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ブラッド・ZERO  作者:
第二章 学園編
43/119

第43話  日課

 ルータスは風呂の扉を開けると茶髪の頭からは湯気がもくもくと上がっていた。布で濡れた髪の毛を適当にゴシゴシと拭き首に引っ掛けると夕暮れの魔王城が赤く染められている。


 魔王城も建設開始から1年以上が過ぎかなり城も大きくなってきていた。ほとんどがモグローンの族長であるホクロン監修の元に作られたものばかりだ。

 直径300メートルの敷地があり周囲は侵入を防ぐ大きな壁がそびえ立っている。その中心に建てられた大きな城は立派な外見ばかりではなく設備も一流であった。お風呂は大きな温泉が引かれ、いつでも温かいお風呂に入ることができるのだ。そして横には立派なバーが作られている。

 魔王城はディーク制作による強力な魔力結晶を動力源としているためにエルドナよりもその点に関しては快適であった。


 そんな魔王城も外からは結界により見ることが出来ない。魔王城の外壁には入り口と思われる大きな門が作られてはいたがいまだその門が開いたことはなかった。今のところ入る手段はゲートによる出入りだけである。


 ルータスは遠くに見える立派な門を横目に足早に大広間に移動して、その扉を開けると奥で忙しそうに仕事をしている魔王軍アンデッドメイド長スカーレットとティアが並んで夕食の後片付けをしている姿が目に入った。

 ルータスはテーブルに座って2人の姿を眺めると、2人はルータスが入ってきた事すら気づいていない樣子でせっせと皿を洗っていた。魔王城は人は少ないが生き物は多いいため食事後の時間はスカーレットとティアにとっては一番忙しい時間となるのだ。

 

 2人は慣れた樣子でスカーレットが皿を洗いその右横に立っているティアに渡しティアがそれを水ですすぎ積み上げている。流れるように早い動きだ。いつの間にはティアも立派な魔王軍の戦力として力をつけてきているのが分かった。

 ティアが動きに合わせてお尻からたれているふさふさのピンクのシッポが右へ左へと振り子みたいに揺れるのをルータスは目で追っていると無性にシッポを掴みたくなった。しかし仕事の邪魔をすると又怒られるのでやめておこう。


 2人は仕事に一段落ついたのだろうか、振り返りやっとルータスに気づくと、


「あら、ティアちゃんのお迎えが来ちゃったわね」


 スカーレットは濡れた手を拭きながらおどけた様に言うも骸骨の表情からはなにも読み取ることは出来ない。ティアはルータスと目が合うなりパッと表情は明るくなり耳をピンとたてながら、


「ルー君、もう少し待ってね。もうすぐ終わるから――」

「もう終わりだからいいわよ。せっかく何時も来てくれているんだし後はやっておくから行ってきなさい」

「えっ……でも――」

「いいから、いいから」

  

 ルータスの夜はいつもティアとバーに行くのが日課となっていたのだ。ティアは服を整えながらルータスの前までやってくる。


「ルー君、おまたせ」

「全然待ってないよ。暇だったし」


 これも何時ものやり取りであった。そしてスカーレットにお礼を言い、ルータスとティアはバーに向かうと今はまだ誰もいなくカウンターの奥ではモグローンがせっせと準備をしていた。

 バーのマスターをいつもやっているのはホクロンかマクロンなのだが今日はどっちなのだろうか。


 バーはいつも夜には結構、人? で溢れている。モグローンは仕事が終わると毎日ここで打ち上げをしている樣子で彼等を見ているとなんだかこっちまで楽しくなってくる。

 ルータスはこのバーの雰囲気がとても好きだった。積み上げられたレンガの壁と木材の香りが大人になった様な気分を味あわせてくれるからだ。そしてモグローンと目が合うと、


「今大丈夫?」

「大丈夫でげす!」


 この話し方はマクロンだ。見た目は同じだが、一人一人特徴的な語尾を使うため判断できるのだ。不思議なことに同じ語尾を使う者はいなく一族でなにか決まり事でもあるのだろうか。

