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ブラッド・ZERO  作者:
第3章 カルバナ帝国編
91/119

第91話  コロシアム開戦3

 コロシアムの5連戦は大盛況の中で終わりを告げる。

 戦いの最後にはユーコリアス女王自らが魔王軍との正式な同盟を結んだ事を発表した。


 ルータスの見事な戦いぶりに大国民は熱狂し人気も上々だ。

 特に最後のノグアとの一戦は帝国内でもかなりの話題になっていた。

 順調に魔王軍の思惑通りに事は進む。


 そしてここはコロシアムの闘技場。

 夕焼けが白い闘技場を赤く染める中で男が一人。

 それはディーク・ア・ノグアである。


 しかし今はノグア・マオウと名乗り姿を変えていた。

 そう、ルータスが戦っていた相手は実はディークだったのだ。


「中々この姿も面白い。たまにはこっちでもいいな」


 心機一転、新しい自分になった様で新鮮だった。

 バレないかが心配だったがルータスはまったく気がついていないようだ。

 確かにあらゆる感知対策はしてはいるが、眷属の者には直感でバレれる可能性はあった。


 別に隠すつもりはなかったが、ルータスだとディークと戦うとなればいつも通りに行かない可能性がある。

 なるべくインパクトのある戦いをしなければ意味はない。

 そして自然な形でルータスを勝たせる。


 これで全ては完璧である。

 ノグアは闘技場を見渡す。

 長い歴史を感じさせるこのコロシアムは戦いを熱くさせる独特の雰囲気があった。


 たまにはこの姿で出陣するのも悪くないかな……


 すると観客席からスコールとアイが歩いてくるのが見える。

 フワリと飛び上がり静かにノグアの前に降り立つと、


「上手く行きましたか? 後輩のノグア君」


 ワザとらしい口調でおどけてみせる。

 やはりと言うか当然スコールは気づいているようだ。


「ユーコリアス様の所にいたのは先生ですよね?」

「よく分かったな。どこで気づいた?」


 スコールの言う通りでユーコリアスの所にいたのはディークの姿になったチャンネである。

 しかし、あらゆる魔法でそれがバレないようにしていたのだ。

 スコールが如何にして真実に気づいたのかを今後の参考に聞いておかなければならないだろう。


「簡単ですよ。細かい癖が先生のそれでした」

 

