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ブラッド・ZERO  作者:
第3章 カルバナ帝国編
85/119

第85話  霧3

 アイの左目が更に青く輝きその魔力を高めていく。

 スパイクはアイに向かい嬉しそうに口を開く。


「ハァッハッハー! 良いじゃぇねか! その殺気! そういう凶悪な女が俺は好きだぜ?」


 スパイクは背中の大剣を抜き構えると闘気を高めていく――

 スコールが以前戦った時とは比べ物にならない邪悪なオーラが全身を包みこむ。

 

 まず先制を打ったのはアイだった。


 右手に持った杖を振りかざすと長い炎の帯を作り出しスパイクに放った。


 本来であればそれは“フレイム”と呼ぶべき魔法であろう。

 エルドナ基準でいえば基礎魔法であるファイアーを持続的に手から噴出させた魔法だ。

 つまりファイアーの上位に当たる魔法。


 しかしそれはあくまでエルドナ基準での話――

 

 アイの紅魔結晶の杖から放たれた“フレイム”らしきものは正に召喚された炎の龍だ。

 重魔法で強化された炎は巨大にうねり凄まじい熱を発している。

 

 スパイクに目掛け一直線に飛んでいく――


「フン!」


 スパイクは鼻を鳴らすと高く飛び上がり簡単に回避する。

 たが発動された魔法は意思を持ったかのようにスパイクを追尾し上昇し始めた。


 スパイクは回避不能、もしくは回避すれば不利になると判断したのか大剣イプリクスに闘気を送り込む。

 イプリクスは魔王さながらの凶悪な暗黒オーラに包まれその凶悪さをます。

 そしてスパイクは両手でイプリクスを大きく振りかざすと一気にダッシュし振り下ろした。


 アイの放った業火はイプリクスにとらえられ簡単に斬り裂かれる。

 いや、簡単ではない。アイの放った魔法の威力は本物だ。

 それは周りに伝わった凄まじい熱量がそれを物語っているからだ。


 ただ純粋にスパイクの繰り出した一撃がそれを大きく上回っていただけである。

 スパイクの攻撃は“フレイム”を斬り裂くだけにとどまらない。

 そのままアイに向かって攻撃を仕掛ける。


 しかしその時アイの左手は大きく輝いていた。


 ――そう、アイは詠唱していたのだ。

 魔法使い威力は詠唱時間に比例する。


 魔法使いの戦いとは時間との戦いであり、如何に詠唱時間を作れるかである。

 アイは魔王城での日々、アビスでの修行の中でその方法を熟知していた。


 だからこそ火力の高い魔法使いは後衛にてその力を発揮するのだ。

 しかしそれは裏を返せばそっくりそのまま弱点にもなりうる。


 スパイクの狙いは「如何に時間を作らせない」か、なのだ。


 だからこそスパイクはすぐに攻撃に移る――

 

 スパイクの一撃は炎を切り裂いてもなお衰えることはなくその勢いのままアイに振り下ろされる。

 アイはその一撃に合わせ左手に込めた魔力で迎え撃った。


 剣と手が重なる瞬間、お互いのエネルギーが一気に膨れ上がり破裂する。

 大きな爆発と共に巻き上がる黒煙を中心に二人は吹っ飛んだ。


 アイは直ぐに体制を整え空高く浮かび目の前に魔法陣を展開する。

 そして激しい複数の魔法攻撃を繰り出した。

 高エネルギー体の魔力の玉を雨のように打ち出す。


「ハハハハ! 良いぞお前! 最高じゃねぇか!」


 スパイクは歓喜の声を上げる。

 他から見れば狂人としか思えない叫び……心底戦いを楽しんでいる叫びである。


 スコールの頭上では二人の戦闘は一気に激化していく――


 まずい――

 

 確かにこの状況でスパイクに対応できるのはアイだけだ。

 しかし状況が最悪だ。

 アイは魔法使い、戦士との相性は最悪で1対1には不利。

 

 目の前には霧、後ろにはスパイクといった状況では動くことができない。

 自慢のチームワークも集まれなければ意味はない。

 今動けるのは自分しかいない。


 ならどうする?


 ルータスに加勢するか? 


 いやだめだ。ライネルはそうさせまいと立ちはだかっているのだ。

 簡単に突破出来るとは思えない。


 ならアイはどうだ?


