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ブラッド・ZERO  作者:
第二章 学園編
39/119

第39話  オフの日5

 ルータス・ブラッド――眷属として転生した際にディークからもらった名前だ。そんな彼は学園の広場の端で座りこみ何処を見る訳でもなく、ただ呆然と辺りを眺めていた。

 広場では他の班の一同が剣術の特訓をしており、リーダーと思われる男が必至に後輩に手取り足取り教えているのが目に入る。皆真剣な眼差しで額には汗が浮かんでいる。


 ここはスコールと真剣勝負をした場所だ。今はそんなこともかなり昔に思え懐かしい気分になる。

 スコールはあの勝負以来大きく変わったのだろうか? いや、変わったに違いない――少なくともあの勝負で大きな一歩を踏み出すきっかけになったことだけは分かる。

 なら自分はどうなのだろうか? 自分では何も変わった気がしなかった。


 ルータスは今回の事件について思い返す――

 

 あの後、デニス班の野営地についてからすぐにマヤカ達が呼んだエルドナの援軍と合流することが出来きてルータス達は保護される形となった。カール山のふもとまで一日かけて歩いて来たことを考えるとマヤカとエリオットが如何に無理をしてくれたのかが分かる。

 そしてルータスとスコールは怪我が酷く、すぐにゲートを通ってエルドナで回復魔法による治療を受けることとなった。その時に軍の関係者らしに人物に色々聞かれはしたがスコールが上手くごまかしてくれたのだ。

 スコールの指示通りアレス・ダニエルの事はマヤカにすら言ってはいない。


 ルータスは大きなため息を吐くと下を向き目を閉じる。

 結局自分は役には立たずに死にかけただけだ。エリカにも顔を合わせにくくて教室には行きたくなかった。そんな中、ルータスに近づく足音が聞こえる。その足音だけで誰が来たのかが分かった。


「こんな所でなにをやっている?」


 予想道理の人物の登場に、ルータスは頭を下げたままで答える。


「なんだコー君か、ちょっと考え事をね……」


 スコールが何をしに来たのかは大体想像がついた。


「何故教室にこないんだ?」


 そう言いながらスコールはルータスの横に座る。事件以降マヤカ班は学園では一目置かれる班となり、特に戦闘に参加した3人は英雄のような賞賛を浴びた。しかし何故か女の子の人気はスコールのみが独占している事からエルフ社会の致命的な欠陥を目の当たりにした。


「何故皆に言わないんだ? 僕は一度見捨てたんだぞ」


 スコールはルータスがエリカを見捨てようとしたことを一切話していなかったのだ。


「何だそんなことかよ。最終的には3人で戦ったんだからいいだろう。まぁ――あんな奴がいると知っていれば来ないほうが正解かもしれんがな」


 冗談まじりに笑いながら話すスコールにルータスも苦笑する。たしかにアレス・ダニエルがいると知っていたら自殺行為に等しいだろう。そんなことも知らずにカッコよく登場して死にかけた自分がなんだか凄く間抜けに思える。


「そういうものなのか?」

「俺だって結局は自分のために戦っただけだ。その点ではお前と何も変わらないぞ。お前はただ戦う目的に気づくのが少し遅かっただけだ」


 自分の為――確かにそうだ。どんな事でも結局皆自分のために行動している。人のことを優先して動くやつなどいないだろう。しかしその点についてルータスは少し違うかもしれない。それはディークの眷属であるために一番に優先されることはディークの命令だからだ。

 だからといって自分の意思がないわけではない為に今回のような事になった訳である。


「仲間を見捨てるようなことをしてもか?」

「確かに仲間を見捨てることは最低だが、お前はエルフじゃないし組織の者だろ? そちらを優先するのは仕方がない」


 スコールの「エルフじゃない」という言葉が一瞬グサリと胸に刺さる。そういう意味じゃないとは分かっているが、どうしても悪い方向に聞こえてしまうのだ。それにスコールが自分を励ますために言っていることは十分に分かっていた。


