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ブラッド・ZERO  作者:
第3章 カルバナ帝国編
117/119

第117話  カルバナ城

 ユーコリアスがアラドの村に来て5日が経った。

 今日はとうとうユーコリアスがカルバナに帰る日である。

 アラドの村の広場は人で溢れかえっていた。

 勿論、それはユーコリアスを見送る為だ。


 ユーコリアスの周りにはユーコリアスを含め計6人と馬車一台。

 ルータス、ケビン、ティア、スコール、それとノグア・マオウである。


 ユーコリアスが来た時は精鋭の部下を連れているが、帰るにあたってその者たちは居ない。

 それはこの街で魔法の技術を磨く為だ。

 そんな理由からユーコリアスの護衛も兼ねてこのメンバーが付いていく事になったのだ。


 ユーコリアスはミシェルに近づき手を差し出す。


「この度は本当に楽しかった。今後を楽しみにしているぞ」


 ミシェルは硬い握手を交わす。


「今日はディーク様が急用で席を外している無礼をお許しください」

「いやいや、この5日間本当に世話になったのだ。そんな気を使わなくとも――」

「そう言って下さるとディーク様も喜びますわ」

「でわ、帰るとしよう」


 ユーコリアスの振り返りスコールに合図を送る。

 スコールはユーコリアスの前に立ち手に魔力を集中させる。

 ゲートは開かれユーコリアスを先頭に一同歩き出した。


 来た時と同様に空間が歪み景色がぼやけてゆく――

 そして更に進むと視界の揺れは収まり見慣れたカルバナ城が見える。

 ぼんやりと複数の人が見え視界が戻ってゆく。

 するとそこには凄惨な光景が広がっていた――





 目の前にいたのは、ユーコリアスの帰りを待つ腹心の部下ではなく。

 黒いローブを来た敵意ある5人と血の匂いだった。


 ルータスはすぐにユーコリアス前に立つ。


 ルータスは左から右へと目だけを動かし状況を確認した。

 円を描くように立っている敵の真ん中には死体が山の様に積まれている。

 恐らく本来いた家臣なのだろう。

 まさか、ユーコリアスの帰りを待っていたのだろうか?


