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ブラッド・ZERO  作者:
第3章 カルバナ帝国編
92/119

第92話  祝賀会

 カルバナ帝国での目的も一区切り付きディークは魔王城に帰還を果たす為のゲートをくぐる。

 一瞬視界は暗転すると、すぐにいつもの見慣れた魔王城の景色が映った。

 そして、その中心に1人の女性の姿がある。


「お帰りなさいませ、ディーク様」


 ミクは深々と頭を下げる。


「お、おう……ただいま」


 ディークは当たり前の様に立っていたミクに驚きの表情を見せた。

 一体いつからここで待っていたのだろうか?

 連絡はしていてが「今日一度帰る」くらいでしか話をしていなかったのだ。

 そしてディークの心の声を代弁するかの様に後ろのミシェルが口を開く。


「てかミクはいつからそこにいたのよ?」

「つい先ほどです。ディーク様が帰ってくる気がしたので」


 ミクは目を輝かせながらそう言うと、ミシェルが胡散臭そうな視線を向けた。 

 恐らく連絡をしてからずっとここで待っていたのだろう。


 ディークは、これ以上追求しても怖いので「そうか」とだけ言って城に入る。

 大広間の真ん中にあった椅子に座ると、


「祝賀会か……」


 思わず声が漏れてしまった。

 ディークの頭にある一つの不安。


 それは、カルバナ帝国で開かられるコロシアムの後、カルバナ帝国と魔王軍の同盟を祝うパーティを開くというのだ。

 これはただの宴会ではない。

 国同士の顔合わせに近い。


 恐らくカルバナ帝国からはかなりの大物ばかりが出席するだろう。

 そんな中に魔王軍の連中がどう映るか心配でしかたがなかった。

 それはディーク自身も元々は育ちの悪いただのハーフだからだ。


 食事の仕方やダンスなどの作法など知るはずもない。

 ディークは丸めた手を口に当てながら、少し下を向く。

 自分は何とか今から特訓をすればいい。


 何かと身につける自信もある。

 スコールも、元々お偉い貴族だし大丈夫だろう。

 しかしルータスとアイはどうだ?

 アイはまだ順応性が高く何とかなりそうではあるが、


 ルータス……


 ディークの想像の中だけでもすでにヤバ状況しか思い浮かばない。

 しかもルータスは今、姫に拉致られていて教育をすることすら出来ない。

 頭の中を色々な考えが回る中でミクはが心配そうに、


「どうかなされましたか?」

「今度、カルバナ帝国で我々の歓迎パーティなるものが開かれるのだがな」

「それは楽しそうではありませんか」

「いや実はな……」


 不思議そうに首をかしげるミクにディークは胸の内を明かすと今度はミシェルが話に入ってきた。


「大丈夫だよ。一応ユーコリアス姫専属の騎士な訳だし、その辺は向こうが何とかするでしょ」

「ふむ……」


 そう言われてみればそうである。

 現状ルータスはカルバナ帝国の騎士でありルータスの恥はカルバナの恥と言ってもいいだろう。


 ルータスを見た者ならそう言った作法とは無縁なのは見てわかるはず。

 その辺はスコールに一度様子を見に行かせてから考えるとしよう……


「それよりも、ディーク様自身はどうするおつもりですか?」


 ディークはうつむき小さな唸り声をあげる。

 よくよく考えれば作法を学ぶ自信があっても、教えを請う者がいなければ話にならない。

 エルドナにでも行って探すしか――


「これはこれは魔王様お困りのご様子で」


 得意げに声を上げた人物はミクでもミシェルでもなかった。

 それはディーク自身も思いもよらなかった人物、いや、人ではない。


 ――!!!!


