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ブラッド・ZERO  作者:
第二章 学園編
42/119

第42話  決意

 アルフォード学園の廊下では周りの生徒の視線全てを集める者がいた。

 心配そうに見守る者や笑いながら見ている者、その視線は様々である。

 その方向にいるのはルータスだ。しかしその肩にはスコールを担いでおり、身長の差もあってか足を引きずりながら移動している。ルータスの額には汗が浮かび上がり、息遣いは荒い。


「何やってんだよ全く、弱いなら控えろ馬鹿!」


 スコールを運ぶルータスの表情は怒りに満ちている。

 本当ならあのままディークと一緒に町の散策などに行けたはずだったのだが、スコールが酔い潰れてしまったおかげでパーになってしまったのだ。

 そこら辺にほっておいても大丈夫だろうと思ったが、ディークに「同じ学園の仲間同士助け合え」と、言われてしまったからにはスコールを運ぶ以外の選択肢はなかった。


 スコールは時より謎の呻き声をあげながら完全に潰れてしまっている。教室まであとわずかの所までやっとたどり着きルータスは最後のスパートをかけ、ドアに足を伸ばした。

 そしてドアを足で数回蹴りドアを揺らすと、教室の中から聞こえる話し声が途切れドアの前まで近づいてくる。

 ゆっくりとドアは開かれ、ルータスは脇目も振らず流れ込むように教室に入りテーブルにスコールを預けると、びっくりした様子のマヤカが、


「一体どうしたのよ!? 何かあった――っ酒くっさ!」


 マヤカは鼻を摘みながら叫ぶとルータスはそのまま倒れこみ両足を広げ地面に座りこみ必死で息を整える。全く歩く意思のない人がこれほど重く運びにくいとは全く知らなかった。

 ルータスは今ようやくその任務から開放され体中が軽くなりホッとすると、


「マヤカさん、聞いてくれよ! コー君の馬鹿が一緒にバーで飲んでたら潰れやがって、ここまで運ばされるハメになったんだ」


 そんなルータスの訴えは届くことはなく、マヤカは呆れ返り、


「馬鹿は貴方達でしょ! 2人とも姿が見えないと思ってたら昼間から酒場いってたの!? 信じられないわ!」


 教室に響くマヤカの怒鳴り声に、テーブルのスコールが呻きながら、


「デカイ声はやめてくれ頭に響く……」


 いつものスコールらしからぬ弱り切った声に、隣から笑い声が上がった。


「なんだか、いつものマヤカ班に戻って楽しいね」


 その声の主はエリオットだった。エリオットは教室の後ろの棚に置いてあるグラスに水を注ぐとスコールに差し出した。

 スコールはその水を一気に飲み干すと、テーブルの上で又ぐったりと苦しんでいる。ルータスはやれやれと思いながら椅子に座るとマヤカが、


「貴方達、大体なんで酒場にいたのよ」

「いやー僕の家の御主人とバッタリ会っちゃってね。スコール紹介したら、ここじゃなんだからってバーに行くことになっちゃった」

「なっちゃった、じゃないわよ!」


 マヤカは呆れるのを通り越して笑っている。


「全く酷い目にあったぜ」

「貴方達は一応まだ休養中なんだから馬鹿なことばっかりしちゃダメよ」


 ルータスとスコールはエルドナで回復魔法による治療は受けてはいる。

 回復魔法は基本的に人の再生能力を高める魔法であり、高位の回復魔法であれば折れた骨や切断された腕などを引っ付けることはできる。しかしある程度細胞が落ち着くまでは安静にする必要があるのだ。

 そのため、今回の事件で大怪我を負ったルータスとスコールは休養中というわけである。


 正確に言えば光苔(ひかりごけ)を取ってこなかったマヤカ班とデニス班は春の合同訓練を終わらせていない。しかし事件に巻き込まれた時の両班のしっかりとした対応が認められて特別に免除となったのだ。


