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ブラッド・ZERO  作者:
第一章 建国編
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第6話  義兄弟2

 ここはエルフの国エルドナ王国、アビスの北東に位置する国で朝から道には出店が並び、かなり活気にあふれている。

 ここは魔力結晶やスクロールなど色々な素材がひしめき合うエルドナ1番の商店街だ。


「ホントなんでもある所だなー」


 ルータスは物珍しさにエルドナに到着して早々に、商店街を散策していた。町の奥には王様が住む立派なお城が町を見下ろす様に建っている。

 エルドナはこの辺では一番大きな国だ。エルフの国は、まだ極端な差別は無く、商業が盛んな事もあり多種族も沢山いる。

 ハンターや傭兵は大体ここでアイテムや装備をそろえるのが一般的である。遠くの地から魔法武器などを求めて世界中から集まってくるのだ。 

 高級店も沢山あり、魔法武器は目ん玉が飛び出るくらい高価だ。

 そこら中から武器の値段交渉やアイテムの説明などの声が飛び交い耳に入ってくる。その声の中にいるだけで自分も世界を旅するハンターになったかの様な気分だ。

 

 ルータスは商店街を抜け町の中心にある広場のベンチに腰を下ろした。

 ルータスが視線を向けた先には汚い格好でゴミをあさっている男がいる。浮浪者である。

 国に入った時から、たびたび周りにいるのは見かけていた。人口の多い国だけあって探せばそこら中にいる。国の端には貧民街と言われる場所がある。行った事は無いがどの様な場所か大体想像できる。

 ルータスも1年前までは浮浪者だった。自分も力を付けなければこの先は浮浪者に戻るしかない。逆に力さえあれば傭兵だろうがハンターだろうがなんだって出来る。


 「僕は絶対に強くなる」


 ルータスは自分に言い聞かせるように言う。ハーフの彼にとってそれしか生き残る道は無いのだから。今までの様なただ生きるだけで精一杯な生活ではこの先がないのはルータス自身分かっていた。


 自分と同じ位に見える歳のエルフの学生が歩いているのが目に入った。彼は友達らしき人物と楽しそうに話しながら歩いている。綺麗な紺色の制服はルータスとは縁がないほどに綺麗に整っている。

 かすかに聞こえた会話の内容から学校が終わったら何して遊ぶかの話で盛り上がっている様だ。


「遊ぶ……か」


 以前はこの光景を見るのがたまらなく嫌だった。生まれが違うだけで何故ここまで違いがあるのか? 惨めな自分と比較するとあまりに世界が違いすぎて、輝きすぎていて見たくなかった。

 エルドナにあまり来なかった理由は実はそれだったのだ。エルドナは大きな学園があり学生も多い。

 しかし今は目標も出来た事で何時かは見返してやりたいと思っている。

 幸い妹のアイは魔法の才があった。ルータスが剣技を磨けば二人なら上手くやっていける自身もついてきた。

 そんな事を考えながら目の前の人の流れをまったり見ていると、後ろから知らない男の声が聞こえた。

 

「すいません、ちょっと道を訪ねたいんだけどいいかな?」


 振り返ると黒髪で立派な黒い服を着た、若い何か不思議な雰囲気のハーフの男がいた。


「いいよ、僕もあまり詳しくはないんだけど何処へ行きたいの?」


 その不思議な雰囲気の理由に気づく。ハーフのわりに身だしなみがかなり良い。

 身だしなみが良いと言うことは金を持っているって事になる。普通服など最後でいい、まずは食うものを優先するからだ。そんな中、男は口を開く。


「コレを売りたくてね」


 男は何かの鉱石を見せてきた。手の平の上には綺麗な青い不思議な輝きの石があった。

 よく見ると石というより何かの金属の様にも見える。


「この石はなに? 見たこと無いな、売るならこの先に商店街があるよ」


 ルータスは自分の来た方向を指さしながら、初めて見るその石が何なのか気になった。さっき商店街を歩いていた時でもこんな石は見た記憶が無かった。


「これはアビスダイトと言われる石だな。聞いたことないか?」

「え! ちょっと! これがアビスダイトなの! 初めて見た!」


 ルータスは一気に興奮し目の前の男に興味の全てを奪われた。

 アビスダイトは地下階層でしか取れない鉱石だ。ならアビスダイトを持っているこの男は、地下階層にいけるレベルの力を持っている事になる。そんな男がいま目の前にいて自分に話しかけてきているのだ。


