第66話 女王との会談2
聖剣の登場に周りもざわめき立ち始め驚愕の声が上がる。
ユーコリアスもこればかりは目を見開き声に出せない様子だ。
そんなざわめきの中で最初に口を開いたのはオーガの聖剣使いであった。
「それは紛れもなく聖剣スライヤー! それはあのアレス・ダニエルが持っていたはず……それを一体なぜ?」
ディークはまるで「そんなもの言わなくても分かっているだろう?」と言わんばかりの笑みで口を開いた。
「我々は敵対したアレス・ダニエルを打ち倒し聖剣は魔王軍の物となった。そう――アレス・ダニエルはこの世にもういない」
ディークの口から告げられた衝撃的事実に聖剣使いは驚愕の表情のままで、
「そんなことが……」
「現に聖剣は我が手中にある。この男、スコール・フィリットこそが魔王軍の――現在の聖剣使いだ」
言葉に詰まる聖剣使いをよそにユーコリアスが口を開こうとした瞬間周囲のざわめきは一瞬で消え失せる。
この辺は流石玉座を守る精鋭と言ったところだ。
「非常に驚きはしたが、これはよい報告なのだ。元々フランクア王国自体、我は好かなかったからな。あの変な国から聖剣を取り上げることが出来たのだ。これは喜ぶべきことだわ」
「流石、ユーコリアス、話が早い」
するとユーコリアスは急に立ち上がった。
「魔王軍か――面白い。我はもっとディークと話がしたくなった。少し場所を変えて話しましょう。聞かれては不味い話も多そうだ」
「それはいい提案だ」
ここで初めてユーコリアスは年相応の少女のような笑みをみせる。
「ケビン!」
ケビンと呼ばれた男は前に立っていたオーガの聖剣使であった。
ケビンは階段を降りてくると、
「ここからはディーク様ともう一人の方2名のみでの話し合いということでよろしいでしょうか?」
流石に王女と1対1は不味いと判断したのだろうか。
恐らく向こうはユーコリアスとケビンと呼ばれた男の2人だろう。だからこっちも1人選べというわけか――
ディークはミシェルに手を差し伸べ、
「ミシェルこっちへおいで」
ミシェルはその手を取ると、ユーコリアスはケビンを連れて歩き出す。
「我についてくるのだ」
言われるままに付いていくと王座の部屋の後ろに螺旋状の階段があり、そこを登っていく。
丁度王座の間の真上に位置するところにたどり着きユーコリアスは扉を空ける。
「入って――」
その部屋は先程の王座の間とは違い豪華さはあるものの何というか可愛らしい部屋であった。
四角い部屋にはテーブルと椅子があり可愛らしいコップが置いてある。
部屋の隅には高そうな家具が並べられている。だがその上に置いてあるぬいぐるみが少女らしさをだしていた。
部屋の奥には仕切りがあり更に奥があるようだが多分寝室だろう。
これはどう見てもユーコリアスの部屋である。
ユーコリアスは部屋に入るなり大きな溜息をつくとフラフラとあるき出しドカッと椅子に座った。
「あ――皆の前だと大変だわ。疲れちゃう。あ! その辺好きな所座ってね」
あれ……何か違くない?
これがディークの最初の感想であった。
呆気にとられたディークはケビンに視線を移すと苦笑いをしながらケビンは椅子に座った。
それに続きディーク達も席につくとユーコリアスが口を開く。
「とりあえず紹介しておきましょう。隣はケビン・ラスファル我が国の聖剣使いであり我直属の騎士なの」
ケビンは一礼をすると、
「姫様からの紹介に与りました。ケビンですよろしく」
歳は30代後半くらいだろうか? キリッとした顔立ちに高身長が特徴のオーガの割に身長は低めであるがその奥から感じる底知れない力は、流石聖剣を授かりし者だけはある。
ユーコリアスは自慢げにケビンについて語る。
「ケビンはお父様の代で聖剣を手にし、小さい頃から我に使えている腹心の側近なのだ」
「なるほど、一番信用できる者というわけか――」
「うむ、これから本題にはいる前に少し質問があるのだけど……」
急に声のトーンを落としたユーコリアスを不思議に思ったが理由は分かるはずもない。
「答えられる限り答えよう」
「さっき後ろにいた貴殿の部下であるルータスは貴殿とどういった関係にあるの?」
ルータスの報告から察するに間違いなく助けた少女はこの王女、ユーコリアスだろう。
何かお礼でもしたいのだろうかは不明だがユーコリアスはルータスに深い興味を示しているようだ。
「俺の眷属だ」
「ふむふむ、実は、貴殿の軍である魔王軍一番隊隊長のルータス・ブラッドという男に危ないところを助けられて少し気になっただけなの。べ、別に深い意味はないんだけどね」
一番隊隊長とは一体何なのか不明だがここは突っ込まないでおくとしよう。そしてユーコリアスは更に続け、
「それとさっきの同盟の件なのだけど。いいわよ、同盟を組みましょう」
え? そんな簡単にいいの?
