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ブラッド・ZERO  作者:
第二章 学園編
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第44話  本当の自由

 夕暮れ時、足早に帰ってきたエリオットは部屋の中に倒れるように転がる。今日もルータスとの特訓を終えて帰ってきたところであった。

 最近は新しくできた友達、ガレット・スタインの参加もあって特訓の内容も濃くなってきている。その分、体力の消耗も激しく帰るとしばらく何もする気が起きない。

 ガレットは最初は少し無表情で絡みにくい感じはしたが、頭がかなりよく最近ではよく話すようになった。

 ルータスがいない時もよく練習に付き合ってくれて感謝している。もしかしたら自分と同じで今までそういった友達がいなかっただけなのだろうか。

 

 エリットは大きく寝返りをうつと窓越しに見える外は夕焼けがを赤く染め上げ一日の終りを告げようとしていた。

 もう今年もそろそろ半分が過ぎようとしている。学園で勉強できるのも後3年半くらいだ。

 その後はもう国は自分の面倒を見てくれはしない。今までは良いところはなかったが今は特訓に付き合ってくれるルータスやガレットが今の自分にはいるのだ。

 最近では確実に実力も伸びてきている実感はあった。それを試す秋の武道会だってある。へばってばかりはいられない――


 今回の事件でもルータスとスコールの活躍は凄かった。コロナ村の時だってそうだ。

 あの二人がいなければもっと大きな事件になっていただろう。いや、学園の生徒であの巨人に勝てる生徒などあの二人くらいと言ってもいいはずだ。 

 あの二人を見ていると世の中は平等ではないと思い知らされる。持って生まれた特殊能力をアルカナと言うのであればあの二人もそうなのではないかと思ってしまう。


 留級さえしなければ、順番的にあの二人が先に卒業して行ってしまう。スコールは多分、騎士の家系だから城へ勤めることになるだろう。

 ルータスは間違いなく有名なハンターになるに違いない。いつかルータスに、卒業したら一緒にパーティを組んでくれと頼んでみよう。

 自分が釣り合っていないことは分かっていた。しかしエリオットにとって初めてできた親友と呼べる友達だ。もしルータスも同じ気持ちでいてくれたのであればこれほど嬉しいことはない。仮にダメでも親友にはっきり言われれば諦めも付くものだ。


 エリオットは大きく深呼吸をした。

 完全に日が落ちる前にやらなければならないことがある。エリオットは重たい体を起こすと、押し入れから父の形見である刀を取り出した。

 最近は毎日帰ってきてからこの刀で素振りをしている。これはルータスからやっておいた方がいいといわれたもので「将来の相棒となる武器を今の内から慣れて手になじませておけ」との事だ。

 実際に持ってやってみると以外に重く学園指定の剣より細いために勝手が違いすごく違和感があった。流石一流の剣士の言葉は的を射ていて勉強になる。 

 エリオットは刀の柄を握りしめ剣に向かって、


「いつか僕を守っておくれよ相棒」


 うん、今のセリフなんかカッコよかった。

 今度アイちゃんにさり気なく聞こえるように言ってみよう。

 刀を実践で使ったことはまだないが、将来自分の愛刀になる刀は見ているだけでドキドキする。それは父の戦いの歴史詰まっているからだ。

 この刀に相応しい剣士にならなくては天国の親も安心できないだろう。

 

「よし、やるか」


 気合を入れ直し外に出ようと思いった矢先、玄関の扉がコンコンと鳴り響いた。

 こんな時間に一体誰なんだろう? 

 恥ずかしい話だが自宅に遊びに来てくれるほど仲のいい友達はほとんどいなかったのだ。それどころか自宅を知っている者すら少ない。

 エリオットは刀を箱に置き、足早に玄関にの扉を開けた。


「――何だ君か、一体どうしたの?」





 夜はいつも騒がしい魔王城だが、朝の大広間は静かなものである。ルータスは朝食を食べ終え大きく背伸びをすると同時に口から大きなあくびが飛び出した。

 

「今日もエリオット君と特訓するの? 最近頑張ってるね」


 ここ最近、空いた時間はほとんどエリオットの特訓に当てていた。

 今はガレットも加わりルータスにとってもいい特訓になっていたのだ。


「秋の武道会に参加するらしいぜ。だからそれまでは徹底的に鍛えてあげないとな」

「お兄ちゃんはでないの?」

「あまり目立ってもいいことないからな」


 そういえばスコールも出ないと言っていた。

 多分自分が出ないからだろうか? まぁ、自分で言うのも何だがスコールと一緒に参加したら決勝で当たるのは間違いないだろう。だったら別に武道会でなくとも空いた時間に勝負すればいいだけだ。余計なことはしない方が良いにきまっている。

