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ブラッド・ZERO  作者:
第3章 カルバナ帝国編
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第58話  王国の未来

 エルドナとの戦争により大きな痛手を負ったフランクア王国は大きな混乱に陥っていた。

 1つは圧倒的な力の差を見せつけられ大敗したことによる混乱だ。

 生き残った兵士達の噂が噂を呼び魔王軍噂はどんどん尾ヒレが付いていった。


 そしてもう1つは、あれ程の戦いにアレス・ダニエルの姿がなかったことである――

 

 フランクア王国の中心に聳え立つ王宮の一室にリグン・バルダットはいた。その部屋は深夜だというのにあと2人の姿が見える。

 それは黒翼兵団のクルト・エーリッヒとライナー・ロズエルである。

 3人の間に会話はなく丸いテーブルにリグンとライナーが座り、クルトは壁にもたれ立っていた。

 

 そして今、そんな部屋の扉を小さなノックの音が響き開かれると、3人の鋭い視線が1人の男に集まった。

 その男はガレット・スタイン、白い髪で白衣を着ている。


「ようやくきたかレイモンド――」


 ガレットはリグンの声を遮るように、


「その名前で呼ばないでくれるかい? 今の私はガレット・スタインだ」


 そう言いながらガレットはリグンの横に座る。どうもエルドナにいた頃の名前に強い抵抗があるようだ。

 リグンは全員を見渡すと、


「分かっていると思うが、今我が国は非常にまずい状況にある。そこで今後の計画について皆の意見を聞きたい」


 その言葉にクルトが反応する。


「黒翼兵団は傭兵だ。何にも属さない。国の話は国同士でやってくれないか?」

「そうだよ。あんな奴らと戦うのなんて僕はゴメンだね。全然報酬と釣り合ってないよ。大体、命がいくつあっても足りはしない」


 ライナーは何かを思い出したのか青い顔をしている。


「それについてなんだが、魔王軍のミクという女はそれ程なのか?」

「あぁクルト、あの女はヤバイ。僕だって死んだと思ったよ。恐らくだがクルトが見たヴァンパイアの少女も似たような化物だろうさ。だけどそれよりも――」


 2人の会話にリグンは割って入るように口を開く。


「魔王ディーク……」


 今でも目に焼き付いている。あの悪魔のような召喚師ミクを簡単に押さえつけた男――

 一体何をされたのだろうか? あの一瞬は本当に時が止まったように全ての者の行動が止まっていた。

 攻撃を仕掛けたミクの化物も全て止まっていたことから何かしらの方法でディークが止めたことは間違いないだろう。

 

 特に凄い魔力は感じ取ることが出来なかった。しかしそれが逆に恐ろしかったのだ。

 言い換えれば強い魔力を消化せずにミクを止めたことになる。底の知れないものほど恐ろしいということだ。

 

 難しい顔をして考え込むリグンに対してガレットは嬉しそうに話しだした。


「話をまとめましょう。いま現在の大きな問題は2つだ。1つは聖剣の紛失とアレス・ダニエルを失ったこと。もう1つはアレスを葬った魔王軍が予想を遥かに超えた力をもっていたことだ。まずは最初の問題である聖剣についてどうするか決めたほうがいいかと」

 

 ガレットはそこまで言うと「次はどうぞ」と言わんばかりにリグン手の平を差し出す。


「聖剣に関してはもう隠し通すことはできない。魔王軍が聖剣の入手を発表する前にこちらから奪われたこととアレスの死亡を発表する」


 戦争にアレス・ダニエルが参加しなかったことで、王国全体に変な噂が流れはじめている。これ以上隠すことは自滅につながりかねないだろう。 

 それに隠している状態で魔王軍から発表されるよりマシである。

 

「他の国は大丈夫ですかね?」

「まだこちらにはグリモアがある。戦争で唱えたメテオレインのおかげでこちらも切り札があることを見せつけることができた。これは十分な抑止力となるだろう」

「なるほど……では魔王軍については?」

「はっきり言って魔王軍にいたってはまだまだ戦力の底が見えない。現状、魔王軍と戦闘になるような状態は避けなければならん。魔王軍の目的が何なのか不明だがこちらも来るべき時のために出来る限りの軍の強化を行う他あるまい」


 魔王軍から停戦を持ちかけてきたことから、相手も何かしらの問題を抱えていたのだろう。そしてエルドナの援軍として参加したことからエルドナトは友好関係にあるとみて間違いないはずだ。

