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ブラッド・ZERO  作者:
第3章 カルバナ帝国編
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第82話  出発

 アドニス将軍と会った次の日、スコール達は予定通りルータスを迎えに来ていた。

 日中は暑いカルバナ帝国も早朝は過ごしやすい。

 スコールとアイは少しの清々しい朝を満喫しながら城へと入る。


 城の中はまだ日の出だと言うのに慌ただしい。

 行き交う人を眺めながら目的の部屋へと急ぐ。


 すぐに部屋の前に到着すると何やら騒がしい様子だ。

 スコールは構わず部屋に入るとルータスが何故かユーコリアスを背負っていた。

 呆気に取られるスコールに気づいた2人は驚きすぐに離れ、ユーコリアスはわざとらしく咳払いをした。


「まぁ! アレだ、足が最近悪くてな」

「はぁ……」

「はぁ……」


 ルータスとスコールは合わせたかのようにため息をつくと、ユーコリアスはルータスににじり寄る。


「はぁ、じゃないわ! 話は戻るけど帰って来たら直ぐに我の部屋の前で待っていろ!」


 何故女王がこんな所に居るのか分からず。スコール達は呆然と立ち尽くすしかない。


「分かったなルータス。帰って来たら我の部屋の前で待っていろ。今日は大事な話があるのだ!」

「又ですか……了解であります」 


 ルータスは慣れた様子で返事をしている。


「じゃぁ我は出かけて来るぞ。 ん?」


 何かに気づいたユーコリアスの視線の先はルータスが着ている服の襟だった。

 手慣れた様子で襟を奇麗に直す。


「私の騎士なんだからどんなときだって服装くらいきっちりしてよね。そのほうがここでは自然だから――じゃぁね」


 ユーコリアスはルータスの胸を軽く2回叩くと手を振って部屋から出ていった。

 ユーコリアスが開けたドアが静かに閉まる音がだけ響く。

 一連のやり取りを見ていたスコールとアイはただ黙ってルータスを見つめしばしの沈黙が流れる。


「お兄ちゃん……アイ達が外で働いている間に女王様とそうやってラブラブしてたの?」

「な! 何いってんだよバカ」

「だって……ね……コー君」

 

 チラリとアイがスコールに視線を向ける。

 スコールは「こっちに話題を降るな!」と目配せするとアイはゲラゲラ笑いだし、


「だってアイ達居たのに女王様、視界に入って無い様子だったしね。お兄ちゃんしか見えてなかった!」

「そんなわけ無いだろ。向こうは女王様だぜこっちも色々大変なんだ。ところで今日は何か分かったのか?」


 一瞬呆気にとられたがすぐにスコールは切り替え本題に入る。


「ちょっと気になることがあってな」


 そう言ってスコールは一枚の紙をルータスに渡した。

  

「これは客人リストだよな?」


 そう、これは昨日にアドニスからもらった客人リストである。

   

「今日の訪問者の一覧を見てみろ」


 ルータスの目が文字を追っていきピタリと止まった。


「マヤカ・ルンベル……これってまさか?」

「あぁ」


 これは間違いなくマヤカである。

 恐らくエルドナの使者の一員にでも選ばれたのだろう。

 マヤカは城勤めに選ばれたいわばエリートだ。その可能性は十分にある。


「それがどうかしたのか?」

「考えすぎかもしれんが、霧が狙うような気がしてな」

「本当かよ!」 

「エルドナは今日が二回目の訪問だ。それは一度断られた同盟の交渉に来るためだ。恐らく何か手みあげを持ってな」

 

 手みあげとはいっても国対国が意味するものは、高価な贈り物のことだ。

 今回のエルドナは前回とは決定的に違うことがある。

 それは今回は、お願いをしに来るからだ。

 ルータスもそれは分かっている様子で大きく頷きすコールは更に続ける。


「霧の主な活動は金品の強奪だ。それをするには他国の者が一番都合がいいだろう。あくまで可能性の話だが――」

  