「僕はコー君がいなければ死んでいたけどな」

「それを言ったらお前が来なければ俺はとっくに死んでいた」


 ルータスとスコールは目を合わせ笑った。初めてスコールと笑えた気がした。


「今回もこうして僕達は生き延びる事が出来た。これは今後の大きな糧となるぜ」

「今回も……か」


 急にスコールが何か意味ありげな言葉を呟くのが聞こえる。その雰囲気は一瞬だったがいつもの自信に溢れたスコールのそれではなかった。


「ん? どうしたんだ?」

「お前達は一体何者なんだ? なんかお前達に会ってから俺の中の常識が崩れていく気がするぜ」


 あれ程の戦いをした後だ。当然の疑問だろう。スコールには色々見られてしまったが、知られたことによってなんだかスッキリした気分にはなった。


「分かりやすく言うと僕達は、お姉様の旦那にあたる人を御主人とした組織でね。僕はその人の眷属であり僕達にとって神や精霊以上に偉大な御方だ」

「アイもヴァンパイアなのか?」

「違うよ、アイと僕は元々血は繋がっていない。小さい頃から2人でずっと生きてきたんだ」


 スコールに話していい内容ではないことは分かっていた。しかしスコールには知っておいてほしいとルータスには思えた。スコールなら今後、魔王軍がエルドナと敵対したとしても情報をバラす真似はしないと思え、敬意を持てる敵となるだろう。それにあれ程の戦いをした後で誤魔化しようもない。


「アイのあの目は何なんだ? なぜあの歳であれ程の魔法を使えるんだ?」

「スティグマの事か? 僕はまだ魔法を使えないから上手く言えないけど、スティグマだって御主人様から貰った力の一つだ。すごい魔法だったろ」

「あぁ、アレスには打ち返されたけどな。あれ程の魔法はもはや魔法とは思えない。お前のお姉さんも、まさかあんなに凄いとは思わなかったぜ。いや凄いなんてレベルじゃない」

「ただただ凄くて、背中ばかり見ているよ」

「だろうな、俺も初めて見惚れちまったぜ……」


 スコールのその目は圧倒的な力に魅了された目であった。


「そんなお姉様に告げ口したんだぞ? これで自分のしたことが分かったか?」


 実はミシェルに殴られた事件のことをまだ根に持っていたのであった。スコールは苦笑しながら事件の話をしだした。2人は死にかけた戦いであるにもかかわらず、まるで楽しい思い出のように語った。

 それは今回の事件はルータスにとっても最大の戦いであり十分な経験を積むことが出来たからである。


 同じピンチをくぐり抜けた仲間との話はすごく楽しかったのだ。今回の一件で二人共世界のレベルを知ることが出来た。

 そしてこれからの剣術に対しての思いや新しい技などの話で盛り上がった。ルータス自信も歳が近い同じレベルの剣術の使い手はスコールしかいない事もあり、意見交換は本当に貴重な意見となったのだ。

 

 その中でスコールの奥に潜む強烈な劣等感や強さに対しての執着をルータスは深く感じる。それはルータスとは又違ったものであった。ルータスが求めていた力は元々生きるためのものであり、分かりやすく言ってしまえば金のためだ。しかしスコールは純粋に力だけを求めている。

 それはスコールが貴族で金には困っていないというのも大きいのかも知れない。ルータスからすれば全てを手に入れているようなスコールだ。仮に逆の立場だったらルータスは絶対にぬるま湯に浸かっているだけで終わる自信はある。そういったことを一切せずに一つに打ち込む姿はいつもながらに尊敬できると感じたのだった。


「さて何するかな」


 話も一区切りつきルータスは立ち上がると、


「流石にマヤカもすぐには何もしないだろうからな。ゆっくりしてればいいだろうよ。俺だってまだ骨も引っ付いたばかりだしな」 


 あの戦いでスコールは肋骨が1本折れていたのだ。ルータスと同じく回復魔法で治療してもらい治りはしたが、安静にしている方がいいだろう。


「そうだな。せっかくだから街にでも行ってぶらぶらすっかな。暇ならコーくんも来るかい?」


 その言葉にスコールは笑った。ルータスはその笑いに対して首をかしげる。

 

「しょうがねぇな。付きやってやるよ」


 スコールもそう言うと立ち上がり2人はぶらぶらと街へ繰り出した――




 春の陽気につつまれたエルドナの空は快晴であり降り注ぐ太陽の光がポカポカと気持ちがいい。周りには人が溢れていて冒険者やハンターと思われる者達が身につけた金属の鎧に光が反射してピカピカと眩しく輝いていた。

 とりあえず街に来たのはいいが、とくに何をするわけでもなく何をすればいいのか分からなかった。


「エルフは暇な時になにやってるんだ?」

「俺も余った時間は魔法の勉強や剣術の稽古ばかりしていたからな」


 要するにスコールもぼっちだったのか――その原因は性格にあるのではないでは? と言いかけるも何とか言葉を飲み込む。

 エルドナの街はかなり広くルータスも知らない場所の方が多いためこの際色々見て回るのも悪くないだろう。


「せっかくだから高級店で装備とか見てみようぜ見るだけならタダだし」


 ルータスは高級店の装備やアイテムなどがどんな物か凄く興味があったが高級店は学生が入れるような場所ではない。それは学生が買えるような商品は置いていないので冷やかしだとすぐにバレるからだ。店だって客でない者を相手にするほど暇ではない。