 それは敵に背を向けることになる。

 無防備な所を攻撃されるかライネルがルベルに加勢するのがオチだろう。

 そうなればルータスが危ない。


 この状況で一番いいのは敵がこれを好機とみなし逃げてくれることだが――


 それはそれでみすみす霧を逃がすことになる。


 個人的にはスパイクを拘束したいのだが……

 

 必死で考えるスコールだが、その間にもどんどん状況は悪化していく――


「あー! もう考えるのはやめだ!」


 スコールがそう叫ぶとライネルは警戒し腰を深く落とした。

 スコールはじわりじわりと後ずさり距離を取る。

 そして一気に振り返るとアイに向かってダッシュした。


 こういった場合、考えたところで正しい答えなど出るはずもない。

 なら後は感覚や気分といったモノに任せるしか無いのだ。


 だがスコールも全く考えがない訳ではなかった。

 まず、ライネルに背中を狙われる可能性は低い。

 何故なら背中を向けるということはアイに加勢する事になるため、関係のない戦闘に巻き込まれたくないだろう。


 後、何よりルータスなら2対1でも死にはしないだろうと思ったからだ。

 スコールは“ウォーラ”を発動させ急上昇する。

 後ろに敵の気配はない。


 やはりルータスを仕留める気らしい。

 今はルータスを信じ前に進むしか無い。

 

 すると、スパイクがアイの魔法を大きく斬り裂くのが目に入った。


 それを好機とみたスコールは魔力を開放し一気に高めていく。

 高めた魔力は稲妻へと変化し刀に伝わり大きな力へと変わる。

 強力な雷属性を帯びた刀は青白く輝き空気を斬り裂く音が響く――


 スパイクの後ろをとったスコールは必殺の剣を背中に叩き込んだ。


「あまいぜ!」


 ――が、スパイクはいとも簡単に大剣を振り回しガードした。

 

「甘いのはお前だ!」 

  

 スコールがまとった稲妻は重なった剣から剣へと流れ込みスパイクを感電させる。

 

「ぐわぁ! お、お前その剣はいったい――」


 スパイクが気づいた時にはスコールはすでに次の行動に移っていた。

 思いっきり足を振り上げスパイクの頭に踵落としをブチ込んだ。


 スパイクは吹っ飛び地面に激しく叩きつけられ砂煙を巻き上げた。

 

「アイ行け!」

「任せて! “アイススパイク”」  


 アイは杖を振り上げると魔法は即座に発動され巨大な氷の刃が轟音を上げた。

 地面との衝突によって巻あがった砂煙は重力により次第に収まっていく。


 ――無傷


 煙の中から何食わぬ顔で現れたスパイクは何故か嬉しそうに、


「今は2対1は厳しいかな。ちょっとびびっちまったぜ」


 魔法は確実にヒットしたはずだ。

 しかしスパイクは服こそ汚れているものの傷一つ無い。

 

「まぁいいか、今日はいい情報得たしな」


 スパイクはそう言うと、一枚の紙を取り出し軽く投げた。

 紙は手から離れた瞬間に燃え尽きる。

 これは以前にも使っていた転移の魔術だ。

 

「逃げる気か!」

「おいおい、人聞き悪いな。俺達の目的はお前達を殺す事だ。いずれ殺し合うことになる。その時までしっかり修行しておくんだな」


 魔術は発動されスパイクの姿は光りに包まれ消え去った。

 スコールはすぐにルータスの方に振り返るとそこには霧の姿は見えない。


 視線があったルータスは、「逃げられた」とだけつぶやいた。

   

