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ブラッド・ZERO  作者:
第二章 学園編
41/119

第41話  オフの日7

 アルコールも多少まわり始め大人の雰囲気を楽しむスコールは、何となくハンターや冒険者が酒を呑む理由が分かった気がした。こうやってわいわいしていると普段の悩みなどから開放され楽しいことだけに包まれるのが心地よい。


「ディーク様は今日はなんでその格好なんです?」


 ルータスが不思議そうに疑問を投げかける。


「ん? ルータス達が通っている学園をちょっとミクと一緒に見学しに行こうと思ってな。それとミクの制服姿が見たかっただけだ」

「ではディーク様、城での仕事はこの服でします」


 ミクは嬉しそうに胸のリボンを整えだした。


「今回はミシェルにも感謝しないとな」


 ミクはディークと近すぎて椅子端同士がくっついているほどベッタリしている。ここまでベッタリしていると見ているこっちもなんだか恥ずかしい気分になってきた。

 軽い感じで答えるディークだが、そんなはずはないだろう。しかしスコールは何か掴みどころのないディークが何を考えているのか見当がつかない。思いつきで行動しているような雰囲気の中に時より見せる圧倒的な統率力を肌で感じていた。

 スコールはディークに視線を向けると、ディークはそれに気づき思い出したかのように、


「ちょっとまて、これじゃぁいつもの飲み会になっているぞ。うっかり忘れるところだった」

 

 そういえば当初の目的は、街でばったり出会ってお互いの自己紹介も兼ねてゆっくり話そうといった経緯でここに来たのだった。アルコールのせいだろうか、その場の空気に完全にのまれていた気がする。これが俗にいう酒に呑まれるというヤツなのかもしれない。

 ディークは持っていたビールの一気に飲み干すと、


「いつもルータスが世話になっているようで、今日はそのほんのお礼も兼ねている」


 スコールは軽く頭を下げながら、


「こちらこそ世話になっています」


 本当は世話しかしていないけどな――と心の中で呟くが、今はそんなことを言えるわけもない。この男がルータスの真祖――


「前の事件ではこちら側に合わせてくれた事に感謝する。これからもルータスに力を貸してやってくれ」


 スコールは頷き、


「あの事件の裏で一体何が動いているのですか?」


 コロナ村と同様に又しても謎の多いい事件だったがディークなら何か掴んでいるのではないかと気になったのだ。


「はっきり言って現時点ではまだ、分かっている事の方がすくないがリグン・バルダットはしっているな?」

「はい、名前だけは知っています。フランクア王国の最高司令官ですね」

「まず敵は一体何をしていたのか? 分かっている情報は“器”となる者を探していた。もう一つは巨人を召喚した謎の書物だ」


 スコールはコクリと頷く、そしてさらにディークは続け、


「まず“器”とは何なのか? それはリグンが使った書物が関係していると俺は見ている。アイの情報ではその書物は邪悪な魔力を放っていたと聞いている。これがどういう意味か分かるか?」

「――分かりません。一体あのレリックは何なのですか?」

「あれは恐らくレリックではない」

「え?」


 ――レリックじゃない? なら何というのだ? スコールの知識の中にそんな物は存在しない。その物自体に特別な力が宿るアイテム、古代文明の遺産、それがレリックだ。あれ程の力を持つアイテムが他に存在するのだろうか。


 するとディークは右手をかざし何もない空間から一冊の本を出現させた。その本の表紙には魔法陣が描かれており一目見ただけでその本がレリックであることが分かった。

 その証拠に周りのハンター達が一瞬ざわつき視線がディークに向けられたのが分かったからだ。


「これはレリックだが、魔力を感じるか?」

「感じません」

「その通りだ。レリックは物自体に力を秘めてはいるが魔力を発生させる物は存在しない。それはレリックのエネルギーを発生させる元となるものは魔力ではないからだ」


 その言葉にスコールは驚き、


「ちょっと待って下さい。ディークさんはレリックの原理についてご存知なのですか?」


 スコールが知る限り、未だそのエネルギーの発生原理すら分からない謎の多い産物がレリックなのだ。今さらっと言ったことが本当ならばこれはレリックの原理が解明されたと言っても過言ではない。

 しかしレリックの謎が解明されたという話など一度も聞いたことがなかった。ディークはニヤリと笑うと、


「詳しい説明は長くなるから省くが、簡単に言うとレリックとは生命エレルギーを燃料として動いているのだ」

「ん? ディーク様、それは変化を加えない剣武とかと同じものってことですか?」

「簡単に言うと、その通りだルータス、そしてレリックの凄いところは微かな量で可動するために、人々にとってノーリスクで動く最高のアイテムというわけだ」

 

 スコールは学科はルータスよりも優れていると思っていただけに、言っている意味を理解出来ない自分に苛立ちを覚え、ビールをグイッと流し込んだ。

 そういえばリグンは「それはレリックなのか?」の問に対して「そんなつまらない物と一緒にするな」と答えていた。あの状況から嘘を言っている可能性は低いだろう。

 ディークは手を振り持っていた本を何処かへ消すと、


「では邪悪な魔力を発生させるアイテムとは何だと思う?」


 ここまで言われればスコールにも心当たりがあった。


「カーズドアイテム……」


 カーズドアイテムという物は一言で現すならば呪われたアイテムの事である。呪われたと言っても本当に呪われているわけではない。人が使えば人体に悪影響がでたりする物を分かりやすく呪われたアイテムと表現しているだけである。


 では何故そんな物が存在するのか? 例えば悪魔から見れば聖剣はカーズドアイテムとなりうるのと同じで使う者が変われば効果も変わるのである。

 事実、カーズドアイテムのほとんどは、6つの最悪の産物だ。中でも一番多いといわれている物は魔王アルガノフが残したアイテムであり、エルフの言い伝えによれば魔王アルガノフは今で言う所のフランクア王国の周辺で討たれたとされている。その理由はフランクア王国周辺でそういったアイテムが多数発見されておりフランクア王国が多数所有しているからだ。