「分かってる。分かってる」


 全く分かってなさそうな返事を返すルータスだがマヤカはテーブルに肘を付きしみじみと、


「でも貴方達が班にいてよかったわ。エリカを助け出せたのも貴方達だから出来たことだと思ってるわ。ほんと感謝してる」

「ほんとそうだよ! 僕もルータス君達と一緒の班になれたことを誇りに思うよ」


 エリオットもそれに便乗して声を上げる。人から感謝などされたことのないルータスは面と向かって言われると照れくさくてどういった反応をしていいのか分からない。


「そ、そうかな? わっはっはー」


 照れ隠しに後頭部に手を当てながらぎこちなく大声で笑う。


「ルータス君は、これから何か用はあるの?」


 エリオットが何かを探るように聞いてきた。この手の話し方の時は、決まって剣の稽古の話だ。

 最近は少しはマシにはなってきたが少し気が弱いエリオットは人に何かを頼むといったことに抵抗があるようだ。


「分かった。時間を持て余すのもあれだし、さっそく広場でやるか!」


 聞く前にエリオットの望む答えが返ってきたことにより、一気に顔が明るくなる。


「ありがとう! じゃあ早速、お願いしようかな」

「僕も酒が入ってるから今日は危ないぜ!」


 ルータスは立ち上がると、エリオットとともに大きな声で話しながら教室を後にした。あっという間に1人残されたマヤカは、スコールに視線を向けるとポツリと呟く、


「これ、どうするのよ……」





 広場に着いたルータスとエリオットは、互いに向かい合うと、エリオットは剣を抜き構える。ポカポカと暖かく訓練するには丁度いい天気だ。

 運良く周りに訓練している生徒は少なく、これなら思いっきりできるだろう。


「どう? 少しは様になってきたかな?」


 ルータスはエリオットに剣を教え始めてからそれなりの時間は経っていた。エリオットは真面目で自主練習も欠かさず毎日しているようで最初に比べれば腕は見違えるほど上達していたのだ。


「ああ! いい構えだ」


 そんなエリオットを見るとルータスも嬉しくなり声にも力が入る。


「実は僕、前から考えていたことがあるんだけどルータス君はどう思うか正直に答えてほしいんだ」

「なんだい?」


 エリオットは少しの沈黙の後、意を決したように、


「秋に開催される武闘会に参加してみようと思ってるんだ」


 秋の武闘会とは、学園で毎年恒例の大きなイベントの1つである。トーナメント戦の学園最強を決める武闘会で参加は自由であるが級などの制限もないためにほとんどの参加者が上級生となっていた。

 ルールは単純で負けを認めるか気絶するなどの戦闘不能状態になれば負けである。外部からのバフは禁止であり、自分でできる魔法であれば可能だ。

 武器は学園指定の武器を使うため、装備の差などはなく純粋に能力のみの戦いとなる。

 入賞者には様々な特典が与えられ優勝すればエリートコースまっしぐらとなると聞いていた。そのために皆、ある程度腕に自信のある者しか参加しないだろう。


「そう決めたのなら僕はエリオットを応援するよ。秋までみっちり鍛えないとな!」

「ホント!? よかった……もしかしたら気が大きくなりすぎだって言われるかとドキドキしてんだ」


 はっきり言ってしまえば、いくら成長したとはいえ4級生のエリオットが勝てる可能性は低いだろう。しかし秋の武闘会は殺し合いではないのだ。

 勝ち負けよりも大切なものはある。

 ルータス自身も大会に参加してみたいと思ったが、あまり目立つのはよくないので参加は自重することにしてた。


「そんな事言うわけがないだろ。仮に一回戦でボコボコにされてもその経験はかならず後でエリオットを大きく成長させるはずだ」

「そう言ってもらえるとなんだか心強いよ」


 少なくとも勝つ見込みがないから参加しない他の生徒よりもエリオットの心意気は素晴らしい。


「なら今日からもっと実践形式の特訓といこうじゃないか」

「そ、それはどうしたらいいの?」

「簡単だ。大会で戦う時と同じようにひたすら本気で僕と戦うだけだ」


 いくら凄い技術を習得したとしても、実践で緊張していては意味がない。エリオットに圧倒的に足りないのはその経験だろう。

 さいわい秋までにはまだまだ時間はある。今のうちから始めておけば秋までには十分な経験は詰めるはずだ。

 それに卓越した技術というものは長い時間をかけて習得するからこそ磨かれるものだ。今から秋までの期間であれば技術より経験を積んだほうが大会の結果は良いものになるだろう。