 世界にはハンターランクと言うものがありE~SSSまである。アビス地下階層に行けると言うのは、Sランクパーティ以上でありSランク以上は上位5%ほどしかいないエリート中のエリートである。


 何よりもびっくりしたのが目の前の男がハーフだと言うこと。

 純血の中でもエリートしか行けない様な場所だ。そしてアビスダイトと呼ばれる貴重なアイテムをハーフが所有しているのが信じられなかったが、嬉しくもあった。ハーフでも半端者でもやれば出来る証明が目の前にいるからだ。


「お兄さんはハンター? 地下階層にいったの? どんな場所だった? 凄いモンスターはいた?」


 気がつくとルータスは次々に質問を浴びせていた。 


「ちょっと落ち着いて。とりあえず初めまして俺はディーク・ア・ノグァ、ディークって呼んでくれればいい」


 ディークと名乗った男に、聞き覚えはなかった。世界に名をとどろかせる騎士やハンターはルータスにとって憧れの対象であり有名どころは知っていたからだ。

 しかもハーフでSランクは実在すれば絶対に有名になるはずだ。しかしハーフは純血に恨みを持っている場合が多く力のある者は何にも属さない組織を作っている可能性も十分にあった。


「僕はルータスっていいます。ディークさんはハンターなんですか?」


 ルータスは胸の高鳴りが止まらない。これを逃すと、もうこんな人に話を聞ける機会は無いような気がしたからだ。


「俺はハンターでは無いかな。君はハンターに興味があるんだね。傭兵の様だがその年でもう傭兵をやってるのかい?」

「今はまだ雑用で12歳です、いつか世界を旅するハンターになることが夢なんです」

「君はハーフだよね? その傭兵団にはハーフは他にもいるのかい?」


 なぜかディークがこちらに興味を示してくれている。少し不思議には思ったが興味を持たれることに損は無い。


「はい、1年位前に運良く妹と一緒に拾ってもらえて、あっ、妹って言っても血の繋がりは無いんだけど昔からずっと協力して生きてきたんです」

「なるほど、良い傭兵団に拾われたんだね」


 本当にそう思っている様な言い方で、世の中にはこんな人もいるんだと思った。ルータスは今までの出会った人の記憶を思い返すと気分が悪くなる程まともな人は居無かった。


「そうなんです。団長が凄く良い人で、凄腕なんですよ!」


 カミル団長は今の組織を1人で作り上げ、ハルトすらも圧倒する剣の使い手だ。団長とディークが手を組む事が出来ればかなり力のある組織になるだろう。


「なるほど、実は俺もハーフの良い人材を探していてね。良ければ一度団長さんに会ってみたいな」


 ルータスはこの幸運に感謝した。これはチャンスだ。最低SランクPTであろうこの人と繋がりを持てば仕事の幅も世間の評価も一気に上がる。そればかりか純血にも自慢できるレベルだ。


「そうなんですか! それは是非来てほしい! アジトはエルドナの南門から道なりに南に下れば見えてきます。僕は買い物を頼まれてるから終われば案内できます」


 ディークは少し考えるような素振りをして、口を開いた。


「すまないが俺も色々と用事があるから行くのは夕方になるかな」

「なら終わるまで待っていますよ!」


 ルータスは即答で答えた。これは神がくれたチャンスに違いないと思い、選択を間違わない様に頭の中で必死に考える。


「いやいや、流石にそれは悪い、出来れば俺が行く前に団長に話を説明しといてくれないか? いきなりだと困るだろうからね。コレに簡単な場所だけ書いてくれないか」


 ディークは紙とペンをルータスに差し出した。ルータスはそれを受け取ると素早く紙に地図を書き込みディークに返す。

 そしては軍人のように、背筋をピンと伸ばし力のこもった敬礼をしながら、


「分かりました。帰って話しときます。ディークさん必ず来てくださいね!」

「あぁ、必ず行くよ。また夕方に会おう」

 

