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ブラッド・ZERO  作者:
第二章 学園編
54/119

第54話  終わりと始まり

 エルドナ王国の南北で行われた激しい戦いの被害は、王国にとっては小さく、ルータス達にとっては、とても大きなものとなり終結を迎えた。


 エルドナ軍の死者は驚くほど少なく、大きな被害といえるものはリグンが唱えた“メテオレイン”によるものだけである。

 メテオは全部で3発降り注ぎ、一発は南門の壁を破壊し、もう二発は街の建物などを大きく破壊した。

 しかし幸いにも避難が完了した後だったため、メテオによる死亡者は1人もいなかったのだ。

 今回ほど大きな規模の戦争でこれほどまでに被害が少ないことは、まさに奇跡と言っていいだろう。

 

 そしてこれが魔王軍として初めてとなる戦闘となった。

 ディークの思惑通り魔王ディーク名前は世界中に広がることとなり、今や各国ではディークの話題で持ちきりであった。

 突然現れた圧倒的な力、謎の魔王として噂は独り歩きしていくほどに――

   

 しかし問題もあった。それはエルドナ南門での戦闘が原因である。

 ミクによる圧倒的な虐殺行為は人々を恐怖の底に陥れるに十分だったのだ。

 人は自分達が十分に扱えて都合の良い勢力には歩み寄ろうとするが、そうでなければ良い顔はしないものである。



 そしてルータス達はエリオットという大きな犠牲を払い心に深い傷跡を残す。

 学園内でもエリオットの件をふれる者はいなく、ある種のタブーとなっていたが、4人となってしまったマヤカ班は前までの賑やかさは見られない。

 どこかぽっかりと穴の空いた気持ちのまま季節は流れ冬へ――




 慌ただしい教室の中ルータスはテーブルに肘をつきながら大きなあくびをした。

 今日は特別な日であるため至る所から騒がしい声が聞こえる。しかしルータスの正面に座っているスコールは、そんな雑音の世界から切り離されたように本の世界へ入り込んでいた。

 そんなスコールを感心しながら、


「コー君はよくもまぁ、熱心にそんな難しい本を読めるな」

 

 スコールは本を開いたまま視線だけをルータスに向けると、


「何を言っている。お前はこの本がどれほど凄い物か全く分かっていないようだな。この本は人類が求め続けて止まなかった叡智の結晶と言っていいだろう」

「そりゃぁディーク様が書き残した魔導書なんだから、凄いのは分かるけどさ」

「これで初級らしい。最初は全く分からなかったが、最近やっと理解出来はじめたぜ」

「ん? 分からないなら先生に聞けばいいじゃん」 


 その言葉を聞くなりスコールはため息混じりに口を開く。


「そんなこと言ってるからお前はバカなんだよ。勉強ってのはな、答えを覚えることじゃない。なぜその答えになったのかを理解することだ」

「へーへーそうかい」


 興味なさそうな返事をしながら椅子に深く腰掛けると、ゆっくりと教室を見渡す。

 ここは一年前から何も変わっていないな――

 学園へ来て早一年が経過し、ルータスを取り巻く環境は目まぐるしく変わっていった。

 しかしこの教室、いや、校舎だけは一年前と何も変わっていない。そしてこれからもアルフォード学園は、長い歴史の中を変わることなく見守り続けることだろう。

 ルータスは天井を見つめながら、


「コー君、約束の日は今日だな」

    

 パタンと本を閉じる音が聞こえる。


「あぁ、そうだな。こうしてみると早いものだな」


 ゴーンと大きな鐘がなった。その鐘の音は大きく、3回に分けてアルフォード学園全体を包み込んだ。

 この鐘の音は1年の始まりと終わりを告げる音である。つまり今この瞬間から新しい一年が始まるのだ。


「お、そろそろ時間だ。行くかマヤカさんの所へ」


 ルータス達は立ち上がった。1級生であったマヤカはこの音と共に卒業となるのだ。

 卒業と言ってもアルフォード学園では卒業式などは行ってはいない。卒業生は班の仲間に見送られ学園を後にするのが昔からの仕来りらしい。

 ルータス達もマヤカの卒業を祝うために今から学園の門の前に集まることとなっていた。


 外に出ると、同じように1級生の卒業を祝うために学園中が動き出し人混みで溢れかえっていた。

 目の前には大きな門が見え、その向こうには、マヤカとアイの姿が見える。ルータス達が近づくとアイが気づきこちらに手を振ってきた。


「お兄ちゃーん!」


 騒がしい周りの音に負けないくらいの大きな声にルータスは少し微笑みマヤカの元へ行くと。


「マヤカさん卒業おめでとう。凄いですね城勤めなんて」

 

