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ブラッド・ZERO  作者:
第3章 カルバナ帝国編
118/119

第118話  それぞれの戦い

「姫様、もうそれくらいに……」


 心配そうな声を上げるケビン。

 視線の先にはカクテルを持ったユーコリアスが机にかぶさる様に寄りかかっている。

 アラドの村へと逃げ帰って二日が過ぎたがユーコリアスはバーで絶賛落ち込み中なのだ。

 大臣に裏切られた事はもちろん、城を捨てて逃げてきたのだから。


 カクテルかわ入ったグラスの氷をくるくると回しながら深いため息をついた。

 ユーコリアスは普段付き合いくらいでしか酒を飲まない。

 理由単純に美味しいと思わないからだ。

 しかし、今は酒を体が欲している。

 今なら酒に溺れる人の心情がよく分かる。

 酔っている間は嫌なことから逃げられるからだ。


 こんな事をしている場合ではない事はよく分かっている。

 だが、短い期間に事が起こりすぎただけに整理がつかないのだ。


 しかし考えても、出口の内迷路の様にぐるぐると回り考えがまとまらない。

 それどころか、何を考えていたのかすら分からなくなる。


 ユーコリアスはカクテルをクイっと飲み干す。

 空になったグラスを回すと明かりに反射してキラリと光る。

 そんな事をしているとバーのドアが開きディークが入ってきた。

 そしてその背後にはスコールとルータス、チャンネが続く。


 ディークはユーコリアスの前まで来る。


「さて……今後の事を話そうじゃないか」


 一体何を話すつもりなのだろう?

 ユーコリアスは疑問に思う。

 全く話をする様な体制ではないユーコリアスをケビンが起こしながら、


「ひ、姫様、流石に失礼です……」


 ディークは軽く手を振りながらケビンに向け、


「色々あったのだ。気にするな」


 ケビンは無言で頭を下げる。


「一体何を我と話すのだ? もう我には何もないのだぞ……」


 そう、失ってしまった。

 城も家臣も何から何まで今のユーコリアスには何もない。


「では何もしないつもりなのか? レッドドラゴンが復活したのだろう?」


 ユーコリアスは窓の外に視線を向ける。

 あの日から昼でも空は夕焼けの様に赤く不気味だ。


「我にどうしろと言うのだ? 我は全てを失ってしまった――」


 ユーコリアスの覇気のない声にディークは声をかぶせる。


「では言葉を変えよう。姫はどうしたい?」


 そんな事は分かりきっていた。

 城を取り戻し、レッドドラゴンを討伐したいに決まっている。

 だが、そんな事が容易に行えるとは思えない。

 レッドドラゴン一つにしてもそうだ。

 これは世界の危機である。

 本来なら他国に呼びかけ力を合わせないとどうにもならない事態だろう。

 歴史に残る最悪であったレッドドラゴンの力がどれほどのものなのか全く想像がつかない。

 ただ一つ分かるのが、過去の最悪は決して尾鰭のついた話ではないことだけは間違いないだろう。


「しかし、今の我には何の力も無い」

「だから何だと言うのだ。ユーコリアスの力は武ではなく皆をまとめ上げる力だ。姫にはその資格がある。我々が交わした同盟とはこんな事で切れたりはしない」


 ディークはユーコリアスに手を差し出しさらに続ける。


「俺が同盟を組んだのは友と認めたユーコリアス女王が納めるカルバナ帝国だ」


 ユーコリアスは目頭が熱くなる。

 そして同盟を組んだ自分の判断は間違っていなかったと確信した。

 一人で何もできなくても、今は力になってくれる者たちがいる。

 そう言ってくれる人が一人でもいるならたとえ無謀でも前に進まなければならない。

 ディークの手を力強く握り、


「すまなかった。我を友と言ってくれるならこの戦いに命を賭けよう」


 ユーコリアスの目に光が戻り2人の間に固い握手が、かわされた。

 ディークはユーコリアスの隣に座るとチャンネに向かって、


「では今後の我々の方針を決めようでは無いか。現状の報告を頼む」


 チャンネは軽く一礼をした後にディーク達の前に立つ。


「では皆さん。現状の報告をさせて頂きます。まずレッドドラゴンの復活について調査したところ、封印されていた神殿は大きく破壊されレッドドラゴンを肉眼で確認する事が出来ました。しかし現状は特に何もなく魔力を貯めている様子で全く動きはありません」