 ディークはそう言うと商店街のほうに歩き出した。

 ルータスはディークの姿を見えなくなるまで眺めると、


「やっほーぃ!」


 ルータスは叫びながら高くジャンプし走り出した。この先の明るい未来しかルータスの眼には映らなかった。





 エルドナ王国の南、街道をルータスは全力で走っていた。

 特に急ぐ必要は無いが、仲間に少しでも早く伝えたい気持ちがルータスの足を走らせる。

 かついだ麻袋にいれた酒の瓶をガチャガチャ鳴らしながら、ディークとの約束に期待で胸が一杯だった。仲間からの未来の自分への賞賛の声を想像しながら笑いが止まらない。


「フフフ、みんな僕に感謝しろよ!」


 エルドナと人間の国フランクア王国の間に広がる森は、かなり広大で2つの国を割るように広がっている。

 国境の様に広がる森が東は海まで、西はアビスまで続くほど広大であまり奥深くに行くと帰れなくなるくらいだ。 

 しかし人の出入りの多い所は道となっていて安全である為に、森の浅い所では何かと便利な事あった。ルータスのいる傭兵団のアジトもそうであった。

 少し入ればアジトはある。周りの木々がそれを教えてくれる。 


 しかし走りは一人の赤い髪の少女の声によって止まった。

 その声の主は肩位までの髪で耳はピンと伸び歳は10歳前後で、ほっそりとした少し弱々しい雰囲気のハーフエルフの少女だ。彼女こそルータスの義理の妹アィーシャであった。

 街道の横でアィーシャが泣いていたのである。


「アイじゃないかどうしたんだ?」


 僕がいないから寂しくてこんな所まで迎えに来ていたのか、と思いながらルータスはそんな可愛い妹に笑みがこぼれた。

 兄の姿を確認するとアイは泣きながら抱き着いてくる。


「お兄ちゃん!」


 アイの体は何故か震えていた。その震えはただの寂しさなんかじゃなく何かとても怖い思いをした様な震えであった。


「アイ何かあったのか? 誰かに虐められたのか?」


 アイの尋常では無い雰囲気にルータスは何か嫌な予感がする。


「アジトが大変なの」


 大変ってなんだ? ルータスは意味が分からなかった。


「どう大変なんだ? 又喧嘩でもあったのか?」


 傭兵団は元々無法者の集まりだ。だから喧嘩自体珍しい事ではなかったが、最近は皆仲良く喧嘩は無かった。


「ちがう! 変な人達が一杯きて皆やられてる!」


 ――え? 


 あまりに突然すぎて、その言葉が頭に入ってきてから理解するまでに時間が掛かった。


「カミル団長は? 団長はどうしてる! みんな戦ってるのか!?」


 ルータスはアイの肩を激しく揺さぶった。


「分からないの。お兄ちゃんを外で待ってたら叫び声が聞こえて怖くて」


 ルータスは頭が真っ白になった。

 どうしたらいい? これが本当ならすぐに戻るべきだ、だがアイはどうする? 来たって役に立つ訳が無い。自分だってそうだろう。行ったところで自分一人で何かが変わる訳じゃない。


 ――なら逃げる?


 傭兵団はその職柄色々恨まれる事も多い、何か恨みを買った敵に襲撃を受けた可能性は十分にあった。傭兵団のアジトを襲撃する様な連中を相手にしてルータスが生き残る可能性は殆ど無いだろう。

 今なら逃げられる、生きてさえいれば何度でもやり直しはきく、しかし……


 ダメだ!


