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ブラッド・ZERO  作者:
第3章 カルバナ帝国編
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第86話  少女

「一体アイの奴はどこまで行ったんだ――」


 ブツブツ文句を言いながらスコールは町を当てもなく歩いていた。

 ルータスと別れた後、どこかに行ったアイを探していたのだ。


 アイなら変な奴に絡まれても問題ないだろうが一応女の子だしな……


 と、言うのは建前で本当は、1人で町を歩きたい気分だったのだ。


 全く知らない土地の知らない町を当てもなく歩く。

 全く意味のない時間が何かホッとするものなのだ。

 スコールは街角のベンチに腰を下ろす。


 沈みかけの太陽がオレンジに染め上げた街並みはとても美しかった。

 1日の終わりを告げる夕焼けと、忙しそうな人々の声と小さな女の子の泣き声――

 駄々をこねて親にでも怒られているのだろうか?


 ん? 小さな女の子の泣き声?


 町の中で女の子の泣き声の一つくらい聞こえる事もあるだろう。

 しかし、スコールにはその声に聞き覚えがあった。

 考えるよりも早く体がその声のする方へ走り出す。

 そして、その声の主を見た瞬間固まった――


「うげっ!」


 やっと喉から這い上がってきた言葉は、スコールからは想像し難い言葉である。

 紫色の大きなとんがり帽子を被った女の子――そう、アィーシャであった。

 しかし、どう見たって年齢が6歳位である。


 着ている装備がアイの物である事と、声が幼くなったとは言え顔も幼いだけのアイだ。

 魔法装備はその性質上持ち主の体格に合わせて伸縮する為サイズなどの概念はない。

 だいたい、魔王ディークが作ったイヤリングがある時点でほぼ確定なのだ。


 一体何が起こったと言うのだろうか?


 まずは状況を整理しないといけない。

 わんわん泣くアイと思われる女の子にスコールは、


「アイ、何があった? 俺が分かるか?」


 とりあえずアイ現状を把握しないといけない。

 アイは一瞬泣くのをやめると首を横に振った。


「お兄ちゃんは誰なの? アイのお兄ちゃんは何処にいるの? うえーん!」


 アイは、「お兄ちゃん何処ー」と叫びながら又大声で泣き始めた。

 どうやら、年齢と共にその時の記憶までも巻き戻っているようだ。

 だとすると、今のアイにはルータスと暮らしていた時の記憶しかない。


 これは、非常にめんどくさいことである。

 恐らく何者かの力によってアイは小さくされてしまったらしい。


 そんな魔法が存在するのだろうか?

 何より、元に戻るのだろうか?


 ここで自分が考えたところで答えは出てくるはずもない。

 とりあえず一度ディーク様に聞くしかないだろう。


 あ……


 よく考えて見れば記憶の無いアイを魔王城に連れて行ったら……

 魔王城は人型の方が珍しい。

 ほとんどがモグローンでありキマイラ、アンデッドだっている。

 それを子供に怖がるなと言う方が無理だ。


「あ――!」


 スコールは苛立ちを隠せずに前髪を書き上げる。

 クソ! このバカ兄弟は毎度毎度、よくこんなにトラブルの真ん中にいれるもんだ。

 しかし、このままではラチもあかない。なんとかアイの警戒を解かなくては。

 スコールは名一杯の笑顔で、


「アイ、俺はルータスの友達なんだ。ルータスの場所は俺が知ってる」


 アイはルータスと言う単語にピクリと反応を示し泣き止んだ。


「お兄ちゃんのお友達? お兄ちゃんは何処にいるの?」

「向こうに見えるお城の中だよ。今日はもう遅いから明日一緒に行こう」


 流石にこの時間から城に押しかけるわけには行かない。

 ここは一度、魔王城でディーク様に――


「いやー! お兄ちゃんの所にいくの! お兄ちゃ――ん!」


 スコールの提案は即却下されアイは激しく泣きじゃくる。


「分かった。分かった! とりあえず何とか聞いてみるから泣くな」


 子供の扱いなど知るはずもないスコールには泣かれるとどうしたらいいのか分からない。

 とりあえず今はルータスに頼るしかなかった。

 しかし夕方から押しかける訳にも行かないのでスコールは、イヤリングの力を使った。


「ルータス! 聞こえるか緊急事態だ。聞こえるなら早急に返事をしろ」


 しばしの沈黙の後、頭に直接声が響く。


 ――何だコー君、珍しく焦って何があったんだ?

「何がじゃねぇよ! アイが小さくなっちまったんだよ! 今から連れていくから城に話通しとけ!」

 ――小さくなった? 元々小さいじゃねえか、どう言う事なんだ?

「とりあえず見れば分かる。すぐ行くから待ってろ!」


 スコールはそう言うと一呼吸置いてアイに優しく話しかける。


「今からルータスの所に行くからね」

「うん」


 グスングスンとすすりながらアイはスコールの手を、握った。

 スコールは、アイの手を引いて城へ向かって歩き出す。

 日が落ちる前に何とかしなければまずい。


 ルータスであれば女王のお気に入りだし何とか城に話も通せるだろう。

 今のスコールができる最善の手はルータスの元へ連れていくしかないのだ。

 その後のことはその時の考えるしかない。


 城へ架かる橋まで来るとルータスの姿が目に入った。

 流石に城へ自分達が入るよりルータスが出て来ることのが容易だったようだ。

 ここでアイの声色が一気に変わった。


「お兄ちゃーん!」


 ルータス姿を見るや否やアイは走り出しルータスの胸に飛び込んだ。

 ルータスはアイを見るなり驚きの表情を見せる。


「なっ、緊急事態だろう」

「そ、そうだな」


 ルータスは、アイの両肩を優しく抱くと、


「アイ、一体何があった?」


 ルータスの問いにアイは不思議そうな顔をしている。


「無駄だルータス、アイは小さくなっただけじゃない。巻き戻った歳分の記憶までも失っている」

「これ、元に戻るのか?」

「分からん」


 ルータスは少し考え込むと何故かクスリと笑いアイの頭を撫でる。


「でもあれだな。こうやってもう一度小さかった甘えん坊のアイに会えるのも悪くないかな」

「おいおい、そんな呑気なこと言っている場合かよ!」

「大丈夫だって、ディーク様が何とかしてくれるって」


 確かにそうだが、何とかならなかったらどうすると言うのだろうか。

 ルータスはアイの目をじっと見つめると、


「いいかアイ、今からはここにいるスコールお兄ちゃんを僕だと思ってちゃんと言う事を聞くんだぞ。分かったか?」


 ルータスの言葉を遮るようにスコールは口を開く。


「ちょっと待て俺に子供のお守りなんかできる訳――」


 しかし次はそんなスコールの言葉をアイが遮り、


「いやー! お兄ちゃんと一緒にいるの!」


 アイは今にも泣き出しそうな声でルータスにしがみつく。


「ワガママ言うとダメだぞ。お兄ちゃんと約束だ。ちゃんとスコールお兄ちゃんの言う事を聞くってな」


「ううう……分かった……」


 しぶしぶアイは納得する。


「今回は貸しだからな!」

「おう! 頼んだぜコー君」


 よくよく考えれば、このまま城勤めのルータスに預ける事など出来るはずもない。

 結局自分が連れて帰るしかないのだ。

 スコールは頭が痛くなってきた。


 この先どうなるのだろうか……


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