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ブラッド・ZERO  作者:
第二章 学園編
51/119

第51話  研究所2

 キマイラに乗った3人は高く飛び上がり研究所目掛けて急降下した。風とともにぐんぐん研究所が大きくなっていく。

 真ん中に乗っていたスコールは目の前のアイに向かって叫ぶ。


「アイ! 外の敵の排除を任せるぞ!」

「分かったよ!」


 次にスコールは後ろのルータスへと振り返り、


「アイが後方からの追撃を排除してくれている間に俺達は中へ突っ込むぞ!」

「ああ!」 


 外の敵を排除しなければ中へ突入した時に、後方から挟み撃ちされる危険があるため、何としても後方に1人置いて置かなければならない。

 外の敵の数はかなり数で魔法陣から次々に出現するためタチが悪い。

 だがアイであれば強力な範囲魔法を駆使して敵を倒すことができる。そして外であるためアイの能力を十分に発揮でき、3人の中では一番うってつけだ。

 

 研究所の中がどの程度の規模なのか分かればもっと具体的な作戦も立てられたのだがそう上手くも行かない。

 極秘の研究所だ。そこまで広くはないと願いたい――

  

 キマイラは大きな音を立てながら地鳴りとともに地面へと着地すると、モンスターはスコール達を外敵と判断したのか、近づく無数の足音が耳に飛び込んできた。

 スコールはキマイラから飛び降りながら、


「アイ! 後は任せたぞ! 排除ができ次第、俺達の応援に来てくれ!」

 

 スコールの言葉にアイの返事はなく、親指を突き立てて返してきた。そしてアイの左目はステグマの輝きをまといながら空へと飛び立つ。


「ブルーノ! いくよ!」


 アイの声を背にスコールとルータスは振り返ることなく入り口に向かって一気に走った。しかしすでに目の前には3匹のモンスターが行く手を阻んでいた。

 体中に血管が浮き上がった人間のような姿で、目は大きく見開かれ真っ赤に充血している。

 衣類などは身につけておらず口からは、よだれをたらし変な呻きを上げていた。

 モンスターなのかすら分からないが、見れば見るほど気持ち悪いモンスターだ。


 自我があるようにはとても見えなかったが、間違いなくこちらを敵と認識しているようだ。

 前に走るルータスは剣を構えモンスターに突っ込む――そして上半身を少しだけねじり一気に薙ぎ払うと、2匹のモンスターは甲高い叫び声を上げながら上半身と下半身は分かれ真っ二つになった。

 モンスターは人と同じ真っ赤な血しぶきを上げながら転がりその目からは生気が消えていく。

 

 しかし間一髪入れずに後1匹のモンスターは大きく飛び上がり次はスコールに襲いかかってきた。

 スコールは刀を持つ手に力を込めると、鞘から抜くと同時に下から上へと大きく斬り上げた――


 その放たれた一刀は正に神速だった。敵に触れると同時に手に伝わった柔らかい物を撫でる感触――

 川の流れに逆らわず剣を振り抜いたような感覚と共に、モンスターの背中から大量の真っ赤な血を吹き出し左右に分かれ血の雨を降らせた。


 スコールは自分が放ったとは思えないほどの斬撃に思わず目を見開いてしまった。

 初めて手にした殺すために作られた武器である。


 剣――それは剣士にとって相棒であり、それを失うことは命をなくすと言っても過言ではない。

 己の強さを最大に引き出せるものが強い剣であり、強い剣の性能を最大に引き出すのは己の強さである。

 世界中の強者達がより強い剣を求めるのはその為だ。どちらが欠けた状態で勝ち取れる敵など真の強者ではないだろう。


 そんな武器を手にしたスコールの一撃は正に今まで放ったどの斬撃よりも鋭かった。

 建物にツタが絡みついていたが入り口のところだけは刈り取られなくなっている。スコール達は一気に入り口に駆け込むと建物の内部は地下へと降りる階段だけがあった。

 不気味に死の口を開く階段を駆け下りると同時に外で大きな爆発音が響く。

 その音の大きさからアイの戦闘の激しさが伝わってくる。


 階段の先には大きな扉が見えスコールは一気に前に出るとその扉を蹴破った瞬間――

 薄暗い中で何かが同時に襲い掛かってきたのだ。

 その何かは殺気を放ちながら武器をスコールに振り下すもスコールの身体能力は、敵を大きく上回っていた。武器はスコールをとらえることなく空を切り金属音とともに地面に刺る。

 その一瞬のスキをスコールは見逃す筈はなく、武器を抜く――

 

 左下から右上に斜めに斬り上げた一撃は敵の腕から首にかけてバッサリと斬り裂くと。


「ぎゃああああ!」


 敵は大きな叫び声を上げながらそのまま後ろへ倒れた。


 ――声?