 ユーコリアスにはレッドドラゴンが今後どんな行動をするか全く想像が付かない。

 ただ一つ分かっているのは動き出した時には恐ろしい現実が待っている事というだけだ。

 ディークは小さく頷き。


「長い間寝ていたのだ。準備運動と言うことか……」

「はい。私もそうだと思います。これが終わればレッドドラゴンは本格的に動き出すのでは無いかとみています。しかしこの期間がどれほど続くかは分かりません。長く続くとは考えないほうがいいでしょう。証拠はありませんが封印を解いたのは大臣と見てまず間違い無いかと」


 ユーコリアスは怪訝な表情を浮かべる。


「あの封印をどうやって解いたのだ? 我が国の賢者が束になっても全くわからなかった術式なのだぞ」

「そうは言っても現実に復活しています。方法は分かりませんが何かしらの方法で封印を解いたのでしょう。もしかすると王家の血液や毛髪などで代用が効くのかもしれません」


 チャンネは一度話を区切り右から左へ視線を動かす。

 皆の表情を確認し話を進める。


「次にカルバナ帝国ですが、現在女王不在の為、混乱しています。町では色々な噂が立っていたしたがどれもユーコリアス女王がレッドドラゴンの封印を解いたと言った感じの良い噂ではありませんでした。しかし信憑性もありません。大臣の作戦はレッドドラゴンの件でユーコリアス女王に罪をかぶせ共通の敵を作り支持を得ると言ったところでしょう。恐らく今、帝国は分岐点にあると考えて良いと思います」


 罪を着せるのが狙いだとしたならば、それは浅はかであるとしか思えなかった。

 レッドドラゴンが復活すれば国の危機である。

 トップに立てたところで国が滅びてしまえば意味はない。

 何かしらの作があるのだろうが最悪の一つに数えられるレッドドラゴンが作の一つや二つで何とかなるとは思えなかった。


 カルバナは重要な局面である。

 ユーコリアス不在の今、大臣が何をするか分からない。


「これらの点を踏まえ、我々の最初の行動はカルバナ帝国に戻り城を取り戻す事です。これは早いに越した事はありません。時間が経てば立つほど不利になると考えて間違いありません」

「不利になるとは?」

「今カルバナはユーコリアス女王不在で非常に不安定です。いくら大臣がユーコリアス女王を、悪と唱えたところで、そうなのか。と納得するほど人は馬鹿ではありません。それ相応に時間はかかるでしょう。言い換えれば今、帝国は何方にも転ぶ状態にある訳です」

「城に関してだが、カルバナ城の事は我に任せてくれないだろうか」


 ユーコリアスの言葉に視線が集まる。

 それもそうだろう。今この状況で建設的な提案などあるはずもないからだ。

 しかし、ユーコリアスは覚悟を決めていた。

 友と言ってくれたディークに答えるには、自らも命の一つや二つ賭けなくては何もできない。

 そんな気迫を感じたのかディークは何も聞かず。


「分かった。城の事は姫にすべてを任せよう。次にレッドドラゴンについてだが――」


 ディークはチャンネに視線を飛ばし先に進ませる。


「国民の関心は今、国の事よりもレッドドラゴンに向いています。それを利用すれば大きな効果は期待できるでしょう。後は大臣さえ拘束出来れば私が責任を持って吐かせます」


 ニヤリと笑ったチャンネの目にユーコリアスは寒気が走る。

 するとスコールが口を開いた。


「先生、大臣が敵軍のトップだとは限らないのでは?」


 ユーコリアスは「先生」と言った単語に引っかかる。

 言葉のままであれば目の前のチャンネがスコール・フィリットの先生なのだろう。

 だが、スコールはただの一般兵ではない。聖剣使いなのだ。

 その聖剣使いの先生とはおかしな話である。

 しかし戦いには無縁のユーコリアスでさえチャンネが只者ではない事は分かった。


「その通りです。スコール君。可能性は高いですね。しかし今はその事については考えても答えは出ないので、気に留めておく程度でいいでしょう。話を戻しますが、城さえ押さえれば後はレッドドラゴンをどうにかするだけです。そうなればユーコリアス女王の名は世界に轟く事でしょう」

