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ブラッド・ZERO  作者:
第3章 カルバナ帝国編
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第89話  コロシアム開戦

 コロシアム――


 己の命と名誉をかけ剣闘士が戦う場所である。

 そして数々の歴史をカルバナ帝国に刻んできた場所だ。


 それはカルバナ帝国の歴史はコロシアムの歴史と言っていいほどに。

 何よりも強い者が好きなオーガ達は、己の武を競い合う場として作られたのがコロシアムの始まりである。

 ルールは簡単で相手に負けを認めさせるか、戦闘不能にさせれば勝ちである。


 武器の制限は無く何でも使用可能であり、死人が出る事も度々あるのだ。

 コロシアムでの戦いで相手を殺しても罪にならないのである。


 しかし何でもしていい訳ではない。

 勝負がついてからの攻撃や気絶している相手への追い討ちなどは認められていない。

 コロシアムは人を殺す場では無く、どちらが強いか決める場所と言うのが大前提なのだ。


 カルバナ帝国としても優秀な戦士や才能溢れる者を簡単に死なせてしまっては、国力の低下につながるという訳だ。

 だからこそルールを破った者に対しては厳しい罰則があった。

 そんなコロシアムは今も昔も帝国民の娯楽として深く根付いている。


 そして今日も又、新たな戦いが開かれようとしていた。

 だが今日は、何時ものコロシアムとは少し違っている。

 それは魔王軍が初めて参加することとなった戦いだったからだ――


「ルータス、準備は大丈夫?」


 少し心配そうに口を開いたのはミシェルだ。

 ここはコロシアムの控え室、ルータスとミシェルは戦い前の準備をしていた。

 妙に静かな控え室の空気はルータスに緊張感を与えている。


 コロシアムはランク制であり勝てば勝つほど高ランクに昇格出来るシステムだ。

 本当なら初めて参加するルータスは最低ランクであるEからスタートのはずだが、招待戦士扱となっていて出てくる敵も強者である事が予想される。

 ルータスは準備を終え、鏡の前に立つ。


「大丈夫です」


 鏡に映るルータスは何時もと違い身だしなみは整えられ何から何までピカピカだ。

 しかしその背中にマントはなく、当然カルバナ帝国の紋章もない。

 今日はユーコリアスの専属騎士ではなく魔王軍代表として参加している為だ。

 するとミシェルがルータスの横にやってくる。

 鏡に映る2人は身長差もあって、兄と妹にしか見えない。


「今日はアタシ付いていて上げるから、頑張りなさいよ」

「はい! 活躍しまくってディーク様のお役に立てるようにします!」


 ルータスは無駄に大きな声で話す。

 ミシェルはコロシアム参加が決まってから、ずっと特訓に協力し並々ならぬ意気込みを見せていた。

 過去を振り返ってもルータスがこれほどミシェルに構ってもらえた事は無い。

 だからこそ気合は十分だったのだ。


「あんたはこのアタシの弟なんだから大丈夫よ。余り力みすぎて失敗しないようにね」

「はい。お姉様」


 ルータスは控え室の出入り口の反対側にある扉の前に立つ。

 この扉の向こうは闘技場だ。

 ルータスはドアを開けると10メートル程のまっすぐな廊下の奥に闘技場の光が覗いている。

 ルータスはじっとその光を見つめているとミシェルが背中を軽く押した。


「行って来なさい」


 ミシェルに背中を押されルータスは歩き出した。

 廊下は薄暗かったが今まで何人もの剣闘士が同じ道を歩いた廊下だ。

 歴史の重みを感じずにはいられない。


 そして何より同じ舞台に身を置ける事がたまらなく嬉しかった。

 毎日ミシェルに特訓を付けられ成長を実感していたルータスは自分を試したくてしょうがない。

 ルータスの気持ちの高ぶりが最高潮になると左目は赤く輝き黒いアザが浮かび上がる。


 それと同時に視界は真っ白になった。

 そして次に目に飛び込んで来たのは大量の人である。

 ルータスの登場にコロシアムには大歓声が響き渡り凄まじい熱気に包まれている。


 余りの熱気に特訓の時とは全く違う場所のようにも見えた。

 ディークやユーコリアスの姿を探すも余りの広さゆえに見つけられない。

 ルータスは真ん中に居た審判と思われる人の所に到達すると少し後ろを振り返った。


 すると、自分が出て来た控え室への出入り口にミシェルの姿が目に入った。

 目が合うなりミシェルはニコリと笑い小さく手を振るとルータスも小さくうなずいて前を向く。

 そして審判に視線を送ると、審判は準備完了と判断したのか、手を大きく振り上げる。


「お待たせしました! 本日は何と特別な戦いです! 何とあの魔王軍から緊急参戦です!」


 審判の声は魔法により大きくなっていてコロシアム全体に響き渡る。

 審判は振り上げた手をルータスに向けると、


「その男の名は――ルータス・ブラット!! 」


 会場の熱気は最高潮に高まりルータスの立っている地面にまでそれが伝わってくる。

 次に審判はルータスとは反対の方向へ手をかざす。


「そして魔王軍に立ちはだかる剣闘士は――フォクシー・オン!」


 その声と共に現れたのはかなりの巨漢の男であり身長は軽く2メートル以上ありそうだ。

 それに似合った大きな棍棒を担いでいる。

 横も腹もぽっちゃりしているがデブかと言えばそうでは無い微妙ラインだ。


 それがただのデブでは無い事はすぐに分かった。

