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ブラッド・ZERO  作者:
第二章 学園編
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第15話  対立

 マヤカに連れられてルータス達が来たのは、食堂らしき場所だった。かなり広い部屋で丸いテーブルがいくつも置いてあり1つのテーブルには椅子が5つ置いてある。これは1班5人の為、打ち合わせや作戦などの話し合をやりやすくする為だろう。まだ朝なのに辺りは人で溢れかえっている。

 マヤカはその中で一番奥のテーブルを選ぶとルータスとアイはマヤカに向き合うように座る。


「改めまして、これからよろしく、最初に簡単な説明だけしておくわね。貴方達は学園の事はある程度は知っているのよね?」

「はい、基本的な事だけですが……」

「分かったわ、だったら一応最初から説明するわね。私達の班はこれから次の冬までに単位を取っていかないと進級出来無いのよ。それで単位の取り方は依頼書と学科の2種類あるの、学科は教員による授業を受けるだけで良いのだけど、問題は依頼書で――あそこ見て」


 マヤカが指差した先は、食堂のカウンターの横に有る大きな掲示板だ。その掲示板にはいくつもの紙が貼られており、その周りには生徒が沢山群がっている。


「掲示板に貼られている依頼書の内容をこなすと単位がもらえるの。基本進級するにはそっちがメインでこなしていかないと全く単位は足りないわ。依頼書の難易度はEからSランクまで有るの、もちろんこれは学園だけのランクよ、高くなればなるほど貰える単位の量も多いって訳」


 その言葉にある意味でホッとした。ルータスは学園とは勉強のイメージが強く勉強はあまり得意な方ではないからだ。どうせやるなら傭兵団みたいな活動の方が、やりがいもあるし訓練にもなる。


「依頼書の内容はどんなものがあるのですか?」

「Eランクとかならゴミ拾いや、掃除とかも有るけど、害虫駆除とかモンスター退治とかもあるわよ。ここは武芸科だからね。学科も魔法に関する事や剣術の事で、戦闘の事がほとんどよ。貴方達のクラスは?」


 クラスってなんだ? 必死で頭の中で考えるが分からない。マヤカは何か察したのか改めて質問を言い直す。


「ごめん、ごめん、ここではね簡単に言うと戦士系か魔法系とかの種類の事をクラスって言うの」

「なるほど、僕は戦士系です。剣技が得意です」

「アイは魔法が得意だよ」

「実戦経験はあるの?」

「はい、一応、二人共あります」


 その言葉にマヤカは少し驚き、


「アイちゃんは5級生なのにもう実戦経験あるの?」

「お兄ちゃんに付いて行って魔法で支援しただけなんです」


 アイはさらりと質問を返すと、マヤカは納得したようで説明を続ける。


「それでも凄いじゃない。それなら安心ね。一応、班は学園全体で実力のバランスが取れる様に組まれているから皆で力を合わせれば、どうにかなる場合が多いわ。難しい依頼書では死人が出る事も有るから舐めてかからないようにね。それとこれを見て」


 マヤカは地図を出すと、そこにはエルフの領土の詳細図が乗っていた。

 

