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ブラッド・ZERO  作者:
第3章 カルバナ帝国編
90/119

第90話  コロシアム開戦2

 ルータスが初戦を華々しく勝利した時、ディークとユーコリアスは特別席で観戦をしていた。

 コロシアム最上部に設置された特別席は、一部の者しか入ることは許されない。


 中は2人で見るには十分すぎるほど広く真っ赤な絨毯と装飾が施された椅子に腰掛けている。

 ユーコリアスの後ろにはケビンがディークの後ろにはスコールが付き計4名だ。


「おおー! やっぱルータスは強いな!」


 そう叫ぶユーコリアスは年相応の子供にしか見えない。

 握りしめた両手の行き場のない力が座って居る椅子をポンポンと叩いている。


「当然だな」


 そう口を開いたディークの言葉には二つの意味があった。

 一つは言葉の通りの意味だ。

 我が眷属への絶対の自信によるもの。


 そしてもう一つは――


 この戦いはルータスの力試しではない。

 これは魔王軍の名前を売るための戦いである。

 ユーコリアスも自らの騎士を誇示する為の戦い――


 つまり出来レースなのだ。

 双方に意味がある戦いである。

 ルータスが勝てない相手を出す意味はない。

 だからこその「当然」なのだ。


 ユーコリアスは何かに気づき、足を組み替える。

 顎を手で押さえながら、


「このまま、圧勝するのも良いが何かインパクトに欠ける気がしないでもないな」


 確かしそうである。

 この調子で勝ち続ければ、流石に観客も疑うものだ。

 圧倒的な力はやりすぎると怪しく見えるものである。

 しかしディークには既に策があった。


「大丈夫だ。要は派手に盛り上がればいいんだろ?」

「そうなのだが、貴殿は何かあるのか?」

「あぁ、楽しみにしていてくれ」


 目をギラリとさせたディークは不敵に笑う。





 あれから2日、ルータスは順調に勝利を重ねていた。

 控え室に来たルータスはため息をつきながら腰を下ろした。


「どうしたの?」


 らしくない表情のルータスに声をかけるミシェル。

 コロシアムが始まってからと言うものずっと付いていてくれたのだ。


「いいえ、何も……ただ、少し物足らないだけです」


 強敵と戦えると思い込んでいたルータスは少し興醒めていた。

 その戦いで自分の成長も測れると思っていたからである。


 しかし4連勝を終えた今、戦った相手は格下ばかりである。

 歴史あるカルバナ帝国の剣闘士がこの程度とはいえ思えなかった。


「まぁいいじゃない、目的は宣伝なんだから。その点では良くやっているわ」


 ミシェルは嬉しそうにルータスの頭を撫でる。

 本当を言えば、ミシェルに成長したカッコ良いところを見せたかったと言う部分が大きかった。

 しかし等の本人は喜んでいるし、褒められた事もあって、「まぁ、これはこれでそう言う任務だった」と思えばいい。


 予定は5戦だと聞いていた。

 つまりこれが最後の戦いだ。

 優先すべきは自分の意思より命令である。


 それがディークの意思であればやるしかない。

 ルータスは気合を入れ直し立ち上がる。


「最後の戦いよ。油断しないようにね」

「はい」


 さっさと仕事を終わらせて今日はバーにでも行くか……

 などと考えながらルータスは控え室を後にする。

 闘技場へ続くこの廊下も今では見慣れたものだ。


 闘技場にルータスの姿が見えると、観客の大歓声が包む。

 順調に勝ち続けるルータスに今や観客のファンも多い。

 ルータスも期待に応え観客に手を振って返す。


「さぁ! 姿を、表したルータス・ブラッド!  今日はどんな戦いを見せてくれるのか!」


 審判の声も高鳴りその興奮がうかがえる。

 そして審判は大きく手を振りかざし、


「しかーし! 何と最後の一戦は、何と! 同じ魔王軍からの挑戦だ!」


 え?


 ルータスは固まった。

 そんな話は聞いていなかったからだ。一体誰なのか?