 確かにそうだ。

 いくら魔法でカモフラージュさせても、中身が変わるわけではない。

 あくまでそっくりな別人である。


 しかし、チャンネは動いていたわけではなくただ試合を観戦していたに過ぎない。

 ほんの僅かな動きで気づくとは流石スコールである。


「まぁ、名前自体もネタだしな……」


 ぶっちゃけ身内で気づいていないのはルータスくらいだろう。

 ミシェルに至ってはどんな魔法を使ってもディークである事を騙すことは不可能と思える。

 根拠がある訳ではないが何となくそう思えるのだ。

 カモフラージュは帝国側に出来ればいい。


「でも、ノグア君の姿なら帝国内とか散策するのに便利かも!」


 アイの提案にディークは頷く。

 この姿なら街中を歩きまわるには都合がいい。

 都合に合わせて使い分ける事にしよう。


 そんな時、背後に人の気配を感じる。

 振り向くとそこにいたのはルータスとミシェルだった。

 ミシェルはノグアに向けて小さく手を振っている。

 しかし、ルータスはノグアの顔を見るなり一気に表情が険しくなり叫ぶ。


「ノグア! さっきワザと負けただろ!」





 ルータスはノグアに詰め寄る。

 たとえルールの有る試合でもあの様な勝ち方は納得できなかったのだ。

 ディークの眷属として主人の品位を貶めた自分自信が一番許せなかった。


 実際、勝者はルータスなのでディークの名前に傷をつけたわけではない。

 だが、他が気づいていようが関係ない。

 これはルータス自身の問題なのだ。


 ――きっとディーク様は、自分が負けていた事を見抜いてがっかりしているに違いない。


 ルータスの頭にはその事しかなかった。

 しかし、そんなルータスに対しノグアは全く動じない。


「ルータス君の目的は、コロシアムで善戦する事だったのかい?」

「う……」


 ノグアの全てを見通しているかのような目と口調に言葉が返せない。


「華々しく勝利し、魔王軍の名前を帝国に知らしめる事だったはず。そしてユーコリアス女王もそれを望んでいた。ちがうかい?」


 たしかにその通りだ。

 目的だけ見れば確かに完璧にこなしていると言っていいだろう。

 だからこそ――


「だから、今から僕と戦え! このままじゃ終われない。今からは自分自身の――いや、ディーク様の眷属として!」


 ルータスはレヴァノンを抜いた。


「ちょっとアンタ、本当に分かってないの?」


 ミシェルが驚きの声を上げる。


「お姉様、これでお姉様やディーク様が如何に凄いかを必ず証明して見せます!」


 ミシェルは気合い十分のルータスをじっと見つめる。

 ミシェルは口を手で隠しながら小さく笑うと、


「分かったわ。今は思う様に頑張りなさい。そんな馬鹿な所がアンタの良いところかもね」


 ミシェルはフワリと飛び上がると観客席の柵の上に座った。


「アイも知ーらないっと」


 アイも続き飛び上がるとミシェル横に座った。


 ――おかしい。


 何か皆はあまり関心がない様子だ。

 ノグアの試合だってお姉様ならノグアがワザと負けたことくらい気づいているはず。

 だが、試合後はいつも以上に褒めてくれたのだ。

 お姉様なら自分と同じ様な事を考えてもおかしくはないはず――


「いいだろう」


 ノグアはそう言いながら鞘から折れた剣を抜いた。

 そう、コロシアムでルータスが真っ二つに折った剣だ。


「そんな折れた剣でこの魔剣レヴァノンとやり合うつもり――」

「ルータス!」


 ノグアはルータスの声にかぶせるように叫ぶ。


「はひ!」


 ルータスは思わず返事をしてしまった。


「本当の魔剣とは何か知っているのか?」

「へ?」


 ルータスは背筋を真っ直ぐにして直立不動で立っている。


「それは、俺が手にした剣のことだ!」


 ノグアの両目が真っ赤に光る。

 手にした剣は一瞬で原子レベルにまで分解された。


 ルータス目には融解されたようにしか映らない。

 そして、元のエレルギーの塊とかした物質にノグアは魔力を送り込み混ぜ合わせる。

 強力な魔力を帯びたエレルギーは新たな物質へと再構築されていく――

 ノグアの右手は禍々しいオーラを纏いその中から新たな剣が姿を見せた。


 その剣はもはや剣とよべるのだろか?

 レヴァノンより禍々しく寒気がするような力を放っている。

 どう見ても魔剣以外の言葉が見つからない。


「ノ、ノ、ノグア君?」


 ここでルータスは全てを察した。

 ノグアの解放した魔力によって肌で感じたと言う方が正しいだろう。

 ルータスの額から変な汗が滴れ落ちる。

 

 今やっと全ての疑問が解けたからだ。

 これは非常にまずい。何か言い訳はないのか――

 ルータスは頭をフル回転させている間に先にノグアが口を開く。


「そう言えば、お前達に稽古を付けてやった事はなかったな。この際だ。少し遊んでやろう」


 ノグアはニコリと笑った。

 しかしその笑顔はルータスにとった不敵すぎた。

 一気に寒いものが身体中を駆け巡る。


 ルータスはミシェルへと助けの視線飛ばした。

 ミシェルは、ルータスに手を振りながら「頑張れ!」と応援を飛ばしているように見えた。

 アイは呆れた顔で両手に顎を乗せて成り行きを見守っている。


 少なくともミシェルが怒ってない事に少し旨を撫で下ろす。

 しかし不味い状況は変わってはいない。

 そんな中、妙に嬉しそうなスコールの声が響く。


「ルータス! いくぞ!」

「は?」


 こいつはバカなのか?


 これがルータスの率直な感想だった。

 スコールが何を考えているのか理解できないが、少なくとも早く戦いたくてウズウズしているのだけは分かる。

 スコールはルータスの反応がない気に入らない様子で、


「別に無理にとは言わないぜ? 勿体無いと思うけどな。折角、あの人が戦ってくれるって言っているのにお前は嬉しくないのか?」


 スコールの表情はまさに「お前、頭大丈夫か?」と言っているようだ。

 ルータスは、それはこっちのセリフだ! と頭の中で叫ぶ。


「で、でも……」


 返す言葉が見つからないルータスは口ごもる。

 そんなルータスを見るなりスコールは呆れた表情を浮かべる。


「だったらそこで見ていろよ。そんな弱虫はいらん」


 スコールは刀とスライヤーを引き抜くと不敵に笑う。


「丁度、聖剣を全力で試して見たいと思っていたところだぜ!」


 そんなスコールを見たノグアも笑い出す。


「流石スコールだ。そんな所が俺は気に入っている」


 ノグアの言葉にルータスの表情が曇る。

 それはノグアに対してではない。


 スコールに対しての激しい嫉妬によるものだ。 

 ルータスはその感情をレヴァノンにぶつける。


「ディーク様に認めてもらうのは僕の方だ!」

「だった行動で示してみろ!」


 スコールはそう言うとノグアに向かってダッシュする。

 ルータスも、それに合わせて走り出す。


「もう、どうなっても知らないからな!」





 ディークと戦いだした2人を眺めながらミシェルが呟く。


「アイは参加しないの?」


 隣で足をぶらぶらさせながらアイは当たり前の様に、


「アイは怖いのはやだもん。お兄ちゃん達はああ見えて同じタイプの馬鹿だからねー」

「フフフ、そうかもね。でも見てると飽きないわ」


 スコールもルータスもこう言う時は同じ表情だ。

 なんだかんだ言ってコンビネーションも素晴らしいがお互いそれを認めようとはしない。

 闘技場では必死に2人がディークに攻撃を繰り出している。


 しかし力の差は圧倒的だ。

 しかしディークも2人の力を試している様子で戦闘にはなっている。

 ミシェルはそんな2人を見つめながら小さく呟く。


「ルータス、アンタは最強の眷属になりなさい。スコールは最強の純血にね」


 次第に2人は押され始めだした。

 アイは楽しそうに、


「あっ、1人やられちゃったよ!」

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