 城勤めは皆が憧れるエリートである。学園の中でも特に成績の良かった上位の者しか入ることが出来ない狭き門だ。

 マヤカ班の班長であったマヤカは、数々の戦いの功績が認められ多くの単位を取得できた。


「そんなことないわ。貴方達のおかげよ。本当に感謝してるわ」


 マヤカはスコールに手を伸ばすと二人の間には硬い握手が交わされる。


「今年からはコーが班長ね。あまり偉そうにしちゃダメよ」

「分かってるよ」


 スコールは苦笑いをしながらそう言うと、次にマヤカはルータスと握手を交わす。


「最初はどうなるかと思ったけど、いつの間にかコーとは仲良しになっていたわね。これからもコーの力になってあげてね」


 ルータスは無言で頷いた。そして最後にマヤカはアイへ――


「アイちゃんは絶対に将来、凄い魔法使いになるわ。私が保証する」

「うん! アイは頑張るから!」


 3人と握手を交わしたマヤカは校舎を見上げながら、


「これで私も卒業か……でも、私はこの班を忘れないわ。この先、何処で出会おうとも私達は仲間だから……もちろんエリオットも――」


 マヤカの声が震え目には涙が浮かんでいる。


「ここに5人集まれなかったのは本当に残念で悔しいけど、死んでいったアイツの分も私達は精一杯生きていきましょう」


 マヤカの言葉に3人は大きく頷いた。

 ルータスも胸が熱くなりその目からは一筋の涙がこぼれ落ちる。


「僕は、この一年マヤカさんと同じ班になれたことを誇りに思う。そして絶対に忘れないと誓うよ」


 ルータスの言葉にマヤカは笑いながら、


「バカね。二度と会えなくなる訳じゃないでしょ。街で出会ったら声かけてね」

「あぁ」

「次合う時を楽しみにしてるから――」

 

 そして3人に見送られマヤカは卒業していった。

 3人は門から離れていくマヤカの背中が見えなくなるまでずっと手を振り続けた。

 そして――


 


 日が沈み始め空が赤く染まりだす頃――

 ルータス達3人は学園の広場にいた。学園は昼間の騒がしさが嘘のように静まり返り、人の姿は見えない。

 

「今日で終りとなるとなんだか寂しいな」

「だな。でも、これからが俺達の本当の戦いだ」

「そうだな。じゃぁ行くか! アイ頼む」


 ルータスの声にアイは手をかざし、

   

「はいよ! “ゲート”」


 声とともにアイの前には大きな穴が広がった。

 そしてゲートの先には見慣れた魔王城が広がっていて入口の前にはミシェルが立っていた。

 ミシェルはスコールの顔に視線を移し、

 

「あの時よりも大分、剣士らしい顔になったじゃない。期待してるわ」


 スコールも微笑みながら、


「はい――」


 ルータスは振り返り校舎を見上げると、


「ありがとうアルフォード学園! 本当に楽しかったよ!」


 その声とともにゲートは閉じ3人の姿は消えた――


 この日をもってマヤカ班の、


 マヤカ・ルンベル、スコール・フィリット、ルータス・エミール、エリオット・リー、アィーシャ・エミール 

 

 の五名は、それぞれがアルフォード学園から姿を消すこととなった。


 スコールは魔王軍初の純血として仲間に加わることになりルータス達の長い学園生活はこれで幕を閉じる――

第二章 学園編はこれで終わりです。

心の成長をテーマに書いてみましたが中々思うように行きませんでした。

変なところも多々ありますが第3章もよろしくお願いします。

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