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ブラッド・ZERO  作者:
第3章 カルバナ帝国編
63/119

第63話  カルバナ帝国へ2

 次の日の朝、既に出発の準備が整う。

 ディークは馬車に乗り込む。


「出発だ」


 その一言で動き出す。

 カルバナ帝国まで後どのくらいなのか全く分からなかったがそんな旅がディークの心を踊らせていた。

 そして再び西へと進みだす――


 太陽が真上を差す頃、しだいに辺りの草木は低くなり代わりにゴツゴツとした石が増えはじめてきた。

 気温も少しずつ上がってきている気がする。

 途中に何回か休憩を挟みながら移動しているが、少しずつ移動速度が上がってきている気がした。


 エルドナ付近では見られない地形に皆も先を早く知りたいのだろうか?

 今まではずっと代わり映えしない風景だっただけにそう思う。

 そして進めば進むほど緑だった大地は茶色く染まっていった――

 

 もうオーガの領域に入ったのだろうか?


 根拠があったわけではない単純に緑の大地がエルフで茶色がオーガと思っただけである。

 互いの国に国境のようなものはないのだ。

 だが見渡す限り大きな岩と砂が広がる大地しか見えず村や国などは見つからなかった。

 まだまだ先は長そうだな――

  




 太陽が空を赤く染め出した頃ディーク達一同は次の宿泊先を見つけていた。

 この辺りは乾燥した気候ですでに結構暑い。

 暑いといっても普通であればの話である。ルータス達が着ている装備は魔法装備であるために熱にも冷気にも強く特に暑さなどは感じることはない。


 ディーク達は道沿いに見つけた小さな集落の宿屋に泊まることに決めていた。

 ルータスも特にすることはなく1人ぶらぶら歩いていた。ルータスは順調に行き過ぎている旅に少し不満があったのだ。


 なんかもっと野盗や盗賊が入り乱れるような想像をしていただけに地味だ。

 まぁそんなに頻繁に野盗に出会うことなどないのだが……


 途中でホクロンが歩き疲れて泣き出したくらいで特に順調事件はなかった。

 何かないかと歩いているとルータスはピタリと止まる。


 血の匂い?


 微かだが新鮮な血の匂いがした気がする。ヴァンパイアの嗅覚が微かな臭いを感知した。

 鼻だけを頼りに足を進めると次第に匂いがはっきりしてきた。

 ルータスの予感は確信へと変わる。


 集落の北側にある小さな丘の上をこえると、オーガらしき集団が戦闘をしているのが目に入った――


 なんでオーガ同士が戦っているんだ?


 片側は鎧を身につけている集団だ。もう片方は女の子を囲むようにして戦っている。


 どうやら鎧の集団が何かしらの理由で女の子を襲っているようだ。しかも遠目からだが結構可愛い女の子だ。

 命を狙っているのか、拐いたいのか不明だが見ている限りでは前者だろう。

 女の子の護衛と思われる者達は善戦しているが数で圧倒的に負けている。


 どっちに付くかな――


 一瞬だけ頭を働かせるルータスだかそんなものは女の子を助けるに決まっている。

 しかしもっとお互いが潰しあって数が減らないことには助ける方も大変だ。

 元々命をかけて助ける義理もないのだから。


 ルータスはじっくり戦いの行方を見守った。

 鎧の集団は6名、もう片方が2名になった時にルータスは腰をあげる。


 そろそろいいかな――


 ルータスは剣を抜き丘の上から高く飛ぶと落ちる勢いを乗せた一撃を鎧の兵士に浴びせ1人を叩き斬った。

 不意をついた渾身の一撃は敵の鎧ごと斬り裂き血の雨を振らせる。

 そしてその一瞬の攻撃は痛みを感じる暇もなかったかのように敵は最後の表情の残したまま声もなく崩れ落ちた。


 ルータスは少女の前に立ちふさがる様に立ち、剣を敵にむけながら、


「いい大人が少女1人を襲うなんてかっこ悪いぜ?」


 ルータスは自分の中では最高に決まったセリフを言えたと自画自賛しながら敵を睨みつける。


「貴様は何だ!? どこの組織の者だ!」


 いきなり現れたルータスを、何処かの傭兵と勘違いしている様である。

 だがルータスはこの時既に次の行動を開始していた。

 数で負けている相手に有効なのは不意をつくこと――そしてその不意をついたスキを逃さないことだ。


 叫んだ男の首筋を撫でるように斬り裂き次のターゲットを決める。

 そして隣にいた男にターゲットを決めるとルータスは剣武を発動させ斬撃を飛ばす。

 強力な斬撃は真空派となり構えた剣もろとも男の首を飛ばした。

 

 ほとんど同時に地面に転がる音が響く中ルータス剣は敵に向ける。


「そうだな。女の子の味方だ」

「どなたかは存じ上げぬが、感謝する!」


 少女の護衛らしき男がルータスに歓喜の声を上げた。これで状況は逆転だ。

 敵は分が悪いと判断したのかじわりじわりと後ろへ距離を取っていく。

 逃げる気満々であるがルータスは追うようなことはしないが護衛の1人が叫ぶ。


「待て!」


 護衛の男が捕まえようと走り出した瞬間――


「追うんじゃない!」


 もう一人の護衛がそれを抑止した。

 どうやら敵を捕まえるより少女の安全を優先させたようだ。逃げられると判断した敵は一気に走り出し姿を消した。

 ルータスは完全に気配が消えたことを確認すると振り返り少女に声をかける。


「大丈夫かい?」


 歳は同じくらいだろうか? 髪は銀髪、近くで見るとやはり可愛い顔立ちである。

 オーガ特有の褐色肌で身なりからすれば金持ちであることは間違いない。

 そして何より歳の割に胸がでかい! これは成長すれば素晴らしいものになるではないだろうか。

 

 命の危機が去った少女は安堵の息を大きく吐く。

 側近らしき男が何か話そうとしたが少女に止められ静かに後ろへと立った。

 だが少女はそんな身なりからは想像できない言葉を口にする。


「よくやった。中々の腕なのだな。我はユーコリアス、姫様と呼んでいいわ。名を名乗ることを許可する」


 金持ちなのは分かっていたが、想像以上に偉そうだ。しかし可愛い女の子であればそれはそれで可愛いらしい。

 可愛いは正義なのだ!

