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ブラッド・ZERO  作者:
第一章 建国編
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第9話  新たな力

 周りを見るとホクロン達が壁の製作を頑張っている。壁も殆ど完成していて少し離れた場所に建っている城も段々とその大きさを増し魔王城としての風格が出てきた。こんな壁や城を完成させるなんて、


 「モグローンって凄いんだな」


 思わず感心の余り声が漏れるルータスに


「どういうこと? お兄ちゃん」


 いきなり放たれた言葉に横にいたアイは反応して不思議そうにこっちを見る。


「いや、なんだか世界はやっぱ広いなって思ってね」

「いきなりどうしたの? 変なの」


 ルータス達は今日から魔法や剣技の特訓が有ると聞いていて、ミシェルに畑に来るように呼び出されていた。魔王城に来てから驚きの連続だった。まず魔王城に住む生き物がハーフどころか人型の方が少ないなど予想だにしていなかったからだ。

 ここアビスにいつかは来たいとは思っていたが、まさか住む様になるとは思いもしなかった。それだけに、これからの特訓は凄く楽しみであった。あのディークがどんな事を教えるのか想像もつかなかった。ここなら自分の全てが叶う場所だ。ディークと言う偉大な王さえいればこの地は必ず後に伝説となるはずだ。しかしそのディークもここ最近三日程殆ど姿見ていなかった。

 

 すると建物からディークが出てくるのが見えたが、もう一人知らない男がいた。ディークの後ろに続いて歩いてくる男はその歩き方からして貴族の様で一切の乱れが無く黒いスーツをきている。ディーク達はそのままルータス達の前まで来るとにこやかに、


「おはよう、調子はどうだ?」

「おはようございます、おかげ様でバッチリです!」

「おはようございます、アイも元気!」


 挨拶を交わすと、ディークはその横にいた男に手をやり、


「紹介しよう、彼はチャンネ、君達のこれからの先生となる男だ」


 その男は、真っ白な髪のピエロの様な顔で頬にダイヤのマークが入っている。そして赤い目のヴァンパイアだ。チャンネと言われた男は大きく手を振りながら深い礼と共に、


「はじめまして、ルータス君、アイ君、私は先程ディーク様の紹介に預かりました様に、チャンネと申します。偉大なディーク様の2番目の眷属として創造されました。以後お見知りおきを」


 やはり――


 ルータスは薄々分かっていた。自分の流れる血が本能的にそれを教えていた。


「お前達は、エルドナの学園を知っているだろ」


 エルドナでは、学園があり6歳から15歳までの10年間、色々学ぶ事が出来る様になっている。エルフはそこで魔法や剣技の基礎を身につけて行ける為に、ハーフは何もしなければその10年の差は絶対的なものになる。

 その差こそがハーフと純血の絶対的な力の差だ。

 ハーフにいくら才能があったとしても開花しなければ意味は無いからだ。純血なら学園の中で自分の才能に気づく事が出来るだろう。ハーフはその殆どが気づく事なく埋もれていくのが現状だ。運良く気づけた者だけが例外となれる。いくらハーフでも、強ければ引く手数多だからである。


