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ブラッド・ZERO  作者:
第3章 カルバナ帝国編
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第94話  祝賀会3

 祝賀会は大成功を収めカルバナ城は闇と共に静けさを取り戻していく。

 夜の闇も一層深くなった街の中をシェリーは歩いていた。

 勿論、祝賀会から家に帰る為である。


 普通であれば迎えをよこすものだが、今日は夜風に当たりたい気分だったのだ。

 シェリーはほくそ笑む。

 余りに事が上手くいった為、思わず表情にでてしまったのだ。 


 シェリーの祝賀会での目的は、ディークに近づく事だった。

 シェリーは知っていた。


 なぜ世界で初めての同盟が魔王軍ったのかを――

 魔王ディーク、あの男はただの権力者ではない。

 貴族共はこう思っているだろう。


 魔王軍はカルバナ軍と同等の規模の軍勢でありその総督が魔王ディークであると……


 しかし、それは違う。

 シェリーはエルドナでの戦争をこの目で見ていたのだ。


 今もこの目に焼き付いて離れない。1人で一万近くいた軍を焼き尽くしたあの光景。

 まさに魔王としか言いようが無い。


 つまりディークは1人で軍隊を一掃できる力の持ち主であるも言う事。

 世界に名だたる魔法使いであるテオバルト・アルフォードやリグン・バルダットですらこれほどの事は出来ないだろう。

 いや、それどころかディークと比べれば他は赤子同然である。


 女王ユーコリアスとて、本人自体が強いわけではなく王族であるが故での強大な軍事力がその力の象徴なのだ。

 カルバナ帝国と魔王軍でどんな話し合いがなされたのかは知らない。

 シェリーはそんな事はどうでもよかった。


 今やシェリーはカルバナの貴族ですら興味がない。

 シェリーは貴族の中では上位の貴族だ。

 しかし、上位の中では下から数えた方が早いだろう。


 貴族の権力抗争は激しい。簡単に勝ち残れるほど甘くはない。

 すでに出来上がっている権力図が崩れれば自らも危ない為、お互いがお互いを監視しているからだ。

 だが、今なら登れる。高みを目指せる。


 他の貴族共は魔王ディークの価値を分かっていない。

 だからこそ今、先手を打てば圧倒的に優位に立てる。

 シェリーはポケットから一つの小さなビンを取り出しキスをした。


「明日はよろしくね」


 ビンの中には赤い色の液体が入っている。

 これは、特別に調合した妊娠薬なのだ。

 健常者が、これを飲めば高確率で妊娠する薬である。


 シェリーはこれを使い明日に勝負をかけるのだ。

 そう、魔王の子供さえ妊めばそれはこの世で最強の男を手に入れたも同然だ。

 カルバナ帝国の貴族などより100倍価値がある。


 それにいくら魔王とて、我が子を捨てたりなどしないはず。

 魔王の遺伝子を持つ子なら将来も楽しみだ。

 現在既に妃がいるようだが、そんなものは関係ない。

 女の欲は底無しなのだから。


「フフフ……明日が楽しみだわ」


 思わず声が漏れる。

 我ながら今日の掴みは完璧だった。

 見た所、魔王は女の扱いには長けてはなさそうだった。


 つまり男女の駆け引きなら圧倒的に自分が上なのだ。

 これを笑わずにはいられない。


「――――」


 浮かれ気分の中、シェリーは立ち止まった。

 特に何かあった訳ではない。自然と足が止まったのだ。

 目の前には薄暗い見慣れた道が続いているだけで変わったものはない。


 ――あれ? 肌寒い?


 カルバナ帝国は常夏の国だ。寒い訳などない。

 ならこの肌に刺さる嫌悪感は一体なんなのか?

 しかもそれは少しずつ強くなっていく。


 やがてシェリーの前にその原因が姿を見せる。

 その原因とはミシェル・ブラッドであった。

 祝賀会の時と同じ真っ白のドレス姿だ。


 ミシェル・ブラッドは待ち伏せていたのだろうか?

 様子から察するにこちらを良くは思っていないのは間違いない。


 家に誘ったのがバレたのだろうか?

 しかし、貴族ですらそういった誘いは多々ある。

 一国の王ともなればそれは比にならないだろう。

 

 それにシェリーはまだ何かした訳ではないのだ。

 確かに本心は褒められたものではないが、力の欲する貴族なら当然のことである。


「何か用かしら?」


 シェリーは意を決して声をかけた。

 何も後ろめたい行動はしていないのだから大丈夫だ。

 自分そう言い聞かす。


「ディーク様に惑わす魔女はアタシ払ってあげる」


 ミシェルの目が真っ赤に光ると同時にシェリーは尻餅をつく。

 何かに押された訳ではない。シェリーの全身を身も凍る程の殺気が走ったからである。


「え、何? 私が何かしたの!?」


 シェリーは全く状況が把握できない。

 ただ一つはっきりしているのは今、自分が殺されかけているという事だ。

 シェリーの叫び声にミシェルは呟くように答える。


「ディーク様は楽しそうにしていた……」

「どういう事?」

「ディーク様の心を奪おうとする輩は万死に値する」


 ミシェルが何を言っているのか分からない。


「そんな事はしていないわ! 少し話しただけじゃない!」


 そんな言いがかりに近い事で殺されたらたまったものではない。

 頭で思っただけで何もしていないのだから。


「お前が何を考えていようが知らないわ。あの人の目がアタシ以外に向けられただけで理由は十分よ」

「たったそれだけで……?」


 ミシェルの言い分はこうだ。


 ディークがシェリーとの会話を異性として楽しんだから殺す。

 ディークの視線からそれを感じられたから殺す。


 正気の沙汰とは思えない言い分だ。


「黙れ! 許せないわ。許せるはずなんか無い。あの人はアタシだけのもの」


 ミシェルからは底知れない怒りがひしひしと伝わってくる。

 シェリーは一歩後ずさる。

 完全に頭がどうかしているとしか思えない。


 ここにいてはダメだ早く逃げないと殺され――


 目の前にいたミシェルの姿が一瞬にして消える。

 次の瞬間、シェリーの体は一気に軽くなった感覚に陥った。

 シェリーの視界には何故か自分と良く似たドレスを着た首の無い女性が立っている。


 シェリーがそれを自分の体であると認識するまでに時間はかからなかった。

 首の無い体からは一気に血が吹き出しゆっくりと倒れる。

 シェリーは口をパクパクさせるも声は出ない。


 血の気と一緒に意識が遠のいていく――

 やがて視界はゆっくりと闇に染まった。




 ミシェルは右手に掴んだシェリーの首を見つめ不敵に笑う。


「ディーク様の愛はアタシだけのもの……」


 そう呟くとシェリーの首を倒れている胴体の横に投げる。


「消えろ」


 小さく唱えた魔法は即座に発動されドス黒い炎が一瞬で死体を燃やし尽くした。

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