 スコールはその倒れた敵が何なのか理解すると同時に呆然と立ち尽くす。


 それは――フランクア王国の人間だ。そう、人であった――


 バックリと裂けた場所からは大量の血が溢れ体中ビクビクと痙攣している。口からは血混じりの泡を吹き少しずつその動きは遅くなっていった。

 そして最後には瞳から光を失いその生命は完全に付きたのだ。


 初めて人を殺した――


 手に残る生々しい感触。

 人と分かっただけでこれほどに違うものなのか。スコールは刀をもった手が震えていることに気づく、


「コー君、何かあったのか?」


 立ち尽くしているスコールを不思議そうに見つめるルータスに気づくと刀を強く握りしめた。

 こんなことで一々立ち止まっていられない。剣士である以上この先いくらでも死に関わることはあるだろう。


「いや、なんでもない。先へ急ごう」

 

 再び走り出したスコール達の先には光が見え、2人はその中に飛び込むと中は大きな部屋になっていた。 

 部屋というより真四角にくり抜いた岩の中といったほうが正しいだろう。

 そして目の前には敵と思われる人間が立っていた。そして視線が合うなり男は嬉しそうに、


「やぁ、ようこそ俺の実験台」


 年齢は若くマントを羽織っており、金髪の逆だった短髪が特徴的な剣士だ。大柄な体格で背中に大剣を背負っている。

 

「エリオットはどこだ!」

 

 ルータスが叫ぶと男は立ち上がり、


「あぁ、少し前の彼のことか。それなら一応この先にいるぜ? ここを通れたらの話だけどな」


 男は手で小さく合図をすると先程の4匹のモンスターが現れた。

 しかし現れたモンスターには先程とは違い防具を身にまとい武器を握りしめ二本の足で立っている。

 恐らく先程の上位種と言ったところであろう。


「お前を殺して先に進む」


 ルータスは凄まじい殺気を放ちながら剣に力を込める。その姿を見た男は一歩前に出ると嬉しそうに両手を広げ、


「中々いい殺気じゃないか。お前は知っているか? 人の限界を――決して才能や努力などでは手に入らない力を――」


 そう言いながら男は首元に手をあてる。するとパチンと音を立てながらマントは下に落ちた。

  

「な、なんだ……お前は……」


 スコールは言葉とともに息を呑んだ。

 それは人間とは思えない男の姿だった。男の胸には黒い玉のような物が埋め込まれ心臓のように鼓動している。そしてそれを中心に先程のモンスター同様の血管が浮き上がっていた。

 血管は黒い玉の鼓動に合わせて波打ちドス黒い何かが体中を駆け巡っている。


 2人の驚いた表情に満足したのか、男は得意気に、


「これは魔王アルガノフの細胞の一部だ」

「なんだと?」

「博士の研究のおかげで俺達は、魔王アルガノフの細胞を移植することにより強大な力を手に入れたのだ」

「博士? レイモンド博士のことか!?」


 スコールの問に不敵な笑みで返す男は更に続け、


「いっても、そのほとんどは逆に取り込まれ自我を失いゲノムとなってしまうがな。俺は選ばれた人間なんだよ。やっと生身の人を殺せると思うと嬉しくてウズウズするね」


 ゲノム――まさか、変なモンスターはその実験の成れの果てというのか?

