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ブラッド・ZERO  作者:
第二章 学園編
47/119

第47話  開戦!

 ディークは手に集まった強力な魔力を解き放つと、その力は周りにいた兵士全体を包んで行く。そして魔法を発動させる。

 

 ――“シールドガード・ハイプロテクションガード・ハイスピードウォーク・グレーターマジックシールド・ギガントエナジーパワー・ハイタフネス・グレーターフルポテンシャル・フォーカス……


 立て続けに発動された強化魔法の数々がこの場に集った数千の兵士達全てに発動さ辺りを明るく照らし出すと同時に周りがざわめく。

 そして魔法が発動を終えると周りの兵士達は何が起こったのか分からず周りは静まり返った。

 それもそうである兵士達から見れば何もしていないのにいきなり自分に強力な強化魔法がかかったのだ。一体何事かと思うのも無理はないだろう。


 わざわざ全員にかけてやる必要など全くなかったが、これもディークの狙いの一つであった。

 テオバルトからはエルドナに力を貸してくれと言われたが、試されていると見て間違いはないだろう。

 多少は大げさに魔法を使って目立っておく必要がある。


「せっかくだから、ついでに強化魔法を皆にね」


 ディークはそう言いながらベルフに笑みを飛ばすとベルフは苦笑している。そして端の方にいる者達に目が行った。高い身長に褐色の肌――そう、オーガーである。


「カルバナ帝国の応援はあそこにいるだけなのかい?」

「ああ、そうだ」


 オーガの国、カルバナ帝国はエルドナとはある程度の付き合いがあるとは聞いていたが、どうも見る限り同盟を結んでいる訳ではないらしい。

 どう見ても応援の数が少ないのだ。

 恐らくはもしこの戦いでエルドナが落ちた場合、その国力を吸収したフランクア王国が次に狙うのはカルバナ帝国の可能性が高い。

 もしそうなった場合、自国を守る戦力を少しでも温存しておいた方がいいと判断したのだろう。


 エルドナのピンチに恩を売るなら絶好のチャンスなのは明白である。しかしカルバナはそれをしなかった。やはり他種族同士には見えない大きな壁があるようだ。 

 ――ディークは心の中でほくそ笑む。


「ベルフ殿、敵を迎え撃つ時の一番槍は俺達にまかせてもらっていいかな?」


 ディークの言葉にベルフは驚くも、


「分かった。ではお願いしよう」


 その時、街の方から大きな声を上げて1人の兵士がやってきた。ガシャガシャと金属の音を立てベルフの前まで来ると、息を切らせながら、


「た、た、大変です! 今度は南門の方角よりフランクア王国の軍勢がエルドナに向かっているとの報告が!」

「な、なんだと!」


 ――なるほど、北にモンスター南は軍で挟み撃ちという訳か。聖剣を奪われた今、フランクア王国も本気のようだ。これは本当にどちらが勝つか分からなくなってきた。

 しかし今、エルドナに負けてもらっては困る。滅ぶのは勝手だが、滅ぶなら魔王軍が同等の国力を身に着けてからでないと都合が悪い。

 せっかく手に入れたランスとのパイプも無駄になってしまうと後々の物資の補給に支障が出る。


「しょうがない。南はミクにまかせる。手伝ってやれ」

「……わかりました。ディーク様、お任せください」


 ミクは少し残念そうな表情をするも、やる気満々の様子だ。ディークはルータス達に振り返ると、


「では行くぞ! まずは平原で迎え撃つ」

「はい!」


 その声から気合の入りようが十分に伝わってくる。特にこのスコールと言う男――中々面白い奴だ。

 本来なら無関係な学園の生徒を魔王軍のパーティに入れることなどはありえない。しかし仲間のためを思い命をかけ駆け付けたこの男の覚悟は本物だ。

 そこまでの覚悟を見せたスコールに対してもはや何も言うことはないだろう。今更ディークが止めたところで聴きはしない。


 ディーク達パーティを先頭に北門から続々と兵士達が出ていき防衛のための陣を作り出す。ディーク達も自分達の持ち場である一番前に陣取ると、スコールが、


「ディークさん、どうするんですか? 何か作戦でも?」


 当然の疑問だ。こちらはたった4人だ。最初の突撃部隊としては少なすぎるだろう。


「大丈夫だ。任せておけ」


 ディークはニヤリ笑みを飛ばすと、平原の向こうから何かが見えた。それと同時に無数の小さな音が耳に飛び込んでくる。その音は段々と大きくなりやがて地響きと共にディーク達の前に巨大な砂煙となって現れた。

 姿を見せた敵のあまりの数にディーク達の後ろから兵士達の悲鳴にも似た声が飛び交い出す。

  

「何なの……あれ……」


 アイが呆気にとられながら口をこぼした。いや、アイだけじゃないエルドナ側の者達のほとんどがその異常な集団に恐怖したのだ。

 確かにその異様な外見は人を恐怖させるのに十分であった。

 まるで人を四足歩行させたような生き物は体中にびっしりと血管らしきものが浮かび上がっており皮膚は変な赤みがさしている。 

 ディークもあのようなモンスターを見るのは初めてであった。


 二足歩行なら人に近いと言えるだろうが、四つん這いになって高速で走る姿はもはや人の動きではない。変な悲鳴が出るのも頷ける――

 どう見ても戦力も敵の方が数は多い。少なく見積もって1万近くはいる。しかも南には恐らく本隊であるフランクア王国の軍隊も迫ってきているのだ。エルドナとしては、なるべくこちらには兵は回したくないのは本音だろう。