 

「そういえば最近全然本来の仕事をしていないよな……」


 学園にきた本来の目的は仲間のスカウトと情報収集である。思い返せばティアを仲間にして以降ほとんど活動をしていなかった。アイは赤い髪を手で整えながら、


「一応進級することも目的の一つになったんだし、何もしていないことはないんじゃない?」

「たしかにそうだけど……もっと魔王軍の役に立つことをしたいだろ」

「なら何でエリオット君誘わないの? 両親いないし冒険者目指しているんでしょ? 丁度いいじゃん。コー君は貴族だし流石に無理だとは思うけどね」

 

 あまりに唐突なアイの言葉にルータスは固まる。


「何言ってるんだ。エリオットはエルフなんだぞ?」

「当たり前じゃん。エルフだと仲間にできないの?」


 アイは「何言ってるの?」とでもいいたいような表情でルータスを見つめながら、


「もしかしてお兄ちゃん、変な勘違いしてない?」

「えっ? 勘違い?」

「ディーク様は純血を仲間にしてはダメだって一言も言っていないよ。それに気づいたから今回の事件で助けに来てくれたんじゃないの?」

「……あ」


 ルータスは雷に打たれたような衝撃を受け今までの自分の大きな勘違いに気づく。それと同時に今まで自分が思い込んでいた間違いを悔やんだ。

 魔王軍はハーフや人狼だけの新世界のような新しい国を作るものと思っていた。しかしそれはちがう、実際それだと自分達自身が純血を差別していることになるからだ。

 種族という壁があるからこそ自分は今まで馬鹿みたいに悩んできた。逆に言えば勝手にそう考えて壁を作っていたのは自分自身に他ならない。もしも種族という概念すらない全く新しい国があれば悩むことなどないだろう。

 普通ならそんな国など出来るはずはない。しかし――ディーク様であればそれすらもたやすく成し遂げるに決まってる。僕達のディーク・ア・ノグアであれば不可能なんてことはないのだ。


「そろそろスカウトのお仕事したほうがいいんじゃない?」


 アイは優しく微笑むと、固まっていたルータスは、


「そうだよな……何も気にすることなんかなかったんだよな……これが僕達の――」


 魔王軍の一部隊としてルータス、アイ、エリオットのパーティが世界を股にかけて冒険する――僕はどんな者でも斬り裂く剣士で、一太刀レヴァノンを振るえば空間すらも断ち斬る男だ。

 アイは両目にスティグマを光らせ、あらゆる魔法を極めし大魔法使いとなり国一つを魔法で消滅させる。そしてエリオットは刀の使い手でディーク様直伝のあり得ない程の強力な強化魔法は空も飛べるようになるほどだ。

 そんな最強パーティの僕達がアビスの地下階層を制覇し魔王軍に害となる世界各国の強者をバッタバッタとなぎ倒していく。

 やがて歩くだけで「オイ見ろよ、あいつらが魔王軍の暗黒魔導機動隊だぜ」とか(ささや)かれるほどになる。(ルータスによる即席のかっこいい部隊名)


 ルータスの頭は一瞬にしてこのような妄想を作り出し思わず顔がニヤけてしまった。


「お兄ちゃん……ちょっと気持ち悪いよ」

 

 アイの言葉に妄想から帰ってきたルータスは何か変な視線を感じた。

 その正体は横にでこちらをじっと見ていたティアだった。しかし何か樣子がおかしい、肩を震わせながらルータスと目が合うなり、


「ふぇ……ふ……」

「ど、どうしたの?」


 謎の言葉と同時にティアは目に涙を浮かべながら声を震わせ、


「ルー君は、わ、わたしに優しくしてくれたのも……誘ってくれたのも純血じゃなかったってだけなの?」


 ティアは我慢の限界が来たのか耳をぺったんこにしながらポロポロと大粒の涙を流しだした。

 ――ヤバイ、これは本気で泣いている。

 女性の涙の耐性はゼロに等しいルータスはこんな時どうしていいのか分かるはずもない。あまりに突然の出来事に胸が爆発しそうなルータスは、もうアイに頼るしかない。

 無意識に視線を飛ばすと、アイはそれに気付き、


「あーあー! お兄ちゃんティアちゃん泣かしちゃった!」

「ど、ど、どうすればいい!?」 

「うーんとね。両手で抱きしめながら耳元で、何言ってんだ? 俺達家族に種族なんて関係無いだろ? って言えばいいと思うよ」

「そんなことできるか!」 


 アイはペロっと舌をだしながら空気を読んでティアを慰めてくれた。

 アイの説得によってなんとかティアは落ち着きを取り戻すことができたが、アイはこちらに目配せをして、


「ほら、お兄ちゃん! なんか言ってあげないと」


 やっぱり最期はこっちに振るの? 

