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ブラッド・ZERO  作者:
第二章 学園編
32/119

第32話  死闘2 

「お前は一体何者だ!」


 スコールはいきなり現れた男に向かって叫ぶ。スコールの目の前に転がっている巨人の死体を挟む様に現れた男は人間で歳は60歳は過ぎていると思われる。黒いローブ姿の奥には何か得体の知れない力が秘められている。男が姿を現してからスコールは体中が緊張をしているのが分かった。

 これはきっと自分の中の生物としての本能が危険を教えている為だろう。スコールは素早く立ち上がり剣を構えると、男はスコールに視線を向けて、


「私が何者かはこの際どうでもいいことだ」


 その言葉にスコールは怒りに表情を歪めながら叫ぶ。


「いい訳ないだろう! 人間がこんな所まで何のようだ! 連れ(さら)った仲間を返せ!」


 目の前の男が一連の事件の首謀者か深く関わりのある人物である事は間違いない。しかしそんな人物がわざわざスコール達の前に姿を現した事が意味するものは――

 それはスコール達に口を割らせない方法があるという事だ。この場合、スコール達を容易に殺す手段があるという事に他ならない。


「あの少女の事かな? 折角手に入れたのだ。それはできんな。あの少女は大切な器となってもらうのだから」


 男は冷酷な笑みを浮かべながら言った。スコールは唇を噛みしめる。


「器とはなんだ? 一体何が目的なんだ!」


 スコールの問いに男は答える気はない。そして辺りに沈黙が流れる。男の態度からしても器とはきっと恐ろしい実験か何かに決っている。それにハーフでなくエルフを(さら)っている事から、何かしらの理由でエルフでないといけないのだろう。

 男は視線をアイの方に向けると興味深く眺めてから口を開く、


「その瞳、お前はカミルを殺した者の1人だな。報告は聞いておる。禍々しい魔法一発でカミルの部下を皆殺しにしたとか」


 その言葉にアイの目が一瞬ピクリと動いたのをスコールは見逃さなかった。そしてアイは口を開く。


「まさか……あいつらの仲間?」


 男はスコールに視線を向けると、


「ならこっちは、兄といった所か? クックック……お前達こそ一体何者で何が目的なのだ。一体アルフォード学園で何を企んでいる?」

 

 男はスコールの事をルータスと勘違いしている。


「お前には関係ないだろう」


 ここはルータスのふりをしているのが無難だろう。男は顎に手を当てながら、


「仲間にならんかと勧誘しようと思っていたが、お前達が我々に害する組織の者と分かった以上、もう帰さん。のこのこ2人で出てきたのが運の尽きだ」


 その言葉にスコールはニヤリを笑い余裕たっぷりに言い放つ。


「2人だけだと思っているのか? お前達、仲間を殺されてまだ学習していない様だな。もうすぐエルドナの部隊も到着するぞ。お前達こそ運の尽きだ」


 もちろんこれはスコールの嘘で、話の内容から推測し適当に合わせているだけだ。それはスコールの唯一の望みが絶たれてしまったからだ。

 可能性は低いがこちらがエルフ学生である為、敵が手をだすデメリットを考えて逃げてくれることだった。しかし男とアイ達は間接的に知っているらしく、何かしらの組織レベルでのトラブルがあったようだ。

 

 ルータスの家に秘密があるとは思ってはいたが、そんなレベルではない。男の言葉から推測するにルータス達は何らかの組織に属していて、学園に来たのもその組織の命令か任務である様だ。

 しかもその組織が敵同士であるらしく、男はもう油断はしてくれないであろう。


 こんなヤバそうな奴らに正面から戦いを挑んでも殺されるだけだ。情けないがこうなったらハッタリで切り抜けるしか方法はない。

 男はスコールの顔をじっと見つめると、何かを考えているようだ。そして小さく頷き左手をかざすと何もない空間からいきなり本が出現した。その本を見た瞬間スコールの体中を悪寒が走った。

 

 それは余りにも禍々しく邪悪な力を放っていたからだ。真っ黒な本は鎖で縛られており、中心に鍵らしき物が封印するかの様にかかっている。

 男はその本に何かを呟くと小さな音と共に鎖が切れ空間に溶け込むように鎖は消えていった。そして男は本を開くと本は輝きながら力を高めていくのが分かる。それは離れているスコールにも十分感じ取れる程強力なものだった。


 ――次の瞬間、スコールの目の前の巨人の死体は黒い霧となり男の持っている本に吸い込まれていった。スコールはいきなり起こった事に驚きの表情を隠せずにいた。男はそんなスコールの表情をみてニヤリを笑い。


「念のために、証拠は消しておかないとな」


 そう言うと男は本を閉じ何もない空間に軽く投げると本は消えていった。一体どんなアイテムなのか想像もつかないが、恐ろしい物である事だけは十分わかった。

 そしてスコールはハッタリが成功した事に安堵した。もちろんそれを表情に出す事などはしない。


 スコールは確信した。敵はスコールの言った嘘を確かめるすべは持っていない。だからこそわざわざ敵の目の前で証拠隠滅を図ったのだ。完璧に騙せたわけではないだろうが、目の前の男に一つの不安要素を受け付ける事は成功したと言ってもいいだろう。