「ちょ、ちょっと待ってくれ」

「はい。なんでしょうか?」


 ユーコリアスは思わず声を上げる。

 1番肝心なところが抜けていたからだ。


「そのレッドドラゴンが1番の問題ではないか。そこをどうするのかが1番重要だ」


 実のところユーコリアスもレッドドラゴンがどれほどの脅威になるのかは分からなかった。

 ユーコリアスだけではない。レッドドラゴンが猛威を振るったのは遥か昔なのだ。知っている者など現在にいるはずもない。 

 レッドドラゴンは格国の聖剣使いと賢者の手によって封印されたと言われている。


 少なくとも勇者4人と賢者達がいれば何とかなるのだろうか?

 だが、レッドドラゴンは封印されていたのだ。その戦力でも倒すことは困難だったのだろう。

 赤く染まった空を見る限り人がどうにか出来るような敵とは思えなかった。


「そうですね。レッドドラゴンは――」 

「それに関してだが」

 

 チャンネが口を開いた瞬間ディークが口をはさんだ。 

 皆の視線が一斉にディークに集まるとディークはゆっくりと口を開く。


「レッドドラゴンは俺が戦おう」


 その言葉にチャンネの目つきが変わった。少なくとも肯定的ではない目だ。

 それもそうだろう主人を危険な目に合わせて喜ぶ眷属などいない。

 そんなチャンネの心情を察してかディークは諭すように。


「レッドドラゴンがいつ動き出すのか分からない以上は動く前に叩くべきだろう。それにカルバナ帝国がどうなるかも分からない現状ではこの村や魔王城の守りも固めておかなくてダメだ。分かっているだろうがこの町は同盟が前提の街なんだぞ」


 ユーコリアスの前なので言葉を選んではいるが、ディークの言いたいことはこうだ。

 もしカルバナ城奪還が失敗し大臣たちの手に落ちたとすれば、間違いなくこの町は攻撃されるだろう。

 それはレッドドラゴンが動き出しても同じである。もしレッドドラゴンがカルバナやこの町で暴れ戦いになったらどれほどの被害が出るのかは想像したくない。

 

「しかし、相手は最悪の一つレッドドラゴンなのだぞ。一人で戦って大丈夫なのか?」


 ユーコリアスとしてもここでディークに死なれては非常に不味いことになる。何より友だと言ってくれた男を死なせたくはないのだ。

 普通に考えればレッドドラゴンを一人でどうにか出来るとは思えない。

 だがディークは魔王と呼ばれている男である。魔王とドラゴンがどんな戦いをするのか全く想像がつかない。

 そもそも勝算がなければ闘わないだろう。

 

「まぁ気乗りはしないがこの際仕方ないだろう。それにあたって姫には一つ頼みたいことがある」

「何でも言ってくれ。出来る限り手を尽くそう」

「レッドドラゴンは同盟で滅ぼさなくては意味がない。だから兵を少しばかり借りたいんだ」


 確かに同盟で倒したとなれば、世界初の同盟を世界に知らしめることが出来るだろう。


「それは構わないが……」


 どちらにせよレッドドラゴンは滅ぼさなくてはこちらが滅ぶのだ。

 戦いは避けられないだろう。もうここからはやるしかないのだ。

 ユーコリアスは覚悟を決める。


「それとスコール」

「はい」 

 

 ディークに呼ばれスコールは前に出る。 

   

「今後の戦いに備えてお前もスティグマを入れたほうがいい。お前の事だ。すでに候補は出来上がっているのだろう?」


 ユーコリアスはスティグマと言う聞きなれない単語に引っかかったが、それよりもスコールの答えを待つ。

 なぜかスコールは直ぐに答えず何かを考えているようだ。

 時間にしてはほんの数秒だがその数秒がユーコリアスには気になった。


「――ありがたい提案なのですが、俺はもう少し自分の力がどこまで通用するか試したいんです」


 ディークは思った通りの答えが返ってきた様子で、呆れたような態度だ。


「まぁいい。それがお前の望みならやれるだけやってみろ」

「すみません」 

「だが、一つだけ言っておく。プライドを持つことは大切だが、勝利は強者にしか与えられん。奪う側に立ちたいのであれば今できる全力を求めることだ。後悔したくなければな」

