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ブラッド・ZERO  作者:
第二章 学園編
33/119

第33話  死闘3  

「ルータス! 気をつけろ! そいつは聖剣使いだ!」


 スコールがルータスに向かって叫んだ。ルータスは目の前の男に視線を向けると、


「アレス・ダニエルか、まさか憧れていた世界屈指の剣士に、こんな形で会う事になるとはね」


 ルータスは笑いながら言った。ルータスは世界に名を(とどろ)かせる冒険者やハンターなどは憧れの対象であった為にその名前は、よく知っていた。

 アレスはいきなり現れたルータスを見つめながら、


「それはどうも、憧れの対象に剣を投げつけてくるなんて酷いな」


 アレスは苦笑している。ルータスはスコールに向かって叫んだ。


「僕はアイを助けに来ただけだからな! 勘違いするなよ!」


 本当は違う事は分かっていた。弱い部分を見せたくない為か、スコールを目の前にすると強がってしまうのだ。そしてスコールはそんなルータスを察したのか、


「ああ! それでもいい、お前はここに来た。それだけで俺は十分だ!」


 一々こういったくさいセリフを言っても、様になるスコールに、いつもなら苛立ちを覚えていただろう。しかし今はそんなスコールが頼もしい先輩に思えた。かっこよく登場したのはいいが、こんなにヤバすぎる状況だとは思っていなかったのだ。

 この状況で有効と思える作戦なんかあるはずもない。


「そういう事にしといてあげるね。お兄ちゃん」


 アイは嬉しそうに言った。そこアイの言葉にアレスは首を傾げながら、


「あれ? 君が、お兄さんなのか、青い髪の方だと思っていたよ」

「フ……アイの兄はそんな奴よりもっとイケメンだ!」


 自信満々で放ったルータスの言葉にアレスは、


「いや……青い髪の方が大分カッコイイと思うよ?」


 ルータスの表情が一気に曇り唇を噛み締めた。分かってはいたが実際口に出されると腹が立つ。


「どうやら人間の聖剣使いは目に障害を抱えているようだな」


 そう言ったルータスの左目は赤く光りだした。そして自分の奥にある力を開放する。

 その瞬間一気に周りの空気が変わった。普通の人からすればそれは間違いなく嫌な空気だろう。


 ドクンと大きく胸が波打つと体中に力が湧き出てくるのが感じられる。魔王の力が体中を巡りルータスの左半身には黒いアザが浮かび上がった。

 流石のアレスでもこの事態には驚きの表情は隠せなかった。目は大きく見開かれルータスの姿に見入っていた。


「お前……ヴァンパイアか! なるほど不思議な力を持つ者達とは思ってはいたが、人外だったとはな――」


 スコールは驚きのあまりに大きく口を開け唖然としていた。そしてまるで異質な何か見る様な目で、


「ルータス……お前は一体……」


 これで今までの関係が終わってしまったとしても悔いはなかった。ルータスはアイに視線を送るとアイの表情は何か寂しそうな感情が読み取れた。

 そしてルータスは大きく手を振り上げ叫んだ。


「来い! 魔剣レヴァノン」


 その声と共に振り上げた手の上から禍々しい力を放つ剣が姿を現しルータスは剣を構えた。そしてアイも持っている杖を投げ捨てる。辺に杖の転がる音が響き皆の視線はアイに向く、


「先生ごめん、アイもやるよ――」


 アイは悲しそうな表情を浮かべそう言うと手を掲げる。するとルータス同様にアイの武器、高魔結晶の杖を召喚した。

 この2つの武器の出現にアレスは驚愕の表情を浮かべる。それはさっきのまでの変わった物を見る余裕の入り混じった表情ではない。心底驚いているのが見て取れた。


「何だその禍々しい武器は! ありえない、何故そんなものが存在する!」


 アレスの言葉に対してルータスは得意気に、


「いくら聖剣が凄かろうが我らが王の力の前ではそんなものナマクラに過ぎない」


 アレスはその言葉に歯を食いしばり初めて感情を表に出した。その感情は激しい嫉妬と忿怒が入り混じっているのが分かった。しかしアレスの表情はすぐに元に戻る。


「たしかに凄い剣だ。まさに魔剣と呼ぶにふさわしいだろう。しかし君が強いわけじゃない、勘違いするな」

「なら試して見るんだな!」


 言葉と共にルータスは一気に岩を蹴りアレスに詰め寄った。力を開放したルータスは尋常ではない速度でアレスの目の前に到達し両手で横薙ぎに大きく払う。その体から繰り出された一撃は常人からすれば一撃必殺の威力を秘めている。