 スコールは剣を男に向けながら、


「それは何だ? レリックなのか」


 スコールは聞いた所で一々教えてくれるはずはないと分かっていたが、相手の出方を探る意味もあった。


「レリック? そんなつまらない物と一緒にされては困るな。まぁいい、おしゃべりも飽きた。お前のハッタリに乗ってやる」

「ハッタリかどうか今に分かるぜ」


 男はスコールの目を探るようにじっと見つめる。そして大きな声で叫んだ。


「アレス!」


 その声と共に洞窟の奥から1人の男が出てきた。その男はスコールですら驚く様な白金の防具に身を包みマントを身につけ腰には立派な剣をぶら下げていた。歳は20代後半で氷の様な冷たい視線を飛ばし黒い髪を後ろで縛っている。

 その男を見た瞬間スコール雷に打たれたような衝撃をうけ、その表情は凍りついた。


「まさか……アレス・ダニエルなのか……」


 その異常な反応にアイも驚き隠せずに、


「アイツが誰か知ってるの?」

「アレス・ダニエル――フランクア王国最強の剣士にして聖剣を授かりし者だ」

「そ、そんな……」


 アイのその言葉から深い絶望が伝わってくる。それもそうであろう、もうこれは組織レベルの事件どころではなく、国レベルの事件だ。フランクア王国はエルフの敵国であり、その兵士長ともいえる人物がエルフの領土に来ている。

 見方を変えればまさに攻めてきているといってもいい事件だ。そんな中で黒いローブの男はアレスに向かって、


「多分ハッタリだと思うが念のために私は引き上げる。後の始末は任せたぞ」

「人使い荒いな。でも、丁度腕も鈍っていたところだ」


 アレスはそう言うと黒いローブの男と入れ替わると男は暗闇に消える様に姿を消した。

 スコール達の前に立ち塞がったアレスはまるで世間話をする様な口調で、


「ゴメンね。君達に恨みはないのだが、これもお仕事でね。運命と思って諦めてくれよ」


 そう言ったアレスはどう見てもスキだらけでまるでこちらに興味を持っていない。当たり前だ、フランクア王国最強の剣士に渡り合える者など、エルドナには王国騎士団戦士長のベルフ・ドミニクくらいしかいないだろう。

 過去に一度2人は戦っているがその時は勝負が付かなかったと聞いている。スコールはこの強さがどれ程のものかよく知っていた。アレスはそんなベルフと肩を並べる剣士なのだ。

 世界に名を届かせる剣士が、たかだか学生に真剣になれと言う方に無理があるだろう。


「一つ約束をしてほしい」

「なんだ? 聞くだけなら聞くよ」


 アレスはいきなりのスコールからの頼みが何なのか見当がつかない様子だ。


「もし、俺達が勝てばエリカは返してほしい」


 その言葉を聞いた瞬間アレスは失笑しながら


「君は面白いね。いいよ、勝てたら返してあげよう」


 聖剣使いが出てきた時点でもうスコール達に勝ち目はないだろう。

 どの道スコール達が負ければエリカは器とやらにされ帰ってこない。なら少しでも可能性がある方法に賭けるしかない。敵もここまできてスコール達を逃してはくれないだろう。

 スコールはアイの近くに寄ると、


「アイすまないな。勝ち目のない戦いに巻き込んじまって、もし死ぬ事になったら俺を恨め」


 自分が死ぬのはいい。しかし自分の無茶な追跡に何の疑いもなく付いてきてくれたアイが同じ運命を辿ることだけは避けたかった。

 アイはそんなスコールの思いを察したのかニッコリと微笑み、


「恨む訳ないよ。アイはこの場所に立ててよかった!」


 今のスコールにはアイの言葉が逆に胸を締め付けた。


「君のその目は一体なんだい? 我が国でもそんな瞳を持つ者は存在しない、一体何処で手に入れた?」


 アレスはアイの瞳に興味を示した。その質問にスコールもアイの瞳を見つめた。しかしアイは口を閉ざしたままで何も話す気配はない。当たり前だろう、わざわざ自分から能力を話す者などいるはずがない。

 そんなアイに苦笑しながらアレスは腰の剣を引き抜くとスコール達に見せるように地面に突き立てた。


「この剣は聖剣スライヤーといってね、強力な光属性を宿し己の闘気を切れ味に変えられる。理論上はどんなものでも切断する力のある我が国の宝剣だ」


 その剣は鏡のように美しく磨き上げられ刀身に宝玉が埋め込まれてあった。そして見る者を吸い込むかのように引きつけるその姿は正に聖剣と呼ぶにふさわしい物であった。

 アレスはそう言うとアイにむかって手の平を差し出す。その手には「次は君の番だよ」といった意味合いが込めたれていた。

 アイは左目のまぶたを軽く擦りながら笑う。それは明らかに侮蔑による笑みだ。


「魔刻印スティグマ、理解出来ないだろうから分かりやすく教えてあげるね。貴方達でいう神から授かった力の一つだ!」


 アイの言葉は力強く放たれ、魔力が高まっていき、小さな体からは信じられない程の殺気が放たれている。

 アレスもそれに呼応し、聖剣を引き抜くと闘気を高めていくのが分かる。その圧倒的な力にスコールの額には汗がにじみ出た。力を開放したアレスは正に目の前にそびえ立つ巨大な壁といえる程の圧迫感があり伝わってくる殺気だけでも逃げ出したくなる程だった。

