夫と言えないのだろうか……

 ワザとらしく視線をそらすアイの言葉は逆効果だった。


 ティアが、持っていた包丁からは怪しげなオーラが纏い始める。

 

 ――――!


 これは剣武! ついにティアも武に目覚めて――


 などと、考えている場合ではなかった。

 恐らく怒りなどの感情から無意識に発動したものだろう。

  

 以前と顔は笑ったままなのが怖い。

 これはルータスが心配である。


「すぐに帰って来るって言ったのに……私のご飯が一番って言ったのに……」


 ティアはプルプルと震え出し包丁のオーラも力を強める。

 何かに変身しそうな勢いだ。


「魔王様!」


 急に大きな声を出すティア。

 その表情は先程までの不気味な笑いではない。

 一切の変化がない真顔だ。


「ど、どうした?」

「私、カルバナ帝国へルー君のお手伝いに行ってもいいですか?」

「い、いいぞ」


 これは、非常にめんどくさい事になりそうな予感がする。


「では、直ぐに準備してきますね」


 ティアはくるりと振り返ると、背中に皆の視線を一斉に受けながら部屋を出て行った。

 扉が閉まると大広間は静まり返り誰も話そうとしない。


 誰が最初に口を開くか皆が待っている状態だ。

 しばしの沈黙が続いた後、スコールがそれを破る。


「い、いいのですか? 勝手に決めちゃって」


 確かに骸骨メイド長であるスカーレットに何も言わずに決めてしまったのは不味い。

 しかし今はそんなことより……

 ディークは素直な感想を述べる。


「だって、怖えぇじゃねぇか!」


 その言葉にスコールとアイは無言で大きく頷いた。


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