 しかし相手はその上を行く超人だ。アレスは飛んできたボールを打ち返す様に斜めに斬り上げると、ルータスの攻撃を相殺しても、なお威力は衰えずそのまま弾き返し吹き飛ばした。しかし吹き飛ばされたルータスは空中でくるりと体勢を立て直し着地する。


 やはりアレスとの力の差は圧倒的だ。いくらレヴァノンがあるとはいえ使い手の力量に差がありすぎる。

 ルータスは剣を構えアレスを睨みながら横に移動した。それにあわせてスコールも剣を構えアレスを挟み込むように移動する。3人が丁度1列に並んだ所でルータスは足を止める。

 2人に挟まれる形になったアレスだが全くスキが見当たらない。2人共が踏み込む事ができず3人は硬直状態となった。しかし先に動いたのはその三人ではなかった。


 アイが一気に飛び上がりアレスに向かって杖を振り下ろす。


“ファイアー” 


 高エネルギーの丸い球体は重魔法だ。その魔法は一気にアレスの元まで飛んで行くがアレスはそれを振り返りながら斬り裂き真っ二つにした。ルータスは魔法を斬り裂いたアレスに少し驚くも、背中を見せたその一瞬は逃さない。

 まるで合図したかの様にルータスとスコールは挟み込む形でアレスに向い突っ込んだ。力の解放を行っている分、ルータスの方が動きは早い、先に到達したルータスはアレスの頭目掛けて上から剣を振り下ろす。

 

 しかしルータスの剣はアレスを捉えることが出来ずに金属にぶつかる衝撃が手に伝わってくる。アレスはくるりと回り正面でルータスの剣を受け止めていた。ルータスにとってはこれも想定の範囲内だ。

 向こうからスコールがアレスの背中に斬りかかって来るのが見える。完璧なタイミングだ。


 ――殺った! そう思えるほどの必殺の間合いで繰り出されたスコールの剣だったが、アレスに届く事はなかった。


「ぐわっ!」


 アレスはルータスの方を向いたままスコールに腹部に蹴りを叩き込むと、スコールはうめきに近い声を発しながら吹っ飛ばされる。ルータスは全力の剣武を発動させアレスに向かって激しく斬りかかるもアレスはその全てを軽く防ぎ一太刀も浴びせる事が出来ない。


「うおおおお!」 


 防御にまわったアレスは正に鉄壁の盾だった。ルータスは自分が鉄の塊でも叩いているような間隔に陥るほど手には金属の感触しか伝わってこなかった。そして最期に体重を乗せた渾身の一撃と共に弾かれた衝撃を利用し後ろに飛ぶと、


“アイスエッジ”


 間一髪も入れずにアイの魔法が発動され巨大な氷の氷柱が地面に大きな砂煙を上げながらアレスに直撃した。


「やった!」


 ルータスは思わず叫んだ。完璧なタイミングで確実にアイの魔法はアレスを捕らえたからだ。そして砂煙が少しずつ収まりかけた時にそこから一瞬何かが光った気がした。


「うわぁ!」


 ルータスはいきなり左肩に走った激痛に叫ぶ。そして左肩を手で押さえると、そこからは生暖かい血が溢れ制服を赤く染め上げていった。苦痛に顔を歪めながら膝を付いたルータスにスコールが駆け寄ってくる。


「おい! 何をされた!? 大丈夫なのか?」

「大丈夫だ。これくらいの傷なら多分、自然回復で治る」


 砂煙が治まると中心には左手を空にかざしたアレスの姿があった。そして左手を中心にアレスを包む様に光の壁が見えている。右手に持った聖剣はルータスに向いていた。信じられないがアイの渾身の魔法をガードしつつ右手で斬撃を飛ばしてきたらしい。