 族長はホクロンだ。聞いたところによると族長の選び方は一番大きな者がなるというのが決まりのようだが、ルータスに大きさの違いは分からなかった。


 一見、そんな選び方でいいのかと思うことだが、生物的にはある意味正しい選別方法と言えるだろう。大きい者の方が強い。これは生物の中では常識であり敵と対峙した時にどうするかの重要な判断材料であるといえる。


 ルータスはテーブルに付くと、ティアは何故かルータスの横にきて、


「せっかくだから今日はルー君のメイドになろうかな」

「へ?」


 ティアは間の抜けた返事をしたルータスをクスリと笑うと、あらたまって、


「お客様ご注文は何になさいますか?」


 なるほど、そういう事か……少し変な想像をしてしまった自分が凄くかゆい。


「ビ、ビールで」


 少しキョドってしまった。ティアはカウンターに向うとマクロンから飲み物を受け取るとトレイに乗せて持ってきた。

 机にビールを置く時に伸びたティアの腕とともにふわりと洗剤の香りが漂ってくる。


「どうぞ」


 ティアは可愛らしく微笑むと、ルータスはその表情にドキッとした。ティアも席に座ると小さなグラスに入ったカクテルを持ち上げ二人は軽く乾杯をすると辺りにグラスの当たる音が小さく響く。

 ルータスは一気にビールを流し込むと今日の学園でのことを話しだした。毎日こうやってティアに学園でのことを話すのがルータスの一番の楽しみであったのだ。

 ティアはそんなルータスの話をいつも楽しそうに聞いてくれる。

 話の内容は誰かと話したとか授業があったとかそんな他愛ないものばかりだが、ルータスにとって会話の内容などさほど重要ではなかった。こうやって毎日ティアと話をすることが楽しいのだから。


 するとルータスはバーの扉が開かれる音が耳に飛び込んできた。振り返るとミシェルの姿が目に映るとルータスは立ち上がり手を振りながら、


「お姉様! 今丁度飲んでた所でー」


 ミシェルはルータスがいるテーブルの前まで来ると、


「あらあら、ご一緒してもいいの?」


 少し意地悪そうな顔で話すミシェルは、まるで「お二人のお邪魔にならないかしら?」とでも言いたげなようだ。ルータスは苦笑いをしながら、


「いいに決まってます!」


 ミシェルは席に座ると同時にティアは立ち上がり、


「あっ、では飲み物を取ってきますね。何がいいですか?」

「ありがとう。ティアと同じもので」

 

 ティアはすぐに飲み物を取ってきた。ミシェルは目の前に置かれたカクテルを手に持ち中の氷をくるりと一周させ味わうように呑むと、


「ほんとあんた達毎日一緒にいるわね。やっぱ同じ部屋作ってもらったほうがいいんじゃない? ちなみにお子さんは何人くらいのご予定で?」


 ミシェルの爆弾発言にルータスは飲んでいたビールを吹き出し、ティアは顔を真っ赤にしながら持っていたトレイで変な声を上げながら顔を隠すと、


「辞めて下さい……恥ずかしいです。でも……3人くらいかな」

「お、お姉様何言ってるんですか! ティアも答えなくていいから!」


 ティアの天然っぷりが炸裂すると同時にミシェルは大きな笑い声をあげながら、


「ごめん。ごめん、アイがいじるのも何となく分かるわね。期待道理の反応が帰ってくるもの」

 

 ルータスはビールを一気に空けると、


「そういえば今日、新しく出来た友達に家は何処って聞かれて一瞬何といえばいいか分からなくなったんです」


 友達同士の会話の中では当たり前の話のネタであるがアビスに住んでいるとも言う訳にはいかない。何とか適当にはぐらかしはしたが、何度も続けば不審に思われるのは間違いないだろう。

 ミシェルは少し考えながら、


「そうね。言っちゃってもいいんじゃない?」


 え? そうなの? 

