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ブラッド・ZERO  作者:
第3章 カルバナ帝国編
84/119

第84話  霧2

 霧と思われる集団の前に降り立ったスコール達は辺りを見渡す。

 エルドナの部隊は壊滅的な状態で血と肉の混じり合った死臭が立ち込めている。

 正に絶体絶命状態だ。

 

 何だかんだ言って探すのにかなり手間取ってしまった。

 スコールは敵のリーダーらしき男に視線を移す。

 

「間違いないな。手配書に書いてあった顔だ」

「流石コー君、読みはばっちりだな」


 早く戦いたいのか嬉しそうに答えるルータス。

 しかしエルドナの部隊をこうもあっさり壊滅させた組織だ。甘く見ていると自分達が周りの死体の一部になってしまうだろう。


「一応聞いておく、お前はルベル・シークか?」


 スコール問いに盗賊団のリーダーはニヤリとしながら、


「だったらどうするんだ?」


 スコールは腰から剣を引き抜きルベルを指す。


「恨みはないが仕事の都合だ。死んでもらう」


 ルベルはルータスに一瞬視線を送り、


「その紋章――カルバナ帝国の差し金か?」

「さぁな。俺達も色々あるのでな」

「ちょっと待て! コー君! リーダーは僕だぞ! 1人だけいい格好するな!」


 スコールとルベルの会話に苛立ちを隠せない様子のルータスが割って貼って来くる。


「あー分かった。分かった。だったら後はリーダー様に任せる」


 この男だけは知れば知るほどガキになっていく……


 スコールは反省する――


 昔はルータスを子供の姿に化けた大人かもしれない―― と、疑ったこともあった自分を殴り飛ばして教えてやりたい。

 訂正しよう。少年の皮を被った幼児であると。

 

 スコールは面倒くさそうに手を払いながらそう言うと、今度はルータスが自信満々に、


「聞いて驚け! 僕達は魔王軍のルータス隊――」


 スコールはルータスの言葉を即座に遮る。


「この馬鹿! 何でいつもこっちからペラペラ情報を話すんだ! 少しは頭使え!」

「うるさい! ちょっと間違えただけだ!」


 何をどう間違えたのか気になる所ではあるが、ルータスに関して一々つっこんでいてはキリがない。


「ほう……うわさの魔王軍か……と言うことはカルバナと……」


 ルベルは難しい顔をしながら考え込んでいる。

 ルータスはコホンとひとつ咳払いをして仕切り直すと、


「とにかく、姫様の命によりお前達を倒す!」

「殺すの間違いじゃないのか?」

「どっちでも僕達にとって同じ事だ」


 ルータスはそう言うと剣を引き抜く。

 ルベルはそんなルータスを見つめながら、


「お前はハーフだな? なぜカルバナに肩入れする? 本来お前は俺達側じゃないのか?」

「それを言うならお前だって純血だろ? こちら側じゃないのかよ。お前達こそ何が目的だ? 何故カルバナを襲う? これがお前達の正義なのか?」


 ルータスの問いにルベルの表情は一気に変わる。

 それは深い憎しみだ。

 それを見るだけで伝わるほどの深い恨み――


「そうだ! これが俺達の信じる正義だ。外から来たお前達が知った風な口を聞くな」


 ルベルの鋭い眼光は凄まじい迫力があった。

 以前のスコールなら恐怖で立っていられないほどだろう。

 

