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ブラッド・ZERO  作者:
第二章 学園編
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第18話  新たな誓い

 ルータスは鼻歌を歌いながら足取りは軽い。一時はどうなることかと思ったルータスであったが、全てが上手く行き、女の子の評価も上がって万々歳であった。


 世の中の男は一番に強さを見られる。勉学も飛び抜けていれば又少しは変わってくるだろうが、剣技や魔法の技術はそれ以上に重要だった。それは純粋に強ければそれだけ将来の道が多く、どんな職でも殆どが強さを求められるからだ。

 女性も生物の本能か、強い者に惹かれる様に出来ている。だからエリカもスコールとの事件後、話しかけてきたのである。もしあの時ルータスが負けていたら見向きもされなかっただろう。

 強さとは、それほど重要なアドバンテージなのだ。


 ルータスは今貧民街を歩いていた。それはティアにスカーレットの弁当を上げようと考えていたのだ。

 ティアに初めてあった時、あの体は酷く痩せ細っていた。ここは貧民街だから当然なのだろうが食べ物に困っているのは明白だ。ルータスも昔は毎日の食い物に困ってアイと苦労した分ティアは放っておけなかった。

 多分今までティアはずっと一人だったのだろう、何の根拠もなかったが、ティアを見ていたらその雰囲気で何となく想像がついた。

 だから今度は自分が誰かの力になる番だ。と思い林の前まで来ると、ティアがいるのが見えルータスは大きく手を振った。ティアもルータスに気づいた様子だったが、すぐに林の中に入ってしまった。


 どうやらまだ信用されてないらしい。当たり前である。前来た時は風呂を覗いただけなのだから。そしてルータスも林の中に入ると、奥に箱の上にティアは座っていた。


「又きたよ、ちゃんとプレゼント持ってきたしね」


 ティアは箱を一つルータスに渡すと、


「ホントにきたんだね。座る?」

  

 前から薄々気づいていたが、ここはティアの家みたいだ。ルータスも同じような所に住んでいた経験から何となく予想はついてはいた。


「ありがとう、それとこれ、凄く料理が上手い人が作ってくれた弁当なんだ」


 スカーレット特製弁当をティアに差し出す。正直、スカーレットは人では無いが他に言い様が無いので、これは心の中で留めておく事にする。ティアは弁当を受け取ると、


「ルータス君は、なんで私に優しくするの?」


 まるで、それが異常であるかの様な言い方だ。その訳はルータスには痛いほど分かった。この世界は4種族が支配している。言い換えれば4種族以外は支配される側だ。この言葉一つでティアのこれまでの人生がどれ程大変だったか分かった。


「放っておけないからだ。信じられないだろうけど僕も前はティアと似たような生活をしてたんだよ。ある人に助けられて変わる事ができた。だから次は僕がティアを助けたいんだ。それにティアと友達になりたかったからね」


 何故かすらすらと言葉が出てきた。これは本心だからだろう。ティアはルータスの真剣な表情をじっと見つめていた、


「私人狼だよ?」

「知ってるよ」


 とだけ答えると、ティアは初めて笑いながら、


「ありがとう」


 そのティアの初めて見せた笑顔は、とても綺麗で美しかった。ルータスはもしかしたらこの顔が見たかったのかもしれないと思った。

 そしてティアはスカーレット特製弁当を開けると一口中身をじっくり眺め、一口食べた。するとティアの肩は震えだし、その目からは涙が溢れ出していた。


「おいしい……」


 その声は震え、その涙はまるで、今まで耐えてきた、誰にも相談できずに自分の中に押し込めてきた弱い部分、辛かった事を吐き出すかの様にポロポロと流れだしていく。そんなティアの姿をルータスはただ黙って見つめる事しか出来なかった。

 ティアは一頻り泣くと、


「ごめんね。ご飯が美味しくて」


 そのまま頷くと、何も言わずにルータスは笑った。そしてティアが弁当を食べ終わろうとした時、


「用事とは、やはりこの事だったんですね」


 後ろから聞こえた声にルータスは恐る恐る振り返ると、まさに想像通りの人物、アイが立っていた。その顔は蔓延の笑みが溢れ、嫌な予感以外しかしなかった。アイはティア前まで行くと、