 ルータスは頭に浮かんだ言葉を必死でかき消す。仲間のピンチに逃げる様なら、この先なんて無い。

 必要な時だけ近づいて、まずくなったら捨てる様なら自分はただの屑だ。あの純血共と同じになってしまう。

 覚悟を決めルータスは口を開く。

 

「アイはエルドナへ行け! 絶対来ちゃ駄目だ!」 


 嘘だ! そんな事あるはずない! そう思い立たせ、麻袋を投げ捨てルータスは走った。これ以上無いくらいに必死で走る。

 まるで時の流れが遅くなったかの様な感覚だ。凄く長く感じる。これはこの先に行ってはいけないと教える体の信号なのかもしれない。

 そしてアジトが見えてきたと同時にルータスは愕然とした。


 ――まさに地獄――


 門は壊れそこら中に血が飛び散り、辺りは静まり返り血なまぐさい臭いが漂っている。ここで戦闘があったのは間違いないが人の気配は全く無い。


 本能がこの先に行くなと言っている。


 足に違和感を覚えた。いつの間にかガクガク震えている事に気づいた。迫り来る恐怖を押しのけ一歩を踏み出そうとしても後ろからまた別の恐怖がやってきてその足を踏み止まらせる。

 それでも意を決して足を進める。そして門をゆっくりと抜けるとその先に何かがあった。

 

「……え」


 その声は声と言えるほどのものでは無く吐いた呼吸と一緒に出た様な音であった。

 ルータスの視界がそれを捉えると、その何かを理解した。

 大きく見開かれた目、両手両足を大きく開き大の字に広げ仰向けで倒れている。そして首から胸にかけてバッサリと大きく切り裂かれた死体だ。それは朝まで元気だったハルトの変わり果てた姿が横たわっていた。

 

 ルータスは動きを停止し、全てが止まったかの様になり、自分の心臓の音だけが響いていた。

 そこには恐怖や絶望もなくただひたすらの、


 ――無


 ルータスの目は開いたまま時を止め次第に乾いていく、そして瞬きが止まった思考を動かした。

 ゆっくり視界がその全景を映し出す。そこには仲間だった者たちが無残にいくつも倒れている。

 誰のか分からない腕の一部、壁に飛び散った血、その壁にもたれかかる様に息絶えている者の姿だ。

 

「ハ…… さん……」


 消え入る様なルータスの声は、自分にしか聞こえない位に弱々しく悲しげであった。


「ハルトさん…… 明日稽古つけてくれる約束だろ! 返事しろよ!」


 辺りに虚しくルータスの声だけが響く。目まぐるしく浮かんでは消える思考の中で、よく知っている声がルータスを振り向かせた。


「ルータス、君は何処へ行っていたんだ?」

 

 ルータスの後ろから落ち着いた声が聞こえた。その声の主こそルータスが尊敬する人物であり信頼している男だ。 


「カミル団長! これは一体何が起こったんですか!?」


 ルータスのすがるようなその問いにカミルは血に染まった剣を持ち無言で立っている。何故この恐ろしい事態にここまで平然としていられるのか? ルータスは何か背筋が凍りつく様な寒気を覚えた。


 「…………」


 何かおかしい! 一体どうして? 色々な思考が飛び交う中、団長はゆっくりと口を開いた。


「ハァ、もういいか最後だしな……後片付けをしてたんだ」

 

 ルータスは心臓が一気に鼓動を早め無意識に一歩下がった。


「あと? 片付け?」

「ゴミ掃除と言ったほうがいいかな? 仲間は引き上げたが2名ほど見当たらなかったので待ってたんだよ。アイは何処だ?」


 仲間? 周りに死んでいるのは何だと言うのか、それにアイの場所を聞くカミルの声はその身を案じている様には聞こえなかった。


「アイはエルドナに逃しました。団長一体何を言って……」


 ゾクリと背中に嫌なものが走った。すぐにルータスはそれが自分に向けられた殺気である事に気づく、


「そうだ、この1年で我々の目的の物は手に入り、ここは用済みとなった。後は情報の漏洩を防ぐ為の掃除が、お前を殺して完了となる」


 これは夢か? 