 

 ルータスは片足を付きオーバに大きく手を振りながら、


「これはこれはお姫様、僕は魔王軍一番隊隊長のルータス・ブラッドといいます」


 魔王軍に一番隊などはない。ただ単にそういった方がかっこいいと思ったから付け足しただけである。

 どうせ誰も見てないしちょっとくらいカッコつけてもいいだろう。


 魔王軍という言葉に側近の2人は反応を示すが、悪い反応ではないようだ。

 ユーコリアスはルータスを興味深く見つめ、 


「最近噂になっている魔王軍か……ん? お前、エルフのハーフに見えるけど?」


 あ、そうだった。しかし一々説明するのも面倒である。


「とある事情があって、僕はヴァンパイアなんだ」


 ユーコリアスは何かを察したのか納得しそれ以上の追求はしてこなかった。


「中々面白い奴だな。気に入ったぞ。お前はこれからどうするのだ?」

「カルバナに向かっている途中なんだ。僕のご主人がカルバナ帝国に用事があるからね」

「ほほう……なるほど」


 ユーコリアスは側近の片割れを呼ぶと何かの指示を出したが声は聞こえなかった。 

 そして側近は、ルータスの元へ来ると深々と頭を下げて、


「ルータス殿、この恩は忘れませぬぞ。貴方がいなければ我が軍は大変なことになっていました。本当は然るべき場所でお礼をしたい所なのですが我々はすぐに戻らねばなりません。もしカルバナに来られた暁にはコレを見せてください」


 そう言うと側近は変なマークの入った金貨を3枚ルータスに渡した。

 カルバナ帝国で流通している通貨なのだろうか?

 何にせよ金貨三枚は大金である。カルバナ帝国の現地調査の時に十分役立つであろう――酒とかで。


「ありがとう。遠慮なく貰っておくよ」


 ユーコリアスが側近2人に手で合図を送ると、すぐに側近は何かの準備をしだした。そしてユーコリアスはルータスの手を握りしめると、


「ルータスか、いい名前なのだ。我は強い男は好きだぞ」

 

 そう言ったと同時にユーコリアスは握っていたルータスの手を強く引っ張った。


「あっ……」


 いきなりの行動にルータス少し体勢を崩すとユーコリアスはそのままルータスを抱き寄せた瞬間―― 

 ルータスの頬になにか柔らかいものが当たる感触があった。

 何をされたのか頭が理解する前にユーコリアスは耳元で囁く。


「じゃぁね。絶対会いに来てね。バイバイ――」


 言葉とともに耳に当ったユーコリアスの吐息がルータスの心臓を一気に加速させる。

 ルータスの呆然とした姿にユーコリアスはクスリと笑いながら小さく手を振り側近の男2人と一緒に帰って行く。


 そしてその場に残されたルータスの頭はフル回転していた。

 初めてキスされてしまった。これはオーガ流の挨拶なのだろうか?

 気が強そうな少女だったが最後に一瞬だけ見せた女の子っぽい言葉もポイントが高い。


 ユーコリアスは間違いなく結婚したらデレるタイプだ。いや、二人っきりになったときだけデレるタイプかも知れない。

 もしかすると、高圧的な態度とは裏腹に家庭的な一面もあるかもしれないぞ。まさか――


 などと様々な想像にフル回転させていたのだった。

 一通りの幸せな妄想が終るとふと我に返るルータス。


 側近の男から貰った金貨を手に取りまじまじと見つめる。


 これはディーク様に報告したほうがいいのだろうか?


 よくよく考えると非常に不味い。オーガを助けはしたが、オーガを倒してもいる。

 勢いでやってしまった――倒したほうがカルバナの偉い人だったら非常に不味い。

 

 これは秘密にしておくか? いや、ダメだ――


 無理だと言ったほうが正しいだろう。ディーク様を前に嘘などつけるわけがない。何よりあとでバレた時が恐ろしい。(お姉様が)

 

 この時ルータスが思っていた恐怖心は怒られることではない。ディークであれば大概のことは笑って流してくれるだろう。

 眷属であるルータスにとって一番恐ろしいのは役に立たないと思われることである。

 ルータスは手の上で金貨を転がしながら宿へと足を進める。

 

 ここは正直に話すしかない。助けた女の子がカルバナの偉い人の可能性だってある。

 身なりからすると貴族だろうし金貨だってポンと出せるんだ。むしろ可能性は高いだろう。


 重い足取りのまま歩いていると宿が見えてきた。宿の前ではディークとミシェルが楽しそうに話している。

 ルータスはディークの元まで行くと膝を付き金貨を差し出した。


「どうした? 何だこれは?」

「実は――」


 ルータスは先程の出来事をディークに詳しく話した。するとディークは差し出した金貨を一枚手に取りニヤリと笑う。

 そしてルータスの頭を少し強引に撫でながら、


「よくやったルータス! 流石俺の眷属だ」


 この瞬間、ルータスは一気に体中の力が抜けると同時に言葉に出来ないほどの喜びがこみ上げてくる。


 やった! 二択に勝った!


 しかしこれからはもう少し考えて行動しようと思うルータスだった。



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