「はい知っていますが中までは見た事はありません」


 ディークは大きく頷くと、


「チャンネにはこれからお前達の先生をしてもらう、お前達はエルドナの学園の様に、ここで学び、遊び、強くなれ」

「それは、どういう事ですか?」

「そのまんまの意味だ、仕事は大人に任せて、子供は子供らしく勉強が仕事って事だ」


 ディークは優しくルータスの肩をたたきながら笑う。


「アイはいっぱい勉強するね! いっぱい遊ぶ!」


 アイの適応力の高さに感心するルータスだったが、ディーク様はこういう人だったな、と心の中で納得し、


「分かりました。将来役に立てる様に頑張ります!」


 と決意をしっかりと新たにした。


「今日から、授業の方もチャンネにやってもらう事になるが、最初の目標はまずカミルを倒すことだ」


 ルータスは表情が一気に険しくなり自然に拳に力が入る。あいつだけは許せない、許せるはずがない。この手で復讐を果たせるならそれに勝る喜びはない。


「僕は強くなれますか?」


 一度、手も足も出ずに殺されかけた相手だ。自分に勝てるのか不安だった。


「俺の血が入ったお前が強くならない訳が無い。ルータスは剣技、アイは魔法を身につけていくんだ」


 ――そうだった。自分はこの血の力がある。それにまだまだ強くなれる筈だ。そう思いルータスは自分の顔を叩いて気合を入れた。


「分かりました!」


 2人の気合いの入った声にディークは頷くと。


「まずはアイ、お前はこの国では唯一の普通の人になる。だから手っ取り早く力を与えよう。秘策のこれだ」


 普通の人から外されルータスはが少し苦笑いした。

 ディークは一枚のスクロールを取り出した。その紙の真ん中には目の様な絵が書かれてあり、なかり複雑な魔法が組み込まれている様だ。それをディークはアイに渡した。


「これはなんですか?」

「それはな、過去に作った物で魔刻印スティグマと呼んでいる。アイの目に魔術式を刻印し一つの魔法と特殊効果を与える優れものだ」


 アイは今一分かっていない様子で


「魔法を覚えられるって事?」

「その通り、通常高位魔法を覚える為には順番に下位の魔法から覚えて行かないとダメだろ? しかしスティグマはそんな事は無い。刻印すれば即使える都合の良いものだ」

「そんな事が出来るなんて凄い! それなら沢山刻印すれば何でも使える様になるんですか?」

「それは出来無い。俺の開発したスティグマは目に刻印される為、両目合わせて2つしか刻印出来無い。しかし効果は絶大だ。普通の人レベルには到達しえない魔法を習得できる」

「どんな魔法なんですか?」


 ディークはスクロールをアイに渡し、ルータスに離れる様に手で合図すると。


「スクロールの目を左目だけで見るんだ」


 アイは右目を閉じ左目でスクロールに描いてある目を見た。ディークはアイの正面に立ち、手をかざす。


「我が力、刻印となりその目に刻め」


 ディークの声と共にスクロールから魔術式が飛び出し、アイの周りに円を描く様に回り出した。その文字は一つ一つが輝き、魔力を増していく。そしてその文字はアイの正面に来た時、スクロールに描かれた目からアイの目へ魔術式が吸い込まれる様に入っていく。

 それはまさに刻印を目に刻むかの様に次々に入って行った。


「…………」


 しばしの静寂の後、最後の術式が刻まれた。するとアイ左目には魔法陣の様な模様が浮かび上がり、青くゆらめき輝きを放っている。


「アイ、大丈夫か?」


 ルータスはアイに近づくと、その目をまじまじと見る。その目がただの目じゃない事はすぐに分かったが、あまりに異質なその力の前にルータスはこれが何なのか想像もつかない。


「大丈夫だよ、お兄ちゃん、不思議な感じがする。上手く言えないけど、どんな魔法なのかも分かる」


 アイは左目のまぶたをなでながら言った。


「うむ、アイにはエクスプロードと言う魔法が刻まれた。 それにもう一つその目には特殊能力がある。魔法使いにとってマジックパワーの枯渇は生死にかかわる。優れた魔法使いであったとしても魔法が使え無いならそこら辺の雑魚と変わらないだろ? じゃあ枯れない様にするにはどうしたらいいか?」


 アイは腕を組みながら、


「うーん。魔法を節約する?」


 ディークは人差し指を伸ばし左右に振りながら、


「答えは、日頃からマジックパワーを貯めておけばいいんだ。そのスティグマは毎日魔力を貯めていく事が出来る能力がある。戦闘時スティグマを発動させれば目に今まで貯めた魔力が解放されアイとリンクする訳だ。だから通常時はスティグマを発動させないでおけ」