ディークはあまりにあっさり決められ何と言っていいのか分からなくなった。
「結構簡単に決めるんだな。警戒はしないのか?」
「警戒しないといえば嘘になるけどね。今我が国は少し面倒なことになっているの。お父様が亡くなってから、国の裏で暗躍している勢力が急速に力を付け覇権を握ろうとしているわ」
「首謀者は分かっているのか?」
「恐らく城の側近の中の誰かだと思う。だけど敵は全く尻尾を出さず我の命を狙っているの。この現状をカルバナは他国に知られるわけには行かない」
ルータスの話から想像は付いてはいたが、この先どちらの派閥が勝つかでカルバナ帝国の未来は大きく変わると言えるだろう。
エルドナを選ばず魔王軍を同盟相手に選んだ理由はこれだったのか――
「敵の見当はついているのか?」
ユーコリアスは首を横に振る。
「でも大丈夫、我にはケビンを筆頭に優秀な部下が沢山いるのだ。それにお母様も相談に乗ってくれる」
ユーコリアスが「お母様」と言った一瞬だけ表情が年相応の子供のようになったのをディークは見逃さなかった。
「母親? 王座の間でいたのかい?」
先の王座の間でそれらしき者の姿は確認できなかった。何より前皇帝の妃である母親が女王にならないで子供が引き継ぐというのも変である。
ディークの言葉にユーコリアスはあまりいい表情を見せなかった。
「お母様は王家の人間ではないの。カルバナ帝国の王族は生まれた瞬間からその運命を背負う。これはどんな事があっても揺るがない。お母様は嫁いできた身なの。だからその資格がない」
「血が全てという訳か……」
「そんな昔からのしきたりなどどうでもいい。お母様は素晴らしい人なのに――」
ユーコリアスは唇を噛み締めている。
例え前皇帝の妃であっても王家の血が優先されるか――
この辺はエルドナと同じようだ。
貴族は生まれた時から貴族でありその運命は決まっている。
「なるほどな……だから同盟を組む代わりに力を貸せと言うわけか。しかし王女一人で決めた同盟に国民は賛成するかな?」
いくら同盟を組んでも国全体が有効的ではければ形だけのものとなり何の効力もないのは明白だ。
「それにおいては心配はいらないわ。この国は強い奴が大好きだ。だから国民の人気を取るために定期的にあるコロシアムの大会に参加して功績を残して欲しい。そしてその後同盟を宣言すれば何も問題はないわ。魔王軍なんだからそれくらい簡単でしょ?」
「それは名案だ――」
とは言ったものの誰を出場させるのがいいのかが悩みどころである。
勝つだけが目的ならミシェルを出すのが一番いいだろうが、ミクの二の舞いになってしまっては意味がない。アイは魔法使いで1対1の戦闘には不向きだ。
なら実力も近いスコールかルータスだろう。
いや、まて、スコールは魔王軍の聖剣使い。大勢の前で負けてもらっては魔王軍の名折れというものだ。
やはりここはルータスか……
「実は我は、貴殿達を見たときから決めていたの。その種族の壁がない国――先人達が作り上げた古臭い価値観に縛られない国、まさに我の理想だ。それに我の代でこの国を取られる訳にはいかない。奴らが欲しがっているのは権力と金だけなのだから――」
少なからず母親を何とかしたい強い気持ちが見て取れる。
しかし迷いなく話すユーコリアスの姿に少女の面影はなく1人の女王であった。
「面白い――気に入った! ユーコリアス・カルバナ姫、俺は――いや、魔王軍は姫のために協力しよう」
話し合いによっては敵対勢力側に付くことも考えていたが、これでディークの考えも決まった。
しかしユーコリアスは何故か急に少しそわそわしながら小さな声で口を開いた。
「け、けどちょっとだけ条件があるのだけどいい? 別に、そんなに大したことじゃないのよ」