「フフフフ……」


 敵は不気味な笑い声をあげ大きく口を開いた。

 口はよだれを垂れ流し目は焦点が合っていない。

 どう見ても普通ではない敵だ。操られている様にも見える。


 かすれた声と同時に敵はナイフを構え、


「サモン――」


 次の瞬間、その場にいた誰もが想像し得ない事態に陥った。

 なんと、敵はその手に持ったナイフを自分の首筋に当てそのまま首をかき切ったのだ。

 ばっくりと割れ頚動脈が切断された首から大量の血が吹き出し辺りを染める。

 流れ出る血液の量に比例し敵は1人、又1人と倒れ、とうとう立っているものはいなくなった。

 何のためらいもなく行われた行為にルータス達は驚きの表情を隠せない。


 地面を血が赤く染めあげた瞬間、5人の死体が輝き出し魔法陣が浮かび上がる。

 魔法陣から禍々しい魔力が溢れ出し辺り包み込んだ。


 ビリビリと感じる圧倒的な力――


 まるで地獄の底から這い出てきたかの様にゆっくりとその姿を表す。


 体長が3メートルはあろうかという、上半身は牛、下半身は人の化け物だ。

 両腕は筋骨隆々で身体中が短い毛で覆われている。


「ルータス! 気を付けろ! そいつはミノタウルスだ!」


 スコールが叫ぶ。

 ルータスも名前くらいは聞いたことはあった。

 本や伝承に乗っている凶悪な化け物である。


 アビスにだってこんな化け物はいない。

 ルータスは前を向いたまま叫ぶ。


「ティア! ケビンさん! 姫様を安全な所へ!」


 何人もの人を生贄にして召喚された化け物が只者なわけは無い。

 現に敵が放つ圧倒的なオーラをルータスは肌で感じていた。


 ルータスの声と同時にティアはユーコリアスの前に立ち庇う様に両手を広げた。

 ケビンがユーコリアスの手を引きながら、


「姫様、こちらへ!」


 しかしユーコリアスはケビンの手を振り払う。


「いやよ! ルータス達だけを置いて逃げられない!」


 動こうとしないユーコリアスに対しケビンは声を張り上げる。


「姫様! お立場をお忘れですか!」


 ユーコリアスの死はルータス達の死とは訳が違うのだ。失敗では済まされない。

 それに敵はユーコリアスを狙っている。そのユーコリアスがこの場にいては命の保証はない。


「わ、分かった。すぐにこの場を離れるぞ」


 ティアがユーコリアスの前に立ち叫ぶ。


「さぁ姫様行きましょう!」


 ユーコリアスはケビンに連れられこの場を後にする。

 ルータスはそれを確認すると化け物の道を塞ぐ様に立つ。


 化け物はルータスを見下ろしながら大きな口を開く。


「この程度の生贄では割に合わないが……足りない分は自分で狩るとしよう」


 この化物を城で暴れさせるわけにはいかない。

 何としてでもここで止めなければ被害は甚大なものになるだろう。


 ルータスはミノタウルスに向かって一気にかける。

 そして体をくるりと回転させた勢いを乗せ抜刀しミノタウルスを横なぎに払う。


 しかしルータスの剣は大きく弾かれる。

 ミノタウルスは右腕一本で体重を乗せた一撃を防いだのだ。

 まるで金属の塊をぶっ叩いた様な衝撃が腕に伝わった。

 これにはルータスも驚きの表情を隠せない。

 武器も防具もなしで生身の腕一本で防いだのだ。

 ミノタウルスの体はアビスダイト並みに硬いということになる。


 剣を弾かれたルータスにミノタウルスの左腕が振り下ろされる。

 ルータスは剣で防御の姿勢を取るもミノタウルスの攻撃は防御もろとも吹き飛ばした。


 吹き飛ばされたルータスは受け身を取り距離を取る。


「ルータス大丈夫か!」


 スコールがルータスに駆け寄る。

 ルータスは服の汚れを振り払いながら、


「大丈夫だ」


 今の一撃でルータスは悟った。


 こいつは強敵だ。

 分かってはいたが憶測が確信へと変わる。

 ルータスは一瞬、ユーコリアスの方向に視線を送る。

 どうやら上手くこの場から逃げることが出来たようだ。


 ミノタウルスに魔力が集まっていく――


「ウオオオオオォ!」


 耳につんざく雄叫びをあげながらミノタウルスは魔力を解き放った。

