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ブラッド・ZERO  作者:
第二章 学園編
22/119

第22話  コロナ村

 忙しい学園生活の中でルータス達は上手く予定を組み依頼書、学科を無駄なくこなして行った。遅れた分の単位も周りに追いつく事が出来て、季節も冬は終わりを告げようとしていた。限られた時間の中でEランクスタートのマヤカ班が今の時期で周りに追いつくのは十分凄い事であった。


 なぜそのような事が出来たのか? それはスコールのおかげと言ってもよい。スコールは剣術のみならず学業も天才であり、その頭の回転の速さから無駄のないスケジュールを組み上げ、あっという間に単位を取得して行ったのである。

 そして単位もある程度余裕も出てきて学園生活も一段落着いた所であった。そんな中ルータスは教室の前のドアを開けようと手を伸ばした。


「おーい! ルータス君!」


 ルータスの手はドアに届く前にピタリと止まり声の方に振り向くと、遠くからエリオットがこちらに向かって走ってきているのが見えた。その様子から又班の今後の予定などの話し合いでも有るのだろうと予想できる。

 エリオットがルータスの前まで来ると少し息を切らせながら、


「マヤカさんが大事な話があるから食堂に皆集まってって言ってるよ」


 あ――面倒くさい。ルータスはさっきまで食堂に居たのだった。特に誰もいなかったので誰かいないかと教室に向かって来ていた為にトンボ返りする羽目になってしまった。魔王軍みたいなイヤリングが無いと非常に不便だなと思う。

 エリオットに愚痴をこぼしながら一緒に食堂へ向うと、他の皆は既にテーブルに集まっていた。どうやら入れ違いだった様子である。ルータスは席につくとマヤカが皆を見渡し、


「皆揃ったわね。いよいよ私達マヤカ班もランクがBまで上がったわ!」


 気合の入った声が響く。実はルータスもその声に期待を膨らませる。荷物運びや、お使いの様な仕事はもう飽き飽きしていたのだ。もっとモンスターの討伐とか戦闘に関係ある仕事がしたい気持ちが強くエルドナの外に出たいと前々から思っていたのである。


 マヤカは一枚の紙を自慢げにテーブルに置く、Aランクの依頼書だ。ルータスはエリオットの特訓の成果も合って少しだけなら文字が読める様になっていた。依頼書の内容までは読めなかったがそれでも十分な成果が出ているといえるだろう。

 マヤカ班はランクBまで上がりやっとAランクの依頼書を受けられる様になったのだ。


「初のAランクの依頼書よ。内容はバグベアーの討伐よ」


 バグベアーとは体長は2メートルほどの全身に毛が生えた筋骨隆々大熊で森などに住む危険なモンスターである。たまに森から出てきて畑などを荒らすなどの被害を出すモンスターであった。

 学園の班ならそこまでの強敵ではないが、バグベアーは普段は森の中にいる為に見つけるのが厄介なモンスターだった。もちろん油断は禁物であり過去にはそれで死亡した例もある。

 

「とりあえずここら辺で高難易度の依頼書で単位に余裕を持たせておきましょう。この内容ならそれ程危険じゃないし単位の量も多いわ」


 その考えはルータスも賛成だった。単位は余裕が出来てきたとはいえ、それは遅れていたのが普通に戻っただけだ。この先何が有るか分からない。誰かが怪我をする可能性なども考えると5人が動ける時にどんどんやっておいたほうがいいだろう。進級に必要な単位さえ取ってしまえばあとは遊んでいたらいいだけだ。


 それに作戦の立案はマヤカとスコールがやっている。悔しいがそう言った方面ではルータスはスコールに遠く及ばない。今まで作戦内容で度々衝突が合ったが何時もスコールの言ったほうが正しかった。その後の「だから言っただろう?」と、全てを見通しているかの様なスコールの態度に一々苛立ちを覚えたのを思い出す。

 ルータスとスコールは未だに仲が悪かったのだ。そのスコールが口を開く。


「今回はエルドナの外での仕事になる。日時は明日の朝に北門の前で集合だ。依頼書をよく読んで内容だけ頭に入れておけ、当日知らなかったなどといわない様にな」


 スコールはそう言うとチラッとルータスに視線を飛ばしてきた。まるで「お前のことだ!」と言いたげなその視線に、喉まで出かかった文句をルータスは飲み込んだ。依頼書の内容はあとでエリオットに詳しく聞いておこうと思い。エリオットに視線を飛ばす。

 エリオットもそれに反応して了解の合図を目で送ってきた。


「これが終われば少しゆっくり出来るわよ」


 マヤカの声に皆が反応した。ルータスも今まで魔王軍としての本来の仕事である情報収取が全く出来ていなかった。この依頼書が終ってゆっくり出来るならその時に本格的にやればいい。