 しかしルータスもそんな殺気を感じ取ったのか一気に雰囲気が変わった。

 お互いの殺気がぶつかり合い何時戦いが始まってもおかしくはない状況だ。

 ルータスはスコールに振り向くと得意げな表情で、


「スコール君、ルベル・シークは強敵だ。ここはリーダーである僕に任せてくれたまえ!」


 この緊迫した状態で振り返るなよ……と、スコールは呆れながら、


「へいへい、分かった分かった」


 適当に返事を返すスコール。

 ルータスは自信満々の表情でルベルを指す。


「と……言うことだ。ルベル・シーク、お前は僕がやる!」


 ルータスはそう言うとニヤリと笑った。

 そして左目は赤く輝き出し、左半身には黒いアザの様な模様が浮かび上がった。

 スコールにとっては見慣れた光景だ。


 だが、エルドナ軍のいる方向からは変な叫び声が聞こえる。

 スコールは振り向きこそしないがその声の主がマヤカであることに気づいていた。 


 ルータスから溢れ出る殺気がマヤカを恐怖させたのだ。


 そう、以前の自分のように……


 だがルベルはルータスを見るなり何故か笑い出した。


「フフフ……まさかとは思っていたが、どうやら本当の魔王軍らしいな。これは貴重な情報だ。お前達、敵は強い! 心してかかれ!」


 ルベルの言葉を合図に一斉に敵は動きだした。

 ルベル以外の六人が一斉に生き残ったエルドナ軍に向かっていく。


 恐らくエルドナの部隊であればすぐに排除できると判断し確実に頭数を減らしにかかるようだ。

 エルドナ軍にとっては絶体絶命である。

 だがそれを守るかのようにスコールはエルドナ軍の前に降り立つ。


「アイ! 俺達はこいつらを片付けるぞ!」


 スコールは上空に浮かんでいるアイに向かって叫ぶ。


「はいよー!」


 アイだけは緊張感のない声をあげている。

 しかしそんな声とは裏腹に杖を大きくかかげると、強い魔力が一気に集まり大きな火の玉を作り出した。

 無造作に振り下ろされた杖からは凶悪な炎の玉が現れ敵の集団に向かって放たれる。

 当たれば一瞬で灰になりそうな炎だが構えている敵の前で真っ直ぐ飛ぶだけの魔法は攻撃の意味をなさない。


 敵は八方に飛び簡単に回避する。

 スコールはニヤリと笑みを浮かべ刀を構えた。


 そう、先ほどのアイの魔法は敵を散らすための策――

 スコールの身体中から闘気が溢れ出す。


「スピードは風だな――」


 スコールは小さく呟くとスコールを中心に風が一気に集まりだした。

 次の瞬間――

 スコールは一番近くの短剣を持つ敵に向かって一気に詰め寄った。

 その速さは豪速だった。


 一瞬で敵の前へと距離を詰め、その速度を乗せた一撃を放つ。

 敵は何とかガードするも耳を塞ぎたくなるような甲高い金属音と共にガードは弾かれ、大きく右へ振り抜かれた。

 だがスコールの一撃はまるで時が止まったかの様に軌道を止め一瞬のうちに次は左へと斬り返した。

 凄まじい速さの二連撃である。


 ガードを弾かれた敵はその一撃を交わすことはできずに大きく胸を斬り裂かれ吹っ飛んだ。

 しかし、そのスキを他の敵も見逃さない。

 1人の犠牲を払って取ったスコールの背中を敵は容赦なく斬りかかる。

 だが、スコールはくるりと回ると同時に刀に激しい闘気を込めた一撃を横薙ぎに払った。


「そ、そんな……」


 その一撃は正に一閃、敵のか細い声と共に剣諸共切り裂き血の雨を降らせた。


「フフフ……あの親父、自称世界一なだけはあるな。よく斬れるぜ」


 スコールが満足気に血まみれの刀を眺め、敵に向かって剣を構えると静かに口を開く。


「次に斬られたい奴は前に出ろ」


 スコールが放った言葉には絶対の自信が込められていた。

 すると敵は一箇所に集まりその中から1人の男が前に出くる。


 年は他の少年達に比べれば年上で首の大きな傷跡が印象的だ。

 眉まで垂らした前髪の隙間から放った鋭い眼光がスコール気持ちを高ぶらせる。

 そしてスコールの前に立つと剣を突き出し、


「これ以上、仲間の血を流させるわけにはいかない。ここは俺がやる」


 スコールはそれに答えるように、


「ふ……やっとまともに話せそうな奴が出てきたようだ」


 スコールは敵と対峙してから少年達の表情が殆どの変化しない事にかなり違和感を覚えていた。

 アドニスに聞いてはいたものの実際見ると何とも気持ちが悪かった。