 エルドナではカーズドアイテムの所有は禁止されており持っているだけで重い犯罪となる為にスコールも実際に目にしたことはなかった。

 そもそもレリックと同様にカーズドアイテムなど、そうそう発見されることはない。

 

「ご名答――これはただの憶測に過ぎないが、リグンはアルガノフが残した数々の産物を、扱える人間の製造を行っていたのではないかと思っている」


 ――ありえる。人を(さら)ってまで人体実験をするような人間であれば、そのくらいは十分に考えられる話だ。

 そうであれば器という単語にも納得ができる。コロナ村の行方不明者は間違いなくその実験に使われたのだろう。

 そして何かしらの方法を発見し、その本体となる若くてある程度基礎能力の高い者が必要だったとすれば十分説明がつく。何故危険を犯してまでエルフを捕らえに来たのかが分からなかったが、その条件ならハーフよりも純血である方が適しているだろう。


 それに魔王アルガノフが残したアイテムを完璧に扱える人間の製造ができればフランクア王国の軍は一気に最強の部隊となるのは間違いない。エルドナでも昔はモンスターの細胞を移植して強化人間を作ろうとした者もいたことを考えればどこの国でも似たような考えを持つ者はいるだろう。

 しかしそれを裏付ける証拠がないため断定はできないがある程度当たっているような気がした。


「なるほどです。ならばリグンが持っていたカーズドアイテムは器となったものを操るための物というわけですね」

「そうだな。恐らく巨人はその実験の成れの果てといったところか。まぁどちらにせよ余りいい話ではないがな」


 するとルータスが腕を組みながら考え込んで、


「なら僕のレヴァノンもカーズドアイテムになるの?」

「そうだルータス、あの剣は一体何なんだ? あの剣のほうがよっぽど禍々しかったぞ」 


 ルータスに投げかけた質問だったが、ディークが口を開き、


「あれは俺が作った魔王米――じゃなかった。魔力結晶とアビスダイトで作った剣だ。見た目は少し危なそうだが、強力な魔法武器というだけでカーズドアイテムではないぞ」


 ディークが慌てて言い直した単語が少し引っかかるが、それよりもディーク本人のが興味深い。


「ディークさんは何故そんな知識があるんですか?」


 力と言い換えてもよかった。レリックの原理でも思ったことだが、今まで誰も解明することのできなかったものを何故知っているのか? 桁外れの魔力結晶の製作にしてもそうだ。あれ程の力を放つ魔法武器はエルドナには存在しない。テオバルト・アルフォードでもあれ程の魔力結晶は作れないだろう。

 

「俺は長生きなんだよ」

「長生き? ですか?」


 確かに長く生きていれば知識も増えるのは当たり前のことだ。しかしあまりに理由が単純すぎて意味が分からずポカンとした表情を浮かべているスコールを見てディークは、


「そうだな――俺にとってはテオバルト・アルフォードも学園の生徒も大して変わらないと思えるほど長い時間の中を生きてきたからな」 

 

 その言葉は普通からすれば間違いなく嘘や冗談だと思うだろう。しかしアイの見たこともない魔法や所有している強力な魔法武器、聖剣使いすら圧倒したミシェル・ブラッドを目の当たりにしたスコールは、その言葉に偽りはなく本当のことであると思えた。

 一体どうやってそんな長い時を生きているのかは謎だがディークならスコールが想像すらつかないような何かでそれを可能にしたとしても驚きはしないだろう。


「信じられない話ですが、何となく本当なんだろうなって思います」

「当たり前だよコー君、ディーク様は凄いんだぜ」


 そう言ったルータスは目をキラキラさせて、ミクは「その通り」と言わんばかりに満足げな表情をしている。


「それに、今回の事件で立場が逆転した。これは今後大きなメリットとなるだろう」

「そうですね」

「ディーク様それはどう言う意味ですか?」


 意味の分かっていないルータスにスコールは少し呆れながら、


「あのな、今までは敵も目的も不明でこっちがどう対処するか考える側だったんだよ。だから敵も不意打ちでも何でも好き放題できた。でも今回の事件で敵は大きな痛手を負い、しかもこちらの情報を全く掴んでいないわけだ。逆に俺達は敵がどこの誰かを知っている。これがどういう意味か分かるだろ?」


 ルータスは手の平をポンと叩き、


「なるほど、そういうことか!」


 今頃フランクア王国では必至にディーク達の情報を集めているはずだ。

 やろうと思えばフランクア王国を強請(ゆす)ることだってできるだろう。聖剣と引き換えにとでも言えば簡単に敵を釣ることができるのは確かだからだ。

 敵が知っているのは、アルフォード学園に通っていることだけだ。エルフに矛先を向けて戦争を仕掛けてくることも考えられなくはないが確率は低いだろう。

 

 そういった話が続く中でマスターが追加のビールを持ってくる。ディークは気分を変えるようにそれを掲げて、


「とりあえず今日はゆっくり飲んで後のことは後で考えるとしよう」


 そう言いながら横に座っているミクとグラスを合わせ乾杯した。ルータスも楽しそうにスコールの肩をバンバン叩きながら、


「そんな細かいことより今を生きようぜ! 若者よ!」


 完全に酔っ払いのおっさんのようになっている。そういうスコールもアルコールに耐性がないために少しクラクラしてきたが、ルータスよりも早く潰れることは許されなかったのだ。

 そして目の前のジョッキを手に取り半分勢いだけで喉に流し込んだ辺りからスコールの記憶はなくなっていた――

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