「僕、なんか緊張してきた」


 そう言うエリオットが不安そうな顔をしているが。同時に今までやってきた訓練の成果を試したがっている様にもルータスの目には映った。約束道理に時間がある時にルータスは剣術をエリオットに教え、少しずつだがエリオットは確実に力をつけていたのである。

 そしてマヤカは立ち上がると、


「説明は以上、私は依頼書の手続きに行ってくるわ。明日は頼んだわよ」


 そう言って食堂を後にする。スコールもそれに続いて無言で何処かに行った。そして残された三人は、


「エリオットこれなんて書いてあるんだ?」

「エルドナより北にあるコロナ村って場所がこのバグベアーの被害に合っているらしくて、そこに行ってバグベアーと討伐すれば完了って感じかな?」

「森の中にいるんだよね? それって見つけるのが大変なんじゃない?」


 アイの疑問にルータスも頷く、相手はモンスターだ。同じ所に居る訳はないしどうやって見つけるかが問題だ。


「一日で終わらせないといけない訳じゃないし、そこら辺は向こうで調べるしかないね」

「アイは楽しみだな」


 まるで遊びに行くかの様にアイは目を輝かせていた。エリオットは笑いながら言う。


「でもこれでお姉さんに怒られなくてすみそうだね」

 




 冬は過ぎ春の訪れを予感させるも、まだ朝は少し肌寒く吐く息は白い。マヤカ班一同はエルドナの北門の前に集合していた。ルータスとアイ以外は皆経験者である為、特に緊張と言ったものは見受けられない様子だ。しかしそれはアビスで戦ってきたルータス達も同じだった。

 ここはエルフの領土であり、アビスで暮らしているルータス達にとって、それ以上のモンスターが出てくる事も考えにくいからだ。地下階層ならともかくバグベアーならそれ程恐れる事はないだろう。


 エリオットの話によるとコロナ村へは歩いて移動しても昼までには到着するらしい。北門から街道を道なりに行けばいいようだ。しかし街道といってもエルドナからコロナ村までの間には野盗やモンスターが出る事は珍しくない為、気を引き締めて行かなければならない。

 高ランクの依頼書は目的のモンスターより、そこに向かう移動中に事故起こることが多いらしくルータスは密かに野盗の襲撃を期待したりしていた。

 マヤカは大きく手を叩くと、


「皆、忘れ物は無い? 最終並ぶ順番は頭に入れた?」


 ルータスは背負った鞄の中に入ったスカーレット特製弁当の一を手で確認するとニヤリとする。最初は学園の食堂も新鮮で楽しみだったが、純粋な味ならスカーレットの料理のが美味い。特に弁当はあまり食べたことがなかった為に今日一番の楽しみだったのだ。

 

 そしてマヤカの言った並ぶ順番は隊列の事である。危険を伴う移動の時は、緊急時に対応できる様にクラスによって並ぶ順番が決められていた。通常は一列縦隊で先頭と後尾には戦士系のクラスを置きその後ろにバッファーや魔法使いで真ん中にヒーラーが一般的だった。


 マヤカ班の場合は先頭が万能戦士のスコール、次に魔法使いのアイが付き、真ん中はヒーラーのマヤカだ。その後ろにバッファーのエリオットで最後尾にルータスが決められた順番だった。


 ルータスは班での戦闘は今回が初めてなのでマヤカやエリオットがチームとしてどれだけ出来るか全く知らいのだ。もちろんそれはルータス自信も同じでチームとしてどれだけやれるか早く試したい気持ちで一杯だった。


 決められた順番に並んだのをマヤカは確認すると。


「では、気合い入れて行くわよ! 出発ー!」


 大きく声上げ拳を突き上げるとマヤカ班での一同はコロナ村に向けて歩き出した。門の外は平原が広がっていた。街道沿いはある程度道も整備されており南のルータス達が住んで居た所とは大きく違っている。

 チラホラ学園の生徒も見えている。多分似た様な依頼書を行なっているのだろう。ルータスは歩くだけなのも暇なので何気なく口を開いた。


「そう言えば西の方にはオーガの国があるんだよね。皆は行った事ある?」


ある訳がないのは知っていた。他種族は基本相容れないものなのは一般常識であるからだ。しかしエリオットの意外な言葉が帰ってくる。


「行ったことはないけど、卒業したら一度行ってみたいかな――」

「ん? そんなに気軽に行ける所なのかい?」


 ルータスの言葉に、先頭を歩いているスコールが呆れた声で、


「お前、本当に今まで剣しか振ってこなかったのか? 10級生にも学科負けるんじゃねぇの?」


 本当に一々一言多い奴だな、と思いルータスは顔をしかめる。そしてエリオットが、


「オーガの国とは協定が結ばれていて、多少だけど国同士の付き合いがあるんだよ」


 国と国が繋がっていた事にルータスは少し驚いた。基本的に種族はその中だけでしか仲間意識はないと思っていたからだ。しかし考えてみれば十分考えられる事だった。同盟を組んでいれば人間が攻めてきた時でも心強いからだ。

