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ブラッド・ZERO  作者:
第3章 カルバナ帝国編
74/119

第74話  最強の騎士誕生?

 コロシアムに出場することが決まってから数日後――

 ここはコロシアム中――ルータスは今日もミシェルとの訓練に勤しんでいた。


「はぁはぁはぁ……」


 ルータスは肩で息をしながら膝をつく。

 あれから毎日特訓しているが、髪を切ることはできないどころか糸口さえ見つからない状態であった。


「ルータス、頭を使いなさい。アンタは考えることが足りないわ」

 

 ミシェルは持っている髪の毛をぷらぷら揺らしながら言った。


「頭……ですか?」


 逆に髪の毛一本切るのに頭を使わないといけないとはどういうことなのか。

 

 ポカンとしているルータスを見かねてミシェルは口を開く。


「しょうがないわね……少しだけ教えてあげる。貴方はもうこの髪を切れる力を持っているってことよ」


 持っている? そう言われても今のままでは切れる気が全くしなかった。


「努力します……」


 ルータスはがっくりと肩を落とす。

 ここ最近、せっかくミシェルに特訓してもらっているのに何一ついいところを見せられていなかったからだ。

 

 もしかしたらお姉様を失望させてしまったのではないか?


 ルータスの頭の中はこのような考えが渦巻いていた。

 ミシェルはそんなルータスをじっと見つめて、


「今日からルータス達には任務があるわ」

「任務ですか?」

「本当はアタシがやろうと思っていたんだけどね。しょうがないからアンタにあげる」


 ルータスの鼓動は一瞬にして高まった。その理由は2つだ。

 1つは、これでやっとミシェルに良いところを見せられるという気持ちだ。そしてもう一つはミシェルがするような任務を自分がこなせるのか? と言った不安である。


「一体何をすれば?」

「少し前に処刑されていた霧の話はしっているわね?」

「はい」

「その霧のメンバーの討伐よ。一応同盟国になったんだしこの国内の問題も少しは手伝ってあげないとね」


 ルータスは心の中で大きくガッツポーズをした。

 とうとう学園後から鍛えに鍛えまくった修行の成果を試せる――

 

 ルータスは先の落ち込んだ顔から一変しニヤリと笑う。その笑いは自身に満ち溢れている笑いだ。


「お姉様、お任せください――」

「あぁ、あともう一つあるんだけど、それはユーコリアス女王から直接聞きなさい」

「分かりました! では行ってきます」


 今日はこれから城に出向きユーコリアス王女様から大切な話があるとのことだった。

 ルータスはミシェルに大きく手を振りながらコロシアムから出るとスコールとアイが待っていた。


「ルータス、今日はどうだったんだ?」

「ダメだった……でも良い話を持ってきてやったぜ」


 スコールが聞いているのはもちろん特訓の成果のことだ。

 特訓を始めてから何かと気になっているようだ。

 ルータスは先程ミシェルから受けた霧討伐の任務を手早く2人に話す。


「なるほど、霧か……面白いじゃないか」

「お――お仕事か――アイも頑張っちゃうよ!」


 スコールとアイはやる気満々、気合い充分な様子だ。


「今日は一体何の話なんだ? 少し前もミシェル様がなんか口を濁してたが……」

「よく分かんないけど直接聞けだってよ。まぁ、悪い話ではないだろう」


 3人はそのまま話しながら城へと足を向ける。

 コロシアムから城の入口までは少し距離があるが、うだうだ言っている間に直ぐに入り口にたどり着いた。

 門番と思われる二人の兵士の前で足を止める。ルータスは王家の紋章が刻まれた金貨を見せながら、


「ユーコリアス女王様に呼ばれてやって来ました」

「魔王軍のルータス殿だね。話は聞いているよ」


 門番は隣にいたもう一人の兵士に「ここを頼む」とだけ言うと大きな門を開く。


「では行こう。姫様がお待ちかねだ」


 兵士の後ろをから付いていく形で3人は城の奥へと足を進め王座の間の前までやってくると、兵士は自分の役目はここまでだと言わんばかりに扉の横へ立つと、先へ進むようにルータス達を促す。