 凝縮された魔力が弾丸の様に四方八方へ放たれる。


 ルータスは無数に飛んでくる魔力弾を剣で弾き返すも一発一発がまるで岩の様に重たい。


「よくぞ全て防いだ。だが、あと何回耐えれるかな?」


 ミノタウルスは、余裕たっぷりに言い放つ。

 実際ルータスに同じ攻撃を何度もされればジリ貧になるだろう。


「我に出会ったことを不運と思え」


 ミノタウルスの言葉にルータスはポカンとした表情を浮かべる。

 そしてその表情はしだいに笑いへと変わっていった。


「フフフフ…… あっーはっは!」


 ルータスの場違いな笑い声が響く。

 ミノタウルスさえもルータスの謎の笑いにポカンとした表情を見せている。

 だが、次第にミノタウルスの表情は怒りに満ち溢れたものに変化していく――


「貴様、何がおかしい!」


 ミノタウルスは怒りに身を任せ地面を踏みつけた。

 轟音と共に砂煙が舞い上がる。


「すまないな。だってなぁ? コー君」


 スコールも必死で表情には出さない様にしているが隠し切れていない。


「あぁ。そうだな」


 ルータスはミノタウルスを人差し指で指し睨みつける。


「不運なのはお前だ! 今日ここに居合わせた事を地獄で後悔しろ!」


 自信満々のルータスをミノタウルスは理解できない様子だ。

 それもそうだろう。一対一で戦えばルータスはミノタウルスに勝てないだろう。

 そんなルータスに余裕たっぷりに吠えられたのだから。 


「貴様ごとき虫けらが我を滅ぼすと?」


 ルータスは大きく後ろにジャンプするとノグアの横に降り立つ。


「さぁ! ノグア君の出番だ!」





「さあ! ノグア君の出番だ!」


 声を高々に上げるルータスはなぜか自信満々だ。


 調子のいい奴め――


 ノグアは小さなため息を吐く。

 確かにルータスには指示はしたが……

 ノグアは昨日の会話を思い出す。



――――昨日


「明日から俺はノグアの姿でお前の部下としてカルバナに行く」

「ディーク様がですか!?」

「そうだ。それにあたってノグアが俺だとバレないようにしなければならん。だからノグアの時は絶対にディークと呼ぶな」

「分かりました! お任せください」

「それもだ! 敬語も禁止、俺はお前の部下なのだぞ」

「り、了解です―― では何と呼べば……」

「ノグア君だ」 


――――などと言った事はあったが……



 正直、不安要素はルータスだけだ。

 スコールは状況判断も良く何も心配するとこはない。

 一応、ルータスも確実に指示をこなしていると考えれば悪くはないか……


「分かりやした。隊長――」


 緊迫した状況の中、気の抜けた返事をするノグア。

 しかしその声が気に障ったのかミノタウルスは怒りをあらわにする。


「我を愚弄するとは、許さんぞ!」


 ノグアはミノタウルスの前に立つ。


「すまない。馬鹿にしにしたつもりは無いんだ」

「もういい。消えろ――」


 ミノタウルスは両手を突き出すとその手に魔力を集中させる。

 魔力は直径1メートル程の球体となり中心から外にかけて激しく流動している。


 恐らく衝撃が加わる事で弾け飛び辺りを破壊する爆発魔法だ。


 もしあの魔力が放たれたらかなりの被害が出るだろう。

 流石に口ほどはある化け物の様だ。


 ノグアは剣を抜き構える。

 ノグアの目が赤く光ると同時に左手に魔力が集中し出す。

 その左手で、剣の腹に触れると左手の魔力が剣に流れ込み剣は黒い炎に包まれる。


 その余りに凶悪な炎にミノタウルスが気付いた時にはノグアは目の前にまで来ていた。

 ノグアはミノタウルスが突き出した腕の下に入ると上に切り上げ両腕を切断する。


 腕が切断された事により魔力供給がなくなった爆発魔法はチリの様に消え去った。


 肘から切断された腕は一瞬中に浮くも後は重力のままに下降し始める。

 しかしその時既にノグアは地面にはいなかった。

 ミノタウルスの顔面の前に飛んでいたのだ。

 その瞬間ノグアは首を横薙ぎに払う。


 ミノタウルスの首は胴体と離れ、最後にその瞳がとらえた表情のまま中を舞った。


 その表情は驚いた様な顔だろうか?