 しかししょうがない、これはティアの誤解を解くためだ。

 ルータスは驚き高鳴っていた気分をコホンと咳払いをして落ち着かせる。

 たしかアイは何と言えばいいって言っていたっけな? ええと――


「ぼ、僕のお嫁さんになって下さい」


 アレ? 何かが違う気がする。何言ってんだ僕――

 もう一度自分の発言した言葉を頭の中で繰り返すと一気に頭に熱が上がっていく感覚がルータスを襲う。

 周りを見渡すとアイすらもポカンと口を開けたまま固まっている。ティアは言われたことを理解したのか見る見る内に赤く染まった顔を、手で隠しながら下を向いた。

 

「ご、ご、ごごめん! 何か間違った! 間違ってもないような!」


 自分でも何が言いたいのか分からない。初めてティアと会ったときと同じような状態である。しばしの沈黙の後にアイの笑い声が響き出した。

 アイを見ると笑いすぎて空気を求めている。そして別の意味で涙を流している。とても苦しそうだ。

 コイツは一体……

 

「ほんと、お兄ちゃん達は見ていて面白いね」


 その言葉にルータスも何だがおかしくなり笑い出すと、ティアは不思議そうにルータスを見上げた。


「なんだかティアとは出会った時からこんなのばかりだなと思ってね。でもティアを誘ったのは本当に仲良くなりたかったからだよ。それだけは信じてくれ」  


 その言葉を聞いたティアは耳をピンと立てながら一気に顔が明るくなる。それと同時に後ろの扉が開かれミシェルが呆れながら、


「アンタ達は、ほんと朝から騒がしわね」

「それがねーお姉ちゃん! お兄ちゃんがティアちゃんにプロポーズしたの!」

「ちょっとまて! だから何でその話になるんだよ!」

「ふぇぇ……」

 

 魔王城の朝も夜と同じく騒がしかった。 





 騒がしい朝のあとルータス達はいつものように学園へとやってきた。

 春もそろそろ終わりかけ朝も寒くなくなってきたが、こんな良い時期は少しだけである。もう少しすれば又暑い夏がやってくるだろう。

 しかしどちらかと言えば冬より夏のがいい。あの照り付ける太陽の日差しが気持ちいいからだ。単位ももう大分溜まってきたし夏が楽しみだ。


 ルータスとアイは教室へと向うと教室の前に真っ白い髪のガレットが待っているのが見える。相変わらず遠くからでもよく目立つ髪だ。ガレットもルータスに気づくと、


「おはよう、今日は少し学科を受けないといけないから訓練は午後からがいいんだけどどうかな?」


 見た目通りで中々真面目な奴だ。わざわざ予定を伝えに待ってってくれたらしい。


「こっちは今日は大丈夫なはずだ。エリオットと一緒に昼食時に食堂で落ち合おう」

「あぁ、分かった。助かるよ」


 ガレットはそれだけ言うと直ぐにその場を後にした。

 マヤカ班はコロナ村と今回の事件で運良く多くの単位を取得できたために余裕があるだけなのだ。

 2つの事件がなければ、今頃こんなにゆっくりしてはいられなかっただろう。ガレットの背中を見つめながら、


「お前も頑張れよ」


 自分にしか聞こえない声でつぶやき教室に入ると、マヤカとスコールが先に席についている。どうやらエリオットはまだのようだ。


「おはよう。珍しいなエリオットが一番最後になるなんて」

「それはお前達がいつも遅いからだ」


 スコールがの嫌味を軽く流しながら席に着く。

 我ながらスコールに対しての対応も中々スムーズになってきた。これが慣れというものなのだろう。色々あったが本当にマヤカ班の一員になれてよかったな。

 少し不安だけどエリオットが来たら仲間に誘ってみるとするか。

 

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