「こんにちわ! お兄ちゃんの妹でアィーシャっていうのアイって呼んでね!」

「な、なんでアイがここに……」


 アイは赤い髪をかき上げ右耳につけたイヤリングをぷらぷらさせながら見せる。このイヤリングは、付けている者と連絡が取れたり大体の場所が分かる便利アイテムだ。アイは朝の時点でもう勘づいていたのであった。

 長年一緒にいると、日々の微妙な変化も分かる様になると言うが、アイの勘は正にそれだった。

 いきなりの登場にティアは呆気に取られている。


「ふむふむ、なるほど、この子がお兄ちゃんのメッチャ可愛いって言ってたティアちゃんか。お兄ちゃんのタイプなのかメモメモ」


 ルータスは凍りつく、いきなり登場してからの展開が早すぎてルータスは言葉の意味を把握するまで少しの時間がかかった。ルータスはアイに向いていた視線をティアに向けると真っ赤な顔して下を向いているのが見える。


「お、お、お、お前何言ってんだ! いきなり登場して何なんだ!」


 ルータスは額に汗が滲むのが分かった。アイの悪魔のような笑顔の裏の思考がルータスには手に取る様に分かったからだ。

 

「だって言ってたじゃん! あの言葉は嘘だったの?」


 その言葉にティアが反応し、ぴくっと耳が動く、


「それは……言って無くは無いけど、そんな言い方じゃないだろ!」


 アイは自分の両手を握って左右に振りながら、


「ティアちゃんを家に連れ帰って、一緒に住みたいとか言ってたじゃん!」


 ――はい?


 この瞬間、ルータスの頭は真っ白になり、ルータスの世界は止まった。アイから放たれた言葉を、言った記憶は無かった。


「え……」


 ティアの言葉は漏れる様に口から出る。そこからは、ティアも今までこう言った事を言われた事が無いのか、どうしていいのか分からない様子で、耳と尻尾を微妙に動かしている。


 アイも嘘を付くような真似はしないのはよく分かっていたルータスは、必死で記憶の中から朝の発言を捻りだす。頭のなかに浮かんでは消えていく記憶で一つの言葉が頭の中に残った。


 ――スカウトの話し、あっただろ?――


 この言葉が思い浮かんだ瞬間、ルータスはフラッと目眩がして、倒れそうになった。アイは、この言葉を、一緒に住みたいと解釈している様子だ。言語能力のレベル高さに唖然とする。

 ティアを見ると頭の耳がぺたんと塞ぐように倒れて、どう反応をしていいか分からない様子だ。そんな姿が少し可愛いと一瞬見惚れてしまうが、


「ちょっとまてー! そんな事一言も言ってないだろ!」


アイは、両手を左右に広げながら、


「あれー? ならティーたんが、城に来なくていいんだー?」

「そんな訳あるか! ダメに決まってるだろ!」


 ――あっ


 思った時には既に遅く、アイは両手を叩きながらケラケラと笑っている。怒涛の様に押し寄せてきた、アイは一頻り楽しんだ様子で、舌をペロッと出し、


「ごめん、ごめん、これ以上意地悪はやめとくよ」

「全く、何しにきたんだよ」


 ただ単に、からかう為だけに来る様なアイでは無い、ならアイの目的は何なのか、その答えは、すぐに分かる。


「一応、アイもスカウトの仕事をしないとね。ゲートとも必要でしょ?」


 魔王城に帰るにはゲートを開かないといけない。しかしルータスはゲートを使えなかった。つまりアイが居ないと魔王城に帰れないと言う事である。アイは、ルータスの真意をすぐに読み取り、わざわざ迎えに来てくれた様である。