 エルドナ王国は、エルフの領土の南側に位置する王国で、北側にはエルフの領土が広がっている。小さな村も幾つか地図に乗っており、ルータスの知らない場所ばかりだった。

 それもその筈である。ルータスはエルドナの北側には行ったことが無く、エルフはエルドナの南側は領土の外になる為に殆ど行かないのだ。 

 たしかに学生が仕事するなら領土内じゃないと危険である。今まで南側で生きてきたルータスが学生を殆ど見かけなかったのはその為だった。

 ルータスは早速、


「マヤカさん、僕達あまり土地勘がないもので、後でその地図もらえませんか?」


 これも大事な情報である。純血共の行動範囲を調べるのにはこれ程役に立つ物は他にない。


「ええ、いいわよ後で渡すわ」


 その言葉を聞くと同時にアイと目が合う、どうやらアイも同じことを考えていたらしく、目でナイスと言っているのが分かった。


「少し気になってたんだけど、ルータス君達ってエルフなのにあまりこの辺とか詳しくないわね? 学園にも途中からだし、今まで何かやっていたの?」


 当然の疑問だ。普通どんな種族でも、生まれてから成人するまでに領土を離れたりはしない。学園に途中から入ってくる生徒も居なくはないが、エルフ領土にある村から王国に出てきた者だけだ。ましてやルータス達に至っては、学園に途中参加で入ってきたのに、領土内を知らない。だったら今まで何処にいたのか? と言った疑問は自然と出てくる訳である。

 

「僕達は傭兵団に所属していました」


 当然予想された質問だったので、答えは用意してあった。本当の事だし少年兵くらい、いくらでもいるだろう。何か聞かれても嘘を言わなくてすむ分ボロを出しにくいと考えた為だ。しかしルータスの考えとは違って裏目に出てしまう。


「え!? その年でもうそんな所にいたの! それって凄いじゃない! なんだか貴方達期待出来そうだわ」


 どうやら純血共からしたら少年兵は珍しかった様で、ちょっと失敗した気分になった。ハーフと純血では価値観も生活観も全然違っている様だ。それはこの学園に着いたときから感じていた事だった。


「そんなこと無いです、雑用しかしてませんから」

「ちょっと話が変な方向に行っちゃったわね。えーっと、そうそうこの地図に書かれてある領土内以外の仕事は無いわ。でも領土内と言ってもエルドナの貧民街や外の開けた場所以外は野党もでるし危険なモンスターだっているから一人で変な所行かないようにね」


 ――貧民街、一度も行った事は無かったが今は何故かその場所が気になる。昔は自分も貧民街の住民と同じ立場だったから見たくなかっただけなのだろうか? ディークに拾われ寝る所やご飯や着る物に一切不自由しなくなった。そうなった矢先に貧民街に興味が出たって事は、自分はただ貧乏な奴らを眺めたいだけなのだろうか? 


「そんな事あるもんか……」


 無意識に出たその声は今までとは明らかに違うもので、不快感をつのらせている声だ。いきなりの発言にマヤカは大きく目を見開き驚いている。


「ど、どうしたの? お兄ちゃん、何かあったの?」


 アイもルータスの異様な雰囲気に驚き思わず声を出した。


「すみません、少し昔のことを思い出して」


 マヤカは元傭兵団と言う事から何か悟ったかの様に、大きく息を吐くと、


「ホントびっくりしたわよ。私何か不味いこと言ったのかと思っちゃった」

「ホントすみません……」


 貧民街も調べる事は、大事な任務である。貧民街はハーフが住んでいる為に人手不足の今、探すにはもってこいの場所だ。ルータスはそう考える事にして、くだらない事を考えるは辞めようと反省した。

 

「気にしないで、そんなこともあって、要するに単位を取る為には皆で協力しないと行けないの。だからだから仲良くしないといけないんだけど……」


 何か訳ありなのか、マヤカは少し困ったように口ごもる。そして意を決した様に、


「私の班、成績トップとドベが居るのよね……」

「なるほど、大体予想がつきます」

「いえ……ドベの方はまだいいのよ、トップの方の性格がやや問題ありまして……」

「怖い人なの?」


 アイが心配そうな顔で言った。


「スコール・フィリットって2級生で、フィリット家って言うここらじゃ有名な騎士の家系でね。その中でも天賦の才を持っていると言われているわ。ホント何やらせても凄いわ、剣技なんて学園の生徒では誰も勝てるやつは居ないんじゃないかしら」


 ルータスは心の中でニヤリと笑った。これはいい情報だ。スコールの強さが分かれば大体の学園レベルが分かる事になる。これから訓練する機会などいくらでも有るだろう、その時にちょっと調べれば良いだけだ。