 しかし今日はエルドナで知らない者はいない大貴族であるフィリット家の御曹司様が一緒なのだ。どんな店でも入り放題だろう。我ながらいい作戦である。


「それもいいな。俺もあまり店には入ったことないからな。行ってみようぜ」


 よっしゃ! と、心の中で大きく手を上げ2人はその方向にあるき出したが、正面から近づいてきた男女に2人の視線は釘付けになった。離れているために詳しくは見えないが同じ学園生の徒で女の方がべったりと引っ付いている。

 学園でも恋人関係の男女は多数いるが、あそこまで大っぴらなのは珍しい。ルータスは少し嫉妬まじりに、


「中々、お熱い樣子で羨ましいこったな」

「そうだな。なんというかオープンだな」


 スコールも苦笑している。しかし顔が分かる距離まで近づいた瞬間ルータスの顔は思わず硬直し、


「――!」


 その学生は正に我らが真祖であり魔王軍の支配者でもある男――ディーク・ア・ノグアがミシェルと並ぶもう一人の妃であるミクと連れて目の前に現れたのだ。

 一体何故二人共アルフォード学園の制服を? まさか学園に入学を? などと様々な憶測が頭の中を飛び交い困惑する。しかしディークは神や精霊などよりも上位の存在であり、そんな御方が考える事がルータスに理解できるはずもない。

 一瞬、偽物である可能性も浮かびはしたがすぐに却下される。それはルータスがディークの見た目ではなく本能で理解しているために本物であると断言できたのだ。

 思いがけない事態にルータスの口から驚きの声が飛び出した。


「げげっ! ディーク様!?」


 反射的に発してしまった言葉を飲み込むように自分の口に手を当てる。あまりに突然の出来事によって御主人に対し暴言とも思える言葉を発してしまった。ルータスは背筋をピンと伸ばし直立不動の姿勢をとりディークに視線を向ける。

 ディークはルータスをじっと眺めた後にスコールに視線を移した。その瞬間に一気にルータスの体に例えようのない緊張感が襲う。それは心配に近いと言ったほうが正しいのかもしれない。

 その心配とは、スコールが余計な事をしないかである。ミシェルの一件で前科があるだけに疑わしい。何より今回は流石に相手が悪い


「す、すいません。いきなり出会ってびっくりして。こっちは前に話したスコール・フィリットです」


 スコールに手をかざし、ディークに紹介すると、次はスコールに対して、


「こちらに御方は、僕達の御主人であるディーク・ア・ノグア様だ。くれぐれも失礼の無いようにね」


 本来であればそう言われるのはスコールの方だろう。しかし魔王軍にとってどこの貴族や王族であろうがディークに勝る存在などいるはずはなく、ディークに敬意をはらわない者は例えエルドナ王国の王であろうが敵である。

 そんな絶対の王ディークは手を差し伸べながら、


「よろしく。君がスコールか、ルータスに話は聞いているよ。ルータスの情報よりずっと男前じゃないか」

「こんにちは、同じ班のスコールです」


 ディークとスコールは硬い握手を交わす。すると引っ付いていたミクが軽く礼をして、


「私はディーク様の妻のミクともうします」


 その言葉にスコールは少し困惑して、


「あれ? ルータスのお姉さんが嫁ではなかったの?」


 その言葉にたいしてディークは笑いながら、


「ミシェルもミクも俺の嫁だな。あれだ、一度ゆっくり話がしてみたかったし、ここじゃなんだ今からバーに行くんだけど一緒にどうだ?」

 

 その言葉にルータスは即答し、


「はい! 二人共お供します」


 ディークがこいと言ったら誰であろうが意思など関係無いのだ。


「なら決まりだな」


 そう言うとディークは歩き出しその後ろにルータスとスコールは続いた。ルータスはスコールに視線を移すと苦笑いをしながら小さく話す、


「ルータス、俺のことを一体どんな風に言ってたんだよ」

「あくまで僕の主観で言っただけだ。気にしないでくれ」

「大体、学生がバーなんか行っていいのかよ」

「ディーク様が行くと言ったら行くんだよ。たとえ地の果てまでもな。お前こそ変なことするんじゃないぞ」 

「分かってるって。ちゃんとお前を立ててやるよ」


 スコールは自信満々に親指を立てた。ほんとうに大丈夫なのかといった不安と共にバーの扉が開く音が耳に飛び込んできた。

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