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ブラッド・ZERO  作者:
第3章 カルバナ帝国編
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第68話  コロシアム2

 あ――気味が悪いでやんすね……


 なぜ人は同族の処刑にあれほど熱狂できるのか全く理解できないでいたホクロンは、コロシアムの外周をふらふらと歩いていた。

 流石に同じモグローンどうして処刑したりはしない。

 こう言った事が起こるのは人特有の現象であると言える。


 魔王城に住み出してから人と住むことに抵抗がなくなっていたが、元々モグローンにとって一番の天敵は人である。

 過去の修羅場を思い出したホクロンは背筋に寒いものが走る。あの場にいた人々の歓声は凶悪な人類を思い出させるに十分であったのだ。


 それにしてもコロシアムってデカイでやんすな――


 コロシアムは魔王城と同じような円形の壁に囲まれた闘技場だ。

 戦うためだけにこんな大きな建物を建てる必要があるのか疑問に思うが、見方を変えればそれほど強さを重視していると言えるだろう。


 これはオーガという人種の特徴らしいが街も武器屋ばかりで物騒この上ないというのがホクロンの率直な感想である。

 コロシアムの中は外からでも分かるほどに盛り上がっている。

 そしてその盛り上がりも今日最大のピークをむかえた。


 コロシアムから鳴り響く大歓声にホクロンは思わず眉をしかめる。

 処刑で一番の盛り上がる時など想像したくもないからだ。

 オーガだって理不尽に人を殺したりはしないだろう。あの少年は何か悪いことをしたのは間違いない。だとしてもいい気分にはなれなかった。


 そうしていると、ホクロンはコロシアムの反対側にたどり着いていた。

 ルータス達と別れた場所の丁度反対側に位置する場所だ。

 コロシアムの入り口の中には訓練場のようなものがあり、兵隊と思われる者達が多数集まっているのが目に入った。


 どうやらコロシアムは決闘以外に訓練でも使っているようだ。

 考えてみれば当たり前だ。これほど立派な建物を一部だけの用途で運用するなどあり得ないだろう。


 ふむ、カルバナの兵士はどんな訓練をするでやんすかね。


 一応、魔王軍としてきているのだ。毎日バーで飲んでいるだけでは魔王軍隊員第一号の称号が泣くというもの……

 少しは魔王軍に貢献しなければいけないと思いホクロンは訓練場に足を運んだ。

 ホクロンは偵察もかねて訓練場の角で兵士達の訓練を眺めていた。


 何か地味でやんすな……


 ホクロンの率直な意見が頭によぎった。

 剣技のことはよく分からないが毎朝スコールがやっている素振りのようなことばかりしているからだ。

 すると1人の兵士がホクロンに気づき近づいてくる。身なりから察するに隊長のようだ。


「こんな所に女性が来るなんて珍しいな。見た所君は人間だよね? どこの街から来たんだい?」


 そう言えばオイラは今女性の姿だったでやんすね……


 ここはバシッと完璧な女性になりきる必要がある。

 ホクロンは声のトーンを落として話す。


「わたくちは、魔王城からきました……やんす」


 ホクロンの言葉に兵士はどう見ても驚いている。

 やべ! 語尾がおかしくなったでやんす!

 盛大に間違い心の中は焦りまくるホクロンであったが、兵士の関心は全く別のところにあった。


「魔王城!? まさか魔王軍の人?」

「そうでやんすが? 何か?」


 ホクロンの言葉に兵士はすぐに振り返り大声で叫ぶ、


「おーい! 皆こっち来てくれ凄いぞ! 魔王軍の関係者らしい!」


 あ……もしかしてこれ言っちゃいけなかった?

 そう思うも時すでに遅し。

 先の兵士の声でゾロゾロと集まり、あっという間にホクロンは囲まれてしまった。


「本物なのか!?」

「魔王軍って前の戦争のだよな!?」

「今来ているって噂は本当だったんだ!」

「魔王ってどんな人なんだ!?」


 集まった兵士達は我先にと怒涛の勢いで質問を投げかける。

 兵士達の視線は有名人にでも出会ったかのようにキラキラと輝いていた。


 あれ……これ……凄く気持ちいいでやんす!


 天敵である人からこのような尊敬に近い眼差しを向けられるとなんだか自分が強くなった気がして気持ちがよかった。

 兵士達の声とともにホクロンの気分が次第に盛り上がっていく――

 すると最初に話しかけて来た兵士が音頭を取りだした。


「落ち着くんだ。一気に話しかけても彼女が困るだけだ。ここは1人ずつ質問していこう」


 いつの間にかホクロンへの質問タイムが始まろうとしている。


「魔王軍の方がここにいるってことは、今魔王軍はカルバナに来ているということでいいのかな?」

「そうでやんす! さっき魔王様と女王様の挨拶が終わったところでやんすね」


 兵士達は一斉に驚きの興奮の声を上げる。


「魔王様って前の戦争に参加した魔王ディークだよな?」

「そうでやんすよ」

「噂ではフランクア軍の大部隊を魔法一撃で焼き尽くしたって聞いたんだがそれは本当なのかい?」


 ここでホクロンは言葉に詰まる。

 ホクロンは戦闘要員ではない為、ディークが戦っている姿をほとんど見たことがなかったからだ。

 しかし自分が発する言葉一つ一つにこれほどまでに興味を示しているれる者達の期待に何とか答えてあげたいと思っていた。


「うーむ……オイラはあまり魔王様の戦っているところを見たことがないでやんすよ」

「じゃあ、どうやって魔王軍に入ったんだい?」


 ホクロンは斜め45度で遠い目をしながら答える。


「あれは、オイラがアビスを冒険していたときのことだったでやんす。凶悪なハンターと死闘を繰り広げていたときに突如現れて一瞬でハンターを倒したのが最初の出会いでやんす」


 ホクロンは身振り手振りで状況を説明しながら段々とヒートアップしてきた。


「アビスにいるハンターを一瞬で倒すなんて……やっぱり魔王は強いんだな。君も実は強かったり?」

「ゲッヘッヘ! 何を隠そうオイラことホクロンは魔王軍隊員第一号兼、建築大臣という大役を任されているほどでやんす!」


 兵士達「おぉー!」と歓声があがる。


「な、何か凄そうな役職だ……」

「もちろんでやんす! これはもう、魔王様と妃様以外では一番偉いと言ってもいいでやんすね!」


 鼻高々に話すホクロンは完全に当初の目的を忘れている。すると隊長はホクロンに握手を求め、


「もしよかったらここは1つ、カルバナ軍と交流を深める意味も込めて稽古をつけてやってはくれないか?」


 ホクロンはがっちりと握手を交わしながら、


「オイラにドーンと任せるでやんす! ん? あれ……」


 隊長はホクロンの肩をガッチリと掴み訓練場の中へと歩き出す。そして嬉しそうな声で、


「ウチの隊はどうも気合が足らん軟弱者ばかりですが遠慮は無用ですぞ!」

「ちょちょ! 稽古って? 訓練でやんすか!? オイラは弱いでやんす――」


 ホクロンの声に被せながら、


「そんなご謙遜を! おい! お前ら胸を借りるつもりでな!」


 隊長の言葉に隊員は大きな声で「お――!」と剣を掲げる。

 

「ちょっと待って! お――い!」


 ホクロンの叫び声は隊員の歓喜の声にかき消されホクロンは中へと連れて行かれていった――

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