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ブラッド・ZERO  作者:
第二章 学園編
20/119

第20話  先生の授業2

「さあ、今日は武器についての授業をやりたいと思います。皆さん頭にしっかり入れて置いて下さい」


今日も青空の下、チャンネ先生の授業が始まった。チャンネは教壇の前に立つと大きな声で言った。生徒は、おなじみのルータスとアイだ。2人はそれぞれの席についている。


「さて、今日は武器ついてのお話です」

「ハイ! 先生」


 ルータスとアイの元気な声が青空に響く、


「君達は、最初の目標である、カミルを見事撃破しました。良くやりましたね」


 チャンネは両手で盛大な拍手し、2人を賞賛する。ルータスとアイも嬉しそうに顔を見合わせて手と手をタッチした。


「私のプレゼントの武器と防具は気に入ってくれましたか?」

「ハイ! 凄かったです」

「では、今日は君達の武器の細かい説明をしましょう。2人とも武器を出して下さい」


 この武器はイヤリングにリンクしている。念じると、召喚され現れる武器だ。これはルータスとアイ専用に作られた武器である。初めて受け取った時にチャンネはコードというもので武器にルータスとアイの名前を刻んでいた。

 コードとは武器に刻む事によって、その持ち主の証となり体の一部となる。召喚などを行うのに必要なものだ。

 

 ルータスは右手を真横に伸ばすと頭の中で念じる。すると、右手の先の空間から、禍々しい力を放つ剣が現れた。

 その剣は真っ黒の片刃の剣だ。波紋の部分は濃い紺色で刀身には青色の宝玉が三つ並んでいる。剣の周りにはその込められた魔法力が溢れ出し、空間が少し歪んでいる感覚すらあった。


 続いてアイも右手を真横に伸ばすと、同じ様に禍々しい杖が現れた。その杖は、まるで槍の様にすらっと伸び、先には大きな赤色の宝玉が付いている。その赤色に透き通った宝玉の中には小さな宝玉が三つ中に浮いていた。

 杖の周りにはルータスの剣同様の凄まじい魔法力が感じられた。チャンネはそれぞれの武器の出現を確かめると、


「魔剣レヴァノンと高魔結晶の杖、これが貴方達の武器の名前であり、私がディーク様から頂いた魔力結晶を埋め込んで作った最高傑作です。この世で最も優れた金属アビスダイトを材質としてものです。その2つの武器はディーク様がお作りになられた、あの偉大な魔力結晶が剣は刀身、杖は宝玉の中に埋め込まれています。カミルとの戦いで使用した感想はどうですか?」


 ルータスは、この剣の恐ろしいまでの力と、吸い付く様に手に馴染む感覚を思い出す。初めて持った時の、まるで体の一部にでもなったかの様な一体感は、正にこの武器でしか味わえない気持ち良さがあった。ルータスは魔剣レヴァノンを見つめながら、


「この武器さえあれば何でも出来るんじゃ無いかって思しまいました」


 それに続いてアイも高魔結晶の杖を眺めながら、


「この杖が有ればどんな魔法でも打てる気がしました」


 チャンネは満足そうな笑みを浮かべると、


「中々良い評価を貰って私も鼻が高いです。では武器を自分の机の上に置いて下さい」


 ルータスとアイは、目の前の机にそれぞれの武器を置いた。そしてチャンネはルータスの前まで来ると魔剣レヴァノンを持ち2人に見せる様に話し出した。


「ルータス君、この程度で満足して貰っては宝の持ち腐れですよ。この魔剣レヴァノンは、まだまだ強くなります」


 チャンネの言葉にルータスは驚いた。魔剣レヴァノンは魔剣と呼ぶに相応しい武器で、これ以上に強くなる事など想像できなかった。


「それはどう言う意味ですか? 先生」


 チャンネは、ニヤリと笑みをこぼすと、刀身の宝玉を指差した。


「秘密はこの3個の宝玉です。ディーク様の魔力結晶は、神をも超える力です。そんな力を扱うには、持ち主が強く無くてはいけません。この剣はルータス君の強さに応じて自らの力を解放します。今はまだ宝玉を1つ光らせるのが精一杯でしょう。しかし鍛錬を重ね、宝玉3個を光らせる事が出来た時、この魔剣レヴァノンは真の力を発揮するでしょう」


 ルータスはその言葉に震えた。その力が恐ろしい訳では無い。歓喜の震えだ。ルータスは幼い頃から力を求め続けてきた。それだけに魔剣レヴァノンの強大な力は魅力的に見えたのだ。


 次にチャンネは魔剣レヴァノンを机に置くと、アイの前に立ち紅魔結晶の杖を手にとった。


「この高魔結晶の杖も同様です。この先の大きな赤色の宝玉の中にある小さな宝玉3個を、光らせるだけの魔力を込めると真の力を発揮します。スティグマを発動させエクスプロードをこの杖で放てばそれは凄まじい威力だったでしょう?」