「肝に銘じておきます……」


 ディークの言葉はユーコリアスの心に深く響いた。

 なんとなく暗い雰囲気になった気がしたユーコリアスは気になっていた事を口にする。


「そういえば前から聞きたかったのだが、この町は何と言う名前にするのだ?」

「名前? アラドの街だろう?」

「この町は生まれ変わりカルバナ領土ではなくなったのだぞ。新たな名をつけるべきだと思うが」 


 ディークは軽く握った手に顎を載せながら考える。


「確かにそうだな。今度皆で考えておこう」 





 作戦会議も終わりルータスは1人アラドの街を歩いていた。

 特に用事もなくぶらぶらと街の中を歩く。


 カルバナに来てから殆ど1人の時間はなく忙しい日々を送っていただけに、ただ歩くだけでも気持ちがいい。

 太陽は沈みかけ空が赤く染まっているがこれはレッドドラゴンのせいなのだろうか?

 今日行われた今後の作戦会議からすると又大きな戦いが始まる事は確実だ。

 もっと強くならなければ誰かを守る事など出来ない。


 レッドドラゴンだってそうだ。

 現時点でのルータスの力では力になれない事は分かっていた。

 だからこそどうにかして強くならなければならない。しかしすぐに強くなる方法など都合よくあるわけはない。

 ルータスもスティグマを一度入れてほしいと言ったことがある。

 しかし体の半分がディークの血で出来ている為なのか上手く刻めなかったのだ。

 


「魔法……か」


 こうなれば何が何でも魔法を覚えるしかない。

 身体能力などをすぐに上昇させることは至難だ。しかし魔法なら別である。

 全く魔法が使えないと言う事はゼロなのだ。ゼロからであれば伸びしろもある程度はあるだろう。

 

 そんなことを考えていると後ろから聞きなれない声が響く。


「ちょっとアンタ待ってくれよ」


 ルータスは振り返るとそこには銀髪の女の子が立っていた。

 その顔には見覚えがあった。

 確か、バーでコー君の横にいた子である。


 あの時は色々大変で殆ど見ていなかった為うる覚えだ。

 年は同じくらいだろうか?

