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ブラッド・ZERO  作者:
第二章 学園編
53/119

第53話  研究所4

「ま、まさか……アレス……」


 ルータスは全てを察した――


 何処かで会ったような見た目、ルータスに対する強い殺気、これらが意味するのは、ロック・ダニエルはアレス・ダニエルの息子――


 兄弟という点も考えられるが、アレスの年齢は見たところ20代後半から30代半ばくらいであった。

 ロックはルータスと同じような年齢であることから兄弟の可能性は低いといえる。

 それに何よりロックからはアレスの面影があった。それが直感的に親子であるといっていたのだ。


「ロック君に真相がどうしても知りたいって頼まれちゃってね。せっかくここまで来たんだ。ルータス君、あの日、何があったのかを話してくれるかい?」


 ガレットは声を弾ませとても嬉しそうだ。そんなガレットを横目にロックは一歩前に出ると、


「答えろ。父さんを殺したのは誰だ?」


 ロックの声からは恨み以外の感情は読み取れない。

 よほど父のことを愛していた――いや、尊敬していたといったほうが正しいのかもしれない。 


「それを知ってどうするつもりだ?」

「俺がこの手で殺してやる」


 ロックの言葉を聞くなりルータスは剣を抜くと、


「クックック……そうか、知りたいのであれば力ずくで聞き出してみろ。だが、せっかくだ――」


 ルータス魔剣レヴァノンをロックに見せると。


「アレス・ダニエルを斬ったのはこの剣だ」

「そうか――」


 ロックは憤怒により顔を歪めながら剣をルータスに向けた。

 ルータスがアレスを殺した訳ではないが、一々説明してやる義理などはない。何よりここは恨みの矛先を自分に向けておいたほうが好都合である。


「復讐――いいじゃないか。恨みや憎しみは何よりも人を強くするんだ。この僕もそうだったようにな!」


 ルータスの心臓は大きく波打つと、左目は赤く輝きだした。自分の中に眠っていたヴァンパイアの力を開放させると左半身には黒いアザが浮かび上がった。

 体中に駆け巡る魔王の血が力を溢れさせる。


「そ、その目はヴァンパイアか!」


 そのルータスの急激な変化にガレットとロックは驚愕し固まっている。

 しかしルータスの目には敵の前でスキをさらけ出した愚かな人間としか映っていない。


 溢れ出る力を足に集中させ一気に爆発させると、大きな音とともにロックに向かって斬りかかる。

 その一連の行動に考えなどなかった。ただ純粋に力一杯に踏み込み力一杯に剣を振り下ろしただけである。

 しかし凄まじい身体能力の前では単純な攻撃ほど威力を発揮する。ロックの目にはいきなりルータスが目の前に現れたように写ったのだ。


 だがロックも剣を立て、防御の体制を取った。

 力任せの一撃は大きな音を上げながらロッグのガードもろとも吹っ飛ばし激しく壁に叩きつけた。


「どうした? お前の父はもっともっと凄かったぞ」


 その言葉にロックはピクリと反応を示す。そしてゆっくりと立ち上がり冷たい笑みを浮かべると、


「あまり調子にのるなよ」


 次の瞬間、ルータスの視界にヒビが入り、嫌な音とともに“シールド”は砕け散った。

 今の一撃、太刀筋が見えなかった――

 確実に不意を付いたと思った。間違いなく自分の攻撃はロックにとって予想外だったはず。

 だが、ロックはその攻撃を難なくさばきルータスに一撃を入れた事になる。

 シールドがなければ間違いなく大きな傷を負っていたであろう一撃を――


「面白い……僕の血とお前の憎しみ、どちらが上かはっきりさせようじゃないか」

 

 ロックは剣に闘気を集中させると上半身を低く構えながら一気に駆けてきた。生身の人間とは思えない速さだ。


「うおおおおお!」


 ロックの大きな声とともに繰り出される斬、斬、斬――

 あまりに早い剣は無数のかまいたちのごとくルータスに襲いかかった。

 金属のぶつかる音が響きルータスは防戦一方になる。

 

 なるほど――


 ルータスはニヤリとほくそ笑む。

 ロックの攻撃は、流石アレス・ダニエルの息子だけあって同じような歳とは思えない速さである。

 恐らくロックも、スコールと同じ天才タイプの剣士だ。

 だが、付いていなないほどの速さではなく、重さがなかった。つまりこれはルータスの方が一撃の威力は大きいということである。


 一度こちらが攻撃にさえ回れば力で押し切れるはず――

 