「そんな顔するな。収穫がないわけじゃない」


 スコールは先ほど脅しに使った少年の元に歩み寄る。

 まだ息があり胸は大きく波打ち必死で空気を吸おうとしている。

 指先は小刻みに震えもう命の炎は燃え尽きそうだ。

 そんな少年に対してスコールは哀れむような声で、


「ルベルはお前を見捨てて逃げてしまったぞ?」

「――――」


 そんなスコールの声に少年は何も反応を示さない。

 さらにスコールは続ける。


「そんなルベルの肩を持つ必要はないだろう? そうすれば助けてやるぞ」

「――――」


 全く何かを話す気はなく、少年瞳はじっと空を見つめたまま動かない。

 しかし少年の瞳から一筋の小さな涙が零れ落ちる。

 今にも消えそうな命の火を必死に燃やし小さく口が動いた。


「先生、ありがとう……」


 それは儚い消え入りそうな声であったが確かにスコール達の耳には届き、それと同時に少年の命の火は消え去った。

 スコールは開いたままの瞳をそっと閉じると、


「次の行動を、開始するぞ。まずは3人の死体をカルバナに持ち帰り調べるぞ」


 スコールは浮いているアイに目で合図するとアイはスコールの横に降りて来る。

 アイは座っていた杖を手に取り軽く降ると死体が浮かび上がった。

 そしてなにもない空間に手をかざすと一冊の本が出てくる。そう、いつもディークが使っている時空の書である。


 アイは時空の書を開くと3人の死体は書中に吸い込まれ消え去った。

 アイはスコールに敬礼をしながら口を開く。


「ほい! 完了!」

「よし、ついでに近くに霧に関係する何かがないか調べながら帰るぞ」

「え? ゲートで帰ろうぜ、僕は飛べないんだよ」


 スコールの提案にルータスは意を唱えた。


「木の上飛び移って来ればいいだろ。何とかしろよ」

「分かった分かった。せっかく外に出られたんだ外を満喫するか」

「よし、では行動を開始する!」


 スコールの合図でアイは杖に乗り一気に飛び上がり、ルータスもアイに続いた。

 だが、スコールは振り返りマヤカに視線を送った。

 一瞬2人の視線は重なるもスコールは何も言わずに飛び立ち森の奥へと消えていった。





 夕日が空を赤く染め上げる。

 カルバナの街は一日の終りを告げてどこも忙しそうだ。

 そんな人々を眺めながらアイは街を散策していた。


 霧との戦闘後に周辺を調べながら帰ってきたが特に有力な手がかりは発見できなかった。

 スコールとルータスはカルバナに戻ると直ぐにバーへと直行してしまった。


 いつも仲が悪いのにこんな時だけは妙に仲がいいのは不思議である。

 アイもバーに誘われたが、どうにも行く気がしなかった。

 嫌だったわけではない。気が乗らなかっただけなのだ。


 あのスパイクと言う男を見てからである。

 やはり復讐の対象に出会うと憎しみを隠しきれない。


「エリオット君、次は絶対仇を討ってあげるから……アイが討ってあげるから……」


 小さくつぶやいた言葉は誰に言ったものでもない。

 アイ自身に言い聞かせる為だ。

 そしてアイは小さく笑い出す。


 アイは嬉しかった。今なお冷める事のないこの憎しみが――

 アイにとってこの憎しみが冷めてしまうことが一番怖いことである。

 今日あらためてそれを確認できたことが嬉しかったのだ。

 

 そんな事を考えているといつの間にか少し遠くまできてしまった。

 ルータス達のバーからまっすぐ歩いてきただけなので帰るのは容易ではある。

  

「そろそろ帰るか……」


 しかしその時、アイは一人の女性に目が止まった。

 その女性は一言で表せば魔女である。

 

 真っ黒のローブに真っ直ぐなロングで金髪の女性で頭には大きなトンガリ帽子をかぶっている。

 アイと同じ様な服装であるが真っ黒である分、向こうの方が魔女っぽい。

 アイは吸い寄せられるようにその女性に近づく。


「あらあらー。可愛い魔女さんね」


 近づいてきたアイに向かって女性から話しかけてきた。

 歳は25歳位だろうか? 

 スレンダーな脚に透き通る様な真っ白の肌、大きな胸のヴァンパイアだ。


「ちょっと見かけて、素敵な女性だなぁと……」


 その女性は正にアイの理想とする姿だったのだ。

 大人のオーラがにじみ出ている。

 何より同じ魔女だと親近感が湧いた。


「可愛い魔女さん。それは男の人が言うセリフでしょ?」


 そういう女性も満更でもない様子で長い髪をかき上げる。

 アイは少し恥ずかしそうにぺったんこの胸を押さえながら、

 

「アイも大きくなったらそんな体になれるのかな?」

「そうね! 私程のナイスバディは無理かもしれないけど、今の内から自分を磨いておけばきっといいバディになれるわ。良い体操を教えてあげる」

  

 女性は熱くナイスバディの作り方体操を語りだしアイもそれを真剣に聞いた。

 時間にして十数分だろうか? 

 二人は熱く語り合う仲で突然女性が光りだした。


 まばゆい光に全体が包まれ強い魔力を発する。

 女性は両手を交互に見つめながら、


「え? 嘘……嫌……これも駄目なの? 嫌! 嫌――」


 突然叫びだした女性の声が急に変わり始める。

 色気のある大人からアイと同じ様な子供の声に変化していく――


 それと同時に光はどんどん小さくなっていき、それに合わせて女性の体も縮んで行く――

 とうとうアイと同じ様な歳の子供となった。

 女性は頭を抱え意味不明な言葉を叫びふさぎ込む。

 


 アイは呆気にとられ声が出ない。


 先の女性は時間が巻き戻ったかの様に子供に変化したのだ。

 大きかった胸はぺったんこになり見る影もない。

 はたから見ればお友達の魔女にしか見えないだろう。

  

 しばしの沈黙が続き、女性はゆっくりと起き上がる。


「私の姿を見たな!」


「え?」

 

 アイの視界に移ったのは燃えるような青い瞳だった。

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