「何かいい手はないのか?」


 スコールの問に対してルータスはニヤリと笑いながら、


「あるぜ、アイのスティグマだ。これからアイは強力な魔法の準備にかかる。その間に2人で足止めするぞ」

「その魔法は奴に通用するのか? さっきの魔法だって効かなかったんだぞ」

「見たらビビるくらい凄い魔法があるんだよ」


 その言葉にスコールは大きく頷くと、


「分かったそれに賭けよう、どちらにせよもう切り札なんてないのだからな」

「魔法が放たれたら各自で退避しろよ、巻き込まれると死ぬぞ」


 ルータスは空に浮いているアイに向かって自分の左目を指差す。アイはルータスの意を即座に読み取り頷いた。そしてルータスはアレスを剣で指しながら、


「これから俺達最大の魔法で勝負に出る! もう一度防げるものなら防いでみろ!」


 これは賭けに近い挑発だった。アレスの身体能力は例えスコールと2人で挑んだところで力の差は圧倒的だ。ルータス達が退避出来るならアレスも避けることは容易だろう。

 しかしアレスはルータス達を格下と見ていて自分が負ける事など微塵も思っていないはずだ。その絶対的な自信につけ込むしか方法はないと考えたのだ。


「何をするのかは知らないけど、いいだろう」


 アレスは余裕たっぷりに言い放ち剣を構える。そしてアイは足元に大きな魔法陣を発生させると杖を大きく振り上げる。左目が青く輝き強力な魔力が集まりだす。


「集え――」


 アイの掲げた紅魔結晶の杖はその魔力を吸い上げ凶悪なうねりを起こす。そしてその魔力の奔流は禍々しい炎となって渦巻き杖を中心に集まっていく。

 

「コー君行くぞ!」

「おお!」


 2人の声は響き、アレスに向かって走り出す。まずはスコールが剣武を発動させ剣をクロスさせながら振り回すとそれは無数の斬撃となってアレスを襲う。


 ――流石はコー君だ。ルータスは心の中で賞賛した。通常の2対1の戦闘においてメインで前に出る者は強い方だ。それは敵側からすれば、まずは弱い方を片付けるのが鉄則だからだ。アレスの意識はまずスコールに向く事になる。

 だからこそスコールは遠距離で先に攻撃したのだ。不用意に前に出てやられない為でもあり、ルータスが切り込むスキを作る為でもあったのだ。今この瞬間では最良手と言っていいだろう。


 無数の斬撃はいとも簡単にアレスに弾かれるがそれも予想通りの展開だ。その瞬間にアレスの真横からルータスは剣を下から斬り上げる。しかしアレスはその攻撃すらも剣で受け止めると、ルータスに追撃を入れようと剣を振り上げた。

 その瞬間にいつの間にかアレスの後ろに移動していたスコールが横薙ぎに払うと、アレスは後ろに目でもついている様な動きでそれをしゃがんでかわした。

 スコールはすぐに後ろに飛びながら斬撃を飛ばし攻撃をしながら後ろに離れる。


「ナイスだ、コー君!」


 いける! このメンバーならいける! ルータスはそう思い心を奮い立たせる。敵の注意を引きつけて居ない方が攻撃を繰り出し注意を引いたらバトンタッチする。教科書みたいな戦い方だが実際に行うのは至難だ。しかしルータスとスコールのコンビはそれを可能にしている。


 しかしアレスは体を回転させながら斬撃をかき消すと同時にルータスに真横から斬りかかってきた。その剣のあまりの速さにルータスも何とか剣を立てガードするのが精一杯だ。

 辺に大きな金属音が響き渡りルータスの手は衝撃で痺れるほどだ。だがそれを見るなりスコールが剣武による斬撃でアレスの背中を狙うと、ルータスも後ろに大きく飛びながら剣武による斬撃を飛ばした。


「これなら逃げ場はないぞ!」


 ルータスの声と共に、アレスを挟むように2人は遠距離からの斬撃を打ちまくる。アレスの前後に無数の斬撃が迫るが、アレスは剣を横薙ぎに一回転させるとアレス中心に円状の衝撃波が発生して2人の斬撃をかき消した。

 しかしルータス達は何とかその衝撃波をかわし更に斬撃を打ちまくった。これには流石のアレスも防御に回るしかない樣子で左手を掲げ、先程と同じ光の壁を発生させる。


「アイ! 今だ! 放てぇぇ!」


 ルータスは大きく叫んだ。それと同時に、アイの杖は振り下ろされる。


「これで終わりよ! 三重術式魔法! “エクスプロード”」


 アイの声と共に切り札となる魔法は発動された。アレスの真上から巨大な赤と黒の業火が互いに絡み合い、うねりを上げながら降り注ぐ。カミルとの戦いの時よりも更に凶悪な威力だ。