 大きな口を開け目は見開いている。


 ノグアが目の前に現れ驚いた瞬間のまま死を迎えたのだ。


 ノグアは空中5メートルほどの位置で翼を出し止まると左手を広げ一つの魔法を発動させた。

 それは小さな炎の球だ。

 大きさにすれば掌ほどでしかない。

 ノグアはそれをミノタウルスに向けて放つ――


 炎の球はミノタウルスに当たると同時に地面からドーム状に膨れ上がる。

 炎の凄まじい奔流は肉が焼ける匂いと共に次第に小さくなり全てを灰と化し、地面は高熱で溶けえぐれていた。


 ノグアは剣を鞘に収め服についたほこりを払いながら、


「隊長。任務完了」


 間の抜けた顔で立っているルータスはノグアの声に気づく。


「さ、流石ノグア君――」


 その時だった。大地が大きく揺れ始める。


「地震!?」


 ルータスはスコールに問いかけるも返事はない。

 時間にして20秒ほど揺れが続き後は何事も無かったかのようにおさまった。

 嫌に長い地震に気持ち悪さだけが残る。

 ただの地震ならそこまで警戒はしないだろう。

 しかしミノタウルスの後となれば話は違ってくる。

 周りは静まり返り声を発する者はいない。


 次の瞬間――


 空が夕焼けの様に赤く染まり出した。

 城の北側から空を塗りつぶす様に一気に広る。

 夕焼けの様な色だが空全体に染まると不気味な雰囲気しか無い。


 スコールは空を見上げながらルータスの問に答える。


「どうやらただの地震では無い様だな」





 ユーコリアスはケビンに手を引かれながら走る。

 ユーコリアスは体の震えが止まらなかった。


「一体なんなのだ! あの化け物は!」


 ユーコリアスは叫んだ。

 誰に言った訳でもない。ただ叫ばずにはいられなかった。

 余りに凶悪な姿だった。

 ユーコリアスが知る限りあんな化け物の侵入を許した事はない。


「ミノタウルス……あんなものが……」


 ゲビンが独り言のように言った言葉をユーコリアスは聞き逃さなかった。


「ケビン、一体それは何なのだ!」


 ケビン答えない。

 それどころか立ち止まってしまった。

 ユーコリアスは状況が分からず苛立ちを隠せない。


「おい! ケビン! 聞いているのか――」


 ケビンはユーコリアスを庇うように右手を差し出し動きを抑止する。


「姫様、お気をつけ下さい」


 ユーコリアスを、中心に周りの空間が揺れる。

 そして1人又1人と先ほどと同じ黒いローブの男が姿を表す。

 その数10人――

 既に囲まれ逃げる事は不可能だろう。


 戦闘は避けられそうにない。

 先の化け物といい、敵も本気で動き出したと見て間違いないだろう。

 もはや城内ですら安全では無くなったのだ。


 ユーコリアスの後ろから剣を抜く音が聞こえた。

 振り返るとティアが剣を取りユーコリアスを、庇うように立っていたのだ。


「おい、お前は戦えるのか!?」


 どう見てもただのメイドだが魔王軍なのだ。メイドでもかなりの戦闘力を持っている可能性はある。

 むしろそうであってほしいと言う期待を込める。


「いいえ!」


 やはりそんな都合のいいことはなかった。

 長い付き合いではないがティアが人を殺せるような者では無いことぐらい分かっていた。


 よく見ると、ティアの耳と尻尾は小さく震えている。

 敵は殺しのプロだ。当たり前だ。ただのメイドが戦えば殺されるだけだ。


 ケビンは鋭い眼光で敵を睨む。

 普段のケビンからは想像もできないほど強い殺気を放ち別人の様だ。


「誰の命令だ?」


 ケビンの問いに答える者はいない。

 敵は「これが答えだ」と言わんばかりに魔法を詠唱する。

 青や赤の魔法陣の光がユーコリアスの目に映り幻想的光景が広がった。


 だが、魔法の発動よりも早くケビンは動いていたのだ。


 いくら囲んでいるとはいえ敵と聖剣を、持つ勇者とでは力の差は歴然だ。

 ケビンは一瞬で間合いを詰めると敵を一振りで3人を斬り裂く。

 切り裂かれた体から血が吹き出すよりも早くケビンは次々に敵を倒していく――