 ルータス達は軽く一礼をして扉の前に立つと、その扉は開かれる。

 王座の間は他の部屋より一段と豪華できらびやかだ。


 しかし今日はなんだか前よりも警備の人が少ないように感じる。

 部屋の奥にある階段の上には立派な椅子に座るユーコリアス女王の姿が見える。何度見ても椅子とのバランスがおかしい。

 そしてその隣には聖剣使いであるケビン・ラスファルの姿があった。


 ルータス達は階段の手前でアイ、ルータス、スコールの順で横一列に並ぶと膝をつき頭を下げる。

 ユーコリアスは3人に視線を向けると口を開く。


「わざわざご苦労、面を上げてよい」

「はっ!」


 ユーコリアスの声が響きルータス達もそれに従う。


「今日は前と違って公式の場ではないから楽にしていいぞ。今日はちょっとした今後の活動について話したいと思ってな」


 だから今日は人が少ない訳か――まぁ毎日あんなに人がいっぱい居るわけはないか……

 前は初対面での歓迎といった意味も含まれていたのだろう。

 そうは言っても他国の女王だ。本当に楽に話せる訳がないが、幾分気持の面では楽になった。 


「分かりました」


 代表でルータスが返事をする。

 ユーコリアスは大きく頷くと、


「もう聞いていると思うけど霧の件についてだが、出来るだけ戦闘は避けてほしいと思っている」

「と、言うのはどういう意味でしょうか?」


 聞いていた話は討伐である。一般的に討伐とは敵を殺すか捕まえることであるが、生け捕りは余程の実力差がないと不可能であるため事実上討伐とは殺すことである。

 

「我は平和的解決をしたいと思っているの。だからこそカルバナ軍ではない魔王軍のお前達で霧と接触して欲しい」

「……承知しました」

「もちろん危険なことは分かっているわ。もし国民やルータス達に危険が及ぶ様であるならばその脅威ははらわなければいけない」

「はい!」

「分かっているだろうけどこの事は他言無用だ」


 ルータスは頷く――

 何か引っかかる事があるのだろうか? 凶悪な野盗集団などどこの国でもいると思うのだが……

 しかし同盟国の女王の命令である以上、期待には答えなくてはならない。


「お任せください」


 するとユーコリアスはわざとらしく「コホン」と咳払いをした。


「それと……これからが本題なのだが……」


 本題? 何か重大なことなのだろうか?

 今一瞬明らかにユーコリアスの声色が変わったのが分かったからだ。

 

「ルータス立て」

「はい!」


 名指しで呼ばれ直ぐにルータスは直立不動で立ち上がった。

 もしかして魔王軍一番隊なんとか隊長とか適当に言っていたことがバレたのか? 

 ルータスの鼓動は激しく波打つ。

 そしてユーコリアスは口を開く


「お前は今日から我専属の騎士となったぞ」


「――――」


「――はい?」 

 

 ――何とおっしゃいました? 


 ルータスは一体何を言われているのか頭で理解出来なかった。

 カルバナ王女の騎士? 魔王軍は? 僕は魔王軍クビってこと? 一瞬にして様々な憶測が浮かび消えていくも答えは見つからない。

 ルータスは間の抜けた顔をしながらポカンと口を開けている。


「だから、ルータスお前は今日から我の騎士となって我のそばにいろ」

「ちょ! ちょ! ちょっと待ってください。流石にそれは僕では判断できません!」


 ユーコリアスは不敵に笑いながら、


「これは魔王ディークとの間で交わされた正式な契約なのだ。同盟を組むことにあたってルータス・ブラッドを我の側近として置くこと。拒否権はない」

「なななな……」

「安心しろ、何も引き抜きではない。少しの間だけだ。それに――」  

「それに?」


 ユーコリアスは声を低くしながら、


「ルータス、そういう事だ。魔王軍の同盟のため、すまんが頼んだぞ。これも一種の勉強と思って頑張れ。 と、魔王ディークから伝言を頼まれている」


 全く似てないディークのモノマネをするユーコリアスであった。

 呆然と立ち尽くすルータスはスコールに視線を移すとスコールは気づき、


「同情しなくもないが、まぁ頑張れ」


 明らかに顔が笑っている。ルータスは殴りたい衝動に猛烈に駆られるもなんとか耐える。


「そういうことよ。今を持ってルータス・ブラッドの階級は騎士となった。今度、我の許可なく動いてはならない。細かい規律は後で説明させる」

「え、え、え……」


 ユーコリアスはオロオロしているルータスを不満に思ったのか声を荒げる。


「何か不満でもあるの!? この私のそばにいるのがそんなに不満なの!?」


 なんかいきなり言葉遣いが変わっている。

 流石に自分のせいで同盟が破棄されてしまってはディーク様に顔向け出来ない。


「そんなことありません! 嬉しくて震えていました!」


 とっさに出た言葉にユーコリアスは頷くと、


「何も悪いようにはしないわ。それにちゃんと任務の時間も作ってあげるから」 

「はい!」


 するとユーコリアスの横に居たケビンが階段を下りルータスの元へとやって来た。


「今日から同じ同僚だね。よろしく」

「よ、よろしくお願いします」


 二人は握手を交わすと、


「早速で悪いが、城の規則などの説明や準備もある。少し場所を変えようか」


 この時点でもう嫌な予感しかしなかった。ケビンの案内に従って後ろに付いていくルータスは、部屋から出る瞬間にスコールとアイに助けの視線を飛ばす。

 しかし2人はもう視線を合わせてくれなかった。


 この時のルータスの背中は正に捕らえられた囚人さながらだったという。

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