 実はルータスはそんな事まで考えていなかった。頭にあったのは、ティアと友達になりたい。これだけだ。しかしそんな事は口には出さず、


「後で、呼ぼうとは思ってたんだ」


 とりあえず、合わせておく事にする。


「それに、こう言うのは、女の子同時の方がいいの」


 そう言うと、アイは、ティアに事情を説明し始めた。ルータス達がハーフである事や、学園に来た目的、順を追って話していく。ルータスは、アイの説得と勧誘を聴きながら、よくこんなに、ポンポン言葉が出ると、感心する。

 前から思っていたがアイは誰とでも仲良くなりコミュニケーション能力は素晴らしかった。本人には完全に素だろうが、これは一種の才能だろう。

 実際ティアを、仲間にする事だって、ルータス1人では、どうなるか分からなかった。もし上手く行かなければ実はアイに頼むつもりでいたのだ。アイが一通りの説明が終わると、ルータスはコホンと、咳払いをすると、まるで子供がヒーローの真似をするかの様に、ティアに手を差し伸べる。


「ティア、俺達の仲間となり、この世界を変えよう!」


 まるで似ていない物真似に、アイは苦笑いし、


「本物そんなにカッコ悪く無いけどね」


 ティアは、微笑みその手をしっかりと握ると、


「ありがとう」


 その笑顔は、新たな世界への希望と夢に満ち溢れていた。





 ――それから3日

 

 ティアは、魔王城のメイドとして働く事になった。ディークはティアを歓迎し、スカーレットの元に付くこととなった。ルータスは少し心配していたが、以外にもティアは少し驚いた表情を見せただけで、骸骨メイド長にはすぐに慣れ、メキメキと仕事を熟して行った。人手不足の魔王城にとって力強いメンバーを得ることが出来たのだ。

 初めてメイド服を着たティアの姿にルータスは赤面しアイとミシェルに冷やかされると言ったお約束もあり魔王城は又一段と騒がしさが増えていったのである。


 しかし学園は、3日たった今でもスコールの姿は見えなかった。正にマヤカの心配していた事が当たってしまったのである。マヤカ班一同はスコールの家に行くも、家には不在だったらしくエルドナを皆でスコールの捜索をしていたのだった。


「コーの奴、ホント何処いるのよ! このままじゃ進級が……」


 マヤカの悲観と絶望が入り交じった声が響く、一日エルドナを探したが見つからず、すでに辺りは薄暗くなっていて学園に戻る途中であった。このまま来なければマヤカとエリオットの将来の道が閉ざされるだけに、事は重大だ。


「スコールさんもこのままじゃ進級出来ないから、いつかは来るんじゃないかな?」


 エリオットの楽観的な思考に、マヤカは噛み付くように言う、


「そんなこと言って来なかったらどうするの!」

「ヒッ! ご、ごめんなさい」


 エリオットはマヤカの迫力に縮こまってしまうとルータスは、


「あんなでかい家に住んでるんだ。コーの野郎は困らないだろうよ」


 フィリット家、有名な騎士の家系の貴族、ルータスは聞いてはいたが、その想像を軽く凌駕していたのであった。エルドナにある高級住宅地の中、どの家も凄い家で住宅街を見学するだけでも一日遊べそうな位だ。その中でも一際目立つ存在感を放ち、他の家が普通と思えてしまう様な建物がスコールの家だったのだ。

 ルータスの住む魔王城も敷地は大きいが華やかさは無い。フィリット家は金の無駄としか思えないレベルの装飾が多数施され、家がまるで一つの芸術品であるかの様な輝きがあった。


「コー君の家凄かったねー金持ちはいいな」

「アイ、依頼書なんかしなくても、コーの野郎を捕まえて身代金取るほうがいい仕事なんじゃないのか?」


 ルータスのそのケラケラ笑いながら楽しそうに話す態度にマヤカは、


「ちょっと貴方達は危機感ってものが無いの!? 私は今期卒業なのよ! 分かってる!?」


 通常1級生以外は進級出来なくとも、まだ次の年の頑張りで取り戻すチャンスはある。しかし1級生は別だ、特進しない限り1級生は15歳である為に留年した時点で道は閉ざされる事になる。その為、マヤカは必死だったのだ。