「その代わりちょっと自分に溺れているというか、他を馬鹿にしたりする所があって、よく他の生徒と揉めるのよね」


 マヤカは肘を付き視線を斜め上に動かしながら、本当に困った様子で大きなため息を吐いた。

 純血の貴族らしくスカした野郎だと、ルータスは思い、スコールとは絶対仲良くなれないであろう予感がした。


「そんなのだから、ルータス君もアイちゃんも気を悪くしないでね。本人も何時か気づくわ。でも傭兵だった君達とスコールが居たら何だか心強いわ」

「アイは仲良くするよ!」


 大きくピースしながら何の根拠も無いアイの自信満々の態度に、マヤカは苦笑いし唇に人差し指を当てながら、


「この話は内緒よ、あっ、来たみたいね」


 そう言うとマヤカは立ち上がり入り口の方に向かって大きく手を振ると、2人の男がこちらに気づき近づいてくるのが見えた。


「同じ班の仲間ね。今から紹介するわね」


 マヤカはそう言うと立ち上がり、ルータス達も続いて立ち上がると、2人の男はテーブルの前までやってきた。一人は青い髪の毛のイケメンで、もう一人は何やらオドオドしている茶髪のそばかすが特徴的な男だった。


「皆揃ったわね。今日から加わることになった。2人を紹介するわね。ルータス君と、アイちゃんよ」


 マヤカに紹介され2人は礼をし、


「ルータス・エミールです。よろしくお願いします」

「アィーシャ・エミールです。アイって呼んでね。よろしく」


 すると青髪のイケメンが、


「スコール・フィリットだ。剣くらいは持てるんだろうな。邪魔だけはするなよ」


 世の中は理不尽だ。この歪みきった糞みたいな貴族に才能があり、何やらせても一番で、おまけに顔までイケメンなんて。どうせこの顔だ、歪みきった性格でも「スコール君のそういう所が超クールでかっこいい!」とか言われてモテまくってるに決まってる。

 たしかに男のルータスが見てもコイツはカッコイイそれは認める。だがそれ以外は糞だ! お姉様に合わせてやりたい、お前なんか会う前から殺されてる。などと目まぐるしく動く思考の中、


「コー、初対面でそんな言い方しちゃ駄目って何時も言ってるでしょ!」


 コーとはどうやらスコールの事の様だ。マヤカは何時ものセリフの様にスコールを注意する。スコールは舌打ちをし、ぷいっと顔を横に向けた。


「あ、あの、僕は、エリオット・リーと言います。4級生でエリオットって呼んでね」


 こっちがドベか、やはり理不尽だ。顔をまじまじと眺めながらルータスは一人で納得する。そしてマヤカは大きく1回手を叩き、


「とりあえず! 今日から私達5人でマヤカ班だからね! 特に……」


 そう言うとマヤカはスコールの方に視線を飛ばす。スコールは手を振り、了解の合図をしている。


「それにルータス君達は、今まで傭兵団にいたのよ。絶対力になるわ」

「え! そ、そうなの……凄いね……」


 エリオットのその言葉が気に入らなかったのかスコールはすぐに反応してルータスを睨むと、すぐにニヤリと笑った。その笑みからは好意的な感情は一切感じられず。完全に侮蔑した笑みである事は、すぐに分かった。


「ほう――お前、今度の必修合同訓練の時に、俺の相手になってくれよ」


 その言葉は、自信に溢れ、どっちが上かはっきりさせてやる。と言うかの様な挑発的で高圧的な物言いであった。ルータスは笑った。この状況で何故か笑ってしまった。その笑いが何なのか自分でも分からなかったが。負けず劣らずの不敵な笑みを浮かべ、


「ああ、いいぜ、僕も楽しみにしてるよ」


 と、自信たっぷりに言い放った。





 レンガが不規則に積み上げられた壁、部屋の角には観葉植物、薄暗いカウンターに一人のマスターが立っている。マスターは蝶ネクタイにスーツを着こなし、熟練をただよわす風格だ。