 かなり短いTシャツでヘソ出しの短パン姿だ。


 ルータスの視線は釘付けになった。

 可愛い顔で胸は結構大きくルータスにとって、きわどい姿は刺激が強い。

 女の子はルータスの視線に気づくとシャツの襟元を下に引っ張る。


「なんだ? この辺が気になるの?」


 胸の谷間がチラつきルータスの鼓動は高鳴る。

 そんなルータスを見るなり女の子は白い歯を見せる。


「な、なんだよ。何か用か?」


 女の子はルータスをマジマジと見るなり、


「隊長の言った通り本当にチョロそうだな」


 何か意味ありげな言葉である。

 少なくとも褒められていない事だけは分かった。


「隊長…… あ――」


 何となくだがこの子の指す隊長とはスコールのことだと分かった。


「私はヤヤって言うんだ。あんた確かルータスって名前だよな」

「そうだけど……」

「何してんだ?」

「時間が空いたからこの街を見回っていたんだ」

「そうか! なら私が案内してやるよ!」

「それはありがとう」


 可愛い女の子と一緒に回れるならそれに越した事はない。

 ヤヤはルータスの横について歩くと両手を頭の後ろに当てて歩き出す。


「アイちゃんの兄貴だよな! 全然似てねぇな」


 ヤヤは下から覗き込むようにルータスの顔を観察している。

 チラリと見える胸の谷間を素早くチェックした。


「本当の兄弟では無いからな」

「そうなのか―― それでね隊長の事を聞きたいんだけど」


 スコールの話題が出た瞬間、ルータスの表情が曇る。

 それは本人さえ自覚していないほどに一瞬だったがヤヤは見逃さなかった。


「あんたの事は隊長から少し聞いていたんだけどライバルなんだろ? 余り仲がよさそうには見えないけど……」


 スコールが、一体どんな話をしたのかは分からない。

 ただ一つ分かるのはルータスにとっていい事は言っていないだろう。


「そりゃ僕達は仲悪いからな! いつもこんな感じだ」

「ふーん。よく分かんねぇな。でも凄く意識してるじゃん。この前だってよ、あんたのが強そうだって言ったら凄く怒ったんだぜ?」


 その状況を容易に想像ができたルータスは思わず笑う。


「そりゃ怒るだろうな。プライドは人一倍高いからね」

「凄く怖かったんだぜ!?」

「コー君にはその手の冗談は通じないよ」

「大体、何で隊長はそんなにあんたにこだわるんだ?」

「コー君だけじゃないよ。僕だってコー君だけには負けたくはない」

「ほうほう。何で何で?」

「認めたくは無いけどコー君は凄いよ。何だってできる。だから僕は戦いだけはコー君のライバルでいたいんだ」


 そう、スコールは天才だ。勉学、魔法、剣技、どれをとっても一流で、容姿まで整っている。おまけに努力化ときた。

 ルータスが戦い以外の項目でスコールに勝てるものなど何も無い。


「確かにあんたは、顔もパッとしないし頭も悪そうだな」

「ぐぬぬ……」


 うん。こいつムカつく。


「別に負けたからってライバルじゃなくなる訳じゃ無いだろ?」

「コー君は天才なんだ。一度離されるともう、コー君は一人で高みに行っちゃう気がするんだ」


 戦いはルータスにとってただ一つの長所である。

 その戦いですら大きく差を付けられることがあるならば、もうルータスはスコールに追いつくことすらできないと考えていた。


「男の世界は分からんね」


 ヤヤは腕を組みながら深く頷いている。


「僕達だけが特殊なのかもな。僕もよく分からないけど、ライバルじゃ無いと友でいられない気がするんだ。だから抜かれるのが怖いと思う事があるよ」


 一体何故こんな話をしているのだろうか?

 普段なら絶対にこんなこと言わないだろう。


 ルータスはヤヤの瞳を見る。

 真っ直ぐな目だ。

 ハーフ特有の野蛮さ全開だが逆に良いのかもしれない。

 こんなヤヤだからこそ素直になってしまうのだろうか。


「あ――! 何かお互い同じような事ばっかり言っているし何かイーッとくる!」


 ヤヤは髪を両手でかき回している。


「同じ事って何だよ」

「隊長もルータスは凄いやつだって言っていたぜ?」


 ヤヤの言葉は素直に嬉しかった。

 ルータスに面と向かって絶対に言わない言葉だ。


「コー君と初めて会った時は僕の方が実力はかなり上だったんだぜ?」


 スコールに初めての敗北を与えてから今まで、大きくあったその差も今では無いに等しい。

 ルータスからすればスコールの成長は異常だ。

 ディークの血が入っている訳でも無いのに才能とは恐ろしいものだ。


「へーあの隊長がね」

「なんか懐かしく思えるなー」


 ルータスは思い出話も含めて簡単にスコールが、魔王軍に入った経緯を話した。


「なるほどな! 隊長はなんでエルフなのかなと思ってたけどこれで納得だ」

「一応内緒でたのむ」


 特に不味い話はしていないがスコールの耳に入ればうるさそうだ。


「金持ちの純血なのに全てを捨てて自分を貫くなんてやっぱり隊長は良い男だ!」


 ヤヤは目を輝かせている。

 そこだけ見れば完全に恋する乙女だ。

 そんなヤヤを見ていると一つの疑問がうかんだ。


「何でそんなにコー君の事を知りたいんだ?」


 聞かなくても大体予想はついている。


「そりゃいい男をゲットする為に決まってるじゃん」

「そうか。頑張れよ」


 ハッキリ言ってスコールの色恋沙汰には全く関心がない。

 元々モテる奴がモテているだけで何にもおかしいところは無いからだ。

 スコールに容姿で勝負してもルータスに勝ち目などあるはずも無い。

 勝ち目の無い勝負はやらないのが吉である。


「なんだよ。興味なさそうだな。あんたは誰か狙っている奴はいないのか?」

「い、いないよ。大体、今はそんなことしている場合じゃ無い」

「そんな事言ってると誰か他の人に取られちまってもしらねぇからな。じゃちょっくら情報集めてくるよ!」


 ヤヤは右腕を空に突き上げると走り出した。

 少し走るとヤヤは振り返る。


「色々ありがとう! また教えてね!」


 ヤヤは手を振り走り出す。

 ルータスはその後ろ姿を見つめながら小さく呟いた。


「取られてしまうか…… てか、案内は?」

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