「でもコーの野郎、本当に何処行きやがったんだ。家出でもしたのかな?」

「それは無いわ、家の人は、今は外出中と言っていたし――」


 一同は、スコールの今後の作戦を話し合いながら学園に戻ってきた。もう学園には殆ど人は残っていない様子だ。

 

「ちょっと、学園の中を見てくる」


 ルータスはそう言うと歩きだした。その言葉に深い意味は無かった。ただ何となく学園の中が気になったのだ。


「待ってよお兄ちゃん、アイも行くー!」


 アイはルータスの横に走って追いつくと、並ぶように歩く、特に何か話す訳でも無く2人は吸い寄せられるように建屋の北側の広場に付いていた。ここに何かあると分かっていた訳では無い。何故ここに来たのかも分からなかったが何故かここに来ないといけない気がしていた。


 その理由は目の前にいた。スコールが立っていたのだ。まるでルータスを待っていたかの様な雰囲気だ。ルータスはスコールの前に立ち、


「今まで何してたんだ。まさか悔しくて一人で泣いていたのか?」


 スコールを挑発するかの様な言葉を吐くルータスにスコールから予想外の言葉が帰ってくる。


「――そうだ」


 ルータスは少し動揺した。短い付き合いだがスコールがそんな事言うヤツではない事をよく知っている。犬猿の中だっただけにそのプライドの高さ、絶対の自信、驕りはよく分かっていた。

 しかし今目の前にいるスコールからは今まで見せていた他人を馬鹿にする様な態度は一切なく異様な雰囲気があった。


「俺は今までお前がくるまで一度も負けたことなど無かった。天才と呼ばれ周りのレベルの低さを嘆いた事すらあった。その慢心が今の俺だ」


 まるで自分に言い聞かすようにスコールは言った。


「お前に負けて、悔しくて悔しくて初めてあんなに泣いたよ。今まで人を見下してきた俺が見下される立場になるんじゃ無いかとも思った。だが!」


 スコールは右手を強く握ると闘気が集まってくるのが分かる。


「それ以上に俺は自分が許せない! 戦わずして無様に敗れた俺が! お前の殺気の前に手も足も出せなかった自分が!」


 ルータスは真剣に話を聞いている。その表情からは今まで嫌っていたスコールへの態度とは、まるで違い真剣そのものだ。そして静かに口を開く、


「だったらどうするんだ?」


 スコールは静かに剣を抜くと、


「もう一度、俺と戦え! 今度は俺は俺の為に戦う! ルータスお前も本気で来い、俺は死んでもお前を恨まないと誓おう。例え勝てなくとも、命を落とす事になっても、お前と全力で戦わないと俺は前に進めない」


 これは戦いの質が以前とは全く違う事を意味していた。


 ルータスは素直にスコールを尊敬した。一つの敗北、失敗から自分を戒めたった一人の力で立ち直り戻ってきた彼の強さを。そしてその強さに嫉妬した。

 富、才能、強さ、その全てを持っている彼は自分が前に進む為に命をかけて挑んできたのだ。ルータスはもし自分が同じ立場なら出来たであろうか? と言う疑問に絶対の自信は無かった。

 今、目の前にいるスコールは今までのとは違う男だ。スコールの覚悟に答えなければいけない。そしてルータスも剣を抜くと、


「コー君、君を素直に尊敬したよ。その覚悟に僕も全力で答えないと男じゃないよな」

「感謝する」


 ルータスは振り返ると、


「アイお前はこの勝負どうなっても最期まで見届けるんだ」


 アイにもスコールの気迫と決意が伝わっている様子でそれ以上の言葉は要らなかった。そして大きく頷くと、


「分かったお兄ちゃん」


 ルータスは再びスコールの方に向くと剣を構え深く腰を落とすと。スコールもそれに合わせて構え腰を落とすと、


「さあ、始めようか――」


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