 一気に緊張が走った。

 当たり前だ。ルータスが魔王軍の中で勝てる者は少ない。


「その名は! ノグア・マオウだ!」


 審判の高々な声と共に現れたのはルータスと同じ位のヴァンパイアである。

 当然だが全く知らない男だ。

 だがどこか不気味で得体がしれない。


 もしかして敵のスパイか?


 聖剣を手に入れた今、何処かの組織が送り込んでくる可能性は十分にあるだろう。

 しかしルータスはある物を見つけた。

 それによってルータスはこの目の前の男が同じ魔王軍である事を確信したのだ。


 それは魔王軍の証とも言えるイヤリングだ。

 男の子左耳にキラリと光っている。

 このイヤリングはディークが作ったものであり他人の複製は不可能だ。


 それを手にするにはディーク本人から貰う以外にない。

 ルータスとノグアはお互い向き合うと、ノグアは笑顔で口を開く。


「やぁルータス君、俺は最近魔王様にスカウトされ仲間になったノグアだ。よろしく」

「びっくりしたよ。ディーク様から何も聞いてなかったからね」

「ゴメンゴメン、魔王様からは驚かせてやれとの事だったので……」


 よくよく見れば、身につけている装備も他では手に入らない様な代物だ。


 ん?


 ここでルータスは重要な事に気付く。


「も、もしかして君は……」


 ノグアはギクリとする。


「えっ? な、なにか……」


 この状況で示すものは一つしなかった。


「僕の後輩か!」


 一瞬、呆気にとられるノグアは何かを悟ったかの様に、


「そ、そうだね。先輩……」


 ――先輩、なんて良い響きなんだ。


 人生で初めて先輩と言われ一気にテンションが上がりまくる。

 しかし、浮かれてばかりはいられない。

 ルータスは分かっていた。


 後輩とは言ったもののディークにスカウトされるほどの男が只者ではないことを。

 何よりもノグアから一切感じられない気配がそれを物語っていた。

 人は必ず何かしらの気配を放つ。


 それがどんな微かなものでも強者であれば感じ取る。

 だからこそ強者は強さに敏感なのだ。

 ノグアにはそれらの気配が一切無い。


 ルータスにはそれが逆に恐ろしかった。

 しかし一つ分かった事もあった。

 ノグアはディークの眷属では無い。


 これは恐らく間違いない。

 ルータスは、ディークやミシェルに対して姿で認識している訳では無いからだ。


 ――だからこそ負ける訳には行かない。


 ルータスの心は燃え上がっていた。

 世界に名を轟かせる強者ならいざ知れず。

 同じ様な歳の男に負ける訳にはいかない。


 負ければディーク様の眷属として恥だ――

 審判が大きく手を振り上げ、


「ではルータス対ノグア!  始まりです!」


――振り下ろした。


 だが、2人は動かない。

 ルータスはじっとノグアを見つめゆっくりと剣を抜く。


「僕は、君に負ける訳には行かないんだ。悪いけど本気で行くよ!」


 ルータスの言葉に合わせる様にノグアも剣を構える。

 ノグアの剣はどう見ても魔法剣では無い。


 それどころか訓練で使うような安物である。

 装備のグレードはルータスが圧倒的に上だ。

 これで負けては流石に不味い。


「俺も結構強いよ!」


 ノグアの目がギラリと光る。

 ヴァンパイアの特徴である赤い瞳に変わって行く。

 ノグアのまとう威圧感は凄まじく、ルータスは自分が小さくなったかのような感覚に陥った。


 ただ構えているだけのノグアに全くスキが見つからない。

 ルータスは踏み込むタイミングを見つけられたいでいると――


 ノグアは人差し指を伸ばし呟いた。


「サンダー」


 伸ばした指先から真っ白い閃光のような稲光だ。

 無詠唱とは思えない威力のサンダーはルータスめがけて突き進む。

 しかしルータスも素早く右横に回避すると、一気に距離を詰める。


「魔法使いか! させない!」


 先のサンダーの威力からして魔法に長けている事は間違いない。

 距離を取るのは得策ではない。

 だが、杖では無く剣を持っている事から、スコールと同じタイプなのだろう。