 エルドナはいい国だが南に人間のフランクア王国と言った癌を抱えている為に何かあった時の保険は厚い方がいい。人間は欲が強く人数が多いだけに厄介なのだ。過去の歴史でもフランクア王国と衝突が一番多かったのはエルドナ王国だった。それだけに敵国と言ってもいいだろう。

 そのうちオーガの国はどんな所なのか調べる時も来るに違いない。


「そういえば、エルドナの北側には強力なモンスターとか出たりするの?」


 その言葉にマヤカが口を挟む。


「この辺の街道はそこまで強いモンスターは出ないわ。街や村から離れて変な所行けば出るかもしれないけどね。昔はこの辺も危なかったらしいけど」


 そして言葉を付け足す様にエリオットが言う。


「昔はこの辺も6つの最悪の1つであるケルベロスが暴れまわっていて聖剣を持った勇者に倒され、ここエルドナは平和の地になったって言われてるけどね」


 6つ最悪、魔王アルガノフを始めとする。世界で起きた凶悪な事件、モンスターなどの事である。しかし、おとぎ話の様に思われているものも多く全てが真実なのかは知る者は少なかった。

 言い伝えレベルの話から実際の話まであり隣のオーガの国では最悪の1つレッドドラゴンが封印されており今も固く守られている。

 ルータスは誰に言うわけでもなく口を開く。


「有名なレッドドラゴンみたいな感じか……」


 ルータスは学園での歴史の授業を思い出した。昔、全種族は手を取り合って生きていた。それは共通の強大な敵がいたからだ。しかし6つの最悪が滅ぼされ世界が平和になると次はお互いを憎み領土の取り合いとなり4つに分かれていった。と言う話だった。

 本当はもっとエルフだけが正義みたいな話が多かったが、何処の国の歴史でも同じ様な事言っているのが容易に想像できた。歴史など自国の都合に合わせて変わるいい加減なものだ。


「聖剣は凄いんだね。歴史といえば魔法の基礎とかってこれはエルフが独自で作って来たものなの?」


 アイの質問にエリオットが首を傾げながら聞き返す。


「それはどういう意味?」

「アイ達が教えてもらっている授業とか、もっと高位の魔法とかって全種族共通なのかなって思って」

「あーなるほど、ある程度は共通だと思うけど有名な魔法使いは自分の情報は教えないから高位な魔法は分からないや」


 言われてみればその通りだ。情報は時に命をも左右する。それは国レベルでも個人でも同じ事だ。この流れでエリオットに魔法の話やエルフの領土の事など自分がもっていた様々な疑問を投げかける。

 今まで勉強には縁がなかったルータスも真剣にエリオットの話を聞いた。エリオットの話は非常に分かりやすく為になる話が多かったのだ。


 前々から感じていた事であったが、魔法や剣技に関しては魔王軍の授業とは全く違い。その違いに驚かされた。エルフは具体的な内容は無く魔法は魔力、剣武は闘気、といった感じでざっくりとしていた。もちろん重魔法なども有るわけが無い。

 その事からアイの魔法ならエルフの学生位なら圧倒する事が想像できる。やはり魔王軍はその点に関しては、かなりレベルの高い教育を行なっていると言えるだろう。


 そんなこんなで話をしていると時間もあっと言う間に過ぎ、

 

「そろそろ見えてきたな」


 先頭を歩くスコールが呟き、指を指した先には村が見える。エルドはとは違い特に変哲も無い質素な村だ。ルータスはそれに少し驚いた。純血は皆がいい暮らしをしていると言うイメージしか無かった為に目の前に広がる村に違和感があったからだ。

 周りには畑が広がっており所々に畑で作業している者たちが見える。のどかな光景に少しほっこりする感覚があった。


 村の人達もこちらに気づいた様子で、入り口に一人の男が出てきた。マヤカ班一同は入り口まで到着すると、マヤカが一歩前に出て、


「こんにちは、依頼書件で来ました」


 その男に礼をすると、


「聞いてるよ、わざわざ遠くからどうも、今少し大変なんだ」


 何やら意味ありげな言葉にルータスは少し引っかかる。そして一同は村へ入ると中は思ったより奥に広く人もそれなりに多かった。

家は殆どが木造で村の中心は小さな広場になっており子供達が遊んでいた。マヤカは胸を撫で下ろす様に、


「流石に半日歩くと疲れるわね」

「帰りもあるんだぞ、しっかりしてくれよ」


 スコールがそれに返した。しかしそんな事よりもルータスには重要な事があった。


「そんな事より早く弁当食べようぜ!」

「おーー!」


 声高々に手を上げ言った言葉に反応したのは、妹のアイだけだった。

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