 ルータスは剣に闘気を込めるとレヴァノンはその闘気に答えるように力を高めていく。

 そして思いっきり下から上へと斬り上げた。

 全力の闘気をまとったレヴァノンの一撃はロックのガードもろとも突き破り致命傷を与えるに十分な威力があった。


 つまりロックはこの一撃をかわすしかないのだ。

 だがロックの間合いはルータスの間合いでもある。攻撃に転じていたロックはこの一撃はかわすことはできない。

 レヴァノンがロックを捕らえたかに思えた瞬間、ロックはニヤリと笑った。


「フルドライブ――」


 ロックの剣は一気に輝きを強めルータスの剣を大きく弾いた。ルータスは予想外の強力な攻撃に大きく体勢を崩しそうになるが何とか踏みとどまる。

 だがすでにロックの追撃は放たれていた。真横に払われた一撃をルータスは剣でを立てて防ごうとしたその時――


「くっ!」


 ロックの剣がいきなり加速しルータスの左太ももを斬り裂いた。

 だがルータスもそれに合わせ前に出る。そしてレヴァノンを振り下ろすとロックは素早く横へとかわす。

 それを待っていたかのようにルータスは勢に合わせてくるりと回ると、そのまま右足で思いっきりロックの顔面に蹴りを叩き込んだ。

 完璧に捕らえたルータスの回し蹴りをくらいロックは大きく吹っ飛んだ。


 剣武か――

 流石としか言いようがなかった。自分の弱点は剣武でカバーし攻防にバランスの取れた強敵である。

 今殺しておかなければ間違いなく脅威となるだろう。


 埃を巻き上げ吹っ飛んだ先を見つめる。

 できればこのまま倒れていてほしい――

 先程斬られた場所が少し遅れてズキズキと痛みが登ってきたのだ。 

 

