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ブラッド・ZERO  作者:
第3章 カルバナ帝国編
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第60話  秘密兵器

 魔王城を作り始めてから約一年半の時間が経過し小さかった魔王城も今では立派な城となった。

 城と言っても見た目が城っぽいだけで中はほとんどが中で暮らす者達の設備である。

 直径300メートルの広さがあり周りは分厚い大きな壁に囲まれている。そしてその中心にそびえ立つ大きな城は不気味さと怪しさを兼ね備えた正に魔王の城と言ったところだ。


 そんな魔王城の主人であるディークは城を目の前にホクロンと大切な打ち合わせをしていた。

 ディークの斜め後ろにはミクが2人のやり取りをじっと眺めている。


「やはり城の1番上にはドラゴンの石像を置くべきだろ」

「でも魔王なんでやんすから、ドラゴンよりガーゴイル見たいな悪魔的要素を入れた方がカッコよくないでやんすか?」


 ホクロンの提案に大きく頷いた。

 なるほど、悪魔的要素か――

 思い返せば今まで魔王と名乗っておきながらあまりそう言った要素がなかった。


「なるほど! それはいいな! どこにもいないような禍々しいガーゴイル2匹の制作に早速取り掛かろう」

「了解でやんす!」


 ホクロンは敬礼のポーズをとりながら紙に何かを書いている。


 アレ? ホクロンって文字なんて書けたのか?