 すると、アイは頷き、その目から輝きが消えた。ルータスはもう一度アイの目を見ると、普通の目となっていて先程の魔法陣の様な模様は無かった。どうやら発動させたら浮かび上がる様だ。

 

「ディーク様、スティグマって凄いんですね。これは一般的にあるものでは無いのでしょうか?」


 ルータスはアイの目を見ながら言う、


「当たり前だ。これは俺が膨大な時間をかけて作り上げた叡智の結晶だ。無条件で魔法を覚える事など普通ではあり得ない。アイは世界で初めてのスティグマ能力保有者だ」


 ディークはニヤリと笑い自慢げに言った。


「ディーク様って優しくて何でも出来るんですね。ホント変わった魔王様だね」


 アイの素直な言葉に、ディークは照れながら、


「とりあえず、アイの強化は完了した。あとはその力を使いこなすんだぞ。後はチャンネに任せるとしようか」


 そう言うとチャンネは深い礼をし、ディークは城の方に戻っていった。


「さて、ルータス君、アイ君、君達は私の大切な生徒となりました。ディーク様のご期待に添える様これから楽しく、そして沢山勉強してください。早速授業を始めましょうか」


 チャンネはニッコリ笑う。


「ハイ! 先生!」


 二人の声は透きとおった春の青空に響いた。 





「報告を聞こう」


 とある一室にその2人はいた。彼らこそ人間の国であるフランクア王国の諜報機関である。その一人は地面にしゃがみ込む様に膝を付く男、髪は肩まであり冷たい目に白い服の騎士は、その声と共に顔を上げた。その男こそカミルであった。


「ハッ! リグン様、例の物は手に入り、すでに本国に送っております。作業に当たらせたハーフどもは既に処理済みでこれを知る者はおりません」


 カミルは、しっかりとした口調で目の前の男、リグン・バルダットに報告する。

 カミルの上官にあたるリグンはカミルの作戦終了の報告を聞きに来たのである。リグンの歳は60代くらいで、黒いローブ姿に杖を持って立っている。


「よくやったぞ、カミルこれで本国は、より安泰へと向かうことであろう」


 リグンは自分の顎を擦りながら不敵な笑みを浮かべている。


「それと、1名少女がエルドナへ逃げられましたが、その少女はこの作戦自体も参加しておらずに何も知っておりません」


 リグンが顔をしかめ、明らかに不満な様子が見て取れカミルはゴクリと唾を飲み込む。


「ツメが甘いな。まぁ良い、情報さえ漏れなければ変わりはない」


 叱咤されなかった事に安堵しホッと息を吐く。


「申し訳ございません」


 リグンは杖で地面を2回叩く、


「この先の計画は分かっておるな?」

「ハッ! しかしあれを使うための生贄はどうしましょう?」


 リグン笑みを浮かべる。一変の情も無いような不敵な笑みを浮かべて、


「そんな者、そこら中に転がっているではないか。特に北の方に」


 カミルも笑みを浮かべて、


「なるほど」

「ただしバレない様にやるのだぞ事は大きくしたくは無いからな、後今後の事を考えて黒翼に協力を要請した」

「黒翼……ですか」


 カミルは背筋に冷たいものを感じた。

 黒翼とは人身売買や暗殺を主に請け負う人間の組織である。団員や組織の全貌はカミルでさえ知らなかった。一度だけメンバーの一人と会った事はあったがその奥に秘められた圧倒的な力にカミルは心底驚くと同時に恐怖した。そいつらが動き出すという事は本国もかなり力を入れていることが分かる。


「まぁまだ先の事だが、カミルも頭の隅に入れておけ」


 リグンは振り返りカミルに背を向ける。


「承知しました。必ずやリグン様の期待に答えてみせます」


 深々と例をするカミル。


「期待しているぞ、我々の最終目的、神に選ばれし者は私達人間だ」

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