 実際、可能性は低いかもしれない。

 だがもし――


「そうだな。もしマヤカさんに何かあったら僕も嫌だしな。それだけでも行く勝ちはあるぜ」

「うんうん。アイもマヤカさんと会いたいし」


 懐かしそうに話す二人にスコールが割って入る。


「それはやめておけ」


 スコールの真剣な言葉にルータスとアイは同時に振り向く。


「なんでだよ。いいじゃん久々なんだし」

「あまり、他の組織の者と馴れ合うな。後で後悔するぞ」

「しねぇよ! コー君は何いってんだ」


 ルータスはスコールの言葉の意味がわからずに不満をあらわにする。

 しかしスコールは声を低くして口を開く。


「だったらお前、もしマヤカが敵に回ったら躊躇わず斬れるのか?」


 スコールの問にルータスは驚き言葉が返せない。

 今はカルバナが同盟国でありエルドナではない。


 おまけにエルドナが結びたい同盟は対魔王軍のものである。

 今後、エルドナとはどうなるか全く分からない現状で、可能性は十分にあると言っていいだろう。

 なら、マヤカも魔王軍に勧誘する?


 否――スコールの様に母国に全てがある者がそれをなげうってこちらに来る確率は低い。

 だからこそスコールは覚悟を決めていたのだ。


「俺は斬れる――」


 嘘偽りのないスコールの覚悟にルータスはゴクリと唾を飲み込む。

  

「分かった。コー君の言う通りにするよ」


 アイも無言で頷いた。


「ではすぐに出発しよう」 

 

 



 ここはエルドナとカルバナの国境付近である。

 もっと正確に言うのであればカルバナ帝国の領地に入ってすぐのところだ。


 太陽が真上を通過する頃、ここを通過する集団があった。

 馬二頭で引く大きな馬車二台を中心に挟み、前後10名ずつ配備され総勢30人ほどの集団だ。

 馬車は汚れ一つない純白で大きなエルドナの紋章が刻まれている。

 そう、これはエルドナの使者一行なのだ。


 そしてその中にマヤカの姿もあった――


「初任務がいきなりの国外とはマヤカも運が悪いな」


 そうマヤカに話しかけたのは部隊長だ。

 今回は勉強の意味合いも含め使者としての任務に選ばれたのである。


「そんなことないですよ。初めての国外でワクワクしてます」


 マヤカはそう答えたものの本当はエルドナを出てから緊張の糸が切れることはなかった。

 国を出る自体が初めてのことは勿論だが、それ以上に何か不測の事態が起こり戦闘にならないかが心配だったのだ。

 国の外は危険である。これは誰だって知っていることだ。

 野盗やモンスターなど例を上げればキリがない。


 しかもカルバナに献上する為の貴重品の数々を馬車に積んでいるのだ。狙われる可能性は十分あるだろう。

 もし何かが起こって戦闘に入った場合、マヤカは自分が足を引っ張ることが怖かった。

 マヤカは訓練以外の実戦経験は無いに等しため隊列では比較的安全な真ん中後方の位置にいる。


 これはマヤカがヒーラーということもあった。

 仮に戦闘に入った場合集団戦では最初にヒーラーを倒すのが鉄則である。その為ヒーラーは危険なところに配置されることはない。

 しかしその分責任も重大である。


 ヒーラーはその特性から死イコール全滅となり、自分だけの問題ではないからだ。

 そして30名からなる中隊は10名ずつの小隊に開けられておりその中の一つをマヤカが担当していた。

 勿論あと二つの小隊は先輩達である。


 マヤカはぼんやりと先の先輩達を見つめながら、今回は上手く行くといいな――と呟いた。

 エルドナは当初の目的であった対魔王軍対策であるカルバナ帝国との同盟が思う様に進まずに頭を悩ませていた。


 一度目の外交ではカルバナ側は「同盟を組むにあたってこちらにメリットは無い」との理由で門前払いされてしまったのだ。

 これはエルドナにとって不足の事態と言っていいだろう。

 エルドナは同じ戦争を経験した事もあり、カルバナ側もエルドナと同盟を組みたがっていると思っていたからである。

 

 フランクア王国と魔王軍の脅威を考えれば今は何としてでもカルバナ帝国の協力が必要であるからだ。

 実際少し前まで学園にいたマヤカにとって他の者ほど危機感がある訳でもなかった。

 

 マヤカは小さなため息を吐く。


 ――早く帰りたいな。帰ってゆっくりお風呂に入って新しい服でも買おうかな。

 

 などと考え事をしながら足を進める。

 日の出から少したった今、この地方では既に太陽がジリジリ照り付ける。


 次はいつ休憩をするのかな? 暑いな――


 マヤカがそう思った。瞬間、心を読み取ったかの様に部隊はいきなり歩みを止めていた。

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