「俺の名はライネル……そうだな……霧の副リーダーといったところか」


 ニヤリと笑ったその表情からはスコール同様の自信と誇りに満ちていた。

 ライネルは後ろの三人に目配せをすると小さく頷き何か合図を送る。

 そして再び睨み合い何時仕掛けるかタイミングを図っていると、大きな音が響いた――


 それはルータスとルベルだった。

 2人は凄まじい剣を撃ち合いを繰り広げ戦いはどんどん激しさを増して行く――が……


「ちっ!」


 スコールのは小さく舌打ちをした。

 思った通りでは合ったがルータスが押されている。

 恐らくこのままやり続ければ負けるだろう。


 敵はオーガ、純血の中では一番身体能力に優れている種族である。

 同じく身体能力が武器のルータスとは相性が悪かった。


 国に名を轟かせている手練れなら尚更である。

 だがスコールは知っていた。

 個々の能力だけが戦闘の勝敗の決定打にはなり得ないことを。


 確かにルベルは強い。

 1人で倒せないなら2人で倒せばいいだけの話である。

 スコール達はアビスで鍛えたチームワークには絶対の自信があったのだ。


 チームワークというものは相性や性格、お互いの実力や経験などの複数の条件が組み合わさり初めて発揮される。

 だからこそその力はうまく噛み合えば何倍にもなる。

 格上の相手だって倒せるのだ。


「行かせないよ?」


 ライネルは目の前に立ち塞がる。

 この男も相当の手練れと見てまず間違いない。


 ここは――


 スコールは不敵な笑みを浮かべると、最初に切り裂いた少年に歩み寄る。

 大きく切り裂かれた胸の傷は致命傷であったがわずかに息があった。

 スコールは瀕死の少年の首根っこを掴むと持ち上げた。


「こいつまだ息があるぜ? どうする?」


 スコールの脅すような口調にライネル表情一つ変えず。


「だからどうした? 殺すなら殺せばいい」


 とだけ言い放った。

 普通の者なら酷く冷たい言い方と思うだろう。しかしスコールはそう思わなかった。

 ライネルの言葉からは仲間との絶対的な信頼と覚悟を感じ取っていたからである。


 そうであれば人質は何の意味もなさない。

 スコールは掴んでいた手を離すと少年は力なく崩れ落ちる。


「なら強行突破しか無いな」


 スコールは刀を構え腰を深く落とす。

 それに合わせライネルも構えると、


「出来るならな!」


 お互いがにらみ合い一歩も動かない。

 緊迫した時だけが静かに流れる中でその静寂を破ったのは思いもよらない男だった。


「ふーん。面白いものを見れたぜ」


 急に現れた男の声にそこに居た全員が反応する。

 両脇にある深い森の一木――その枝の上に男は居た。

 だがスコールは声だけでその男が誰か分かっていたのだ。

 

「お前は……」


 忘れる事などできない。出来るはずがない。

 エリオットの仇の一人である男――スパイク・シーベルトである。


 スパイクが視界に入るとスコールの鼓動は一気に高ぶる。

 怒りを殺意が体中から吹き上げるような感覚に包まれる。

 

「久しぶりだなスコール。会いたかったぜ。お前にやられた傷がうずくたびにな!」

 

 スパイクは以前とは比べ物にならないパワーアップをはたしているとスコールは確信した。

 見た目こそ変わらないが奴に纏うオーラがそれを物語っているからだ。

 反応を見る限りスパイクと霧とは繋がりはなさそうである。


「くっ!」


 スコールは歯を噛みしめる。

 目の前には霧、そして新たにスパイクの登場だ。動くに動けない。

 しかしそれは霧も同じことである為、お互いが動けない状況である。


 だがそんな中、スパイクの前に大きな火柱が巻き起こった。

 温まった空気が一気に膨れ溢れ出し風を巻き起こす。


 そしてその風とともに一瞬にして火柱は消え失せその中から現れたのはなんとアイだった。

 アイは凄まじい殺気をまといスパイクの前に立ちはだかった。


 その表情からは先程とは打って変わって恐ろしく冷たい笑みを浮かべている。

 アイは左手を横に払うと、燃え盛る業火がアイに巻き付くように纏う。


「アハハハ……アイも会いたかった。一週間かけて殺してあげる!」

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