 

「さて……開戦の花火と行くとするか!」


 ディークは足元に大きな魔法陣を展開させると凄まじい魔力が集まりだした。


 ――この数なら2つあればいいかな。


 “グラビティオプション” 

  

 そして一つの魔法を唱えると、ディークの両側に高エネルギーの黒い球体が現れる。

 ディークは手を大きく空へかざすと、

 

「集え我が力――」


 静かな放たれた声とともにディークの手に真っ黒の炎がうねりを上げ集まっていく――

 それはディークの手だけではなかった。左右に現れたグラビティオプションにも同様の現象が起こり、ディークから放たれる恐ろしいまでの魔力に周りの空気も吸い寄せられ周りの草が揺れ動く。

 そしてディークはそのままゆっくりと浮かび上がると、


「見るがいい! 魔王ディークの力を!」


 ディークは叫ぶと同時に、最大に高められた魔力を解き放つ――


 “エクスプロード” 


 三本の大きな炎柱が敵の上空から降り注ぐ――


 正にそれは大地に降り注いだ神の(いかずち)のようにエルフの大地を明るく染め上げた――





 ベルフは目の前で起こった出来事が未だに信じられなかった。

 ベルフだけではない。ここにいるエルドナ軍全てが同じ思いであろう。

 エルドナへと向かってきた気持ちの悪い敵の大群の全てを飲み込み一瞬で焼き尽くしたあの魔法はもはや魔法と呼べるものではなかった。あのテオバルト・アルフォードですらこれほど規格外ではない。

 

 ディークが言った「一番槍を任せてくれ」の意味をベルフは完全に勘違いしていた。ディークは最初から自分達だけで全てを相手にするつもりだったのだ。

 はなからエルドナの軍の助けなど考えていない。


 テオバルト・アルフォードにあそこまで言わせたこの男が、ただ者ではないと思ってはいたが、そのベルフの想像が如何に小さいものだったのかを思い知らされた。

 戦争に参加した割には数が少ないと思っていたが、それはディーク一人ですでに一国の軍並の力がある化物だ。

 周りも者達もそれが分からないほどバカではない。現にその強大な力の前に他の者達は言葉をなくしている。

 そして最初にその沈黙を破ったのは――


「流石はディーク様、お見事です」


 ミクは小さく手を叩きながら、パチパチと小さな音だけが辺りに響いた。

 ベルフは嬉しそうにディークを眺めるミクにゾクリとした。

 

 ――魔王ディーク


 大地を焼き尽くした姿は正に魔王以外の何者でもなかった。

 魔王と言っても過去にいた魔王アルガノフと違い、ディークにはそこまでの凶悪さや世界を破滅に導くといった異常な思想はないように思える。

 本当に名前の通り魔法の王と言ったところであろう。


 今なら分かる。テオバルト・アルフォードが何故、ランス・エミールの裏を勝手に調べた自分をあれほど叱咤したのかを――

 それと同時にベルフは深い敬意をテオバルトに抱く。たったあれだけの出来事でそこまでの未来を見通すことのできる叡智に。

 こんな化物を敵に回せばそれこそエルドナの危機であろう。はっきり言って聖剣を授かった自分でも勝てる自信はない。

 6つの最悪が世に現れた時もこんな感じだったのであろうか?

 

 しかしながら今は一応、味方である。共に戦ってくれるならこれ程心強いものはない。


 だが――


 もしもこの先、魔王ディークとエルドナが敵対関係になったとしたら?

 あの魔法が自分達の頭上に降り注ぐことを意味するのだ。その恐怖が周りの部下達からひしひしと伝わってくるのである。

 自分だってそうだ。あんな化物を相手にしていたら命がいくつあっても足りはしない。

 もしかしたらあの魔法は長年溜め込んだ魔力を開放した一度きりのものかもしれない。しかしエルドナ軍の5千近くの兵をまとめて強化出来るほどの男がそんなはずはないだろう。


 すると横にいたミクがふわりと浮かぶと、

  

「では――私はディーク様の御命令に従い南側の脅威の排除に行ってきます」


 まるでお使いにでも行くかのように淡々と話すミクにベルフはゴクリと唾を飲み込み一つの考えが頭によぎる。


 ――もしかしてこの女もディーク同様の化物なのでは?


 しかしその考えは直ぐに却下される。却下されると言うよりベルフ自身の願いに近いだろう。こんな化物がいきなりポンポンと出て来て言い訳がない。

 だが、ミクの何か自分達とは根本的に違う雰囲気に不気味さを感じるのだ。それに何故今までこのような者達がその存在すら知られずにいたのだろうか?


 ベルフは頭を大きく振ると、気合を入れ直す。驚いてばかりはいられない。自分だってエルドナ騎士団戦士長であり、聖剣の使い手である。皆を引っ張って行きエルドナを勝利に導く責任があるのだ。

 今はまず目の前の脅威の排除を最優先に行わなければ――


「皆の者! 私達も遅れをとるな! エルドナの底力を敵に見せつけてやれ!」


 ベルフの声に共鳴するように帰ってくる声はエルドナの大地に大きく響き軍は大きく進みだした。

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