 機密の作戦だと思っていたのはただの思いこみだったのだろうか。あまりにあっさりと帰ってきた答えに戸惑うもミシェルは更に続け、


「最近ディーク様はテオバルト・アルフォードにエルドナとの同盟を斡旋する密約を交わしたそうよ。この意味分かるわよね」


 ルータスはコクリと頷く。魔王軍が一国家として動き出す時が近いということである。そうなればルータスもアイも今のように学園に通うことはできなくなるだろう。ルータスは魔王軍の一員であり学生ではないのだ。


「分かっています」


 学園を去ることになったとしても悔いはない。全く何も感じないといえば嘘になるがルータスにとって少しでもディークのために働けることの方が何よりも大事だ。


「スコールだっけ? あの男も中々見所あったわね。あんた達を見ているとアタシとミクのように見えるわ」

「え? それはどういうことですか?」


 ミシェルからあまりミクとの関係を聞いたことはなかった。それは同じ嫁であるためになにか少し聞きづらい部分もあったからだ。ティアもその言葉には興味津々のようすだ。

 見ている分にはルータス達とは違って仲は良さそうにみえる。

 ルータスの知識としては一番初めに創造されたのがミクで2番目がミシェルとしか知らなかった。


「そうね――分かりやすく言うならお互い認めあっているけど嫉妬もしているところかな」


 その言葉には深い意味が込められていることが分かる。この先を聞いていいものか迷っている内にミシェルは持っていたグラスを飲み干すと、


「アタシ達はねディーク様に創造された存在でありディーク様がいなければ生きる意味すらないのよ。この意味はルータスになら分かるでしょ?」


 その通りだ。眷属となった今、言っている意味はよく分かる。それほどルータス達にとってディーク・ア・ノグアという存在は大きなものである。


「でもたまにアタシはミクが羨ましく思えるのよ。何でアタシが一番初めじゃなかったんだってね」


 そう言ったミシェルは今までルータスが見たことない表情だった。

 今まで何度もそのことを考えてきたのだろう。何も言葉を返せないルータスとティアの雰囲気を察したのかミシェルは誇らしげに手を胸に当ててながら、


「でもね。アタシだけは特別でディーク様を愛するために創造された存在なの」


 本当に嬉しそうに話すミシェルの姿を見てルータスも笑顔が溢れ、


「僕はお姉様を応援しますよ」


 選ぶ事など難しいがやはり姉であるミシェルは特別だ。そんなミシェルも怒ると怖いが弟の自分を愛してくれているのはよく分かっていた。


「フフフ――ありがとう。そんなアタシをミクも嫉妬してるわ。だからルータスとスコールを見てそう思ったのよ」


 確かにスコールの才能には嫉妬はしているが、周りから見てもバレバレなのだろうか? 


「そういえば、コー君とあの時、何を話していたんです?」


 エリカを助けに入った洞窟の中で一体何があったのが少し気になっていた。多分スコールに口止めしていたのだろうがそれならわざわざ二人で行く必要もない。


「あーあれね。少し二人で話がしたかっただけよ。そういえばティアはもう随分とここの生活に慣れたわね」


 ミシェルにはぐらかされ、話題を変えられた。これ異常追求しても答えは帰ってこないだろうし、しつこく聞いて怒らせると怖い。


「おかげさまで――まさか自分がメイドの仕事に付くことになるとは思いもしなかったけど、今はルー君に誘われて本当によかったと思っています」

「だからやっぱりルータスとの部屋を作って――」

「だから何でそっちに行くんですか!」


 騒がしいくなる一方のバーであったが、それに続いて更に大きな音を立てながら入ってきたのはアイだ。


「こんなところにいたの! アイだけ仲間はずれはダメだよ!」


 またうるさいのが来たな……

 風呂上がりなのだろうか? 髪の毛からは水が下垂れ落ちている。なぜ拭かないのか疑問だがアイの行動にいちいち突っ込んでいたらそれだけで体力が奪われるのでやめておこう。

 こうして魔王城の酒場の騒がしい夜は続いた。

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