 ルータスはアイの放ったエクスプロードを思い出した。もはや魔法とは言えないレベルの威力を。訓練で何度も見てはいたが、高魔結晶の杖で放ったのはカミルの時が初めてだったのだ。

 ルータスは、あのエクスプロードより凄い魔法はディークくらいしか使えないんじゃ無いかと思った。ディークが、渡す物はその一つ一つが常識から外れ過ぎていて、スティグマにしても武器にしても桁外れだった。


 チャンネは、高魔結晶の杖をアイの机に置くと、


「分かりましたか? 貴方達はこの武器の宝玉を3個、光らせられる様に強くならないと行けませんよ。次に防具ですが、あの装備も魔力結晶から作られた物ですが、防具の方は学園がひと段落つくまで封印ですね。魔王軍として活動する時に渡します」


たしかに、防具も凄い力を秘めていたが、流石に学園は制服を着ないと不味い。


「そして武器について大切な事があります」


 チャンネの言葉に力が入り、真剣な表情でルータスとアイへ交互に視線を動かすと、


「学園では、この武器の使用は許可しません。アイ君のスティグマもです。強い力は災いを呼び危険です。これは私との約束ですよ。私は貴方達を信用していますからね」


 約束は当然だと思った。これ程の力を学園などで振るうと、どうなるか流石に分からないはずは無い。武器にしてもそうである。アレはルータスやアイの為に作ってくれた武器だ。奪われでもしたら魔王軍の脅威にもなりかねない。

 この武器は時と場所を、選ばないとディークにも迷惑がかかってしまうからだ。


「分かっています。学園では絶対に使いません」

「アイも先生と約束するよ!」


 2人は心に誓った。しかしチャンネは真剣な表情から、優しく微笑むと、


「しかし、もし君達が何かの脅威に晒され、命のやり取りとなった場合は、武器使用を許可します」

「学園でもですか?」

「当たり前です。何やら黒翼という者達の出現も報告で聞いていますし」

「クルト・エーッリッヒか……あいつから凄い強さを感じました」

「貴方達より強い者はまだまだ沢山います。勝てないと思った時は逃げることも大切ですよ。何よりもまず自分を優先しなさい」

「この武器よりもですか?」

「当然です。大切な教え子である貴方達のが、私は大事ですからね。それはディーク様も同じ考えだと思いますよ」


 ルータスは目頭が熱くなるのが分かった。今までこんな事言われた事が無いからだ。ルータスは自分を幸せ者だなと、浸っているとチャンネから思いもよらない言葉が飛んで来た。


「それとですねルータス君、スコール君との喧嘩の件ですが」

「――え?」


 ルータスは、口を開けたまま固まった。バレる要素は全くなかった。ならばその原因は一つしか無い。ルータスは固まったまま首だけ動かすと、その原因に視線を送った。


「お姉ちゃんには言ってなーいもんね」


 アイは、ルータスと目を合わさず、明後日の方を向いている。ルータスは再び前を向きチャンネを見ると、


「ルータス君の気持ちも分からなくは無いと言いたいですが、流石に少アイ君の話を聞く限り君は進級に対する危機感が足りません。ここで先生から一つ課題を与えます」

「ど、どんな課題ですか?」


 チャンネは一瞬アイの方を見ると、


「チームワークを身に付ける訓練として、学園で必ず進級する事です」


 ――はい? 進級? まだ単位にゼロだよ? スコールだって問題は解決したけどこれからどうなるか分からないよ?


 様々な考えが頭の中を巡りルータスは恐る恐るチャンネに1つの疑問を投げかける。


「も、もし進級出来なかったら?」


 チャンネは、腕を組みハッキリと、


「ルータス君のお姉様にキツく叱ってもらいます」


深い絶望がルータスに襲いかかる。進級する為には、スコールとも力を合わせて依頼書などをこなして行かないといけない。現状これ以上ないほど仲が悪いのにどうやってやれと言うのか? いくら考えても答えは見つかりそうになかった。


「そ、そ、そ、そんな! お姉様は関係無いんじゃ――」


 ルータスは、すがる様な視線をチャンネに飛ばすも、


「剣術や魔法だけが強さではありませんよ。そう言う意味では学園のシステムはルータス君にとって大きな成長となるでしょう」

「う―― 分かりました……」


 こうなったら腹を決めてやるしか無い、これはアイも同じ条件だし力を合わせれば何とかなる気もした。

 そしてチャンネは、


「スコール君と戦ってどう思いましたか?」

「血の開放をしない僕と互角レベルで、人として考えればかなり強いと思います」


 血の開放、ルータスはヴァンパイアだが普段はエルフのハーフの姿である。しかし体の中にはディークの血が流れており、左半身の失った部分はディークの血液から作られた体である。

