第75話 最強の騎士誕生?2
ルータス・ブラッド(騎士)
仲間から見放され1人騎士となった。それは正に孤独――
ケビンに連れられ何かの準備室と思われる部屋で今後の話を聞いているところである。
周りにはメイドと思われる女性が部屋の壁に沿って並んでいて、何やら色んな物を持っている。
同僚となってしまったケビン・ラスファルの説明を聞けば聞くほど頭が痛くなってきた。
まずユーコリアス女王の騎士となる期間は不明である。
一応、少しの間と言ってはいるが、そう言った曖昧な答えほど怖いものはない。
そして騎士はユーコリアス王女の許可なく城を出ては行けない。
これは女王専属の騎士であるためらしい。
つまりルータスは当分魔王城に帰れないということだ。
もちろん宿泊はカルバナ城であり食事から何から全て城が手配してくれていて受け入れ準備は万端である。
どうやら城に初めて来た時の話し合いで既に決まっていたらしい。
ルータスは重いため息を吐いた。
不安だ――
不安要素しかない。いきなり王女専属の騎士と言われてもどうすればいいのか分からなかった。
元々は貧乏なハーフであり、魔王軍でも好き勝手やっている自分が何をすればいいのだろうか?
「――と言う訳でこれからよろしくたのむよ。何か質問は?」
どうやらケビンの説明が終わったらしい。ぶっちゃけ途中からほとんど聞いていなかった。
「いえ……」
正に分からないことが分からない状態であるため質問など出来るはずがなかった。
ルータスの気持を察したのか、
「変なことになってすまない。本当はコロシアムが終わってからの予定だったんだが、姫様がどうしてもということで――」
そう言って頭を下げるケビンにルータスは慌てふためきながら、
「いえ、いえ! そんな大丈夫です。少しびっくりしただけです」
「そう言ってくれるとありがたい」
「ところで僕はこれから何をすれば?」
「早速だがこれから姫様の元に行く。後は姫様の命にしたがってくれ」
そしてケビンは一人のメイドに「後は頼んだ」とだけ言うとメイド達は動き出しルータスを取り囲んだ。
メイドの一人が深い一礼をして、
「ルータス様、私はこの城のメイド長を任されておりますベール・マッカと言います。以後お見知りおきを」
ベールは周りの若いメイドよりも少し年上で40代位の女性だ。
シワひとつない服装身を包み変なオーラがある。
魔王城のメイドとは違い本物のメイドはすべてが違っていた。
「よ、よろしくです」
ベールは指をパチンと鳴らす。
「では早速ですが姫様の御前に出る準備をさせていただきます」
するとメイド達はいきなりルータスの服を脱がし始めた。
「な、な、何を!」
いきなり服を脱がされ慌てふためくルータスであったが、メイド達は何食わぬ顔で作業を強行する。
「姫様専属の騎士として相応の身だしなみをしてもらわないと我が国の恥となります。まずはその体を洗浄し髪も整えなければなりません」
そう言うとルータスはパンツも脱がされる。
「ちょ! 自分でやるから! やめてー!」
ルータスの叫びは虚しく響きくもメイド達はもくもくと作業に取り掛かる。
「やめません! 例え姫様が許してもこの私、ベール・マッカの目がある内は勝手なことはさせません!」
抵抗も虚しく素っ裸になったルータスはメイド達に運ばれていった――
◇
ルータスがケビンに連れていかれた後――
スコールとアイは城の外にいた。
スコールはうんざりした声で、
「面倒なことになったな」
毎度毎度よくもここまでトラブルの真ん中に居られるものだ。
ルータス班なのにリーダー不在になってしまっては笑えない。しかし女王はディーク様との話し合いで決まったと言っていた。
上同士が決めたことであれば従う以外に選択肢はない。
「そう? なんだか面白いことになってきたね」
スコールとは反対にアイは楽しそうだ。