 こんな事あるわけが無い。


 あっていいはずが無い。


「冗談ですよね? 団長がそんなこと……」


 声は震え汗がにじみ出ているのが分かる。


「冗談と思うならそれで良い、この剣を見ろ、お前が大好きだったハルトの血がべったりついているだろう? お前なら分かるんじゃないのか?」


 皮肉にも聞こえる様な声でカミルは剣を払い、その血を飛ばした。ルータスの顔にはべっとりその血がかかる。


「そんなの嘘だあああ! お前はさては魔物か! 団長になりすまし皆を殺したのか!」


 ルータスの頭は全力で否定しようとする、優しく強く憧れていた団長の美しい記憶が、今起きている事実を受け入ようとしない。


「あっはっはっはっはー!」


 カミルは今まで見たことが無い冷たく恐ろしい顔で笑い出した。


「お前らハーフが、本当に信頼されてると思ったのか? 半端者など終われば捨てるのが当たり前だ。お前達が殺されたところで誰も気になどしない」


 その言葉に一切の哀れみはなく、それが当たり前だと思っている様子に、ルータスは怒りと悲しみでガクガク震え、目から涙があふれ出ていた。

 ハーフとして生まれ、小さな頃から生きる為に必死だった。楽しい事なんか無かった。やっと傭兵になれ心の底から嬉しかった。カミル団長なら僕達を引っ張って行ってくれる。僕達ハーフの希望になるそう思っていた。 


「それが……それが……こんな結末なんて! 俺達が何をしたって言うんだよ!」


 この世に神がいるというのなら、なぜこんな世界に、こんな非情な世界にしたのか。結局僕達は使われるだけ使われ、用が無くなればゴミの様に捨てられる運命なのか。

 

「心配しなくてもすぐ仲間達に合わせてやるよ!」


 そう言ったカミルは何かを投げたように見えた。――と同時にルータスは左目に激しい痛みが襲った。

 

 何が起こった? まさか目を! 気づいた時にはルータスの左目は真っ暗になっており小さなナイフが目に刺さっている。


「ぎやあああ!」


 痛い! 痛みが体中をビリビリはしる、しかしルータスはナイフを引き抜くと自分の剣を抜き構える。


「ちくしょぉ! こんな所で殺されてたまるか!」


 こうなったらやるしかない! 生き残るにはここで戦うしかない! 恐怖に震える体を必死に奮い立たせカミルに向かって走ると一気に剣を振りかざす。


「グッ!」


 甲高い金属音と共に剣ははじかれ、即座にカミルの追撃が飛んで来る。


「くそう!」


 ルータスはなんとか剣で受け止めると、まるで岩を剣でぶっ叩いたかの様な衝撃に腕がしびれた。


「お前ごときが俺を殺す事は出来ん」


 余裕たっぷりに言い放つカルミに対して持っているナイフを投げつけた。しかしナイフは剣で落とされる。ルータスはそのスキに剣で切りかかった。しかしカミルの身体能力はルータスを圧倒している、クルリと回ったように見えた瞬間正面でルータスの剣を受け止めていた。


 まずいこのままでは殺される。なんとかスキを見つけて――


 考える間もなくカミルが凄まじい速度で横から切りかかってきた。ルータスはギリギリ剣でガートする。ものすごい力でルータスの体勢は大きく崩れた。すると視界からカミルは消えていた。


 ――いない! カミルの姿がない!


 ――しまった! 左目の死角か!


 「え……」


 ルータスは体の左側が軽くなった様な気がした。そして理解する。左肩から腕が無い事を、だらだらと流れ出るおびただしい血、その流れ出る血液と同時に襲ってくる激しい痛み。


「ぎええええええ! ああぁ腕ぇぇぇぇ!」


 ルータスは生まれて初めての強烈な痛みにのたうち泣き叫ぶ。


「最後の記念に自分の愚かさが分かる様に良い舞台をセットしてやるよ」


 そう言うとカミルは落ちていた槍を引き抜きルータスの左太ももに突き刺すと槍は足を貫通して地面にめり込んだ。


「いだぃいいい! たじげてぇ!」

 

 左太ももに一瞬冷たい何かを感じた後に燃える様な熱さと激しい痛みがくる。動こうにも太ももに刺さった槍は地面に深く刺さり固定されその槍を抜く為の左腕はルータスの視線の先に落ちている。

 ルータスは身動きも出来ず自分の作った血溜まりの中で、帰っていくカルミの後ろ姿だけが見えた。


「ディークしゃん……」


 その声は虚しく誰の耳にも届かなかった。


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