 ディークは紙に書かれた内容が気になりチラリを紙に視線を向けた。

 その紙には、羽の生えた人のような物体と簡単な家が描かれている。

 恐らく本人にしか分からないメモなのだろうが真剣に書いているホクロンを見てディークは思わず笑みがこぼれた。


「ホクロン君! 君に頼みたいことがあるのだよ!」


 ディークは腰に手を当て高々に声を上げる。


「ぬ! なんでやんすか!?」

「これを見てくれ」


 ディークは目の前の空間を人差し指でつつくと何処からともなく一枚の黒い布が現れた。

 そしてその布を両手で大きく広げるとその布には立派な黄金の盾が描かれている。


「ふむふむ、旗でやんすか」

「その通りだ。魔王軍として本格的に動き出した今、我々の旗を作っておかなければいけなだろ」

「なるほど! それでオイラは何をすればいいでやんす?」

「ただの盾の絵だけでは何か寂しい。何か一手間加えて魔王軍の国旗としよう。これだけは、魔王軍第一号の隊員である君にしか出来ない仕事だ」

「なにぬね! 確かにこれは魔王軍第一隊員であるオイラにしか出来ない仕事でやんすね!」


 自信満々のホクロンは大きく頷きながら旗を受け取ると「任せろ!」と言わんばかりに親指を突き立てた。

 すると、今まで後ろに立っていたミクが大きなため息を吐いた。

 ディークはミクのため息にピクリと反応する。ディークは分かっていた。ミクがこのような反応を示す時はいつも何か変な突っ込みが来ることを――


「ディーク様、城の見た目や旗よりもまずは軍の強化や他国への対応を考える方がよいのでは?」


 やはりきたか――


 ミクの言うことは御もっともだった。戦争から世界は大きく動き出した。

 そして現状は魔王軍にとってあまりいい方向に動いていていなかったのだ。


「う――」


 ミクからの鋭い指摘に口ごもっていると、


「で、でもお城にガーゴイルの石像があれば攻めてきた敵も驚いて逃げるかもでやんす」


 ホクロンのフォローもミクには全く効果はないようだ。と言うかフォローになっていない。

 しかし今日のディークは一味違った。

 ディークはホクロンにアイコンタクトを送るとホクロンは手の平をポンと叩いた。


「慌てるなミク、俺達がただそれだけしかやっていないとでも?」

「今日のメインはむしろこれからでやんす!」


 ディーク達の自信満々の姿にミクは、不安をあらわにしながら、


「嫌な予感しかしないのですが……」


 ミクの心配をよそに、ディーク達は楽しそうに話しながら城の西側へと移動した。

 城の西側では丁度スコールが剣の訓練をしておりディーク達を見るなり頭を下げてきた。


「今日も訓練か、本当に真面目だな。丁度いい、これから我が軍の秘密兵器のお披露目会だ。ついて来い」

「秘密兵器!? 分かりました!」


 スコールは秘密兵器と言う言葉に興味津々の様子だ。

 城の西側の入り口の先は大広間だ。そしてその隣の部屋はバーである。

 城の外壁からすると、丁度バーがある場所の真裏に新たに何か増築されており立ち入り禁止の黄色いテープが張られていた。

 ディークは黄色いテープに手を伸ばすとテープは鋭利な刃物で切られたように切断された。


 「今日よりこの場所の立ち入り禁止を解除する」


 ディークの声とともに大きな扉がゆっくりと左右に開かれた――





 スコールは胸を弾ませながらゆっくりと開かれる扉を凝視していた。

 魔王軍が秘密兵器と呼ぶものだ、それはもう桁違いに凄いに決まっている。

 そして開かれた扉の中の全貌があきらかになると2人の声が響いた。


「へっ?」


 なんとも間の抜けた声である。そして声を出した2人とはもちろんミクとスコールだ。

 建物の内部は大きな金属製の樽のようなものがあり多くのパイプが樽につながっている。

 辺りは甘酸っぱい匂いが立ち込め白いマスクと白衣を着た五匹のモグローンが樽の中身を確認しながら真剣に作業を行っていた。


 これが秘密兵器なのか? これはどう見たって――


 秘密兵器を目の前にポカンと立ち尽くしているミクとスコールに大いに満足した様子のディークは、


「フフフ……驚いただろう? これこそ我が魔王城一カ月分の経費を注ぎ込んで製作したビール工場だ!」

「えぇっ! 一カ月も!?」


 ミクが、漏らした声からは驚きよりも呆れに近い何かを感じる。


「ホクロン君、説明してあげたまえ!」


 ホクロンが自信満々に一歩前にでる。


「エルドナで仕入れたバーのマスターからの情報によると、ビールは生き物でやんす! 製造された瞬間から酸化が始まって行くでやんす。ならば、我が魔王城はビール工場を自宅に設置することで常に最高のビールが飲めるという訳でやんす!」


 なぜ今のタイミングで?

 世界が大きく動き出した今、最初に製作したものがビール工場なのか……?

 いや、あれ程の魔道書を作った魔王ディーク様だ。何か俺には理解できない深い考えがあるのかも……


 一瞬の内に様々な考えが浮かんでは消えるスコールだったが全く分からなかった。


「御苦労! さて、これからビール工場の所長の任命式と行こうじゃないか!」

「へいでやんす! マクローン!」


 マクロンと呼ばれたモグローンは行進しながらホクロンの前に出てきた。

 上機嫌なディークは声を弾ませながらホクロンと謎の任命式に取り掛かり始めている。

 ホクロンは小さな台に上がると、賞状を持ち出した。

 そしてコホンと小さな咳払いを1つすると、


「マクロン殿、そなたは今日をもって栄えある魔王軍ビール工場所長に任命する。魔王軍建設大臣兼隊員第一号のホクロンより」


 ホクロンは賞状をマクロンに渡すと、ディークとモグローン達は盛大な拍手を送った。

 スコールは、ディーク達との間にある見えない壁の向こう側を呆然と眺めていた。

 ふと横を向くと同じように眺めていたミクと目が合い思わず呟いた。


「これはどういうことなんです?」


 スコールの問いにため息を混じりにミクも呟く、


「私にも分かりません……」


 やっぱそうなのか……


 スコールは苦笑いすると、ミクはくすりと笑いディークに詰め寄り腕に手を絡める。

 そして蔓延の笑みを浮かべると、


「ディーク様は何時もそのままでいてくださいね」

「当たり前だろ? いきなり何だ?」


 ディークやミク達のやり取りを見ていると、本当に皆楽しそうだ。

 世界には辛い事や悲しい事が沢山あるが魔王城の中だけは平和な時間が流れている。

 世界中がこうなれば誰も傷つかないのだろうか?

 種族の枠を越えた先に本当の世界があるのかもしれない。


 そしてスコールは微笑みながら任命式の主役であるマクロンへと拍手を送った。

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