 その後ろにはかなりの数の酒が並べられており、マスターはグラスを丁寧に一つ一つ磨いていく。その作業だけでも、かなりの注意が払われておりグラスの隅々にチリ一つ無いほど磨き上げられている。そんな輝きを放ったグラスを一つ棚に戻し、又次のグラスを磨き上げていく。


 カウンターの上に光る黄色いランプの輝きがこの空間を更に引き立たせている。そんな場所にもう一人の人物がいた。それはマスターの目の前、カウンター越しに座る客だ。その客も又そんな場所にピッタリのストライプのスーツにハットを被りまさに大人の空間を演出していた。

 マスターと客の間には、まだ一言も会話が無かった。マスターもそんな客に注文を聞くような事はしない。そして又そんな客も、すぐに口は開かなかった。

 ――そう、この無言の部屋、無言の空気を楽しんでいるのだ。それを分かっているからこそ、マスターは客が口を開くまで、その邪魔はしないのだ。


 しばしの無の空気を楽しんだ客はハットをゆっくりとズラす様に取ると優しくカウンターの横に置く。そして、


「マスター、強めのやつを一杯」


 その言葉は静かにそしてハッキリと放たれる。マスターはその言葉と呼応するかの様に、グラスを磨く手がピタッと止まった。するとその場にグラスを置き、棚の中から一つの新しい、口が広めのロックグラスを手に取った。マスターはグラスをランプの光に当てるように持ち上げ、ゆっくりと回し、最期のチェックを行う。

 そして音を立てずに、そのグラスを置くと、後ろの棚から一つのボトルを手に取った。そのボトルの栓が開けられる音が部屋に響く。決して大きな音では無い。しかしこの空間の中ではその音すらも良く響き、楽しめる音となる。

 トクトクとグラスに注がれる音が響く中、お酒の香りが鼻を楽しませる。注がれたグラスに一つの氷を入れマスターは静かにカウンターへ置くと、そのまま指の先で客の前までグラスを滑らせ運んだ。そしてゆっくり手を話すと、


「お客さん、何かあったのですかい?」

 

 ここで初めてマスターの言葉が放たれる。その言葉に客は、微笑み、


「フ……ただの笑い話さ」


 そう言うと客はグラスを回し中の氷を一周させると一口飲む、マスターはそれ以上は聞かない。これこそがこの2人の会話のやり取りなのだ。


 そしてそんな空間を他所に客の後ろから聞き慣れた声が響いた。


「2人で何やっているんですか?」


 そこには、呆れ返った顔をしたミクが立っていた。ミクは周りを見渡すと大きくため息をつく。


「ミク、これが男のロマンってやつだ。バーだよバー!」


 ディークは得意気に両手を広げて言った。


「中々雰囲気でてるでやんしょ! 自信作でやんす!」


 カウンターの向こうには椅子の上に立ったホクロンが自信満々に言った。


「まさか前言ってた次の計画って、コレだったんですか?」

「当たり前だよ。魔王城って言ったらバーだろ」

「一体どんな魔王城を想像していらっしゃるのか知りたいです」

「ホクロン君! 君はこれからマスター! ホクロンマスターだ!」


 ディークの謎の称号にホクロンは敬礼をしながら、


「分かりやした! 建築大臣ホクロンマスター! 魔王様のご期待に答えるべく頑張るでやんす! それにもう例のアレにも取り掛かってるでやんす」


 ホクロンは意味ありげな言葉を放ちながら嬉しそうに言った。


「それは楽しみだ! ん? どうしたんだミク、横に座れよ。今日は開店記念なんだぞ。一緒に飲もう、ミクの顔を見ながら飲みたいんだ」


 その言葉にミクは優しく微笑んでディークの横に体が引っ付くほど近くに座った。


「なら私も朝までディーク様の顔を見ながら独り占めしようかな」


 そう言うとディークの肩にもたれ掛かるように頭を預けるミクは凄く嬉しそうに笑っている。その顔を見たホクロンも笑顔で言う。


「今日は、貸し切りでやんすね」

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