 あれほどいたゲノムと呼ばれたモンスターの多さにスコールの背中に寒い何かが走った。

 だが、男から感じる強い力は紛れもなく本物だ。なるほど――実験台とはそういうことか。

 すると男はスコールを指差しながら、


「お前はスコールだろ? 隣の奴はルータスだったかな?」

「なぜ知っている……」


 スコールは怒りをあらわにしながら睨みつけるが男はヘラヘラ笑って返した。

 そんなこと聞かなくても分かっている。エリオットを拷問して聞き出したに違いないからだ。


「ルータス、ここは俺に任せて早くエリオットの元へ行くんだ。俺もすぐに追いかける」

「敵は強いぞ、ここは2人でかかろう」


 ルータスの提案にスコールは首を横に振る。エリオットは拷問による怪我をしていると見て間違いないだろう。早く行かなければ手遅れになるかもしれない。


「大丈夫だ。俺だってエリートだ。命に代えてもなんとかするさ」

「通しはしないぜ? お前ごとき1人で俺の相手が勤まるかよ!」


 会話に割って入った男は失笑している。

 スコールはルータスに目配せをするとルータスは大きく頷いた。

 そして次の瞬間、2人は前に走り出す――


「そうはさせないぜ!」


 男は後ろの通路を塞ぐように下がると大きく構える。

 しかしスコールとルータスの走る先は、4体のゲノムの元だ。2人は剣を抜き一気に距離を詰める。

 敵は先程の会話から、ルータスが逃げるものと思っていたようで、完全に不意を付かれ大きなスキをさらけ出す。


 そう、先程の合図はこの不意打ちの合図だったのだ。

 普通ならこんなことはしない。目だけの合図で、もし意思の疎通が叶わなければスキを生むのはこっちだからだ。

 だがスコールは間違いなくルータスであれば大丈夫といった確信があったのだ。

 それに根拠などはない。あるのは純粋にいくつもの死戦を共に越えてきた仲間への信頼だけだ。


 スコールは走りながら流れるような剣さばきで左右に振り抜くと、2体ゲノムは首から真っ赤な血しぶきを上げゆっくりと倒れた。

 それとほぼ同時にルータスもゲノム2対を倒し敵の倒れる音が響く――


「お前達! はかったな!」


 男は怒りを露わにしながら叫ぶ。


「当たり前だ。わざわざ敵の前で作戦をペラペラ話すやつがいるかよ。細胞とやらで、頭は強化されないのか?」


 スコールは嫌味たっぷりに言い放つと男は鋭い視線を飛ばしてきた。

 騙し討ちは卑怯と思われるかもしれない。だがスコール達は訓練やスポーツをしているのではない。どんな手を使ってでも勝たなければいけないのだ。

 

「ルータス、行くぞ。さっさとあいつを倒して先へ進もう」


 スコールは刀を敵に突き立てるように構えると横にいるルータスにちらりと視線を送った。そしてドンという大きな音とともにルータスは男に正面から突っ込むと、男は背中の大剣を手に取り真横に大きく払った。

 大剣とは思えないほどの速さで振り抜かれた剣は地下室全体に風を巻き起こす。しかしルータスはその剣をスライディングで下をくぐり男の後ろ側へ滑り抜けた。

  

 それと同時にスコールも動く。スコールは一気に詰め寄ると、男は2人に挟まれる形となった。迫り来るスコールと視線が合うなり、


「ちぃ!」


 挟まれた状態で2人の攻撃は、さばききれないと判断したのか、男はスコールの攻撃が来る前に真横に大きく飛んで距離を取った。

 スコールはそれを見るなり、

 

「ルータス行け! 俺も必ず追いかける、何が何でもぶっ飛ばしてこい!」


 スコールは大きな声で叫ぶ先には、奥へと続く通路へ走るルータスの姿があった。

 そう――これこそがスコール達の作戦であったのだ。道を塞ぐ敵を騙すには、逆を思い込ませればいい。

 スコールの声にルータスは振り返ると、


「あぁ! コー君も絶対負けんじゃないぞ! 僕も絶対勝つから!」


 ルータスの声にスコールは無言で剣を大きく掲げた。ルータスもそれに答えレヴァノンを大きく掲げると、通路の奥へと消えていった。

 スコールは男に視線を向けると、何故か男は嬉しそうに笑っている。


「奥へと行っちまったな。アイツ死んだぜ? ロックは俺よりも強いからよ」


 男の言い方から察するに、ロックとは敵のリーダーのようだ。

 男は大剣を地面に突き刺し、

 

「俺は、スパイク・シーベルトって名だ。まぁ、今から死ぬお前に名乗っても意味はないかもしれないがな」


 スコールは刀を鞘に収ると、


「スコール・フィリット――お前を倒す者の名だ。覚えておくんだな」  


 相手が名乗ったからには、たとえ敵でもそれに答えなくてはならない。  

 

「見たところ中々の使い手だ。実験には十分だな」

「ロックとやらも、お前のように人をやめた哀れな実験台なのか?」


 スコールは挑発の意味もかねて鼻で笑うも流石に乗っては来ない。


「ロックは普通の人間だ。だが俺達とは立っている場所が違うんだよ。お前の仲間は絶対に殺される。一人で行かせたことを悔やむんだな」


 スパイクは一瞬悔しそうな表情を見せるもそれはすぐに消え、大剣を手に取る。

 それに対しスコールも刀を抜きスパイクに向けると、


「アイツは絶対勝つと言った。ならば俺はその言葉を信じる。我が最大の友の声を!」

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