 しかしいくらケビンでも囲まれた状況では全ての攻撃前に敵は倒せない。

 1人の魔法が詠唱を完了させた。


 魔力は氷の刃と化しユーコリアス目掛け飛んできた。

 その速度は凄まじくユーコリアスが反応出来るものではない。

 ユーコリアス目に写る氷の刃はスローモーションのようにゆっくりと迫って来ている。


 しかしそんな絶体絶命の中、ユーコリアスの目の前にティアが庇うように立ちはだかった。


 ティアは剣でその魔法を受けると、大きな音上げながら魔法は相殺される。


「きゃあ!」


 しかし敵の魔法の方がティアの力よりも勝っていた為、ティアは小さな叫び声を上げながら1メートルほど吹っ飛ばされた。

 ユーコリアスはすぐにティアに駆け寄る。


「お、おい! 無事か!?」


 ユーコリアスの声と同時にティアはすぐに起き上がると、


「姫様は自分の体の事だけを考えてください。早く私の後ろに――」


 ティアはユーコリアスの前に庇うように剣を構える。

 先の一撃でティアはボロボロだ。

 身体中痛くて立っているのも辛いだろう。

 しかし敵は待っていてはくれない。


 更なる追撃の魔法を詠唱し始めた――


 だが、その詠唱は発動する事なく消え去り敵はケビンの一撃により静かに倒れた。


「姫様が何者かに! お守りしろ!」


 騒ぎを聞きつけ兵士達もユーコリアスの前に集まってくる。

 騒ぎが騒ぎだけに50人はいるだろう。

 心強い味方に囲まれ、ケビンとユーコリアスは安堵の表情を浮かべる。


「さぁ、姫様、急いで城の中に入りましょう」


 ケビンは先導しユーコリアス達は城の中に入った。

 城の中は不気味なほど静かだ。

 はっきり言って嫌な予感しかしない。

 その証拠に周りにいる兵士達は辺りを警戒している。

 とにかく今は現状の把握が最優先だ。

 奥に進み広間へと続く扉を開けるとそこにはなんと、兵を従えたエドワード・マーカーが待ち構えていた。


「エドワード! 無事だったのか!」


 ユーコリアスはエドワード・マーカーに歩み寄ろうとするものケビンがそれを抑止した。


「お待ちください姫様、この男は危険です」


 本当なら「何を冗談言っているんだ」と笑い飛ばしてやりたかった。

 しかしユーコリアスは知っていた。ケビンは軽々しくその様な事を口にする男では無い。


「一体どういう事なのだ?」


 ケビンは大臣を睨みつける。


「姫様を狙う者達は確実に側近の1人なのは分かっていた」


 革命軍はなぜかユーコリアスのスケジュールに詳しく情報が漏れていたのは明白だった。

 しかしそれだけでは大臣が犯人とは言えない。


「今まで敵は尻尾を掴ませなかったが、今回は失敗したな。今回の村の視察は極秘の視察だった。では、何故敵は待ち構えることが出来たのか? 何故大臣は姫様のお出迎えに居なかったのか? 何故ここに兵をかまえているのか? 答えられるのだろうな大臣!」


 ケビンの言っている事はもっともだった。

 ユーコリアスはエドワードの答えを待つ。

 だが、エドワードの答えはユーコリアスの想像を遥かに上回っていた。


「只今偵察隊からの報告でレッドドラゴンの復活が確認されました」


 広い部屋にエドワードの声だけが響く。

 誰も声を発しない。

 そこにいた誰もがその事の意味を理解していたからだ。


 おとぎ話にでてくる様な過去の神話――


 過去に起こった。世界を巻き込んだ大最悪の一つが現代で復活をしたのだ。

 そう、これはカルバナだけの問題では無い。世界の危機である。


「ばっ! そんな馬鹿なことがあるか! エドワード! 何かの間違いでは無いのか!」


 何かの間違いであって欲しい一心でユーコリアスは叫ぶ。

 しかし先の真っ赤な空、エドワードの報告が真実であると心の奥底では分かっていた。

 エドワードは首を横に振る。


「残念ながら事実です。それにあたって帝国内では姫様が魔王にそそのかされレッドドラゴンの封印を解いたと囁かれています。姫様は一度裁判で潔白を晴らし、レッドドラゴン討伐の指揮を取っていただかないとなりません」