 それは魔王城のメイド長にしてアンディッドのスカーレットだ。

 スカーレットは長い箒をダンス相手のように操りながらクルクルと回ってやって来た。


「わたくし、だてに幾年もの時間を過ごしてはおりません。その辺は得意分野でございます」

「それは心強い!」

「魔王様とミシェル様には、わたくしが何処にでも通用するテーブルマナーを伝授しましょう」


 スカーレットはそう言いながら大きく手を振り深い一礼した。

 その一礼だけでもスカーレットがその道に長けていることが分かるほど美しい一礼である。


「じゃあ! これからアタシと2人のダンス練習――」


 ミシェルがそう言いながらディークの胸に飛びつく。

 ふらりと風に乗って髪のいい匂いがした。

 ミシェルはがっちりと背中に手を回しはなさない様子である。

 その姿に思わずディークは笑みが溢れる。


「折角だ。楽しむとするか」





 コロシアムでの戦いで魔王軍の名前は帝国全土に知れ渡った。

 そしてユーコリアスは戦いの最後に魔王軍との同盟を高々と宣言したのだ。

 それから数日経った今日、予定されていた帝国と魔王軍の祝賀会が開催される。


 これは世界で初めての同盟であり世界の勢力図が大きく変わるレベルの話だ。

 今までは純血の4国が世界の中心となっていた。

 4国の仲はあまり良いものではなくお互いをにらみ合っていたのだ。


 そんな中、新たに現れたのが魔王軍である。

 いきなり出てきたとは言え、魔王軍は今や聖剣の所有国家である。

 他国も無視できない存在であることは間違いない。


 そんな魔王軍とカルバナ帝国の同盟は今まで拮抗していたバランスを崩すのには十分すぎるものだった。

 ユーコリアスが祝賀会を開いた理由は大きく二つあった。

 一つは大々的に行うことにより、帝国と魔王軍が強固な結束を結んでいる事を世に知らしめる為である。


 カルバナ帝国は今、前皇帝の死によって国は大きな混乱をかかえている。

 これは、他国が攻め入るに十分な理由である。

 4国は、過去に何度も戦争をしていて手を取り合った事はない。


 スキを見せればやられるのだ。

 これは歴史が証明している。

 だからこそ純血ではない新たな勢力と同盟を組んだのだ。


 もう一つは、これは権力者同士が集まる場であると言う事だ。

 これは、帝国の主催のパーティである。

 つまり集まる人物はそれ相応の権力者なのだ。


 権力者同士では派閥もあるが帝国に正面切って逆らう貴族はいない。

 だからこそ派閥を超えた様々な貴族が集まることになる。

 だからこそ帝国に牙を向こうとする輩を探るのに丁度いいのだ。


 今は暗躍しているが、いつか必ず大きな動きを起こす事は明白だ。

 その時に敵となる貴族がどれなのか調べておいて損はない。

 魔王軍にひっそりとコンタクトを取る可能性も十分にあるだろう。


 だからこそ何かしらの情報を得れる可能性は高い。

 普段は見えない帝国の闇がぶつかり合う場、それがこの祝賀会と言えるだろう。

 そんな祝賀会が正に今、開かれようとしていた。

 カルバナ城の中にある部屋の中で最も大きな部屋。


 それはパーティなどの大きなイベントの時のみ使用される部屋である。

 普段はあまり使われることのない部屋だが、いまや多くの貴族達が集まっている。

 それぞれが華やかな姿で集まり雑談を行なっていた。


 こういった場は貴族達にとって家柄を競う場でもある為、皆身につけた衣装には余念がない。

 そんな貴族達がいまは魔王軍の話で持ちきりであった。

 それは今や聖剣の所有国家でもあり、女王ユーコリアスが同盟を結んだとなればこれはもうカルバナ帝国は魔王軍を一国として認めているということだ。


 だだの国ではない。同等の存在としてである。

 これは上手く魔王軍に取り入れば一気に大きな権力を手に入れられるということだ。

 帝国の権力者の中でも当然格差はある。


 上の者達はその地位を屈強なものにする為。

 下の者は上の者達を蹴落とす為。

 そんなそれぞれの欲望がうごめき合い互いを監視し合いも見受けられ中――


「これよりカルバナ帝国皇帝、ユーコリアス・カルバナ女王の来場です」