 その中に眠る血の力を開放すると、ヴァンパイア化することが出来る。作られた左目はヴァンパイアの様に赤くなり、左半身からは黒いアザの様なものが浮かび上がり身体能力がかなり高くなる。

 スコールとの戦いでは当たり前だが血の開放は行ってはいない。人前でヴァンパイア化すれば流石に学園にいられなくなるのは目に見えているからだ。


 チャンネはルータスの答えが求めていたものと違ったかの様で、質問を言い直す。


「言い方を変えましょうか。スコール君との戦いの中で、何を感じましたか?」


 ルータスは思い出す。あのスコールの気迫と決意を。


「――あいつは、誰の力も借りずたった一人で立ち直り向かってきた。そんな彼を、本当に凄い奴だって思ったんです」


 チャンネは納得した様に、大きく頷くと、


「先程私が言った。剣術や魔法以外の強さとは、正にその事ですよ。その強さがどれほど大切なのかルータス君はもう分かっているはずです」

「先生……」

「どうしました?」

「スコールは本当に天才だった。剣の腕、剣武、魔法と、どれを取っても一流で凄かった。僕の力はディーク様から頂いたもので、血の力が無ければ僕が勝つ事などあり得なかった。たった一人であれ程の力を身につけたスコールに負けた気しかしなくて、悔しくてしょうがなかったです」


 本当に戦いの中で思った事はこっちの方だった。ルータスはこの劣等感の答えが分からず悩んでいたのだった。

 チャンネはそんなルータスの頭を優しく撫でると。


「そんな事はありません。スコール君のその天賦の才が、生まれつき神からの贈り物であるように。ルータス君、君の血の力も又、神以上の偉大な人からの贈り物です。だからその力は君の立派な才能です。誇ることは合っても、劣等感を感じる必要など何一つありません」


 その答えに、ルータスの顔が一気に明るくなり、


「そうだ……その通りだ。先生ありがとう。心に刻んでおきます」


 ルータスは少し心のもやもやが取れた気がした。そしてチャンネは、教壇の前に戻ると、


「これで武器についての授業を終わります。午後からは又、実技の授業です」

「ハイ! ありがとうございました!」


 二人の声は、元気よく大空に響いた。





「ルー君、おはよう」


 魔王城の大広間でティアは明るいトーンで話しかけた。その声は以前のティアとは全く違い、美しい声だった。


「おはよう、今日も早いね」


 ルー君こと、ルータスも挨拶を返した。あとで分かった事だったがティアはルータスよりも1つ年上だった。魔王城に来てからは親しみを込めてルータスをそう呼んでいたのだ。


「…………」


 2人は向かい合って立ったまましばしの沈黙が続いた。


「ルー君、ど、どうしたの?」


 ティアの声にルータスはハッと気づく、ティアのメイド服姿に一瞬目を奪われていたのだ。ティアは魔王城でメイドとして働いている為に当然、メイド服を着ている。

 しかし貧民街の時とは違って、今は清潔感がある。ピンクの髪はサラサラで風にふわりとなびき、黒に白いエプロンを付け尻尾の部分だけ穴を開けた特別製メイド服はこれ又、ルータスにとっては攻撃力が高く、ティアの豊満な胸がより一層、美しさを演出していた。

 人狼である為に頭の大きな耳もルータスにとってポイントが高く、キラリと光る魔王軍の証のイヤリングも正に本当の意味での宝石の様に目に写っていたのである。

 ティアは戸惑っている様子で、尻尾が少し丸まっていた。


「ご、ごめん、なんかボーっとしちゃって」 


 慌ててなんとか誤魔化すと、後ろから、


「ルー君は、ティアちゃんの可愛い姿に興奮してただけなんですぅ」


 アイがルータスの声色を真似て飛び出してきた。


「な、何いってんだよ!」


 図星を突かれ焦るルータスを見てアイはニヤニヤ笑っている。そして、


「今日から頑張らないとねー」

「そうだな……」


 ルータスの不安げな表情を察してティアが、


「ルー君、何かあったの?」

「そうなんだよ、先生に学園で進級しないとダメだって言われちゃって……」

「大丈夫、ルー君なら出来るよ。応援してるね」

「ありがとう、ティアが応援してくれるなら進級できそうな気がするよ」

「ちゃんとコー君とも仲良くしないとね」


 アイのいった言葉。それが一番の問題だった。しかしスコールも学園の生徒である以上、進級しないと行けない訳だ。多分ある程度は協力的なはずという希望もあった。


「分かってる。前とは事情も違うし、やるしか無いよな!」


 ルータスは、両手で顔と叩き気合を入れると、


「今日からが本当の学園だな、やってやる! 単位を取りまくってやる!」


 アイは大きく拳を掲げて、


「おー! なんか楽しくなってきたねー! 頑張ろう!」

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