「なっ! 何だこの魔法は!」


 その時、初めてアレスは焦りの声を上げた。しかしもう回避する事はできない。魔法がアレスに到達した瞬間に業火はアレスを包み込み地面に留まる。そして、うねりながら光を放ち全てを燃やし尽くす――はずだった。


 なんとアレスは体中から金色の闘気を発しアイの“エクスプロード”をその聖剣で受け止めたのだ。その光景を目の当たりにしたルータスは、唖然とその姿をただ見つめる事しか出来なかった。


 近くに寄るだけでも燃え尽きそうな業火を、全てを燃やし尽くす僕達の切り札を……たった1本の剣で受けるなんて―― 

 

 アレスは金色の闘気の高ぶりは激しさを増していく。


「うおおおおお!」


 アレスが叫ぶと同時に、アレスの足元は腹に響く程の重低音を上げ、大きくえぐれクレーターを形成した。その瞬間、アレスの聖剣は大きく振り抜かれアイの“エクスプロード”は、弾き返された。そして空へと突き抜け雲をかき消し大空に大穴を開けた。


 辺りは一気に静寂となり、アレスの少し荒い息遣いだけが響いた。


「流石に驚いたよ……まさかあれ程の魔法が存在するなんてね。君達は危険だ。ここで殺さなければ必ず我が国の脅威となるだろう」


 アレスからはもう、今までの余裕の笑みはなく、そこからは本気の殺意がビリビリ伝わってきた。


「その闘気は何だ?」

 

 スコールの問にアレスは答える。


「言っただろう。聖剣スライヤーは強力な光属性を宿しているってね。俺の得意属性は光だ。そしてこの聖剣スライヤーこそ俺の光の闘気を最大限にまで高める事の出来る只一つの武器であり、それを手にした俺に死角はない」


 アレスは自信満々に言い放った。それがただの(おご)りなどではないと、ルータス達は嫌というほど分かっていた。

 スコールはもう傷だらけで長い戦闘により体は限界にきている。アイも目立った傷はないが切り札を失った今、精神的にも体力的にも限界に近いだろう。

 ルータスは傷は負っているがまだ動くことは出来るがルータス1人では時間稼ぎすらも出来ない事は明白だ。3人で戦うとしても今の状態では戦いにすらならないだろう。

 ルータスは歯を食いしばりアレスに口を開く。


「最期に答えてくれ――俺達は、お前にどれだけ近づけた?」


 それは純粋に世界屈指の剣士にどこまで近づけたのか知りたかったからだ。他に意味なんてなかった。そんなルータスの心を読み取るかのようにアレスは答える。


「ここ最近で俺と、これ程長い時間を戦って生きていた奴はいない。君達は強い、出会う場所さえ違っていれば俺達は、いい仲間になれたのかもしれないな……ここで俺は誓おう! 君達への敬意を忘れないことを!」


 そう言ったアレスは剣を構えその体からは先ほど同様の光の闘気が溢れ出ている。そしてルータスを鋭い眼光でルータスを睨みつける。それに合わせてルータスは剣を構えると大きく叫んだ。


「アイ! コー君! 今のうちに逃げろおお!」


 その声と共にアレスは一気にルータスに向かって突進した。その速度は今までとは全く違い、凄まじい速さでありルータスは反応する事が出来ない。アレスはそのままルータスの腹部に剣を突き刺した。


「ぐふっ!」


 ルータスは何とか体をくねらせ致命傷は避けた。しかし腹部に刺さった冷たい剣が引き抜かれると同時に体から力が抜け崩れ落ちるように倒れた。アレスの剣は正に神業であまりの速さの為に痛みなどはなかったのだ。

 仰向けで倒れたルータスの視界にはアレスが剣を振り上げている姿が見える。アイが悲鳴に近い声を上げながら叫ぶ、


「やめてええええ!」


 そしてアレスは初めて悲しそうな表情を浮かべながら、


「これで終わりだ。さようなら」


 そして剣は振り下ろされる――


 ルータスは目を瞑り歯を食いしばった――


 ……しかしいつまで経っても何も起きない。ルータスは恐る恐る目を開けてみると、そこには見慣れた金髪に黒いフリルのドレスを着たミシェルの姿があった。


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