 そうなればエルドナには既にアレスの死を知られている可能性が高い。

 何よりも今後、圧倒的な力を持つ魔王軍に対して対策は立てておかなければならない。


 ガレットは蔓延の笑みで、


「で? 具体的な軍の強化とは何ですか?」


 答えは分かっているような口ぶりだ。しかしリグンはこの状況を打破できる方法は他に思いつかなかった。


「以前話していた研究を許可しよう。それと今後必要な物があれば優先的にそちらにまわす」


 ガレットは強く拳を握りしめ小さく震えだす。これは歓喜による震えだ。

 

「フフフ……やはり化物を殺すにはこちらも人を超える力が必要――クックック……大丈夫ですよリグン様、私の研究に間違いはない。最高で最強の軍を作ってみせる」

「期待しているぞ。こちらはそれまでグリモアの魔力をもっと貯めておくとしよう」

「しかし、研究を早く進めるためには、それなりにまとまった(実験材料)の確保が必要ですが――」

「それはこちらに任せておけ、国全体が動けばそんなものいくらでも補充はきく」

「了解――これから忙しくなりそうだ」


 ガレットはよほど嬉しいのか本人にしか聞こえない声でブツブツとつぶやきだした。

 切り札であるグリモアの魔力は貯めていて損することはない。ガレットの研究でできた死体を上手く使えば効率よく貯めることができるだろう。

 こうなってはなりふり構っていられない。アレスを失った今、何としても代わりになる誰かを立てなければ軍全体の士気も上がらないからだ。


 リグンはクルトに視線を移すと、全く興味なさそうな態度で前髪を手でいじっていた。


「クルト、黒翼兵団は今後どうするのだ?」

「ん? どうするとはどういう意味かな」

「世界は大きく動き出した。今後どんなことが起こるのか全く分からない現状でどう動く?」


 リグンは探るように問いかける。

 一番心配しているのは黒翼兵団が魔王軍に付くことである。はっきり言っていまのフランクア王国に黒翼兵団が付くメリットは何もないだろう。

 黒翼兵団はフランク軍とは違い傭兵団である。戦争では魔王軍と敵対関係にあったが雇われていただけにしかすぎない。何とでも言いようはある。

 

 クルトはそんなリグンの心の内を察したかのようにクスリと笑うと、


「大丈夫、心配はいらない。俺達も目的はある。こことは長い付き合いだからね。それに情報がない状態で簡単に魔王に尻尾を振ったりはしないよ。黒翼兵団はまず魔王軍の情報を集めることにするよ」


 何故、今になって魔王軍として現れたのか? 本拠地はどこにあるのかなど一切不明だ。なによりあれ程の者が今まで何故表にでてこなかったのかが分からなかった。

 

「いいだろう――ならばこちらもそれに協力しよう」


 クルトは了解の意味を込め軽く手をあげると、ライナーに一瞬視線を飛ばした。

 するとライナーは立ち上がり、


「さてと、では僕達もお仕事に出かけるとするかな」


 両手を伸ばし大きく背伸びをすると、ライナーはクルトと一緒に部屋を出ていった。

 ガレットと2人だけになった部屋にしばしの沈黙が続くと、


「リグン様、黒翼は信用できるんですかい?」


 リグンは苦笑いをしながら、


「そのセリフをお前が言うのか?」


 しかしリグンの言葉にガレットが口を開こうとした瞬間、扉が勢いよく開かれた。


「た、大変でございます!」


 大きな声とともに入ってきたのは一般兵だ。酷く慌てた様子で大きく息を切らせていた。

 この部屋は一般の兵士の出入りは固く禁止されている。普通であれば軍規違反として捕らえられてもおかしくない。

 それは情報の漏洩は死を招くことをよく分かっているからだ。

 しかしリグンにそれを咎める様子はない。


「なにがあった?」

 

 リグンは分かっていた。兵士だってバカではない。よほど重要な事態が起こったのだろう。


「ただ今、情報員からの伝達が入りました! これを見てください」


 兵士は何かが書かれた手紙をテーブの上に置くとリグンはそれを手に取った。

 リグンの視線が手紙の上から下へと移動していくにつれて表情が歓喜へと変わっていく――


「クックック……ガレットこれを見てみろ」 

 

 リグンは持っていた手紙をガレットの前に投げるとガレットはすぐにそれに目を通した。


「このタイミングで……」


 ガレットとリグンは視線を合わると互いに笑みをこぼす。


「ガレット、やはり神は我々についているようだ」



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