「とりあえず、ディーク様に報告に行こう。今後についての話もある」
「了解!」
アイは元気よく答えると2人は雑談を楽しみながらディークの元へと足を進める。
少し前にスコールはディークに連絡していて、酒場で落ち合う話になっていたのだ。
会話も弾み、すぐに目的の酒場が見えてきた。
スコールは酒場の扉を開けると、タバコと鉄の匂いが扉の中から飛び出してくる。
中に入るとスコール達に集まる視線を無視して奥のカウンターにいたマスターの所へ行くと、
「ディーク様の件で――」
スコールの言葉が言い終わる前にマスターは言葉を返す。
「ああ、聞いている。奥の部屋にいるよ」
マスターが親指で指した先にある扉の中にいるようだ。
スコールは軽く頭を下げ奥の部屋へと向かった。
扉を開けると小さな部屋となっていて真ん中にテーブルが置いてある。
そしてそこにディークは座っていた。
「やはりルータスは来られなかったか……まぁまずは座れ」
「はい」
スコールとアイも席につく。
ディークは椅子に深く座り直すと口を開いた。
「向こうからの条件でな。同盟を組む代わりにどうしても少しの間ルータスを貸せと言ってきたんだ」
「なるほど……」
「あの女王、見た目とは違い中々切れるな。あの一瞬でそんなことを思いつくとは……」
「やはりそうなのですか?」
「だろうな。状況から考えてルータスは人質といったところか」
エルドナでの戦争しか明確な情報のない魔王軍と同盟を簡単に組むほどカルバナも無用心ではない。
実際革命軍のスパイである可能性だってある。
しかしカルバナ帝国としては強い味方は増やしたい。
ならどうすればいいか? 魔王軍の関係者を手元に置いて監視すればいい。
そして恐らくその条件は2つといったところか。
1つは魔王軍でも主要な人物であること。
2つ目は万が一敵だった場合、対処が容易い人物であることだろう。
これに当てはまるのはルータスしかいない。
ルータスはディークの眷属でありただの一兵士ではないからだ。
スコールも聖剣使いと考えればそれに当たるが流石に他国の勇者を貸せとは言えない。
それにルータスであれば何かあったとしてもケビンが負けるはずはないと判断したのだろう。
するとアイが驚きの声を上げる。
「お兄ちゃん人質なの!?」
「まぁ悪い言い方をすればの話だ」
スコールはカルバナ帝国の思惑をアイに手早く説明した。
しかしアイは何故か納得いかない様子で、
「でも、お兄ちゃん王女専属の騎士って言われていたよ?」
「そりゃ一応同盟国だしな、馬鹿正直に腹の中を話したりはしないだろう。ある程度の肩書きは良い目くらましになる」
恐らくルータスは完全に疑いが晴れるまで監視されることになるだろう。
だがいくら監視したところで無意味だ。こちらにやましいことなどないのだから。
だからこそディークは首を縦に振ったのだ。
「うーん。アイはそんな風に思わなかったよ。多分もっと単純な理由なような……」
アイの言葉に今度はディークが興味を示す。
「それは一体なぜだ? 根拠はあるのか?」
「――上手く言えないけど女の子の勘です!」
アイは自信満々に親指を突き立てている。
「ふむ……しかしまぁ、用心していて損はない。念のため何か急なトラブルでも対応できるようにしておいた方がいい」
スコールもディークの意見に賛成であった。
流石に勘だけで動く訳にはいかない。そして更にディークは、
「今後の任務についてだが情報集などをメインでやれ。戦闘の可能性があると思われるものは必ず3人で行くようにな」
「分かりました。もし戦闘になってしまった場合は?」
「霧の件か? そんなものさっさと退却しろ。カルバナの問題で危ない橋を渡る必要はない」
「はい――」
そういえば先生と鍛冶屋を回る約束があったな――
ルータスがいない時はゆっくりカルバナ見学でもするかな。




