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ブラッド・ZERO  作者:
第3章 カルバナ帝国編
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第73話  カルバナの闇

 四種族が支配しているこの世界は、多くの犠牲によってその平和が成り立っていた。

 どの国にも決して語られることのない闇がある。

 それに例外はなく、ここカルバナ帝国にも闇があった――


 ここはカルバナ城の地下である。

 まるで人目に付かぬように作られた地下空洞は知らない人が見れば収容所と思うだろう。

 地下を掘って作られた地下全体はとても広く小さないくつもの部屋に区切られている。


 部屋は牢屋ではないものの作りはそれと変わらない。

 部屋の中は狭く必要最低限の物のみが設置されている。

 部屋は真ん中の廊下を挟むように一定間隔で仕切られており、廊下の先には広い集会所が作られていた。そしてその集会所には今、たくさんの少年、少女が集まっていて100人以上はいるだろう。


 軍隊の様な隊列はかなり訓練されたものであった。

 そしてその少年達の前には教官と思われる男の姿が見える。

 しかし何やら普通ではない様子である。


「56番以外は解散してよろしい!」


 教官の声に合わせて一斉に、まるでプログラムされた機械のように動き出す。

 手の振り足の運び何から何までが統一されている。


 そして少年達は表情に一切の変化はなく感情そのものが読み取れない。

 そんな少年達が一斉に動く姿は異様であった。

 どう見てもただの集団ではない。


 彼らはこんな地下で何をしているのか?



 特殊専攻部隊――

 カルバナ帝国で非公式の特殊部隊である。

 主な任務は帝国に仇なす者の排除や公に出来ない仕事の数々だ。


 カルバナでは10年以上前から、帝国内の治安の悪さが問題となっていた。

 その原因は主にハーフが増え、貧困による強盗や窃盗が多発したのである。

 そこで帝国が考え出した対策は街で捨てられている子供を保護、教育して国内の治安を守る部隊を結成することであった。

 それにより路頭に迷うハーフ達は職につけて、治安も良くなるはずと思われた――


 しかし実際はそんな良い話ではなかった。

 未だ世界中でハーフを嫌うものは多く、半端者と呼ばれている彼等を歓迎してくれる組織などありはしなかった。

 教育とは名ばかりの人体実験に近い方法で洗脳されていったのだ。


 純血からすればハーフは道具であり人ではない。自分達が如何に強力な人型兵器を作れるかくらいにしか見えてなかったのだ。

 そして10年の歳月をかけて作り上げられたのがこの特殊専攻部隊である。


 この部隊は全てハーフで構成されている。

 入る資格のある者は8歳以下のハーフであることだ。

 年齢制限は物心つく前でないと教育に支障がでるため設けられている。


 対象年齢の少年、少女達は部隊に空きが出た場合には、優先的に保護される。

 保護された者達は最初に1日かけて魔術による洗脳が施されるのだ。

 強い魔術により脳に直接覚えこまされる。


 教官の命令は自分の命よりも優先すべきこと

 帝国のために生き帝国ために死ぬこと

 剣の種類、人体の構造、感情の排除――


 上げればキリがないがどれもいいものではない。

 そして一通りの洗脳が終われば訓練などの教育を受けることになる。

 しかしその内容は一般的なものからかけ離れていて、人の効率的な殺し方など、戦うために必要なものばかりである。

 こうして1日の殆どを費やし人型兵器は作られていくのだ。


 地下に広がる訓練場と寮は決して人目につくことはない。

 カルバナ帝国でも特殊潜航部隊の存在は知られているが、詳しい内容は一切不明とされているからだ。

 それは主に特殊専攻部隊の仕事が暗殺などであるためである。


 又、カルバナ帝国は今まで公にできなかった危険な仕事や汚れた仕事をさせていた。

 これは単純にハーフであればカルバナ帝国の法律に縛られることはなく使い捨てられるからである。

 そのためもあって詳しい内容は明かせなかったと言った方が正しいだろう。

 だからこそ特殊専攻部隊こそがカルバナ帝国の闇なのである。


 教官と56番と呼ばれた少年を残し他は解散している。


「56番付いて来い」

「はい」


 そう言うと教官は歩き出し扉の前までやってくると鍵を取り出し扉をあけた。

 きしむ音とともに扉の先にあったのは一台の馬車である。


「これに乗るんだ」


 教官の命令通り56番と呼ばれた少年は馬車の荷台に乗ると教官は目配せをする。

 そして少年を乗せた馬車は走り出した――


 特殊専攻部隊に所属する隊員が外に出る方法はほとんどない。

 任務の場合と死亡した時だ。


 特殊専攻部隊は優秀である。

 しかしその犠牲は多く、投薬や実験に近い魔術などを多用しているため地下で死ぬ者も多いのだ。

 だがそれ以外にもう一つ外に出られる例外があった。


 正に今56番と呼ばれた少年がその例外である。

 特殊専攻部隊は一人前と見なすまでに3回の試験があった。

 試験と言っても何かを受ける訳ではなく個人の能力値を数値化されるだけだ。それが一定以上であれば合格という訳である。


 これは部隊が請け負う任務は特別なものが多く失敗は許されないからだ。

 では試験に落ちた者はどうなるのか?

 再試験など受けられる訳はない――


 馬車はカルバナカルバナ帝国出て更に数時間走り続けた。

 そして周りに何もない平地で静かに止まる。

 馬にまたがった兵士は振り向きもせずに、


「降りろ」


 とだけ口を開くと少年は命令通りそれに従った。

 馬車は少年が降りるとすぐに走り出し去っていく――

 平地に1人立つ少年だけが残り静まり返った大地に少年は一人佇む。


 ――そう、例外とは捨てられた場合である。

 一定以上の数値に満たないものは育てる価値なしと判断されこのように帝国外へ放り出されてしまうのだ。

 そして時間だけが過ぎていく――


 

 ――それから2日の時が経ち、辺りは雨が降っていた。

 少年はまだその場に立っている。

 捨てられたからといって自由の身になるといったそんな甘い話ではない。これはある意味一番悲惨な状態なのだ。

 彼らは命令のみに従うよう教育されてきた。


 自分の命よりもそれを優先させるほどに強力に洗脳されているのだ。

 しかし命令を出す者はもういない。それは死を意味すると同じことである。

 実際に捨てられた者はその場で死ぬまで立ち尽くし、最後に与えられた「降りろ」と言う命令を全うして死んでいくのだ。


 56番と呼ばれた少年は真っ直ぐに正面を見つめ立ち尽くす。

 すると遠くから一頭の馬にまたがった男がこちらに向かってやってくる。

 

 男は少年の前で馬を止め降りると少年をじっと見つめた。

 そして一枚のスクロールを取り出し広げ小さく何かを呟くとスクロールは強く光り少年はその光りに包まれた。

 

「君の名前は?」

「――56番です。新しい教官ですか?」


 男の問に答える少年の声にハリはなく弱々しい。


「そうだ。これからは俺がお前の教官だ。今からアジトに戻る。56番だったか?」

「はい」

「命令だ。56番、君がそう呼ばれる前の名前はなんだ」

「レインです」


 男にっこり笑ってレインの頭を撫でる。


「いい名前だ」

 

 レインは無表情のままだ。

 男は一瞬だけ悲しそうな顔をするとレインを抱きしめた。


「これも命令だ。これからは自分のために生きろ、そして笑え。レインお前は俺が――いや、霧が絶対に救ってやる」


 抱きしめられた少年にやはり表情はない。


「……了解しました。先生――」


 しかし声は微かに震え少年は今道具から人へと戻った――

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