 だがルータスの願いは届かずロックはすぐに立ち上がった。

 だが、流石にダメージは隠しきれず足元がすこしふらついているのが分かった。

 お互いすぐに剣を構え睨み合い沈黙が続く――


「素晴らしい! 素晴らしい身体能力だ!」


 その中に割って入るように声を上げたのはガレットだった。頭を抱えながら驚愕に打ち震えている。


「ルータス君! 君も人外じゃないか! その力は一体どんな改造を受けて手に入れたのだい?」


 ルータスも何かしらの改造を受けた改造人間だと思っているようだ。ルータスは先程の金髪の男を思い出す。


「あんなものと一緒にするな。これは我が主の眷属となった僕の大切な証だ」


 不快感を露わにしながらガレットに強い殺気を飛ばすが、ガレットは全く物怖じしない。

 どうやら殺気にすら気づかないほど興奮し、研究心、好奇心が答えを欲しっているようだ。


「身体に改造を行わずに!? それは凄いぞ! 私の研究では確かに強い力を得ることが出来るが、細胞が活発な若い個体でないと移植は成功しない。それに――」


 せきを切ったように話だしたガレットだったが、その声を遮るように魔法陣が現れる。

 その中に現れたのは先程の金髪の男だった。

 胸に大きな傷を負い現れるとともに膝を付き息は荒い。スコールにやられ逃げてきたのだろう。


「スパイク!」


 この時初めて人らしい感情のこもった声をあげるロック。

 すぐにロックはスパイクに詰め寄り傷を見るなり怒りで歯を食いしばっている。

 ガレットは傷だらけのスパイクに視線を移す。その視線には感情は一切感じられず実験対象を観察している研究者でしかなかった。


「これはスコール君がやったのかな? 彼も君と同じ眷属なのかい?」

「コー君はエルフだ。僕達の組織とは関係ない」

「ほー! 生身でスパイク君にこれほどの傷を負わせられるとは……流石、アルフォード学園の天才と言われるだけはあるね」

「当たり前だ。僕が認めたライバルがそんな失敗作に負けるか!」


 ルータスの言葉一つ一つに嬉しそうな反応を示すガレットに苛立ちを覚える。

 ガレットにとってはエルフも人間も全て等しく、ただの実験対象でしかないのだろう。


 そんな中、後ろから足音ともにルータスを呼ぶ聞き慣れた声が耳に飛び込んできた。それはスコールとアイの声だ。

 ルータスはスコールの大きな傷に見るなり、


「コー君、その傷――」


 スコールはそんなルータスの声を手で遮ると、


「心配ない。それよりもガレット、お前が今回の黒幕だったとはな」


 ガレットはスコールの声に全く反応を示さない。ただ一点を凄い形相で見ている。それはアイの左目だった。


「アイ君! 教えてくれ! その瞳は何だ!? どうやってそんな強力で複雑な術式をつくったんだ! 一生のお願いだ。私にその左目をくれないか!」


 狂ったように叫びだしたガレットにアイは変な恐怖を覚えたのか、ルータスの背中に隠れた。

 ガレットは荒い息を大きく深呼吸しながら整えると、


「私としたことが、取り乱してしまった――ロック君、スパイク君、我々の目的は果たした。ここはスパイク君の手当も含め逃げたほうが良さそうだ」

「分かりました。博士……」


 ガレットはスパイクの前に立つと一枚のスクロールを出した。そしてすぐに効果は発動され魔法陣が展開される。


「待て! 逃がすかよ!」

「ほっとけ! 今はエリオットが先だろうが!」


 怒りをあらわにしながらルータスは突っ込もうとするも後ろからスコールに掴まれ止められた。

 ロックは鋭い視線を向け、


「お前たちは絶対に俺が殺してやる! いいか、絶対にだ!」


 そして光とともに3人の姿は消えるとスコールが口を開く。


「あいつは何者だ?」

「ロック・ダニエル――」


 その名前を聞くとスコールは同情に近い表情をしながら一言だけつぶやいた。


「そうか……」




 そしてすぐに3人は次の行動を開始する。


 ルータス達は大部屋の奥にある小さな扉へ走り中へと入る――


 中は小さな部屋で今までの大部屋とは違い何やら色々な機材で溢れかえっている。部屋の中はその機材が上げる小さな音と消毒液のような少し鼻につく臭いが充満している。

 そしてその中心にエリオットはいた。


 それをエリオットと呼んでいいのだろうか。それ程に変わり果てた姿へとなったエリオットに3人は息を飲む。

 エリオットの頭には複数の金属の棒が刺さり首から下は何もない。そして首からは複数の管が機材へとつながっている。

 機材には大きなガラス管があり、その中には透明な液体に浮かぶ心臓が大きく波打っていた。

 まだ生きてはいるようだ。しかしこれを生きていると呼べるのだろうか?


 変わり果てたエリオットの姿に3人は言葉が出なかった。いや、この状況を目にして冷静な判断が出来るものなどいないだろう。

 ルータスの手から力なくレヴァノンが滑り落ち金属音が部屋に響く。


「そ、だ……うそだあああああ!」


 悲痛なルータスの叫びに答えるものはいない。そんなルータスの声にエリオットは反応を示した。首だけの状態で声もなくゆっくりと口だけが動く。


 こ、ろ、し、て……


 それは口が示した言葉――


 ルータスの視界が一気に曇った。溢れ出る涙で前が見えない。その涙を袖で拭き取ると落としたレヴァノンを拾い一歩前に出る。

 だがそれを見るなりアイはエリオットをかばうように両手を広げルータスの前に立ちはだかると、


「お兄ちゃん! 何をするの!? まさかエリオット君を殺すの!? させない……絶対にそんなことさせない!」

「そこをどくんだアイ」


 ルータスは静かにそう言うと、アイは首を横におおきく振る。


「ディーク様なら何とかしてくれる! 今すぐ呼びに行こう!」


 ルータスの場合と違って、ほとんど人体を残していないエリオットを救うことが出来るとは思えない。

 アイだってそれは分かっているはずである。そんなアイを諭すようにスコールが口を開いた。


「この装置は止まりかけている。恐らくガレットの魔力供給が絶たれた為だろう。お前は友の死に目に会えなくてもいいのか? 友の最後の願いだ――」

「もういい! だったらアイが何とかする!」


 アイは泣きながら振り返り叫ぶ。


“ヒール” 


 魔法は発動されるが今のエリオットには何の効果もない。


「何で治らないの!? “ヒール ヒール ヒール ヒール”――」


 何度も何度も叫びながら回復魔法を唱えるアイをスコールは後ろから抱きしめると、


「もういい、やめてくれ……」


 振り絞り出された震える声にアイは力なく膝をつく。

 しかしそんなアイの回復魔法は10秒だけの奇跡をおこした。


「ア、イ……ん。き……てく……た」


 ほとんど聞こえない位の小さな声だったが確かにエリオットの声が聞こえた。ルータスはアイに向かって、


「エリオットはアイが大好きだったんだ。最後だけはそばに居てやってくれ」


 アイはエリオットに振り向くと、


「アイも大好きだよ! エリオット君!」


 アイに声が響くもエリオットはもう声を出すことはなかった。ルータスはレヴァノンを振り上げる――

 友として、親友としてルータスはエリオットをこの地獄から救ってやらなければならない。

 それが今できるルータスの精一杯のことだ。


 ガレットなんかに殺させはしない。最後だけは僕の手で――


 だが剣を構えるルータスの頭に次々にエリオットとの思い出が駆け巡る。

 語り合った冒険者の夢や楽しかった学園での出来事、その記憶の中のエリオットは凄く楽しそうに笑っていて、今向き合っている現実を忘れさせるほどだ。

 ルータスは腕が震えるのが分かる。


 何で、何でこんな時に限って思い出しやがるんだ――


 必死で耐えていた何かが崩れそうになる。そんなルータスにスコールは無言で首を横に振った。


「エリオット……君の夢も、君への罪も、僕は全部背負って生きていくよ」


 そして剣は振り下ろされた――


 アイは座り込み悲痛な泣き声が部屋全体を包む。

 スコールは振り下ろしたルータスの手に自分の手を重ねると、


「お前だけじゃない……俺だって一緒に背負おう」

「ありがとう」


 ルータスはかすれた声で一言だけ呟くとそれ以上は声にならなかった。

 スコールはエリオットの前に立ち刀を前に突き出した。


「今からこの刀の名はエリオットだ。お前と……お前の夢も一緒に俺が連れて行く。嫌だとは言わせないからな!」


 するとスコールはゆっくりと振り返り、


「ルータス、俺にもやっと分かったぞ」


 ルータスは何を言っているのか分からずに顔を上げると、


「全てを捨てる覚悟ってやつがだ――」


 そのスコールの力強く放たれた言葉には決意にも似た何かがあった。

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