 

「ルータス君には勝てないだろうな」

「それは違う、勝つために戦うのは本番だけでいい。今は強くなるために戦うんだ」


 その言葉にエリオットの顔は引き締まる。そしてルータスを睨み魔法を唱えた。


 “スピードウォーク、タフネス、エナジーパワー”


 強化魔法は発動されエリオットを包み込むと、


「行くよ、ルータス君」

「来い!」


 そしてエリオットは走り出しルータスに渾身の攻撃を繰り出していく、だがルータスの身体能力はエリオットを圧倒している。鮮やかにそれをさばき、エリオットの剣が届くことはない。しかし今のエリオットには昔のドベだった頃の姿はなく辺りに響く甲高い音と2人の迫力に周りの生徒の視線も集まるほどだ。

 2人はそのまま特訓を続けひとしきりり汗をながすと、エリオットは剣を地面に刺し息を切らしながら、


「やっぱルータス君はすごいね。全然当たらないや」

「エリオットも十分成長しているよ」


 エリオットは嬉しそうにそばかすを撫でながら、


「エヘヘ、そうかな?」


 ルータスは笑顔で返す。するとその時――


「君達すごいね。僕も混ぜてくれないかな」


 ルータスは振り返ると軽く拍手をしながら近寄ってくる1人の男がいた。

 歳はルータスと同じ位で真っ白な髪の毛が妙に印象的だ。すらっと伸びた身長はルータスよりも高くスコールと同じくらいだろうか。

 体格は細身を通り越してガリに近く、ルータスの第一印象は、病人であった。そしてその男はルータスに手を差し伸べ、


「いきなりごめんよ、僕はガレット・スタイン、ルータス君と同じ3級生なんだ。よろしくね」


 こんなやついたっけな? 

 特徴的な部分の多いガレットだが、今まで見かけた記憶はなかった。学園は広く生徒数もかなり多く、知らない者の方が圧倒的に多いために別におかしなことではないが、


「あれ? 僕のこと知ってるの? まぁとりあえずよろしく」

「何いってるの? 君は結構な有名人だよ」

 

 何かそう言われると悪い気はしない。スコールに勝ったことやマヤカ班での数々の戦いで学園ではルータスの名前はかなり有名になっていたのだ。


「僕はエリオット・リーっていいます。ガレット君よろしくね」


 エリオットも握手を交わす。


「ルータス君達は仲がいいんだね」

「そりゃそうだ。僕とエリオットは学園の中で一番の友達だからね」

「え? そうなの? スコール君だと思ってたけど」


 一体、周りの目というものは何処をどう見ているのか疑問に思うルータスであったが、手を大きく横に振りながら、


「ないない、一緒の班だからそう見えるだけで仲は悪いぜ?」


 ルータスの言葉にエリオットは苦笑いしている。


「へーそうなんだ」


 ガレットは表情一つ変えずにそのままエリオットをじっと見つめ、


「訓練を見ていてね。僕も君達と友達になりたいなって前から思ってたんだよ」


 ガレットの何か掴みどころのない雰囲気にルータスは少し困惑するが、エリオット嬉しそうに、


「全然いいよ! 僕は友達少ないからそう言ってくれると嬉しいな」


 ガレットはかなり表情の変化が乏しく何を考えているのか分からなかったが、エリオットの言葉に初めて微笑んだ。そして次はルータスをじっと見つめると、


「ところでルータス君はどこから通っているの?」


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