 戦いにおいてデカい程強く有利なのは間違いない。

 フォクシーの登場に再び歓声が上がった。


 そして棍棒を振り回し観客に気合いの入った雄叫びをあげている。

 大きな巨体からギラリと光る視線が飛んでくる。

 その眼光には憎しみにも似た何かが感じられた。

 フォクシーは棍棒をぶらぶらさせながら威嚇する。


「お前がルータスか、ちょっと女王様に気に入られてるからっていい気になるなよ。ここではそんな事は通用しない! 俺達は命張ってんだ!」


 図太い太い声は胴体さながらの迫力である。

 ルータスはこの一瞬で理解する。

 確かにそうだ。


 コロシアムは一躍名声を築きたい者の集まりだ。

 そんな者達が凌ぎを削っている中でいきなり現れた魔王軍が特別待遇である。

 面白く思わない方が普通だろう。


 しかしルータスも舐められる訳には行かない。

 目的は力を示す事なのだから。


「僕だって命張っている。文句があるなら力で示してみろ」


ルータスは腰からレヴァノンを抜くとフォクシーに剣先を向けると睨みつけた。

するとフォクシーはヘラヘラ笑いながら、


「何が魔王だ。自分で言ってれば世話ないぜ! お前みたいな野郎を部下に置くくらいだ。察しがつくがな」

「何だと貴様!」


ルータスの左目は一気にその赤みを増し輝く。

フォクシーはいきなりの豹変ぶりに驚きを隠せない様子である。


ルータスはレヴァノンを持つ手に力が入るが――

ここで大きく深呼吸をして心を落ち着けた。


 ――危ない危ない。


 なんとルータスは抑えることができたのだ。

 今までのルータスであれば考えるよりも先に斬りかかっていた事は間違いないだろう。


 しかし今回は踏みとどまった。それは何故か?


 それはディークの命を重んじていたからだ。

 コロシアムは殺し合いの場ではない。

 怒りに身を任せ相手に無残な死を与えてしまえば、魔王軍、いや……ディークの名は地に堕ちるだろう。


 だからこそルータスは踏みとどまったのだ。

 ルータスは自画自賛する。


 ――僕だっていつまでも子供じゃない。

 一々敵の挑発に簡単に乗せられるバカじゃないんだ。

 だからこそこう言う場合は――


 死なないようにぶっ殺してやる!


 固い決意を胸にルータスは剣を構えると、フォクシーもその大きな体を地面いっぱいに奮い立たせ構えた。

 審判は2人構えたのを確認すると、大きく手を挙げる。


「それでは第一回戦、ルータス対フォクシー! 始まりです!」


 審判は大きく振り上げた手を振り下ろすと戦いの火蓋は切って落とされ大歓声が沸き起こった。

 その瞬間、ルータスの耳には何も聞こえない。


 一気にフォクシー向かって駆けていく。

 何のフェイントもない一直線にである。


「ブハハハハ! お前バカかよ! 死ね!」


 フォクシーは突っ込んできたルータスめがけて大きな棍棒を振り下ろす。

 巨大な体から生み出されるパワーは剣武など関係がないかの様な一撃必殺の威力を秘めている。

 当たればタダでは済まないだろう。


 しかしルータスは頭を棍棒の影がかかると同時にくるりと右に回り振り下ろされだ一撃を避けた。

 空を切った棍棒は激しく地面に叩きつけられ、そのパワーを証明するかの様に闘技場のリングをえぐった。

 ルータスは思いっきり地面を蹴ると先の空振りで前のめりになったフォクシーの顔面めがけて飛び上がる。

 そして思いっきり右足を振り上げ顎に蹴りを叩き込んだ。


「ブハッ!」


 蹴られた衝撃で後ろに大きく傾いたスキをルータスは見逃さない。


「うおおおお! くらいやがれ! 剣武、スーパーミナクルジャイアントインパクト!」

 

 ルータスは大きく振りかぶると昨日から考えていた技名をこれ見よがしに叫ぶ。

 一気に闘気を解放しレヴァノンはそれを受け止め禍々しく輝く。


 そしてレヴァノンくるりと回し脇腹めがけて振り払う。

 ルータスは剣の背中で殴りかかったのだ。

 レヴァノンは片刃の剣であり背面であれば刃がない為に死にはしない。


 しかしルータスの必殺の剣武であれば話は少し変わってくる。

 カッコよく叫んで入るが、つまるところ闘気を浴びせたタダの一撃である。

 剣士であれば基本中の基本であり物珍しさはない。

 だが魔王の血と魔剣レヴァノンを持つ者が放てばタダの一撃はその姿を変える――


「ひぎいぃぃぃ! べべっ!」


 フォクシーの左脇腹にヒットした一撃は大きく食い込む。

 ルータスの手には肋骨を砕く感触が生々しく伝わる。

 骨を砕かれ大きく食い込むもフォクシー自らの自重により食い込んだ剣は一気に重みを増す。


 その瞬間、ルータスは両手でレヴァノンを持ち変え一気に振り抜いた。

 フォクシーは投げた小石の様に大きく吹っ飛び3回バウンドした後止まった。

 強烈な一撃によりフォクシーの意識はなく小刻みに痙攣しながら泡を吹いている。


 ルータスは、ゆっくり辺りを見渡す。

 何故か不気味なほど静かである。

 それはルータスの凄まじい一撃によりコロシアム全体は静まり返っていたのだ。


「そこまで! 勝者、ルータス!」


 審判の声が大きく響くと、ルータスは倒れたフォクシー見下ろす

 なぜか自然と笑みがこぼれ、剣を空高くに掲げた。


 それと同時に沸き起こる大歓声――


 謎の参加者から期待の戦士へと変わった瞬間である。

 ルータスは観客に向けて大きく剣を振り勝利の空気を味わった。


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