 ユーコリアスは絶句する。


「先の質問に答えましょう。私がここに何故いるのかと言うのは、ケビン・ラファエル、お前を捕まえるためだ」


エドワードはケビンを睨み返しさらに続ける。


「姫様、騙されてはいけません。この男こそ真の反逆者です。私はこの男の企みに気づき姫様を守るために兵を率いて待っていたのです」


 確かにケビンの言った事はそっくりそのまま

 ケビンにも当てはまると言える。

 一体どちらが真実なのだろうか?

 ユーコリアスはただうろたえるしか出来ない。

 そんなユーコリアスをケビンは諭す。


「姫様! 大臣の言葉に耳を傾けては行けません」


 ユーコリアスにとってどちらも腹心の部下だ。

 今まで感謝しきれないほど尽くしてくれた思い出がある。

 片方だけを選ぶなど出来るはずもなかった。

 しかしどちらかが嘘をついていることも又、分かっていた。


「しかし……我には……」


 判断にユーコリアスが困っていると、扉が勢いよく開きルータス達がやってきた。

 ケビンはそれを見るなり剣を抜くと自らの首に剣を当てる。


「私は前皇帝から姫様を頼まれました。もしここで大臣の手に渡れば必ず姫様の御命は奪われるでしょう。そんな事になれば私は皇帝に顔向けできません。ならば私がこの命を持って潔白を証明します。私亡き後はルータス殿を頼りどうか御逃げ下さい」

「待て! これは命令だ! 分かった! お前を信じる!」


 ユーコリアスの言葉にケビンは剣を収めると膝をつき頭を下げる。

 そして立ち上がりエドワードを再び睨みつけると、


「姫様は信用を得るなら大臣が裁判で無実を証明するんだな! 自信があるなら出来るだろう? 抵抗せずに投降しろ」


 ケビンの言葉にエドワードは失笑する。


「どうやら姫様は完全に騙されてしまっているようだ。姫様を捕らえよ」

 

 そう言ったエドワードの目は完全にユーコリアスの知るエドワードではなかった。

 エドワードは従えている兵士達にそう命ずるも兵士達は困惑している。

 当たり前だ。いきなり国女王を捕らえよと言われてもどうしたらいいのか分からないだろう。

 そんな兵士達にエドワードは叫ぶと。


「レッドドラゴンが復活したのだぞ! 帝国が滅んでも良いのか!」


 兵士達を動かすにはレッドドラゴンと言う単語は十分すぎる効果を発した。

 兵士達は剣を抜きユーコリアスに詰め寄ろうと動き出す。

 更にエドワードは右手を上げ合図を出すとユーコリアス達は更に多くの兵士に囲まれる。


 二階には弓兵が見え周りには槍を持った兵士達――

 しかしその前にケビンが立ちはだかった。

 ケビンは恐ろしい殺気を放ち剣を抜く。


「姫様に指一本触れさせん。これ以上前に出るなら斬る」


 ケビンと兵士達は一触即発の状態だ。

 しかし状況は囲まれたこちらが圧倒的に不利である。

 いくら考えてもこの状況を打破できる策は思いつかない。

 そんな中、1人の青年がユーコリアスの元へとやってきた。

 その青年は、魔王軍のノグアといった名前の青年だ。


「姫様、ここは一旦逃げた方がよさそうですね」


 一体何をいっているのか?

 簡単にできる訳はない。

 敵が簡単に逃がしてくれるとは思えない。闘うにしてもかなり危険である。


「それが出来れば苦労はしない!」

 

 ユーコリアスの声にノグアは優しく微笑むと指をパチンと鳴らした。

 その瞬間、地面が光ったと同時に何故か景色がアラドの村へと変わっていた。


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