 

 鬼神、正にその言葉がふさわしい男の前に、スコールは動く事が出来ないでいた。まるで興味を示さなかったアレスだが、ひと度剣を抜けばそこに驕りなどなく本気の殺気がスコール達に向けられている。

 そのアレスの斬り裂くような鋭い眼光に睨まれるだけでも戦意を失ってしまうと思えるほどだった。しかしその沈黙破る一つの声がスコールの後ろから聞こえる。


「“グラビティオプション” 展開!」


 アイはそのまま飛び上がると大きく杖を振りかざし、その杖に魔力が集い左右に展開された黒い球体にも力が集まっていく。


“アイススパイク”


 アイの杖は振り降ろされ、無数の鋭利な氷の刃がアレスに向かって飛んでいく、その威力は凄まじくコロナ村で唱えた時の比ではなかった。

 しかしアレスは迫り来る氷の刃に向かって剣を大きく横に振り払うと、まるで時間が停止した様に氷の刃はピタッと止まり粉々に砕け散った。

 

「きゃあ!」


 何かが割れる音と共にアイの叫び声が上がった。スコールの目には何が起こっているのか分からなかったが、アイは何かに吹っ飛ばされ大きく体勢を崩す。そしてアレスが追撃の姿勢を取った。


 ――まずい! 


 スコールは考えるよりも早くに体が動いていた。アレスに向い全力で走りその剣で斬りかかる。アイに視線を向けていたアレスだが、まるで横に目がついているんじゃないかと思えるほど自然にスコールの剣をアレスは剣の柄で受け止めた。


「なっ!」


 あり得ない動きを目にしたスコールの声は虚しく響く。そして剣は弾かれそのまま流れる様にアレスは柄を返しその刃がスコースを襲った。

 スコールの目は迫り来るアレスの剣を映す事しか出来ず、当たれば致命傷ではすまないであろう攻撃に対して歯を食いしばる事しかできなかった。しかし剣がスコールを捉え様とした瞬間に目の前の透明な光の壁が現れ砕け散った。

 しかし衝撃は凄まじくスコールは地面に大きな跡と、砂煙を巻き上げながら勢いよく吹っ飛ばされた。


「コー君!」


 アイがスコールの元へと駆け寄ってくる。スコールはすぐに立ち上がると、


「大丈夫だ。お前の補助魔法のおかげで命拾いしたよ」


 そうは言ったものの今の一撃はスコールとっては重く体中が悲鳴をあげている。やはりアレスの力は圧倒的で勝つ糸口すら見つかりそうになかった。

 

「仕留めたと思ったのにな。中々変わった魔法を使うね」


 アレスは少し驚きの表情を見せるも余裕たっぷりだ。スコールはアレスに視線を向けたまま横に立つアイに対して、


「何かいい方法はないか? なんでもいい、このままでは戦い以前の問題だ」


 はっきり言って年上の言うセリフではない事は自覚していたが口に出さずにはいられなかった。今の一撃でスコールはアレスとの実力の差がいかに開いているのか、そしてアレスはまだ全く全力で戦ってなどいない事を悟ってしまったからだ。


「アイツの攻撃はアイの魔法も貫通してくる。さっきので、アイのシールドも割れちゃった」

「もう一度シールドを唱えれないか?」

「ダメ……まだ効果中なの」


 強化魔法は何かしらの外からの力で解除された場合は効果だけが消えている状態となり、実際にその効果時間が経過しなければ重ね掛けする事は出来ない。

 アイのシールドの効果時間は不明だ。そして次からの攻撃は、もう守ってくれる魔法はない。


「君達は凄いよ。その歳でそれだけの力、将来きっと素晴らしい使い手になったはずだ。惜しいがこれも運命か」


 アレスはそう言うとスコールに向かって歩きだす。スコールはあまりの威圧感に自然と一歩、足が下がった。アレスとの距離は10メートルはあるが異常に近く感じる。ゆっくり歩いてくるがスコールにはその距離が自分の命のタイムリミットであると思えた。


 しかしその距離が半分に差し掛かろうとした時にアレスは急に後ろに振り返り剣を振り払う。そして辺りには金属音が響き渡ると1本の剣が転がった。そしてよく知る声が響く。


「もう少しコー君のビビってる姿を眺めたかったが、まあいいや。まだ戦いは始まったばかりだぜ」


 その声の先には岩の上に堂々と立つルータスの姿があった。


「お兄ちゃん!」


 アイは嬉しそうにルータスに向かって叫ぶ。ルータスはアレスに視線を向けけると何かを感じ取ったようだ。


「アイ! 本気で行くぞコイツは俺達の敵だ!」


 そう言い放ったルータスの左目は赤く光りはじめた。

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