 ルータスはノグアの右横から剣を振り下ろす。

 しかし、ノグアはルータスの一撃を簡単に剣で弾いた。

 ルータスは剣士であり、魔法は使えない。


 その分、ディークの血によって身体能力はかなり高のだ。

 その一撃を簡単に弾かれたのだ。

 ルータスは闘気を一気に高めるとレヴァノンはそれに答える。


 凄まじい連撃を叩き込むもノグアはそれを簡単にさばいて行く――

 弾いた衝撃を利用してノグアは高くジャンプした。

 そして大きく左手を払うとその空間が一瞬固まったように見えた。


 次の瞬間、その空間から真空波が巻き起こる。

 それと同時にルータスは大きく吹っ飛んだ。


「ぐっ!」


 ――何なんだこの男。


 この身体能力を持ってしても反応すらでなかった。

 何より全ての攻撃を読んでいるかのような動きだ。


 一体どうやって戦えば――


 ルータスの考える間もなくノグアは更に次の攻撃に移る。

 指をパチンと鳴らすとノグアの周りに複数の魔法陣が出現した。


 魔法陣がその魔力高め輝き出す。

 高まった魔力は放出されルータスに襲いかかる。


「げげっ!」


 ルータスは思わず声をあげた。


 魔法陣からは、炎、氷、雷――


 それも一発では無く複数だ。

 魔法のシャワーといえばメルヘンな雰囲気がするものだが実際は違うらしい。

 凶悪な魔法の雨はルータスに容赦無く降り注ぐ。


 ルータス即座にレヴァノンを盾にして防御の体制をとる。

 降り注ぐ魔法に視界は煙一色となった。

 時間にして数十秒、魔法の雨は続く。


 攻撃の時間としては長すぎると言っていいだろう。

 凄まじいノグアの攻撃は確実にルータスの体力を奪って行く。


 ――不味い。


 後輩が出来た! などと浮かれていたが剣の腕も魔法も超一流だ。

 しかもノグアはまだ余力を隠している。

 悔しいが普通に戦って勝てる相手ではない。


 これは戦いが長引くと不利だ。

 攻撃が止むとルータスはレヴァノンを、大きく振りかぶった。

 全闘気を込めたレヴァノンは黒い凶悪なオーラに包まれる。

 次第に視界が回復し始めると、ノグアはまっていたかのように、


「ならばこちらも」


 ノグアは剣を振るうと雷をまとわせた。

 ただの雷ではない。黒い雷だ。

 闘気と魔法が混ざり合い凄まじいパワーを感じる。


 お互いのパワーが最高潮に達すると2人は一気に動き出した。

 互いに向かい真っ直ぐに駆けていく。

 何の細工もなくただ真っ直ぐに。

 剣技の掛け合いにおいてノグアの方が上な以上、最も得意とする部分で勝負するしかない。


「これが僕の全力だ!」


 ルータスは全開の闘気と全力の一撃を純粋に振り下ろす。

 そこには裏も表もない。ノグアが受けてくれる事を前提にした本気の一撃。

 つまり避けられればお終いというわけだ。


 だがルータスにはノグアは避けないと言った根拠のない確信があった。

 ノグアもルータスの攻撃に合わせ剣を振り降ろす。


 激しくぶつかった二つの剣――


 金属音と共にノグアの剣は真っ二つに折れ体は高く舞い上がる。

 そしてそこには剣を振り抜いたルータスの姿があった。

 ルータスの目にはスローモーションの様にゆっくりとノグアが落ちてくる。


 そして静かに地面に倒れた。

 少しの時間差で折れた剣が地面にぶつかり小刻みな金属音が響く。

 大きく肩で息をするルータスはここで初めてノグア以外の背景が視界に映る。


 あたりを目だけで見渡すと、目の前には倒れたノグアがいて、それに駆け寄る審判がいる。

 コロシアムの観客は静まり返り息を飲んでいる。

 まるでコロシアムの時が止まっている様な光景である。

 審判はノグアを確認すると、大きく叫ぶ。


「勝者! ルータス!!」


 静まり返った会場は一気に大歓声が巻き起こる。

 倒れたノグアはそのままタンカーで運ばれていく。

 その後ろ姿をルータスはじっと眺めていた。


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