 会場の再奥、一段高く作られた場所に一人の少女が姿を現した。

 その少女はもちろんユーコリアスだ。

 豪華なドレスに身を包み一際異彩放っている。


 後ろには聖剣の所有者であるケビン・ラスファルとルータスの姿があった。

 それぞれ雑談をしていた権力者達も静まり返りユーコリアスに注目する。

 ユーコリアスは軽く一礼をすると、


「我からは特に何もない。今日は同盟国となった魔王軍との交友も含め楽しんでくれ」


 ユーコリアスはそれだけ言うとルータスとケビンを従え壇上に作られた専用の席に着いた。

 そしてユーコリアスに続いて紹介の声があげられる。


「これより、同盟の王であるディーク・ア・ノグア様の来場です」


 声と共に姿を現わしたのは男女だった。

 1人は魔王と名乗るに相応しい真っ黒な服に身を包んだヴァンパイアである。

 一同は一目でその男の持つ圧倒的な力を肌で感じ取った。


 貴族達が皆武芸に精通しているわけではない。

 しかしディークから感じる他の者にはない何かがひしひしと伝わっていたのだ。

 そしてそんなディークに手を預ける少女が1人。


 ミシェル・ブラッド――


 魔王の妃であると言う事前情報がなければ、子供と間違えてしま者もいるだろう。

 しかしその美しい姿に誰もが息を飲んだ。

 純白の豪華なドレスを見事に着こなし透き通る様な肌に煌びやかな金色の髪。


 身につけた豪華なアクセサリーも霞んでしまうほどだ。

 その全体像からは少女の姿を感じさせないほどである。

 そんな2人が歩く姿は皆を黙らせるに十分だった。

 ユーコリアスが立ち上がりディークと握手を交わすと隣のテーブルにディーク達は着席した。





 ディークは隣に座ったミシェルに視線を向けるとお互いの視線が重なる。

 ミシェルが優しく微笑むとディークの心臓は一気に高鳴った。

 元々、ディークの理想を具現化した女性がミシェルである。


 そんなミシェルが美しい宝石に彩られているのだ。美しい以外の言葉が見つからない。

 会場に入った時に向けられた視線はある種の優越感を感じられた。

 自分だけのミシェルに向けられた視線を――


 しかしミシェルはそんな貴族達の視線など興味はない。

 ディークもそれを分かっていた。

 だからこその優越感なのだ。


 ディーク自信が美しい事を当たり前と思うのと同様にミシェルもそれを自覚している。

 ディークに創造された自分が美しくないわけがない。と……

 ディークにとってはそんなミシェルの振る舞いも可愛らしく見える。


 会場には大きなテーブルがあり豪華な料理が並べられていた。

 周りには所々メイドの姿もあり、歩き方一つ見ても選りすぐりのエリートであることが伺える。


「中々、豪華な祝賀会だ」


 ディークは横のテーブルに座っているユーコリアスに口を開く。


「世界で初めての同盟だからな。我がカルバナ帝国最大の持て成しをしなけばならん。我々は世界に見られているからな」


 ユーコリアスの言う通り、これは世界各国に宣伝の意味もあった。

 魔王軍とカルバナ帝国の結束が如何に硬いかを知らしめるためだ。

 同盟国と言っても形だけの同盟など意味を持たない。


 他国に同盟が裏をかく為の策と思われてはならないのだ。

 だからこそ、同盟発表後のイベントはできるだけ派手に行っている訳である。


 ――とりあえず、挨拶回りだけでもしとくか。


 帝国内での人脈の構築が必要である。

 女王だけと仲が良くても意味はない。

 国の中枢にいる権力者達と仲良くなっておく事は今後に必ず大きな力となるだろう。


 ディークはユーコリアスに軽く挨拶を済ませると歩き出す。

 ディークが動くと当然の様にミシェルも動き出しディークの横に並んで歩く。


 ディークはミシェルの手を取り壇上の階段をゆっくりと降りて行くと一気に辺りは静まり返った。

 周りの視線は一気にディーク達に集まり階段を降りる音だけが響く。

 ディークは階段を降りると会場はゆっくりとざわめきを取り戻していった。

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